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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
やりたい事
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ディンブラの尋ね人

朝、まだ小麦が寝ている頃。

朝の支度をしてからディンブラは昔のことを思い出していた。


日も沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。

暗い町に白い雪が淡々と降り注ぐ。

あるガラス張りの家電屋の前に1人の子どもが、テレビを夢中でかじりつくように見ていた。

その姿を幼いディンブラが少し離れた所から見ていた。

「ねぇ」

声を掛けられて驚き、振り向く。

その時に気づいたのだが、腕には人形を抱えていた。

「寒くないの?」

その子は黙って首を横に振った。

近寄るディンブラを警戒しながら見るその子の目には恐怖の色もあった。

「どうしてもっと暖かい服を着ないの?」

薄手の服はボロボロで、ツギハギだらけ。

少し体を震わせたその子は下を向いて黙った。

「何でそんなにも薄くて、ボロボロの服を着てるの?髪も溶いた方がいいよ。凄くボサボサ」

ディンブラの言葉に、さらに萎縮いしゅくする。

しかし、そんな相手の様子など知らない様子でディンブラは足元を指差した。

「靴も穴が空いてる。良い靴は良い出会いを運んでくれるんだよ。靴は良いものを履かないと」

その子が自分の靴の穴を見た。

「お日様も沈んだのに、どうしてこんな寒い所でテレビを見てるの?家で見た方が暖かいし、座って見られる。あまり夜にお外にいると家族だって心配するよ」

その子が反応したが全く喋らない。

今度は指を上げて、相手の頬を指した。

「ほっぺた、アザがある。・・・体中アザと傷だらけ」

口を固く結び、隠すように腕を押さえるその仕草は、服の下に隠れたアザを守るようにも見える。

「君のお家はどこ?」

「ごめん・・・なさい・・・」

やっと小声で口を開いた。

「え?」

「ごめん・・・なさい・・・」

その子はうつむいて涙を流していた。

「コレ・・・好きなの。だから・・・毎週見たくて・・・。でも・・・スラムの人は・・・ココに来ちゃいけないってことでしょ?」

「え・・・」

その子が涙を流しながらディンブラを見る。

「もう・・・来ないから、お願い。大人には言わないで。叩かれたくない・・・」

「あ!」

その子はトボトボと背を向けて歩いて行った。

去りゆくその子に声を掛けることができなかった。


ディンブラはみんながリビングに揃った時に意を決して言うことにした。

「僕はある人物を探している。その人物を探す為に、花園の外へ出たり、マフィアから情報を得たりしている。・・・それを2人にも手伝ってほしいんだ」

そして頭を下げる。

「どうか・・・お願いします。僕に協力して下さい!」

突然の話しに2人が困惑している。

「ディンブラ・・・頭を上げてくれよ」

小麦が耐えきれずに上げさせた。

「俺はディンブラの為ならいくらでも手伝うよ!模擬結婚式も手伝ってもらったし、何より俺を拾ってくれた恩人であり、今は家族なんだ!」

「小麦・・・ありがとう」

嬉しそうだが、言葉に元気が無い。

すると、小麦から質問が来た。

「ディンブラの探している人ってのは、どんな人なんだ?性別は?」

「・・・わからない」

葵が傾げる。

「性別がわからない?」

「僕の幼い頃にどこかの町で出会った子なんだ・・・。僕も物心がつくか、つかないかくらいの頃だから、どこかもわからなくて・・・」

ディンブラが目をそらした。

「髪は肩ぐらいまであって、伸ばしているというより、切ってないって感じだったし、話しかける僕に対してひたすら怯えるだけだった・・・」

少しの間を置いてから、落ち込んだ様に続ける。

「それに・・・顔も声もよく覚えてないんだ。顔なんて腫れてたし。髪も長いとしか覚えてなくて・・・色は白く感じたけど、それも周りの雪の景色と記憶が混同してるような気もするし・・・」

小麦がそんなディンブラの肩を叩く。

「任せろよ!必ず見つけてやるからよ!元気出せ!」

「だけど・・・生きてるかどうかもわからないんだ・・・」

ディンブラが不安気に小麦の腕を持つ。

「どういうことだよ?」

「その子、凄く細くて、雪の降る寒い夜だったのに、ボロボロの薄着の服と靴で、体中、傷や殴られた跡があったんだ。きっと親からの虐待だよ」

弱気なことを言うディンブラを小麦が笑う。

「そんなこと。俺は毎日父さんに殴られてきたし、外へ行っても大人や、子どもでも少し裕福な奴に何度も殴られてきたよ!冬場にボロボロの服と靴なんて、当たり前だったしな!そんな俺が今生きているんだ!人は簡単には死なないよ!」

ディンブラが小麦を見る。

「それで、その相手を見つけて、ディンブラはどうするんだ?」

「謝りたい。その子は、僕が生まれて初めて傷つけた相手なんだ」

いつもと違って落ち込むディンブラに葵も少し態度が変わる。

「きっと、あの子にとって生きる楽しみだったはずのものを、僕が奪ってしまった」

ディンブラが下を向く。

「あの後、何度も同じ場所へ行ったけど、一度もその子を見なかったんだ」

落ち込んだ様子のまま俯き、またあの日の夜を思い出していた。

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