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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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迷える仔羊達へ

シスターのお陰で無事に大使館まで帰ることができた4人。

帰宅してすぐにニルギリとルフナがアッサムに飛びつき思い切り左右に揺らす。

「アッサム!すぐに帰ろう!」

「お外怖いよぉ!!早く安全な花園に帰りたい!!」

そんな初めて見る危機迫った様子の2人に、アッサムも驚きを隠せない。

「うわ!どうした!?なんで急に!?」

2人に急かされ戸惑うアッサムに小麦が近寄る。

「こういうことがあったんだよ」

そして薄い本を手渡した。

表紙を見てアッサムが片眉を上げ、口を曲げて聞き返す。

「は?何これ?お前ら少女漫画買わずにこんなの買ってきたのかよ?」

2人が勢いよく首を横に振って否定する。

「違うよ!買えなかったんだよ!」

「本屋の前に女の子達が集まっていたから行ってみたら、そんな感じの本の即売会だったんだよ!」

泣いてすがりつく2人に理解できないといった表情で本の表紙を見る。

肩のあたりで手を上に向けて「理解不能」のジェスチャーをしていた。

「そしたら、僕達を見てこのマンガみたいにしようとしてきたんだ!」

「女の子達がみんなで僕達をカップルにしようとしてくるの!!」

2人はついに泣きだした。

余程怖かったのだろう・・・。

「へぇ、良い趣味してんな・・・」

アッサムも流石に引いたのか、本をテーブルに軽く投げ捨てるように置いた。

泣きわめく2人に泣き付かれているアッサムを他所に、リントンがシスターを気にする。

「シスター、大丈夫かな?」

「シスターがどうかしたのか?」

ここまで黙って聞いていたマタリが口を挟んだ。

それには小麦が答える。

「俺らを裏口から逃がして、シスターがその女豹めひょうの群を引きつけてくれてるんだよ」

「え?・・・どうやって?」

「知らね」と小麦は肩をすくめた。


シスターはというと、みんなが出た後に教会の扉を開けて外にいた女子達を招き入れた。

「ようこそ、皆さん!」

突然シスターに出迎えられ、驚き一歩退がる。

まぁ、教会なのだからシスターが出てくるのは当たり前なのだが。

「シ、シスター!」

「あの!ここにかわいい男の子が2人来たはずなのですが・・・」

その質問に対してにこやかに続けると、教会の中を手で指す。

「そんなことより、どうぞお入り下さい!もうすぐお祈りを始めますわよ!今回は特別礼拝です!」

みんながお互いを見合わせてから、促されるままに入場し椅子に座った。

「ど、どうしよう・・・」

「シスターにあんなに、にこやかに言われちゃったからつい来ちゃったけど、特に教会で礼拝ってしたことないのよね・・・」

困る売り子の2人に、お客として来ていた女子が話しかける。

「ねぇねぇ、ここってさ、他の地区で創作してる子たちが熱心に礼拝に来てる場所じゃない?」

「え!?そうなの!?」

「知らなかったー!!」

驚いて答えていると、相手も何度もうなずいて返す。

「ほら、なんか最近作風変わったって噂あるでしょ?」

「えー?宗教が関係してるの?」

「大丈夫なの?それ?」

そんな怪しげな情報を聞き、2人が怯え始める。

すると、臨時で鳴らされた鐘の音が響き、シスターが教祖様の肖像画が入っているであろう額縁を持って再入場してくる。

“コツーー・・・コツーーー・・・”と鳴り響く革靴の音にみなが注目する。

入ってくる時にはシスターの側に向けていたので見えなかったのだが、祭壇に飾られた際にこちらを向いた額縁の中の人物を見て、その場にいた全員が目を見開き、思わず息を呑んだ。

みなさんご存知、この教会名物”葵の盗撮写真”である。

そしてシスターがひざまずき、お祈りが始まる。

「主よ、ここに集いし迷える仔羊達をどうかお導き下さいませ」

何の演出なのだろうか?と思うほどに、シスターが祈り出した途端に、教会が暗くなりスポットライトのように額縁の一点に集中的に光が当たる。

「あ、あのイケメンは誰!?」

「心が洗われるようだわ!」

「あんなイケメンを見たら、今まで私たちが描いてきた男子達なんてその辺の雑草よ!!」

なんとも酷い言いようである。

「シスター!どうかその方を私達の創作のモデルとさせて!!」

シスターがお祈りを終えると、急にスポットライトのような光も消え、教会の中もいつも通り明るくなった。

たぶんだけど、シスターの聖女としての能力かと思われる。

口々に言う迷える仔羊達に振り向いた。

「みなさん、神は全てを見ています。貴女方の全てを受け止め、許して下さりますわ!!」

そして、聖女の微笑みを浮かべた。

「今日ここにおられますみなさんに、幸福のあらんことを」

胸に両手を当て、頭を下げて、葵の盗撮写真をたずさえて帰って行った。

「おぉ、神よ!」

「これからも私達の創作をお見守り下さい!」

「シスター、またお祈りに来ます!」

「そのご尊顔、脳裏に焼きつくまで通います!!」

こうして迷える仔羊達は無事に葵教(非公認)への入信を果たした。

礼拝を終えた女子たちは感涙かんるいを流しながら教会を出て行く。

外では鐘の音を聞きつけて走って来たジャトロファとソルガムが暇を持て余したように座って礼拝の終了を待っていたが、扉の影となったので腐女子達の視界には偶然入らなかった。

「あーあ、今回は入れなかったか・・・」

「なんか急だったもんな、仕方ないよ。また明日の朝リベンジしようか」

そう言って立ち上がり、去りゆくメンバーを見る。

「てか、いつもの人たちいないな」

「初めて見る人ばかりだな・・・」

2人は鼻からため息を同時に吐き、渋々帰って行った。

そして、今回の礼拝でただ1人、泣かずに目を丸くして周りを見渡す女子がいる。

「女の子が集まるところにビジネスチャンス有りとは言うけれど、まさか葵さんが女子の神的存在になるなんて!!・・・ビジネスチャーンスッ!!」

本作一のビジネスウーマンことキャメリアの姉、山茶花さざんかが目を光らせながら教会を飛び出した。

絶対ロクでもないと思う。

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