手厚い見送り
その夜、葵といつもの様に話し合う。
「ま、願っても無いチャンスが来たわけだ・・・」
「だが、葵が大使館にほとんど入り浸りだ。身長的にもマタリが一番怪しい。あいつには十分気を付けろ」
小麦が低い声で警戒を促すように鋭い語調で言った。
「ああ、あいつの動向も探りを入れる。やれるだけやってみるしかないな」
「現段階をまとめると、この花園には白いプルチネッラはいない。考えられるとすれば、大使だが、さらに体型等から絞るとマタリが最も怪しい」
小麦の考察のまとめに顔を顰めて「1ヶ月か・・・」と呟く。
「たったの1ヶ月だ。思っているより限られているのかもしれない」
「焦らず、しかし急いでことを進めよう」
葵の言葉に小麦は頷き、解散した。
翌日、早朝にも関わらず手厚い見送りがされた。
「小麦!早く帰ってきてね!体も気をつけて!あと怪我も・・・それからそれから・・・」
朝顔が小麦に懸命に伝えようとするが、目に涙が溜まっているのが見える。
健気な朝顔の頭を撫でると小麦に抱きついた。
「ヤダヤダヤダ!行かないでよ小麦ー!!」
「もー、ごめんね」と撫子が受取る。
「小麦と葵くん頑張ってね!」
「ありがとう、撫子と朝顔!」
ナスタチュームが近寄り、大きな袋を渡す。
「はい!これ〜、さっき作ったの〜!よかったら道中食べて〜!」
中を見るとお弁当が入っていた。
「お弁当だ!!」
「さっきって、何時起きだよ!?」
「みんながメリリーシャに行くって聞いて〜、昨日から仕込んでおいたの〜!今朝は詰めるだけだったから、そんなに早起きじゃないよ〜!」
小麦も葵も嬉しそうにする。
「悪いな、ありがとう!」
「ナスタチュームさん、ありがとう!」
2人に礼を言われて、ナスタチュームもまた嬉しそうにする。
「えへへ〜!だって、小麦も葵くんもフルーツ取ってもらったり〜、お手伝いを沢山してもらったから、当たり前だよ〜!」
小麦が嬉しそうに手を出した。
ナスタチュームもその手を両手で握った。
「頑張ってきてね!」
「おう!ありがとな!!」
それから葵とも握手を交わす。
「葵くんも!頑張ってきて!」
「はい!ありがとう、ナスタチュームさん!!」
エディブル随一の癒し系に男子2人は見事に癒された。
アッサムが小麦の肩を叩いて別れを告げる。
「頑張れよ!例え道中に良い感じのロリがいても寄り道とかすんなよ!」
「しねーよ!」
2人で肩を組んで笑う姿は、まるで長年の付き合いのある者同士のそれだ。
「小麦がいなくなるとエディブルも寂しくなるな・・・」
キャンディも別れを惜しんでくれている。
「キャンディ・・・お前、あんなに俺のこと嫌がってたのに別れを惜しんでくれるんだな!」
小麦が驚きながらも嬉しそうに言った。
「結構良い奴だからな、小麦。それに、葵とのやり取りとか好きだったんだよ」
「珍しくキャンディの口が達者だな!」
アッサムがいじるとキャンディが照れて口を紡いだ。
「キャンディ、別に一緒に来ても良いんだぞ?」
「今は特に爬虫類のイベントしてないし、それは遠慮するよ」
きっぱりと断られる。
「くぅ〜」と小麦が悔しがった。
「みんな!いってらっしゃい!」
「気をつけてね!」
「早く戻って来いよ!」
「ファイト!」
色んな人達に言葉を貰い、良い感じのお別れムードの中、ただ1人、葵だけは不満だった。
「なんか小麦への見送り率高くないか!?俺の方が先に知り合ってたよな!?アッサムとか、キャンディとか、朝顔とか!!なんか小麦贔屓酷くないか!?あいつ来てまだ1週間だよな!?」
「まあまあ!」とディンブラがなだめて続ける。
「ここの人はこんなものだよ!新しい人が来るのが珍しいからね!別れも手厚いんだ!」
「いやいや!ここの人もそうだが、何よりアスタ達だ!」
葵が睨みつけた。
「懐き過ぎだろ!どれだけ俺が面倒を見たと思ってんだ!」
「妬いてるんだね」
「妬いてない!!」
いたずらっ子のように笑うディンブラを睨む。
「君には君の魅力があるよ。あんまり自分のことって気付きにくいだろうけどね」
葵が腕を組んで拗ねる中、ロルロージュが小麦に走り寄っていった。
「小麦さーん!!待って下さーい!!」
そして飛びついて小麦の足に抱きつく。
「僕を置いてくなんて酷いですよ!!」
「お!ロルロージュ!お前、起きたのか!」
持ち上げて抱っこしてやると、涙を溜めてしがみついた。
「別にお前はここにいてもいいんだぞ?メリリーシャまでの道のりは危険だし」
「嫌です!僕も行きます!僕は小麦さんと契約してるんですよ!!それに、道中で何かあったら誰が怪我を治すんですか!!」
ロルロージュが怒って訴える。
そんなロルロージュをディンブラが覗いて聞いた。
「別にメリリーシャに着いてから小麦の召喚で呼び出すのもアリだよ?」
「ダメです!小麦さんと一緒に行きます!」
小麦がロルロージュと拳を突き合わす。
「置いていこうとして悪かったな、相棒!よっしゃ、一緒に行くぞ!」
「当たり前です!」
「おーい、そろそろ行くぞ!!」とパーティが4人を呼んだ。
「今行くよ!」
小麦から下りてロルロージュが小走りでパーティに駆け寄る。
去って行こうとする小麦に、朝顔が駆け寄った。
そして手に小さな袋を握らせる。
「これは?」
小麦が持ち上げて見ると花の刺繍が施されていた。
「お守り!!小麦が無事に帰ってこれますように!!」
両手で小麦の手ごとお守りを包んでお祈りする。
それから左肩を両手で押し下げさせると、小麦の頬に背伸びをしてキスをした。
その後すぐに涙を堪えていた朝顔は溢れ落ちてしまう前に、また走って撫子の元に戻った。
小麦が頬を押さえて唖然と見ていたが、大きな声で朝顔に呼びかける。
「朝顔!!ありがとな!!絶対!絶対に帰ってくるからな!!」
そして小麦も背を向けて仲間の元へと向かった。
ディンブラ達が花園のみんなに振り返る。
「それじゃあ、行ってくるよ!」
こうして、ディンブラ達がエディブルの花園を後にした。




