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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
生き残り
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葵の受けた制裁

ディンブラ、葵、きしめん、ロルロージュは一度引き返し、メリリーシャに戻る道のりにいた。

ディンブラが立ち止まってきしめんを振り返る。

「あ!そういえばその格好、何とかしないとね・・・。メリリーシャじゃ目立っちゃうね」

メリリーシャの手前で思い出したのか立ち止まり、きしめんを見る。

逃げ延びた当時、上半身は怪我や火傷のため包帯を巻いていたので、時を戻した今は半裸状態だ。

さらにパンツは破れていたり、焦げていたりして香ばしい匂いがする。

「きっと、同じくらいの身長で筋肉質だし、君のサイズでいけると思うから何か着るものを買ってきてくれない?」

「別にいいけど・・・。でも、俺が離れて大丈夫か?その間にディンブラに危害を加えたりしないか?」

ディンブラが穏やかに笑いかける。

「大丈夫だよ。今はそんな気力無いんじゃないかな?それに、君といた方がきっとケンカすると思う」

「まあ・・・それもそうか。行ってくるよ」

少し不服そうにしながらも葵は街へと急ぎ足で向かった。

3人になり無言が続く。

その状況を壊したのはディンブラだった。

「あのさ・・・僕ね、君たちのこと一方向からしか見てなかった。それで、全員どうしようもないやからの集まりだと思っていたんだ」

「あっそ。それで?なんで葵とはつるんだんだよ?魔王軍を崩壊させるためだけか?それで、お前の言う心の傷を知ったから裏切らせたことに罪悪感でもあって、白いプルチネッラを一緒に探してんのか?」

吐き捨てるように投げかけられた言葉に戸惑いが生じる。

「違う・・・いや、半分正解」

ディンブラもきしめんも互いに目を合わさずに話している。

「じゃあもう半分はなんだよ?」

「もう半分は・・・彼と対等な仲間になるために僕が制裁を下したからだ」

ゆっくりと首を回してディンブラのことを見る。

「・・・は?制裁?」

この色の白い細身の優男やさおとこの口から出るには、思いも寄らない、恐怖さえ感じさせる言葉につい驚き、目を丸くしてディンブラを見た。

「うん、制裁。ご家族に同性愛者だと勘違いさせるような電話をしてお母さんを気絶させたり、毒蜘蛛に手を噛ませてパニックに陥らせたり、ゴキブリや奇虫を煮出した紅茶を飲ませたりしたよ」

淡々と発せられる恐ろしい話に、ロルロージュと共に手を口元に当てて、身を縮こませて息を呑んだ。

「だから対等に、友達してるんだよ!」

にこやかに答える目の前の優しそうな表情がより恐怖心をあおる。

「対等とは?」とは思うがそんなことを言うと明日は我が身かもしれないので黙った。

『そ、そういえばこいつ!俺に対してや魔王軍に対しても結構色々やってきたやつだった!!』

きしめんが走馬灯のようにこれまでの黒いプルチネッラとしてのディンブラを思い出す。

毒虫まみれにされたり、足をボウガンで撃たれたり・・・。

『あ・・・こいつ、平然とエグいことしてきてる。こんな顔して結構鬼畜だ』

なんて冷や汗を垂らした。

さすが、機動隊内では曲者くせものだともっぱら有名な葵とつるんでいるだけのことはある。

あの葵を手懐てなずけたとでも言うのだろうか?

「あ、あんさ・・・前に俺の足をでっかいクモに噛ませて精神攻撃してきたことあっただろ?・・・普通四天王のきしめんって言ったらみんな怖がるけど、怖くなかったのか?」

「え?怖かったよ。でも葵くんやアスタくんのためだしさ。君たちも仲間のためなら力も勇気も振り絞るだろ?僕は特殊能力も武術も無いから知恵と勇気を使っただけだよ」

きしめんは「まぁ・・・そうか」とだけ答えてしばらく黙っていた。

黙って地面を見つめながら様々な思考が巡る。

『いやいやいやいや!あのきしめんだぞ?自分で言うのもなんだけど、泣く子も黙るきしめんって、世間では恐怖の対象として君臨してたんだぞ?それを”仲間のため”だけでこんな死線もくぐったことのない優男が克服できる程度の恐怖の対象では無いだろ?まさに俺との対峙こそが人生一発目の死線だろ?何を平然と言ってんだこいつ?頭悪いか、サイコパスとしか考えられねーよ』

内心、こんなに動揺していたのだが、空腹と疲労により無表情だった。

そこへ葵が紙袋をげて帰って来る。

「待たせたな。できるだけ動きやすそうなのを買ってきた」

「あ、おかえり!」

きしめんとロルロージュは葵の顔を見て少し躊躇ためらった。

『こいつゴキ汁飲んだのか・・・』

『この人ゴキ汁飲んだんだ・・・』

「ん?どうした?」と不思議そうな顔をする。

「早く着替えておいでよ!」とディンブラに笑顔で促されてきしめんはそそくさと陰に行って着替えた。

「ところで、何か会話はしたのか?」

「うん、エディブルでの君への制裁について話したよ」

「はぁ!?」と葵の驚いた声は木陰に隠れていようがいまいが聞こえる程の大きさだった。

着替えたきしめんが木陰から出てくる。

葵が買ってきた服はかなりシンプルで、白の綿でできた服と黒のパンツの無地のツートーンだ。

シルエットはゆったりとしていて、動きの邪魔もしない素材を選んできた。

黒のパンツのすそは絞られていて、七分丈になっているのも動きやすくてきしめんは気に入った。

「なかなか似合うじゃないか!」

「おう!動きやすいし気に入った!」

さすがは魔王軍寮内での元同居人。

きしめんの好みをばっちり把握していたということだろうか?

そこに葵がそわそわした様子でディンブラを揺する。

「な、なぁ!きしめんに何言ったんだ?どこまで言った?もしかして”制裁した”ってだけとか?」

それには首を横に振る。

「全然!詳しくは言ってないけど、君をゲイだって勘違いさせてお母さんを気絶させた電話の件とか、毒蜘蛛に噛ませてパニック状態にしたとか、紅茶の内容物の話くらいはしたよ!」

葵は目を見開いて胸ぐらを掴み出す。

「おい!!結構言ってるじゃないか!!なんてことしてくれたんだ!!」

「え?・・・だって仲良さそうだったし、いいかなって」

さらに引き寄せて大きな声で怒る。

「いいわけないだろ!!お互いに弱みを握っては蹴落とす機会を身構えてた相手だぞ!?」

「でもさ、それ言わないと「葵くんだけ何も傷ついて無いのに受け入れられててズルい!」とか思われたら信頼なんて築けないだろ?」

「だからって、俺を犠牲にするな!!」

そんな喧嘩をし始める2人のそばからきしめんとロルロージュも横目で見ている。

「正直、向こう1年は話したくないかな」

「僕も同意見です」

「くぅっ!!」と悔しそうに下唇を噛んで2人を睨んだ。

その時、催促するかのようにまたきしめんのお腹が鳴った。

きしめんは恥ずかしそうに黙ってお腹を押さえる。

「ご飯、行こっか!」

納得していなさそうな葵の手を払い退け、ディンブラが笑顔で先導した。

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