魔王軍でのルール
小麦は償い期間中、サンスベリアでの仕事を熱心にこなしていった。
掃除一つにしても魔王軍で培ってきたものを精一杯発揮する。
こだわりが強いタイプのビストートはアルバイトを雇っても、満足いくパフォーマンスが出来なければいつも口汚く罵り、店の雰囲気も悪くなりすぐにやめてしまって、結局1人で全てを担っていた。
しかし、小麦がいる間は掃除に食器洗い、トーション(卓上にフォークやナイフと共に折り畳んで置かれている白い布。サンスベリアでは三角形の立体になるように折られている)の洗濯とアイロンがけに畳む作業、テーブルのセッティングと全てをテキパキと仕事をする。
その様子を見てホール仕事を全て任せていたら、ビストート自身料理に専念できてレストランへの客の入りが多くなったし、小麦の持ち前のコミュニケーション能力で接客でも好評だった。
そして、いつも注文を取る際の字がキレイで、ある日のランチ営業後、賄いを用意している間にメニュー表を書いてもらった。
「よしっ!書けた!」
メニュー表を書き終えた頃、丁度賄いも出てきた。
「ありがとう!助かるよ!俺いつもこの作業が苦手で時間かかってたんだ!!」
苦笑いしながらテーブルに料理を置く。
小麦の文字を確認すると、見やすく丁寧に書かれていた。
「ほんと、見た目によらず字がキレイだな!」
「よぉ〜く!練習したからな!」
褒められて鼻高々、といった具合に胸を張る。
賄いは隣に座ってビストートも一緒に食べた。
「魔王軍では字もキレイに書けるように習うんだな」
「あぁ!教官として板書する時とか、報告書を書くからってのもあるけど、魔王様によく言われたのは、俺たちが孤児だからって他所でバカにされないように、字はキレイに書けるようにしなさいって!」
ビストートが感心していた。
「へぇ、教育制度がちゃんとしてんだな」
「あぁ、魔王軍が無くたって、どこでも通じる人間になれるようにって、いつも厳しさの中には俺たちへの愛情があったんだ!」
小麦は嬉しそうに、そしてどこか誇らしそうにしていた。
その横顔を、ビストートは見ていた。
「ところで、掃除も洗濯も丁寧だよな。四天王って幹部だろ?掃除とかあんましないんじゃないのか?」
「魔王軍じゃ、どの地位でも必ず自分の分は自分でしてたんだ!」
それを聞いて手を止めて小麦を見る。
「もしかして・・・葵もやってたのか?」
「ああ、やってたよ。四つん這いになって雑巾で床拭いてた」
ビストートがその姿を想像して吹き出すように笑い、小麦も一緒に笑っていた。
サンスベリアでの1週間はあっという間に最終日を迎えた。
「ほらよ、賄いだ!」
「わ!なんか今日豪華じゃない?」
目を輝かせてビストートを見上げると、隣に自分の賄いを置いて座った。
「今日が最終日だからな。よく頑張ってくれたからその礼も兼ねてだ!」
目を輝かせながらビストートを見る。
「ありがとう!いただきます!!」
「美味しい!」と平らげていく小麦を嬉しそうに、しかしどこか寂しそうに見ていた。
「次はどこ行くんだ?」
「明日からは教会のシスターのところでお手伝いするんだ!」
それを聞き、少し考える。
「あいつんところってなんか手伝うことある?別に忙しく無くないか?」
「さぁ?多分メインは掃除じゃないか?」
傾げるビストートに振り向くと、顰めた面をしていた。
「掃除くらい雇えよって話だよな」
「まぁ、それだけじゃないみたい。参拝者にカラの魔女の元信者がいるからそこにも魔王軍として償いに行くんだ!ビストートのことみたいに!」
思わず手を止めて目を丸くし、小麦を見た。
「え?信者?リトルってどっかで祀られてんの?」
「魔女って自分の能力使って気まぐれで人助けとかもしてたらしいから信仰が生まれるそうなんだ。他にも荊姫のキメラのところにも行く予定だ!」
どこか感心したように、腕を組んで顎に手を当てて答える。
「へぇ〜、知らなかった」
それから、しばらく黙って考え事に耽っているようだったので、もくもくと食事を頬張った。
すると突然、「・・・なあ」と問いかけてくるので「何?」と聞き返したが、ビストートは「なんでもない」と続きを言うのをやめた。
サンスベリアのお手伝いも最終日の営業が終わり、大使館に帰った。
アッサム達が帰ったお陰で小麦とロルロージュにはやっと部屋が与えられ、久しぶりにベッドで眠る。
「明日は休みで・・・明後日から教会か・・・」
小麦はあくびを一つしてから眠りについた。




