ギルドの依頼掲示板に現れた女神
サンスベリアでのお手伝いが終わり、次は教会へとお手伝いに行く日の朝のこと。
小麦が準備をして1階に下りると、アスタとチョコがいなかった。
「あれ?パーティメンバーは?もう出たのか?」
「あの子達なら依頼を受ける為にメリリーシャのギルドに行ったよ!たまに受けとかないと除名されちゃうらしいから!」
リントンが朝食を運びながら答えた。
「ちゃんとギルド依頼受けてきて、あいつらも働いてランチ代くらい稼いでくりゃいいけど!!」
ロマがいたずらっぽく笑う。
それに対してパトロックは本心を見透かしているのか、宥めるように言う。
「はいはい、ロマはパーティがいなくて遊び相手が不在だから暇なんだよね!」
パトロックにお子様扱いされて頬を膨らまして怒る。
「そんなことないもん!メアの所行ってくる!!」
お子様よろしく、ロマはリビングを飛び出して行った。
「依頼と言っても、あいつらのレベルじゃ草むしりや迷子のペット探しとかだから、大した賃金貰ってないみたいだ。ギルドの毎月かかる登録料とかでほぼ消えるようだし、まだまだ大使頼みの生活が抜けられないんだろうな」
葵がため息混じりに言うと、ディンブラが身を乗り出して横から提案する。
「じゃあさ、葵くんと小麦が加わってあげたら?それで大きなモンスターとかを退治すれば、大金のクエスト受けられるんじゃ無いの?」
「やだよ。あいつら全滅して俺らだけで戦ってる未来しか見えないし」
葵は呆れたように言い、背を向けてコーヒーを啜った。
「でもあのパーティ、個々を見ると能力値と運はあるから、きっとそのうち何か拾ってくるよ!」
小麦の言葉にディンブラが興味を示す。
「あの子達をよく観察しているんだね!流石教官殿!」
「や、やめてくれよ・・・!」
小麦がイジられて照れて赤くなった。
「それで、教官殿はあの子達が何を拾って来ると思う?」
「それは・・・なんとも言えないよ。ただ、面白いモノだろうよ」
ディンブラが首を傾げて繰り返す。
「面白いモノ?」
すると、大使館の扉が勢いよく開きパーティの4人が帰ってきた。
「あ!いたいた!」
ぞろぞろとリビングに入ってくる。
「どうしたの?」
リントンの問いにシャロンとチョコが答えた。
「さっきギルドの依頼を見に行ったの!」
「そしたら、僕とアスタが前にペッパー砂漠でそうめんから助けてあげたヴァニーユっていうサーカス団の広報の女の子が依頼を出しに来ていたんだ!」
4人でギルドの依頼の張り紙が掲載された掲示板を見ていた。
朝早くだが、最新の情報を得ようとそれなりの人数が来ていたので、掲示板の前は少し混雑していた。
人の間や、下から張り紙を必死に見る。
今朝貼り立ての依頼もたくさんあるのだが、その殆どが弱小パーティの条件に一致しないで、目の前で他の人に取られていく。
報酬の額を見て、4人は指を咥えて羨ましそうに見ているしかできなかった。
条件の不一致ばかりなのと、人混みに疲れたアスタが一旦掲示板の前から離れると、ギルドの依頼者として依頼登録を終えたある人物が受付から歩いてこちらに向かっていた。
その人物を見て、慌てて掲示板の前にいたチョコの肩を叩いて呼びつける。
「チョコ!あの子!」とアスタがチョコの肩を掴んで指すとチョコも見覚えのある姿に、大きな声を出した。
「あ!ヴァニーユ!!」
名前を呼ばれてヴァニーユが2人に振り向き笑顔で近づく。
「わぁ!お久しぶりなのです!アスタさん、チョコさん!」
チョコの大きな声を聞いて近づいてきたキャメリアとシャロンが2人に聞く。
「2人の知り合い?」
以前ペッパー砂漠で魔王軍四天王のそうめんからヴァニーユを守ってあげた際には、女子2人は別働で他の魔王軍と戦闘していたので面識が無い。
その質問にはチョコが答えた。
「前にペッパー砂漠でそうめんから助けてあげたんだ!」
「あ!風船爆弾の!!」とシャロンも当時のアスタとチョコの会話の記憶を思い出す。
アスタがヴァニーユに向いてキャメリアとシャロンを手で指す。
「ヴァニーユ、俺達の仲間だ!」
「召喚士のキャメリアです!」
「魔導師のシャロンだよ!よろしく!」
2人が名乗ると、ヴァニーユも笑顔で挨拶をした。
「エピスキャラバン広報担当のヴァニーユなのです!こちらこそよろしくなのです!」
にこやかに挨拶を交わすと、チョコが質問する。
「ところで、ヴァニーユもギルドにはサーカスの宣伝に来たの?」
「いえ!今回はエピスキャラバンの依頼を出しに来たのです!」
そう言って持っていた依頼書の内容を見せてもらう。
「へぇ、キャラバンの裏方か」
アスタが受け取り、その周りから他の3人が依頼書を覗き込む。
「はい!今、お陰様で大盛況なのです!ただ、裏方が人手不足で運営がいっぱいいっぱいなのです・・・。誰かお手伝いしていただきたいなと思って、ギルドに来たのです!」
その話を聞き、「へぇー」と返す。
正直、アスタの中には先ほどから壁として立ちはだかってきたギルド依頼の受けられる幅が決まる”ギルドランク”(いかに東西の大陸を通してギルド依頼を成功したかorこれまでの公的な戦闘実績でランク分けされる)か、簡単なものは誰でも受けられるのだが”低報酬”であることばかりで、少しやる気を失くしていたので、仕事内容ばかり黙々と見ていた。
このパーティ、魔王軍を崩壊させたのだが、その後他組織から狙われるという危険も伴うので公的な発表としては”葵の裏切り”のみの情報公開となっている。(一部週刊誌にてチョコも謎の伝説のパーティと共に魔王軍崩壊に加担した説があったが、所詮エンタメ性の高い雑誌。信憑性に欠けるとのことでランクアップには加味されていない)
武器だってアスタもチョコもシャロンも伝説級のものを持っているし、キャメリアもシャロンも魔女の核という最強要素があるのに、あくまで結果が全てなので武器という点は何も反映されない。
しかも使いこなせているとも限らないので、性能としては調子が良ければ3分の1ほどの力を発揮できてるかも?といった具合。
再度言うが、この4人は弱小パーティである。
だが、キャメリアが報酬欄を見て興奮する。
「報酬凄い!アスタ、見てよ!!」と言ってアスタの肩を叩く。
「うわ!こんなにも報酬くれるの!?」
その額にはシャロンとチョコも目を丸くしていた。
「これだけあれば、一カ月は遊び放題だね!!」
「サンスベリアで好きな物食べ放題だよ!!」
互いに目を合わせて驚いていた。
「そうなのです!最近、スポンサーがついたので、報酬を思い切って高くしてみたのです!」
しかし、第二の関門”ギルドランク”がある!
ランクの欄を見たら”制限無し”の文字が!!
アスタが慌てて指を差す。
「ね、ねぇ!これ!ランク制限無しって本当!?」
それを見て笑顔で頷く。
「はい!裏方なので、別に誰でもいいかなって!」
目の前のふわふわした派手な、いかにもサーカスの広報といった服装の少女が女神に見えてきた。
アスタは思わず拝みそうになる。
そこで、キャメリアが横から肩を掴んで揺すったことで正気に戻った。
「ねぇ、アスタ!これ受けてみない?」
「そうだな!ヴァニーユ、その依頼、俺たちにやらせてくれないか?」
それを聞いてヴァニーユが喜んだ。
「わぁ!嬉しいのです!!皆さんなら是非お願いしたいのです!!」
その返答にはみんなでその場に跪き、両手を胸のあたりで組んで目を輝かせて拝んでいた。
パーティ曰く、「後光が見えた」とか。




