Traditional en Revolution ~そのままの女装《キミ》でいこう ~
「和室エリア」は医療室と同じフロアにある。
そのエリアにある一室。
「関係者専用着付け室」と書かれた部屋に、俺たちはお邪魔した(忍び込んだ)
玄関に足を踏み入れると、幻昌石が敷かれた高級感のある土間が広がっている。
「わあ……素敵……」
授業で習ったとおり、沓脱石の上に“履物”を置き、奥の部屋まで進んでいくと――
すんとした“和の香り”
畳の青い匂い。
歴史を感じさせる杉や檜の存在感。
柱の一本一本が鈍い光沢を放ち、温かい温もりを発している。
障子の桟が外光をやわらかく分け、空間そのものに美しい余白を産んでいた。
「わあ! 着物ダ!」
「うわ……しかも“ちゃんとしたやつ”かよ……」
柄を見せるように広げられた着物。ハンガーには「校内備品」というシールが貼られていた。
横にあるプラケースには帯や小物が入っているのが見える。
それらを愛でるように一瞥すると、ウォンヒはすぐに向き直る。
「じゃあ……聞かせてもらおうかナ?」
「聞かせるって何を……?」
「だから君の――“能力”のコト?」
「いやそんなもんねーぞ?」
彼女が何を勘違いしているのか分からないが、俺に「特殊能力」などない。
でも、あえて言うなら――
夏休み中の女装生活を通して、ほんの少しだけメイクの基礎を覚えたし、ほんの少し髪をまとめられるようになった。
さらに言えば……女の子の日のツラさを身をもって理解している「男」の一人だ。
(逆にそれって、女なら誰でも持ってる“特殊能力”だよな?)
(じゃ……やっぱ何もないか……)
「勘違いしてるけど……俺、能力とか持ってないよ? まじで?」
「はは。いまさら隠さなくったって大丈夫。どのみちタキの“グレード”じゃ、ずっと隠し続けるのは無理だと思うシ?」
うぇ……また堂々巡りがはじまりそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇
――「え゙えええぇ~~~~!!!!」
「ホントに何もないの!?」
「だから言ってんじゃん」
「ええええ……」
頭を抱えその場で崩れ落ちるウォンヒ。
「もう!!!! それなら最初に言ってくれないとサァ!?」
「だからずっと言ってんじゃん……」
「あ゙ああああ~~~~、どうしよう〜! 『未登録者』に色々喋っちゃったじゃん!? うわ〜……やばいやばい……絶対始末書ものダ……」
「いやあ……『組織』に属するって大変なんだなぁ」
「ちょっとタキ! それも含めて機密事項なんだから、まじでそれ以上何も言わないデ!?」
結論から言うと――ウォンヒは「総合能力・D+」の超能力者だった。
「能力者」は世界中に存在し、国ごとに存在する「組織」に所属しており……(省略されました)
彼女が実際に会ったことのある同僚は少なく、能力者がどれ世界中でくらい存在しているのか……(省略されました)
素人にペラペラと秘密を漏らしてしまい、落ち込むウォンヒ。
「はぁ……どうしヨ……」
「とりま……そっちはそっちで大変だろうけどがんばってくれよ? 俺はいちおう医療室だけ行って教室もどるからさ」
話しを切り上げようとすると、ウォンヒは広げた右手をこちらに向ける。
また「何かを発するようなポーズ」だ。
――(フワァッ)
頭をそっと触れられるような感覚。
しかし――それはあまりにも弱く、髪を揺らすほどの力しかない。
「く……やっぱだめカ……」
彼女はもう片方の手も同じようにこちらに向ける。
部屋の襖がガタガタと動き出し、梁や柱がミシミシと音を立てる。
「総合能力・Dの出力要件は……“ALTスーツを装着した軍人一名を吹き飛ばせる”コト……」
「へー」
「つまり――タキはそれ以上の能力で、僕の能力をいなしてるるってことだヨ……」
「勘違いじゃね?」
「そしてその――異常なまでノ『冷静さ』……」
「冷静つーか……家族友人関係が特殊でさぁ……」
「そんな『危険人物』を、このままにしておく訳にはいかないイ……」
「まいったな……」
正直なところ――ウォンヒが超能力者だと聞いても、まったく驚きはなかった。
(フリはしたよ?)
(でもなぁ……)
自分は無敵の性転換体質。
両親は未来人。
姉は元・魔王。
二人の親友は魔物に変身。
未来からの来た預言猫。
ここにいまさら「能力者」が加わったところで、物語はもはや大きく変わらない。
誤解が誤解を生み、六階こえて十五階まで行ってしまった状況をどう収めるか。
(まじで困ったな……)
(一話から説明するか?)
(いや……むしろ余計ややこしくなるぞ……)
どこから何をどう説明すればいいのか分からず困っていると――「カラカラ……」と戸を引く音が聞こえた。
誰か来る。
俺は唇に指をあて、静かに叫ぶ。
(うわッ! 誰か来た!?)
(もおっ! こんなときにッ!?)
(やばばば! 許可取ってないぞ!?)
とっさに見回すと、すぐそこに色鮮やかな着物が。
ウォンヒは急いでハンガーから着物を抜き、襟元をつかむ!
(とりあえずタキが試着してることにしよウ!!)
(え俺かよッ!?)
◇◆◇◆◇◆◇
――「星渡千鳥帆船航星文振袖(精密レプリカ)」
夜の海を渡る千鳥たちは、波の代わりに銀河を越えてゆく。
帆船は風ではなく、星の輝きを帆に受けて進む。
金糸や白の刺繍で表現された螺旋状の天の川。
鳥の一羽一羽に金泥の星点をあしらい、飛行軌跡が星座のように繋がる。
波と星の間を渡る三本マストの帆船。 船底には流星を思わせる光の筋がはしる。
千鳥たちが先導するその先にあるのは、赤い星――火星。
上質な肌ざわり。
袖口から腕を出すと伝わってくる生地の重み。
ずしりと重くはないが、浴衣のように軽いわけでもない。
とりあえずそれを羽織ってみたものの……さて次はどうするか。
現代的に再解釈・再構築された「キモノ」なら何度か着たことがあるが、伝統的な「着物」を着るのは初めて。
着付け?
もちろん分からない。
ウォンヒも同じだ。
(キッ……キッ……キッ……)
板間を歩く音が近づいてくる。
足音からして一人二人ではなさそうだ。
ウォンヒは俺の腰をひねり、反対側に向かせようとする。
(たしかこうやったら気がすル!)
砂壁の緑色の中に金色の粒子を見つけると、なぜかふと冷静さが戻ってくる。
襖を少し開ける音。
「……失礼しまーす」どこか聞き覚えのある女子生徒の声。
「あ、ええと……今ちょっと試着中でス……」
やけに上ずった声で答えるウォンヒ。
襖の向こうでささめき声がするが、内容はよく聞こえない。
(やば……)
(なんか怪しかったか!?)
(まあ最悪、部屋間違えてました作戦で――)
女子生徒はすぐに部屋を出ていかず、立ち止まって声をかけてきた。
「もしかして――ウォンヒ?」
(ッッッッ!?!?!!?)
「えっ……なんでこんなとこに……」
(この声!?――)
声の主はギャル委員長のカレシである清純派ガーリー少女(男)
彼がまだラッパーの「ショート・ボス」だった頃、俺はボスの「人を覚える力」に驚いたことがある。
ラップは「高速言語生成+リズム処理+記憶検索」を同時に行う高度タスクであり、韻扱うことは「連想記憶ネットワーク」を強く鍛えるという。
ボスいわく――「オレは一度聴いた『声』をぜったい忘れない」
(その“能力”……今、いらねーなー……)
(別のタイミングで活かしてほしかったなー……)
(ああ……「ボス」相手じゃ無理だわ……)
肩越しにウォンヒに伝える。
(だめだ……バレた……)
(ええ……なんで!?)
詳しく理由を説明している時間はない。
言い訳を考えている時間もない。
ないない。
トゥトゥトゥトゥトゥ、ハァ
ここにいない、いない、いないのは、自分、自分。
だれも見ない、見ない、見ないまま、吐き捨ててさようなら。
数週間ぶり、何度目かの死を覚悟し、俺はちいさく声をあげた。
「……お、俺もいるぜー……」
「タキ……神谷くん? 医療室……行かなかったの!?」
「あ、いや……なんか、思ったより全然平気でさ――」
バンッ!――
「ちょっとタキくん!?」
勢いよく襖が開き、ヤオの声が聞こえた。
「ゔッ!?」
思わずビクッとなるが、入ってきたのはヤオ一人だけではなかった。
「え神谷くんどゆこと? 大丈夫なの!?」とギャル委員長
「タキー 見舞いきたぞー」と黒豆。
「いや……これは――」と言い終える前に、ギャル委員長が口を開く。
「あ振袖だぁ!? えまって、それ『星渡千鳥帆船航星文』!? やば!? すご!! 失礼しまちゅ! コンココンコンココンコンコン!」
ドカドカと部屋に上がりこんでくるギャル委員長。
「し、失礼しまーちゅ……」後に続くボス。
黒豆は「異常なし」とつぶやいた。
背筋がピンと伸びる。
「衣装室に行かなかったことを咎められる」から――というなことではない。
今自分が「振袖を羽織っている」ということを知ってしまったからだ。
(振袖……)
(振袖……だと……!?)
その存在を忘れていた。
自分の中で着物は、ただの「着物」でしかなかった。
【生成AI「Chat PTG(通称チャッピグ)」による要約】
――――――――――
Q:振り袖について説明してください。
A:はい。では、できるだけ正確かつ文化的背景も含めて説明します。
元々振り袖とは、主に未婚女性が着用する、袖の長い格式高い着物のことを指すものでした。我が国の伝統衣装の中でも特に華やかで、成人式や結婚式、卒業式などの「ハレ」の日に着られる代表的な装いです。
現代での振り袖はもはや「未婚女性の第一礼装」ではなく「自分の節目を祝うための晴れ着」として再定義されていますが、それでも着用者の多くは女性が占めています。
これは「袖を振る」という文化的意義を継承した結果、特に女性的な……(省略)
――――――――――
(なんてこった……)
(どっちだッ……“振袖”はッ? どっち“扱い”なんだッ!?)
(「女性用衣類」なのかッ!? それとも「オールジェンダーの衣類」なのかッ!?)
(そして……)
(“羽織っただけ”は……「セーフ」なのかッ!?)
(それとも……「アウト」ッ!?)
誰にも気づかれないように、ゆっくりと息を吸い込む。
そして――シャツに視線を下げる。
胸は膨らんでいた。
膨らみの頂点には、小さな突起が突き出ている。
乳首だ。
(遅かった……か……)
ベルトが緩くなり、ずり下がってくるスラックス。それを持ち上げるついでに、股間のあたりを確認する。
おちんちゃんは、消えている。
(くそっ!!)
(「アウト」だったか……)
(判定が……判定がイミフすぎるッ……)
ウォンヒはすぐ異変に気づいて声を出す。
「ん? タキ? あれ? ……なんか急に? ……あれ? なにこレ?」
彼女は俺のウエストを持ち、反対側にひねろうとする。
「なんかおかしい!? ……ちょっとこっち向いてくれなイ!?」
「――ちょッ!? いま! ダメだからッ!? あっあっああああ……」
ぐいと腰を回され振り返ると、見上げた位置にウォンヒの顔があった。
「――????」
言葉を失い、目を丸くするウォンヒ。
「ハハ……」笑ってごまかす俺。
ヤオが呆れた顔をしてうなだれる。
「タキくん……なんでこんなタイミングでそんなことしてんのよ……」
顔をのぞき込んでくるクラスメートたち。
委員長が口を抑える。
「え? え? え? 誰? え……神谷……くん?」
手に持っていた本を落とすボス。
「神谷く……???? え……タキ……お前……なの!?」
ピンクの豆を見つめる黒豆。
「エッッッッ」
俺は二ヶ月ぶりに――「女」になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
ギャル委員長とボスに振袖を着付けられ、教室に連行される俺。
「申開き」の機会を与えられるのかと思いきや――ギャル委員長がふとつぶやく。
「てかタキっち……女装ゲロ似合ってんな……」
ボスが続ける。
「……たしかに、同意……揺れるBooth……」
「バイブス共鳴、リンクenリンク?」と委員長。
「……たしかに、同意、Yeahその感じ……」
「オーケーBig mood、でもまだ足りない?」
(ドン……ドン……ドドン……)――誰かが机を拳で叩きはじめる。
(コツン……コツン……コツコツン……)――誰かが床を足で踏みはじめる。
「……うなずき一つで世界がSync……バイブス共鳴、リンク enリンク……」
(え、なにこ?……)
(ブース?……バイブス?……リンク?……)
などと思っていると、静かだった教室のムードが徐々に変わっていく。
「Rouge光る午後のClass」
「名前呼ばれて、神谷タキ、イマ登場」
「タキが笑って『今日も上々』」
「似合うじゃん そのFU・RI・SO・DE。鏡越しWink、心はStart?」
「『女装?』って笑うけどStop the hate! 彼のFlowは自由、それがUpdate」
「ネイルの先でRhythm刻んで、靴音はもうTrackみたいで」
「男の娘? そう呼ばれてもFine! 神谷くん、今日も新しいDesign」
「たしかに、同意、Moodは最高! 誰も真似できないStyleの台本!」
「ルールNo way、スライドDecoy、神谷タキ — That’s the duet」
「たしかに、同意、Moodは最高! 誰も奪えないStyleの台本!」
「風の中で俺らが言う、『もう迷うな』 — That’s the duet」
「心のままに進めばいいの——そのままの女装でいこう。イェア」
スポットライトが跳ね、クラスメートの歓声が波のように押し寄せる。
”ショート・ボス“改め「リトル・クィン」の持つマイクから、最後の一節が再び紡がれる。
「神谷くん——そのままの女装でいこう」
一瞬の静寂。
次の瞬間、教室が――爆ぜる。
低音のビートが床を震わせ、照明が金色に弾けた。
二人のパフォーマーは肩を上下させ、熱を帯びた息を吐く。
止まらない拍手。
歓声が遠く霞んでいく。
俺は静かにつぶやいた。
――「なんやねんこれ」
Fスコア:★☆☆☆☆(12.5)【つぼみ】
みため :★★★★☆(90)【※】ノーメイク
のめり込み :★★☆☆☆(20)
ドキドキ :★★☆☆☆(20)
なじみ :☆☆☆☆☆(-80)【※】2ヶ月ぶり
拡張スロット1:(未解放)
拡張スロット2:(未解放)
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【パラメーター指標】
0〜20:好奇心
21〜50 :趣味
51〜80 :自己表現(楽しみとして確立)
81〜100:陶酔・依存(生活の一部・やめられない)
100〜:日常(新しい生活のスタート)




