DREAM(夢)
シャワーを済ませ部屋に戻ると、部屋のすべてが昨日とは違って感じられた。
見慣れた天井、ライトの光、耳に届く音、シーツの感触。
どこかから漂ってくる、甘い匂い。
いまの俺は十六歳の男子高校生ではない。
十六歳の女子高校生……でもない。
とにかく今は前とは違う。
ニュースアプリを開くと「都市部で起こった瞬間的大停電」の記事が流れてきた。
日付が変わるとスマホに今日の予定が届く。
――【お出かけ】――
場所:ジャコスモール新金剛店
時間:午前10時
メモ:いつメン
――――――――――
メッセージアプリを開いてみるが発言はない。
(明日いきなり女装カムはヤバいよな……)
(とりま先に言っとくか……)
画面をポチポチするが、スマホがいつもより重い。
ぐぬ……。
『明日のジャコスモール、ユウリも行くって言ってんだけど……いい?』と送信。
五秒も経たないうちに通知音が鳴る。
ド派手なヘルメットのアイコンが「っしゃー!」というスタンプを送ってきた。
>>>「まじ!?全然きてきて(♥ω♥*) 俺がめっちゃ会いたがってるって伝えて!?!?」
「原田マルケス」は、ユウリの同伴を大歓迎しているようだ。
白猫のアイコンが「好的!」と返してくる。
>>>「おお! わい、なにげにゆーりさんと会うのひさびさじゃー(〃▽〃) 楽しみんご!」
「宓瑶」も好意的に応じてくれた。
ホッとして胸をなでおろし、本題を切り出す。
『……てか先に言っとくけど、おれ今日から女なんだけど? まじ引かないでね?』
>>>「イミフ」
>>>「どゆこと?」
二人は驚いた顔のスタンプを送ってくる。
もちろん事実だとは思っていないだろうが、こういうときは深刻に伝えてはいけない。あくまで軽く、ゆっくりと伝えるのがいい。
まあしらんけど。
俺は軽く伝える。
『社会的に死んでるってこと(四連ドクロ)』
>>>「死は終わりではない――始まりなのだ――」
『始まりかぁ……(遠い目)』
>>>「またゆーりさんの研究の手伝い?」
『まぁ……そんなとこ……(墓標)』
友人とのくだらなくも温かいやりとり。
疲労が抜けていく。
いつの間にか、意識は夢の中に溶けていった。
◇◆◇◆◇◆◇
夢を見た――
静寂だ。
何の音もしない。
声を出しても、誰も聞いていない。
身体を触ってみると――胸があった。
(なるほど……こっちタイプな?)
ふと、ふり返ると惑星があった。
薄い膜に包まれ、水と大地をたたえた惑星。
とりま興味を引かれ、近づいてみる。
――落下
青と黒の境界線が見えた。
最初は何も変わらない。
だがすぐに、空気が俺を迎えにくる。
空気分子との衝突、摩擦熱。
オレンジ色の炎の尾が後方に流れ出す。
だが――なんともない(夢だしね?)
地平線が少しずつ丸みを帯び、青のグラデーションが増えていく。
雲が見えてきた。
真っ白だ。
雲を抜けると視界が一気に明るくなる。
(青ッ!?)
ありえないほどの青。
海が鏡のように光り、陸地が金色に縁取られている。
――ゴゴゴゴ……
空気が震える音が聞こえた。
宇宙では決して聞こえなかった「風の声」
音のする方向を見ると、空に昇ってゆく光がいくつも見えた。
(なんだ?……)
緑の絨毯に向かって降りてゆく。
木々の隙間を通り、足が大地に触れた瞬間、全身が軽く跳ねた。
湿った土の匂い。
キィキィという獣たちの鳴き声。
枝葉の隙間から差し込んでくる太陽の光。
空の広さ。
見上げると、さっきの光はずいぶん小さくなっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
夢を見た――
夜はまだ続いている。
激しい風の音が聞こえ、冷たさが伝わってくる。
身体を触ってみると――胸はなく、おちんちゃんがあった。
(ああ……今度はこっちタイプね?)
空は黒に近い群青。
その向こうに見える星々は、やけに輝いて見える。
遠くには黒い岩山。
足元には細かい砂。
一歩踏み出してみると、ほんの少しだけ舞い上がり――すぐに落ちた。
(すこし歩くか……)
細かい粒が光る。
赤でも黄でもない――錆びて乾いた鉄の色。
地平線の端が灰色になってくる。
赤からピンク、そして淡い金色に。
やがていっそう眩しい光が姿を表す。
――チカッ! チカチカッ!
何かが光った。
太陽ではない。
目をこらしてみると「鏡の破片」のようなものが見えた。
(さっきから意味わかんねー……?)
温度が少し上がる。
遠くの岩肌が徐々に浮かび上がっていく。
焦げた鉄のような――幻の匂い。
誰かが冗談を言い合うような――幻の声。
赤い世界に日が朝が来た。
とりあえず、少し先まで歩いてみることにした。
Fスコア:★☆☆☆☆(7.5)【つぼみ】
みため :★★★★☆(70)
のめり込み :☆☆☆☆☆(0)
ドキドキ :★★★☆☆(60)
なじみ :☆☆☆☆☆(-100)
拡張スロット1:(未解放)
拡張スロット2:(未解放)
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【スコア指標】
0〜20:好奇心(ノリ)
21〜50 :趣味(ハマりかけ)
51〜80 :自己表現(楽しみとして確立)
81〜100:陶酔・依存(生活の一部・やめられない)
100〜:日常(新生活のスタート)




