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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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小麦の閃(ひらめ)き

翌日、少し遅めの起床をすると葵とディンブラは大使館のお手伝いで外に出ていた。

朝食を食べたり、準備をゆっくりとしていると大使館のベルが鳴る。

「はーい!」とパトロックが出た。

何やら数人と話していたが、しばらくして「中へどうぞ!」と来客を中へ通す。

いくつもの足音を鳴らして現れたのは葵によく似た男性3人組だ。

「お邪魔します!葵の兄、長男の王林です!」

「同じく次男の紅玉です!」

「三男の高嶺です!」

お馴染みの三人の兄(通称三兄)を見てアスタとチョコが驚く。

「あ!葵の兄ちゃん達!」

2人は声を揃えて呼んだ。

小麦も三兄をよく観察していると、さらにその後ろから女性が1人出てきた。

見た目は三兄たちより少し年上くらいなのだが、落ち着きのある、とても上品な女性である。

「いつも葵ちゃんがお世話になってます!母のフジです!」

大使達が大きな声で驚く。

「嘘!葵の母!?」

「成人の葵の上に更に3人いて、その母!?」

「若すぎる!」

「美魔女だ!!」

口々に言う大使達。

中でもマタリなんかは前のめりになってフジを観察している。

「僕らも同じ反応したよ」とチョコが苦笑いする。

小麦もさすがに母には目を丸くしていた。

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね!これ、皆さんで食べて下さい!お口に合うかわかりませんが、私が作ったおはぎです!」

「おはぎ」と聞いて小麦が人々を押しのけて前に出る。

フジからおはぎの入ったお重を受け取ったマタリに近寄った。

「葵の母さんが作ったおはぎ!?」

「ええ、そうよ!沢山作ったからいっぱい食べてね!」

箱を食い入るように見る小麦に、マタリが体をのけ反らせる。

「落ち着け落ち着け!」

自分を指差し、フジに言う。

「俺、魔王軍にいた時にいつも葵が持って帰るおはぎを食べてたんだ!すっごく大好きなの!!」

「あら!それじゃあ、あなたは葵ちゃんの魔王軍時代のお仲間なのね!」

それを聞かれて小麦はバツが悪そうにした。

「元ね。今は魔王軍が潰れたから違うけど・・・」

小麦が尻すぼみに言う。

その肩をマタリが強めに叩いて笑顔を向ける。

「魔王軍が無くても、今一緒にいるんだから仲間だろ?」

「ま、まぁ・・・」と苦笑いを返した。

それからおはぎを見て、懐かしそうだが、なんとなく寂しそうにも思い出を語り始める。

「魔王軍のほとんどが家族がいなくて、手作りの食べ物を食べる機会があんまり無かったんだ。だから葵が持って帰るおはぎって、凄く特別だったんだよ」

「うふふ!それは嬉しいわね!」

マタリがおはぎの入った箱を持ち上げてパトロックを呼ぶ。

「パトロック!これをお皿に乗せてくれ!飲み物は俺がれるよ!」

「はい!」とパトロックがマタリから受け取った。

「さ、皆さん座って下さい!今飲み物を出しますので!」

「お気遣いありがとうございます!」

マタリが嬉しそうに冷蔵庫から新品の茶葉を出す。

そしてお湯を沸かす。

開封するとお茶の爽やかな香りが漂い、マタリの隣ではパトロックも近づいて匂いを楽しむ。

ティーポットに茶葉を入れ、沸騰した後に水にやかんを当てて60度程に下げたお湯を注いだ。

「あの緑茶、ついに解禁ですね!」

「こういう時にしないとだろ?買ってきた本人いないけど」

お茶をれるマタリをロマが横から見上げるようにのぞく。

「おはぎって何?」

「豆を甘く煮てつぶしたあんこってので餅を包んだものだよ!ロマ知らなかったのか!」

「ぜーんぜんっ!!」と両手を肩くらいまで持ち上げてジェスチャーをした。

「この辺じゃ、あまり売られてないからね。大和の国って言う海外のお菓子だよ!この街でもそこのお菓子のファンはそれなりにいるんだけどね」

パトロックに「ふぅーん」と返す。

そしてティーポットを覗いて不思議そうに指差す。

「このお茶、紅茶と違う匂いがする。色もハーブティーみたいに薄いし」

「それも大和の国のお茶だよ!緑茶って言って、紅茶の熟成前に摘んだ茶葉だ!これもなかなかこの辺じゃ出回らないんだけどな」

話し終えると、マタリがおはぎの乗ったお皿を渡してきた。

「はい、これ!持ってって!」

しぶしぶロマが運ぶ。

小麦は出されたおはぎに目を輝かせて見ていた。

そして、嬉しそうに頬張る。

「んー!!コレコレ!!」

「そんな酒のつまみみたいな反応・・・」

お茶を配るマタリが苦笑いする。

「君が元きしめんなんだね」

王林に聞かれて小麦がおはぎを飲み込み、それから答えた。

「今は小麦を名乗ってます」

「君の話は葵からよく聞いているよ」

紅玉の言葉にしどろもどろする。

「葵が?一体、何て?」

「自分がどれだけ頑張っても追い抜けない、目の上のたんこぶの様な存在だといつも言っていたよ」

高嶺の言葉に小麦が黙って照れた。

「そういえば、いつかやっと剣術で勝てたとか言っていたな」

「う・・・それも言ってたのか・・・」

王林の言葉に嫌そうな顔をしていると、紅玉と高嶺が笑う。

「そりゃ言うよ!ずっと悔しがっていたからね!」

「葵にとって、君は重要な存在だったと思うよ!」

「俺自身も・・・葵がいたから負けまいと頑張っていたところもあります。本人には言いませんが・・・。その剣術だって教えたのは自分だったのに、葵はそこからさらに独学と自主練で俺なんかじゃもう手の届かないようなところにいます」

恥ずかしそうに言う小麦にフジがクスクスと笑った。

「お互い、良いお友達を持ったのね!」

そんなことを言われて、小麦が照れ臭そうな表情をしていた。

・・・が、しかし!小麦は気づいてしまったのだ。

『ん?・・・そうか!葵の家族といえば!』

ニヤリと不適に笑う。

『葵の弱味を握ってやるチャンス!!』

急にギラついた目には大使達にアスタやチョコ、ロルロージュのみんなが気づいていた。

『こいつなんかひらめいたな』なんて、おはぎを頬張りながら容易に推察されたのは言うまでもない。

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