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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
文化祭編

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24/25

定番のテロリストパート





俺は神谷タキ。

女性用衣類を着用(女装)すると「男→女」に性転換してしまう16歳の男子高校生だ。


きっかけは始業式の日に届いた女装コスプレ一式(ウィッグ、下着込み)


だが……両親が未来人、姉が元・魔王だったことも重なり、そこから俺の生活は大きく変わった。


姉バレ、家族友人カム。女装ショッピングに露出散歩。女装旅行中にはビーチでキモ男にナンパされてしまった。


そしてやってきた――「女の子の日(レディース・デー)


「女」の偉大さと大変さを知りつつも、沼に堕ちていく危機感を感じた俺は女装を卒業(封印?一時停止?)した。


はずだったが――文化祭前のトラブルで再び女性化してしまう……oh


久しぶりの「女モード」の気分はどうかって?


……


悪く……ない。


わかる?


()()が女装の怖いところなんだよ?









文化祭三日目――


夏をまだ引きずったような気温。ゆるく傾いた昼前の太陽が客席を照らしている。


この日は、俺たち『古代ローマ人』にはピッタリの暖かさだった。


コロッセオを思い起こさせる中央ステージ。


すり鉢状の観客席、その最下段・最前列に用意されたポディウム席には、世界中から集まったコスプレ系ストリーマーやインフルエンサー、そしてメディア関係者が肩を並べていた。


そのひとつにマルケスはどかっと座る。


「てか……通気性悪すぎんだろ……この()……」


“ローマの黄金剣”――『マルケス・クリューサーオール・マルケッルス』に扮した原田マルケスは、真紅のマントを背中に流し、金色に輝く胸甲をカパカパと鳴らした。


「従者」が隣の席に花びらを撒く、小さな花園を作る(謎儀式)


その上に将軍の妻――『ムーヴイ・アウグスタの娘ユリア』がそっと腰を下ろす。


「こっちはスカスカでやべーわ……」


美しく結い上げられた金髪のウィッグは、まるで神話の女神。銀色の月桂冠ステファニと散りばめられた花々が、光を受けて煌めく。


淡い青色の薄手のストラが軽やかに揺れ、そのたびに“俺の”C65の横胸よこっぱいがちらりと存在を主張する。


さいわい、インナーとして仕込んである最新型のスキンキャミは超有能だった。それは本物と見分けがつかないほどの自然さで、俺の胸横胸よこっぱいを盗撮から守ってくれている。


(本物の肌と見分けつかない……)

(てことは本物とかわんねーってことじゃね?)

(つまり俺はノーブラ横乳見せまくりの痴女ムーブしてるってことだよな……)


脇をきゅっと締め、ステージを見つめていると、さっきの従者が身を寄せてきた。


(ちょっと二人とも!? ちゃんとしてくんない!? もっと「ローマ人ぽく」振る舞って!?)


「いや無理言うなし……てかそれなら演劇学科のヤツとかに頼めよ……」


傘を持つもう一人が続ける。


(カメラ回ってるんだから、変なこと喋んないで!? ウチのチャンネルだけでも今300人くらい観てんだからね!?)


「300て……こんなもん誰が観てんだよ……てか俺、許可してねーんだけど……」


マルケスは「ン゙っ……ン゙ン゙……」と咳払いをして、パキ顔でこちらを向いた。


「ユリア、暑くはないか?」


低い声でささやく将軍。


声は大きくない。だが周囲のざわめきを制するような力強い響きがあった。


(こいつ……)

(一瞬で“キャラクター”に“憑依はいこみ”やがった!?)

(てかシャングリラ行って以来、やたらこういうの上手くなってね?)


俺も負けじとユリアになりきる。


「ええ……大丈夫ですよ、あなた。風があるぶん、かえって気持ちいいくらいだわ(棒読み)」


つまりこういうこと――


俺とマルケスは『古代ローマ人夫婦』のコスプレをして校内のあちこちを回り、クラスの『ローマ美術カフェ』を宣伝する――という重責を負っていた。


すべての道がローマへと通じるように、すべてのルートは女装に繋がっていたのだ。


(結局こうなったけど……)

(思ったより全然……悪く……ないんだよな)

(あー、ほんとやばい)


(やばいのはわかってんだけど……)

(もうちょい続きけそうだな……)

女装これ……)


やや暑い秋の昼前。


これから始まる「コスプレワールドカップ」の幕開けを観客全員が待ち望んでいた。



――――――――――

「文化祭チャンネル(公式)」

視聴者数:【5,201】人

――――――――――





◇◆◇◆◇◆◇





――「ついにファイナルに進むレイヤーが全員揃いました〜! ここまでのパフォーマンスをご覧になっていかがですか『hikari』さん?」


MC役の女子生徒が、ポディウム席に向かって質問を投げかける。


――「阿拉到面进决赛个角色扮演者都到齐啦〜! 侬看勒刚才个表演,觉得点样啦,‘hikari’桑?」


もう一人のMCである男子生徒は、ほぼリアルタイムでそれを翻訳して伝えた。


世界的つよつよ女性コスプレイヤーがアツい想いを語っていると、突然、彼女の声が途切れた。


「あれっ!? なんでしょう〜……すこしお待ちください?」とイヤーピースの指示に耳を傾け、MC二人はうんうんとうなずく。すると、()()でトラブルでもあったのか、男子生徒は急にしどろもどろに。


「えー……すみません。今ちょっとですね……んんっ? これは、えーと……すこしお待ちください……」


一方、女子生徒は冷静にその場を乗り切ろうとする。


「申し訳ありませんみなさま! 機材トラブルが起こったようで、少し調整にお時間を頂戴いたします! ではここで少し休憩を……」


その瞬間――俺たちのいる最前列の一番端から、誰かが飛び出した。


その人物はステージをひょいとよじ登ると、中央に向かってずかずかと進んでいく。


「え、ちょ、ちょっと!? 勝手に登ってこないでくださいね!?」


「不審な男」に駆け寄っていく男子生徒。


男は手に持っていた銃を男子生徒に向け、引き金を引く。


(ギュワンッ!)――

男子生徒は一瞬だけ「ん?」という表情をして、すぐその場に崩れ落ちた。


なにが起こったのか分からず、その場に立ち尽くす女子生徒。


(ギュワンッ!)――

彼女もすぐ後を追った。


ステージに上がろうとした警備スタッフを男は容赦なく射抜いていく。


男が持つ武器は、軍警も使用する身体を一時的に麻痺させる非殺傷武器――『即時鎮圧銃スタンガン』だった。

それに気付いた瞬間、目の前で起きている光景が異常事態だと、ようやく俺は理解した。


「え……てかこれやばくね……」


腰を浮かせるマルケス。


「それな? みんな、逃げる準備しとけ?」


不審な男はゆっくりとマイクを拾い上げ、ざわめき観客席を見渡した。


「ええ……あれって……『あれ』じゃん……」


男は特徴的な格好をしていた。


髪には水色のメッシュハイライトが入った、灰色のチェック柄ジャケット――間違いなく『彗星教原理主義者』が好んで着る配色法則コーデだ。


(トントン)――マイクを叩く音。


軽く息を吸い込み、語り出す。


――「爆弾を持っている」


しんと静まり返る客席。


――「火薬の。本物だ」


不思議と説得力のある声。


――「中央ステージの吹き飛ばせる量だ」


男は自分のジャケットを広げ、中に着ている“分厚いベスト”を観客に見せつけた。


そしてーケットから小さな()()()()()|大の『何か』を二つ取り出すと、ステージ後方にある壁面モニターに向かって転がした。


――「これは、デモンストレーションだ」



ドン!!!! ドォン!!!! 



まぶしい閃光とともに、耳をつんざくような爆発音が鳴り、あたり一面が灰色の煙に包まれる。


キーンという残響音。


漂ってくる「あの香り」


(これは……)


独特の煙っぽい匂い、甘く乾いた煙の香り。

鼻腔を通った微粒子が記憶を呼び覚ます。


生ぬるい煙が肌にまとわりつき、脳裏に「花火」の文字がよぎる。


(これが……「爆弾」?)

(ほとんど「花火」と変わらない?……)

(「人を殺す火」ってくらいだから、もっとなんていうか……)


ふと妙なことを考えたおかげか、俺はすぐ冷静になり、周囲を見渡すことができた。


(みんなラグってる!?)

(すぐ逃げないと!?)

(ガチだぞ!?)


「て……テロリストよ!?!?!?!?」


誰かの叫び声をきっかけに悲鳴が上がり、観客たちは一斉に逃げ出す。


「キャァァァァ!」

「上がれ上がれ!? ヤバいヤバい!?」

「こ、これがガチなの!? どーなってんだ!?」

「知らないけど、とにかく逃げんだよ! いけいけいけいけ!」


最前列に座っていた俺たちは、今度は最後尾となってポディウム席を出ようとしていた。


その時、男が叫んだ。


――「そこのローマ人! 止まれ!」


(ローマ人?)

(はて……誰のことかしら?)

(マルケスは掘り深いけど……俺は違う……よな?)


――「お前だ、貴族の女」


(ローマ人の貴族の女なんて、他にたくさん……)

(ここにはいねーんだワ……)

(俺だけじゃん……)


恐る恐るふり返ると男と目が合った。


(コクン)


男は無言でうなずき、そばに倒れているMC二人を指さす。


――「さっきの爆弾を、今から()()に置く」


(ええ……なんだよそれ)


――「それが嫌なら、一緒に来てもらおう」


(嫌にきまってんじゃん?)


――「5秒以内に選べ」


(ぴぇ)



――――――――――

「文化祭チャンネル」

現在の接続数:【970,994】

――――――――――





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