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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
生き残り
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一から始める

目が覚めると、先ほどのプリムトンの樹の根元に横になり、頬には涙で濡れた感覚がある。

近くではロルロージュが心配そうに見守っていた。

「ロル・・・」

「きしめんさんっ!!」

ロルロージュが泣いて抱きついてきた。

涙を拭いて起き上がると、ディンブラがポットやカップをトレーに乗せて現れた。

「あ!起きた!!よかった!!」

笑顔でそう言うと隣に座り、お茶を注いで渡す。

「はい!これ、ハーブティーだよ!リラックス効果があるのをれたんだ!」

カップを受け取り、しばらく観察してからもう一度ディンブラを見る。

「ポットの中見てもいいか?」

「え?いいけど・・・」と言ってポットを渡す。

中は普通の茶葉と花びらだった。

目に見えて一安心する。

「もしかして葵くんに飲ませたものと同じだと思ってる?まあ、警戒する気持ちもわかるけどさ」

図星なことに胸を押さえてドギマギした。

「いや!そのっ!・・・な?」

「信用できないのは仕方ないよ。この前まで敵同士だったんだから。一応言っておくけど、ハーブコックローチはここでは最上級のおもてなしなんだよ?」

そう言ってもう2つカップにポットからお茶を注いで、ロルロージュにも1つ渡し、もう1つを目の前で飲んで見せた。

「ほら、何とも無い!毒なんて入れてないから安心して!」

そこまでされたのだから流石に一口啜すする。

体の中心から暖かくなっていく感覚を感じた。

「はぁ・・・」と思わずため息が出る。

「僕たちと会うまでにさ、命を狙われたり、復讐心だったりとさ、色々肩に力が入りっぱなしのことが多かったと思うんだ。でもね、ここは世界一平和と言っても過言じゃ無い場所だからさ、少しは安心して。君を悪く思う人は一部いるかもしれないけど、だからと言って殺そうと思う人なんていないからさ」

そこへ葵もやって来る。

「あ、起きたか」

そう言って目の前に来ると布でできた袋を手渡した。

「これは?」と開けてみると良い香りのクッキーがたくさん入っている。

「ナスタチュームさんと言う料理好きの女性が作ってくれたんだ。きしめんにって」

1つ食べると、優しい味がした後に鼻にハーブの香りがスッと抜けた。

飲み込んでからきしめんが喋り始める。

「さっきさ・・・この樹の下で眠っている時に夢の中で魔王様に会ったんだ。俺はずっと葵ばかり可愛がられていたと思っていたけど、本当は俺が大事にされていたことを知った」

「そうか。・・・そうだよ。俺はお前の成長のために連れてこられたらしい。血縁は無くとも我が子のように可愛いきしめんのために」

葵はうつむくきしめんに冷静に答えてあげた。

しかし、次の言葉に目を丸くする。

「それと、葵が魔王軍を裏切ったのは魔王様自身がもっと葵の意見に耳を貸さなかった、成果を急いだせいだった、ごめんなさいと言っていた。それをあっちにいる魔王軍のみんなは魔王様から聞いて、誰もお前を恨んじゃいないって・・・」

葵はきしめんを見て息を飲んだ。

すると、突然両手を地面について2人に向き合う。

「俺は最後に魔王様から依頼を3つ受けた!それは俺1人じゃ到底できそうも無い!ディンブラ、葵!!俺を仲間にしてくれ!!ここの人たちとも上手くやってみせる!!その努力だってする!!だから、お願いします!!俺を仲間にしてください!!」

そして頭を地面につけた。

「きしめん!顔を上げて!!」

ディンブラに言われて上げるが、真剣な眼差しを向ける。

「俺はさっきまで心底お前達が憎かった!だけど魔王様が2人を許し、協力しろと・・・そうすればいい仲間になると言っていた!!」

「まずは話を聞かせてよ。どんな依頼だったの?」

「1つは家族に会って俺が幸せに生きること、もう1つは葵やディンブラ、あのパーティを許してまた一から居場所と仲間を作ること、そして最後は・・・」

一息置いてからまた続けた。

「魔王軍の本拠地を爆破した、魔王様の師匠である白いプルチネッラの暴走を止めること!!」

最後の言葉に2人が黙ってしまった。

ロルロージュは不安そうに下からきしめんと葵、ディンブラを交互に見る。

そんな沈黙をまず破ったのはディンブラだ。

「あ、あのさ、その話の前にまずは・・・良い上司だったんだね、魔王って」

「ああ、いつも俺たちのことを気にかけてくれていた」

笑顔で答えるきしめんにディンブラも笑顔を向ける。

「すごく君たちに慕われる理由がわかったよ。それに魔王軍を崩壊させた僕たちを許して、君にやり直すための仲間と居場所を与えようとしている。最後の最後まで部下思いだし、とても器が大きい・・・」

「いつまでも、俺に期待をこめてくれていた。だから俺は最後まで魔王様の期待に応えたい」

きしめんが俯いた。

魔王軍崩壊の日に期待に応えられなかった自分を悔いているかの様だ。

「それと、魔王軍と魔王様から解放されるために名前を捨てろと言われた。この名は魔王様から頂いたものだし、この名前で最後に有名だったから生き辛くなるだろうって・・・」

「そっか。じゃあこれからは何て名前で呼べばいい?」

その質問には少し考えてから答えた。

「小麦。俺の元の名前なんだ。本当の親が付けてくれた、俺の本来の名前だ!」

「良い名前だね!これからは小麦と呼ぼう!!」

そこに葵がやっと口を挟む。

「それで、最後の依頼の白いプルチネッラだが、名前は聞いたのか?」

「それが・・・名前を聞ききる前に夢から覚めてしまったんだ」

「そうか・・・」と目線をそらせた。

ディンブラが間に入り、葵と小麦の肩を叩く。

「これからはさ、僕たち仲間としてみんなで協力し合おう!それで、その白いプルチネッラも突き止めていこう!!」

「い、いいのか?」と小麦が少し驚いて聞き返した。

「僕だって、君の居場所を奪った。その償いも兼ねている。だけど、君が本当の意味で仲間になるには、君にも償いをしてもらわないといけない」

「償い?」

きしめんの質問にうなずいて返す。

「ああ、僕にだって君たち以外の人間関係がある。そこに君が魔王軍のきしめんではなく、僕らの仲間の小麦となったことを認めてもらわなければいけない。少しの間、色々と人間関係の構築に奔走ほんそうしてもらうけど、いい?」

大きく頷いて「わかった」と返す。

「僕たちはこれからは敵じゃ無い!仲間だ!!みんなでやりきろう!!」

ディンブラが手を差し出すと、小麦が力強く握り返した。

その上に葵も手を重ね、ロルロージュも小さな手をさらに重ねた。

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