未知との遭遇
ニルギリとルフナの証言ではこうだった。
大きな本屋へ足を運ぶ途中、本屋前に女性の群があった。
それを発見したルフナが指差す。
「ねぇ、あそこに女の子達が沢山いるよ!」
「今日何かイベントでもあるのかな?」
ニルギリもワクワクしながらその群れを見た。
「もしかすると、人気漫画家さんのサイン会とか!?」
「それか新作少女漫画の即売会かもよ!行こう!!」
ウキウキで2人で駆けて行く。
そして女子の群れをかき分けて奥が見える位置にまで進むと、人混みの隙間から見えたのは人が座って目の前で本を売っている姿だった。
「即売会?」
「サイン会?」
さらに群を縫って前にでると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「ニ、ニルギリ!これは少女マンガなんかじゃない!!」
「な、何これ!?」
ニルギリが近くにあった本を手に取る。
「男の人同士がイチャイチャしてる!!」
「これに女の子達が群がっていたの!?」
都会の女性向け恋愛マンガ(※一部に限り)は進化しすぎて男同士になってしまっていたのだ。
これは情報が遮断された陸の孤島(=ど田舎)出身の2人には未知との遭遇。
唖然として本を片手に突っ立っていると、売り子の女子に声を掛けられた。
「珍しいお客さんね!男の子2人で買いに来たの?」
「もしかしてカップル?」
グイグイ来る売り子にニルギリとルフナが身を寄せ合って怯える。
「ち、違うよ!!」
「僕達は少女マンガを買いに来ただけだよ!!」
売り子の声かけを皮切りに、周囲の女子達も2人に注目する。
「可愛いカップル!」
「怯えなくていいのよ!」
「それが好みなの?お姉さんが買ってあげる!」
方々から自分たちに向けられた言葉が飛び交う中、状況に頭が追いつかず固まってしまった。
そんな2人にお構いなしに、ニルギリがたまたま手に持っていた本を誰かが買ってくれた。
「お買い上げありがとうございます!」
手に持っていた本を売り子が取り上げ、袋に入れ、固まったままのニルギリに再び持たせた。
この売り子たちはまだまだ2人に迫ってくる。
「ねぇ、良かったら私達の創作のモデルになってくれない?」
「2人共可愛いものね!創作意欲が掻き立てられるわ!」
その言葉に周りのお客が反応する。
「きゃー!この2人で新作ですかぁ!?」
「何それ!アツい!!」
「絶対読みたーい!!」
2人が目を丸くして周りの女子たちを見渡す。
抑止力不在のこの状況、さらにヒートアップしていくのは想像に難くない。
「ねぇねぇ、いつもどっちから手を繋いでいるの?」
「お互いのことなんて呼んでる?」
「添い寝とかしたことある?」
「今日のデート、どこまでいくつもりだったの?」
一斉に聞かれて、何がなんやらわからない。
「この子たち、どっちが右かな?」
「えー?私は本を持ってる子が右かなー?」
「うっそー!私なら絶対そっちが左!」
もう派閥ができた。
そこからさらなるディープな問答が2人がを追い詰める。
そして、ついに2人は絶叫しながら抱き合っていた。
「わぁぁぁああああ!!!」
素早く逃げ去ったが、女子達も追いかけてくる。
それはさながら、夕方の空に鳥の群れが先頭を羽ばたくリーダーの鳥を追いかけて集団で山へと向かう様。
「追いかけてくるよ!!」
「教会だ!教会に逃げよう!!」
2人は「リントーーーーーン!!!」と叫びながら、数多の足音を引き連れて教会へと全速力で向かっていった。
正直、花園ではこんなに大きな声を出すことも無いし、こんなスピードで駆けることもない。
良いのか悪いのかはさて置き、2人が自分の限界を突破した瞬間だった。
「で、今に至るの!」
「何だそれ?」と小麦が呆れながら聞き返す。
リントンが本を指差して聞く。
「ニルギリが持ってるのが噂の本?」
小麦が受け取って中を見た。
「はぁ・・・。これ、何がいいの?」
高尚な趣向に理解できないかのように小麦が薄い本を持って軽く振った。
「わ、わからないよ!」
「男同士でこんなのしても僕たちはキュンともスンともしないよ!」
リントンもその本を小麦からもらって見てみる。
こちらも理解し難い様子で傾げていた。
「僕達も衝撃的だったんだ!だって、エディブルにはいないタイプの女の子達ばかりで・・・」
「生物的な生産性は無くても、経済効果はあるみたいだね」
リントンが苦笑いで軽口を叩いていると、また扉の外が騒がしくなった。
シスターが笑顔で手を差し案内する。
「さ、皆さん!こちらへいらっしゃい!裏から出られるわよ!」
しかし、2人が怖気付く。
「えー!でも怖いよぉ!」
「大使館行くまでに見つかるかも!」
そんな2人にシスターが「私に任せて!」と言って微笑んだ。
シスターの策や如何に?




