オレンジ
「ロルロージュ!落とすぞー!」
「はい!」
小麦が木に登りオレンジを落とすと、下でロルロージュがメイド服のスカートを広げて受け取った。
「ズボンより、断然スカートの方が受け止めやすいですね!」
喜ぶロルロージュに「おお、そうか!似合ってるよ!」とニヤニヤしながら言う。
「撫子さんが、僕のサイズの服はこれしか無いって言ったから仕方ないんです!!からかわないでください!!」
恥ずかしそうに怒っているが、その割には頭の上に乗るホワイトブリムの白が眩しい。
文句を言っていたのだが、小麦はすでに遠くの木に移っていた。
「おーい!次の木行くぞ!ついて来いよ!!」
「待って下さい!小麦さん!!」
オレンジを背負っているカゴに入れ、ロルロージュが慌ただしくついて行く。
背後から監視していた朝顔も小麦を追いかけて、木から木へと飛んで移動した。
小麦が連続して移るのを必死に追いかける。
「小麦さぁ〜ん!まっ・・・待ってぇ!」
下ではロルロージュがてんやわんやなのをよそに追いかける。
「は、速い!」
朝顔も必死に追いかけて木を移るのだが、見失ってしまった。
「この辺に来たと思ったのに・・・」
途中の木に止まって見渡していると、「おい」と声をかけられた。
見ると、幹の影から小麦が現れて、つい大きな声を出して驚いた。
「ぅわあ!!」
転けそうになった朝顔の体を枝を移って受け止める。
「どういうつもりだ?ずっと俺をつけやがって」
睨みつけられた朝顔は気まずそうに口を紡いで睨んだ。
前日の深夜、また小麦と葵は外で話していた。
「俺はこの花園内に白いプルチネッラの存在がいることを疑っている」
「なるほど、この中にね。ある程度は絞っているのか?」
小麦の意見に葵が聞き返す。
「まあ、色々といるが・・・」と少し黙って、小麦が葵を見た。
「葵、お前から見て朝顔の印象はどうだ?」
「朝顔?」と葵が顰める。
「あいつ、ずっと俺をつけて覗き見してやがる」
「・・・そうか。だけど、あの子はただ単に好奇心だと思うな」
小麦が眉を寄せた。
「好奇心?」
「朝顔はディンブラやキャンディの話を聞くのが好きなんだ。きっと、知らない事を知るのが好きなんだろう。外から来たお前の事も、同じ理由だと思うよ」
「俺は虫や爬虫類かよ!」
小麦が機嫌の悪そうな顔をした。
「とにかく、俺は女子については今のところ疑ってはいない」
「そうか。葵がそう言うのなら、そうなんだろうな。だけど、油断は禁物だ。明日探りを入れてみるよ」
「おい、何なんだよ?」
さらに追い詰めると朝顔が小麦を突き放した。
「こ、小麦が変な事しないように見張ってただけ!!」
小麦が横目で朝顔を見るが、朝顔も睨み返していた。
「小麦、一体何企んでんのよ?」
朝顔の言葉に小麦が反応し、探りを入れる。
『来たな。こいつ、俺と葵が夜話しているのを知っているのか?』
「企んでる?何の話だよ?」
朝顔が指さした。
「さっきからずっとオレンジたくさん取って!エディブル内のオレンジを独り占めする気なんでしょ!!」
思いも寄らない言葉に小麦の方が呆気に取られる。
その次には吹き出して笑ってしまった。
「ぷっ!そんなしょうもない事するかよ!」
「な、何笑ってんのよ!本気で怒ってるんだから!!」
笑いながら赤くなる朝顔に近づいた。
「ナスタチュームに頼まれたんだよ!そろそろ食べ頃だから、今日のオヤツにオレンジ使ったおやつ作るから取ってきてほしいって!」
小麦が背伸びして大きなオレンジを取る。
「オレンジ好きか?」
朝顔が恥ずかしそうに頷いた。
それに笑顔で答える。
「俺も!ナスタチュームのオヤツ楽しみだな!」
下ではロルロージュがやっと追いついた。
「小麦さぁん!!やっと追いついた!!」
「よく頑張ったな!ほらよ!」
小麦が落としたのをロルロージュがキャッチする。
「朝顔も手伝ってくれよ!沢山必要なんだ!」
「うん!」
ロルロージュが見上げ「あ!朝顔さんもいる!」と言った。
「私も手伝うね!」
だが、途端にロルロージュは真っ赤になりながら俯く。
「たしか朝顔さんって、ノーパン・・・」
なんと、ロルロージュは思い出してしまったようだ。
朝顔が小麦の服の裾を引っ張る。
見ると、申し訳無さそうな表情をしていた。
「その・・・疑ってごめん。ナスタチュームのおつかいだったんだね・・・」
「いいよ。俺こそごめんな」
小麦が軽く肩を叩いて一つ上の枝に登った。
「小麦が何かしたっけ?」
残された朝顔は不思議そうに傾げた。




