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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
ジャコスモール編

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金玉イヤホン





発電部主任、安藤智久(ともひさ)は「組織」の調査官にこう語った――


「僕は“寝ぼけた”ような感じで、発電室の中に立っていました」


――なるほど。そこで意識が戻ったわけですね?


「それから僕は()()()()()制御盤に目をやったんです。その瞬間――思考がクリアになり……」


――ほう、急に思考がクリアに?


「『あれ?……いままで何してたっけ……?』と思ったものの、このとき自分が誰だかわかりませんでした」


――ふむ……自我を喪失? あるいは記憶の混濁?


「どちらもですね。自分が誰でもない感覚、そして前後の記憶もありません」


――でも、手には「土」を持っていた?


ふと気付くと、両手に土が抱えられていた。


「そうです。ただ……それが何を意味するのか、僕には一切わかりませんでした。そして……そこでまた意識が薄れていきました」


――なるほど。やはり皆さん同じような経験をなさっていますね。


「結局、なんだったんでしょうか? ……あれは?」


――調査が進み次第、明らかになるかもしれませんが、今はまだ何とも……。









湿った土とオイルミストを混ぜたような匂い。


耳をつんざくような「ギギィーン!」という金属音。


目の前に並ぶのは巨大な太鼓を横倒しにしたような機械――発電タービン。


前を歩いていたユウリがふり返り、口をパクパクと動かす。


「!! ……見……の……ビ……! ぁ……まじ……ェ!?」


言葉は騒音にかき消される。


「あ゙ァ゙!?!? な、ん、て!?」


ユウリは俺の着ていた「氷冷式スケスケサイバージャージ」の襟をパキッと折り、その氷片に向かって何かを唱える。


――「そ……ィ……キ……ァ゙」


氷片は一瞬光を放ち、金色の玉へと変化した。


ユウリはその金玉を指でつまみ、耳に入れる仕草をしてみせる。


(耳栓ってことか?)

(てかこのジャージってつまんで折れるようなもんなの?)

(まぁいいけど、耳栓ってことね? はいはい)


金玉を耳の奥に押しこむと、さっきまで聞こえていた騒音がピタリと止み、心地よいブラウンノイズが耳にひろがった。



――サァァァ……。




「ねぇ、聞こえる?」


ASMRで聴こえるユウリの声。


「……おおおお……(ぞわぞわ)」


「ちょっと、あれ見て」


「おぉぉぉ……なななに……」


真ん中の発電タービンにある昇降用ハシゴの前に整列して並ぶゾンビ作業員たち。


皆が両手で「土」を抱え、自分の順番が来るのを待っている。


「え、なに待ち?……」


先頭にいた女性ゾンビがタービンの上に向けて土を撒いた。


バッ!――


パラパラパラパラ……


土はほとんど床に落ちたものの、わずかにタービンの上にも降りかかる。


列を外れ、歩き去る女性ゾンビ。


「え、なんの仕事!?!?」


もしこれが「仕事」だったら――と思うと、これからの人生に絶望しそうになる。


単純かつ無意味なブルシット・ジョブ。


それでも「アットホームな職場環境です」ならギリセーか?

それに加えて「よろこび」や「やりがい」があれば誰も文句は言うまい。


子供心に感じる大人社会の生きづらさを押し殺し、俺は誰となく尋ねる。


「あのゾンビ――『杜蓄とちく』だっけ? 何やってんだ?」


ユウリに抱えられたぬいぐるみ――マルケスが足をぶらつかせながら答える。


「……おそらく、『大地』を作っているのでしょう。コンクリートに囲まれたこの環境は、苗木にはちと過酷ですゆえ」


「……だったらなんでこんなとこ選んだんだよ?」


ぬいぐるみの頭ごしにユウリが付け加える。


「発芽にいくつか条件があるの」


「条件?」


ユウリは「魔神木まじんぼく」が発芽するための条件を説明してくれる。


・三方をなどで囲まれた広い空間

・豊富な「エネルギー」(熱、光、電気、水、何でも可)

・長く続く弱い振動(長期地震)


「難しいよーな……簡単なよーな……よく分からん条件だな……」


「ただし――発芽さえしてしまえば、後は『エネルギーだけ』で魔神木は成長する」


「ほーん」


「でも――生態系エコシステムを安定させるには、結局豊かな大地――つまり、『土』が必要になってくるってこと」


「はーん……」


(パラパラ)……また土を撒く音。


「いやこれ……一生かかるだろ……」


「一ヶ月も数十年も、魔神木――もりにとってはたいした差じゃないわ」


日々の不満や苦痛から開放された「虚無」の表情を見せるゾンビ作業員たち。今の厳しい社会環境において、それはむしろ幸せな生き方なのかもしれない。


安藤さんは今、幸せなのだろうか?(遠い目)


一人、また一人と、土が撒かれ続けるのを俺はながめていた。


「――で……どうすんだっけ?」


「それは……ええと……」


言葉を濁すユウリ。


「どうすんだよ?」


ずっと黙っていたヤオが口を開く。


「抜くのです――魔神木を……」


彼女の瞳はどこか悲しそうだった。


「へ? なんだそりゃ? ……めちゃんこ簡単じゃん? ひっこ抜くだけでいいの?」


「そう――抜くだけです」


ユウリ・マルケス・ヤオの三人は目を閉じ、静かにうなずいた。


張りつめた空気のなか、ヤオがやわらかく言葉を添える。


もりは『我々』の故郷であり、還る場所。その始まりである魔神木は――『母』であることを意味します」


「あー、なる」


そして俺を真っ直ぐに見据え、静かに告げた。


「我々はいまから、誰かの母を殺すのです」


(母を殺す?)

(なんでそうなんの?)

(『彗星教』みたいなこと言ってんな?)


言葉にまったく実感が沸かない。


別の何かに当てはめようとするが、その考えはどこかへ吹き飛んでいってしまった。


なぜなら、三人の表情は言葉にできないほど悲しみに満ちていたからだ。


「ま、まぁ……でもさ? 誰かがやらなきゃ、ジャコスモールが大変なんだろ? そりゃ辛いけど……とりまさっさと終わらせよーぜ? ヤオが飛んでピッて抜けば済むんじゃね?」


取り繕うように早口で言う俺。


「ご命令とあらば……」ヤオは目を閉じたまま静かに答えた。


「タキ様。その辺りで――」ぬいぐるみマルケスが低く言い放つ。


「――いい。あたしが説明する」ユウリが口を開いた。


ユウリは「魔神木を抜いた者が受ける呪い――母殺しの呪い」について簡潔に語った。


・魔神木を抜く(殺す)と「母殺しの呪い」にかかる

・「母殺しの呪い」は被呪者をあらゆる輪廻に組みこみ、魂の「最期」を消し去る

・呪いは「もりで生まれた魂のみ」を狙う

・呪いは「世界を越えても」消えない


俺にはその深刻さが理解できず、何が、どう「呪い」なのかすら分からない。


逆にそれを恐怖に感じた。


「つまり……命がけで抜かなきゃならん代物ってこと」


「そんな大層な……」


「あたしたちにとってはね?」


「じゃ、どうすんだ……」


「あんたみたいな『純粋な人間』にとっては、魔神木もただの木にすぎない……」


「え、俺がヌけばいいってこと?」





◇◆◇◆◇◆◇





ユウリが声を張る。


「タキちゃんがんばえ~!!」


ぬいぐるみマルケスは、丸く小さな指でサムズアップ。


「どうぞよろしくお願いいたします」優しく手をふるヤオ。


俺は大げさに肩を落とし、昇降用のハシゴに手をかける。


踏み段に足を乗せた瞬間、金属の冷たい感触が足裏から伝わってきた。


「ヒァ……冷てァ……」


声が漏れる。


――ところで、「裸」というものをご存じだろうか。


漢字の成り立ちは知らないが、衣類はもちろん、ブラやショーツ、靴下も靴も、何ひとつ身につけていない状態のことを「裸」と言う。


人間が裸で野外を歩くことはめったにない。


あったとしても特殊な状況だ。


俺はいま、その特殊な状態だ。


裸でハシゴに登っている。


俺は今から――「魔神木」を抜く。


(いやなんで裸!?)

(他にもっといい描写あっただろ!?)

(制服とかバニーとか、ビキニとか競泳水着とかさぁ!?)


「おわ……とと……」


(てかいつもの『バランス棒』ないだけで、めちゃ不安定!?)

(あいつすげー重要なパーツだったのな!?)


なぜ裸なのかというと――魔神木を抜く際、とてつもない衝撃や落雷といった異常現象が起こる可能性があるらしい。


(ほんとに!?)


そのため裸になったのだ。


タービンに登ると目指すものは目の前にあった。


両腕を大きく広げ、みんなにサイズ感を伝える。


「あったぞ! |←←←『これ』くらいだ!→→→|」


ユウリが小さくうなずく。


俺は苗木に近寄り、細部を確認する。


白っぽく平滑な幹、一本の枝からは五、六本ほどの細長い葉が生えており、特に禍々しい印象はない。


ふと最近観たテレビCMを思い出す――


(これ、なんだと思う?)

(プルーン? ちがうよ?)

(これね、「魔神木まじんぼく」の苗木)


それと似ている状況だ。


「……フツーの木だよなぁ」


あえて言うなら、少しだけ燻製のような香りがした。


「んしょ……」


両手で幹をつかみ、足を踏ん張る。


裸で。

ガニ股で。


それを自分では、A◯で見たことのありすぎる「ガニ股イキ」ポーズにしか思えなかった!


しかし、ためらわず力を込める。



――ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!



タービンと配管に絡みついた細い根が、一斉に引きちぎられる!


ザッ……ザザッ……ザザッ……。


金玉イヤホンに激しいノイズが走った!


耳に届く無数の小さな叫び声!


「ギャァァァァ! ヴアァァァァ! ア゙ァァァァ! ゔぁぁぁぁ……」





それだけだ――





他に何もなかった。





「魔杜」の終焉はあっけないもので、正直何がどう変わったのかまったく分からない。。


俺はみんなに苗木を掲げて見せる。


「やったどー?」


深く一回、うなずく三人。


木は急速に水気を失い、たちまち枯れていった。





◇◆◇◆◇◆◇





ゾンビ作業員たちの動きが、みるみる良くなっていく。


とはいえ――せいぜいガンギマリ中の薬物中毒者くらいの変な動きしかできず、通行を妨げるほどの自我や意識はなさそうだった。


「まともな服」に着替え、まだスローな時間が流れる発電室を後にし、安藤さんを見かけた分岐路まで戻ってくると、照明や空調はかなり正常化されていた。


「二次流体は最短経路を通るはず――だから出口はこっちね」


ユウリの指示で「バイナリー閉ループ部」と記された案内板に従い通路を進む。


明るく照らされた通路は涼しく、どこを歩いても快適だ。


「あ、そだ!」思いついたように声を上げるユウリ。


「えなんだよ、その言い方……ドキッとするんだけど……」


「あとでマルケスとヤオちゃん元に戻すけど、“余計な事”吹きこまないでね」


「余計なこと? は? なんだそれ?」


ユウリは「ちょっと待って」と言い、分かりやすい例えを考える。


「あ――例えば……古いエイリアン映画で『ピカッ!』てして、記憶書き換える万年筆みたいなやつあったでしょ?」


「あー、あれな。わかる。“メン・イン・ブラックコーヒー・BOSS”だっけ?」


「あの記憶イジる感じ?」


「……脳にバチクソ影響ありそうじゃねーか!?!?」


立ちすくみ、壁にもたれかかっている作業員が増えてくる。


杜畜とちくの呪縛が解け始めているのだろう。


やりがい搾取の職場環境は改善されるはず。


地下鉄のざわめきが微かに聞こえてくる。


「やっと戻ってこれた……」


扉の前にたどり着くと、ユウリはポケットに手を入れ何かを取り出した。


それは、小さな小さな「実」だった。


枯れた魔神木の苗木が、最期に生み出した小さな実。


「どうすんだ、それ?」


「え、喰う」


実をためらいなく口に入れるユウリ。


「お、おい……それって大丈夫なやつなの!?」


それをゴクリと飲み込み、歯をせて微笑んだ。


「どだろね?」





F(フェム)スコア:★☆☆☆☆(2.5)【つぼみ】



みため   :★★★☆☆(50)【▼】メイク落ち

のめり込み :★☆☆☆☆(10) 【△】達成感

ドキドキ  :★★☆☆☆(30)【▼】つかれた

なじみ   :☆☆☆☆☆(-70) 【△】達成感

拡張スロット1:(未解放)

拡張スロット2:(未解放)


――――――――


【パラメーター指標】

0〜20:好奇心(ノリ)

21〜50 :趣味(ハマりかけ)

51〜80 :自己表現(楽しみとして確立)

81〜100:陶酔・依存(生活の一部・やめられない)

100〜:日常(新生活のスタート)

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