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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
運命の転校生編

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脳バグ





ウォンヒを取り囲む女子生徒たち。


「えじゃあずっと家族で外国転々としてたんだ? やば!」

「てかガチで何カ国語くらい喋れるの? ちなあたしは――」

「もうすぐ文化祭なんだけど……あ『文化祭』ってわかる?」

「この席大丈夫? 委員長に言って変えてもらおうか?」


その隣で、俺とマルケスは小さくなりダベっていた。


新たにやってきた女子が、机に脚をぶつけて文句を口にする。


「神谷くん? 邪魔?」


「いやんなこと言われても……」


「ッ……(チッ)」


(なんでそんな睨むの!?)

(なんもしてねーじゃん!?)

(むしろ後でくじ引いたの転校生だろ!?)


ガツンと言い返してやるか……とはならず、俺たちは素直に机を動かす。


奇跡の神ビジュ中性転校生が、このクラスに転校してきたのだ。そりゃあ多少浮き足立つこともあるだろう。それに――一週間か二週間もすれば、きっと「クラスの一員」になっているはず。


それまでは波風たてずフツーにしておけばいい……。


(いやぜったいムリだろ……)

(さっき公開プロポーズされたんだぜ!?)

(一、二週間以内に殺されるんじゃね、俺!?)


と思っていると、ヤオが部室から戻ってきた。


「おまたせぇ~」


「……どうだった?」と俺。


「“履修登録”終わった人だけ来ていいんだってさぁ~」


「うぇ……またやんのかぁ。だりぃよなぁ、アレ……」とマルケス。


ヤオは「校内ミニマムかわいい系女子」のロールモデルであると同時に、俺たちが所属する「護身格闘術部」の一年生まとめ役でもある。


しかし――それだけのスペックにもかかわらず、クラスでは大して目立つ存在ではない。


たしかにクラスメートは個性的なヤツばかりだけど、もっとこう……ヤオは評価されてもいいはず。


(あ、でもやっぱイヤかも)

(いまさら別のヤツと「急接近」とか……)

(きっと見てるだけで死ぬな……)


鞄にタブレットやレジュメなどを詰め込んでいると、ヤオが声をあげた。


「このまま三人でやっちゃわない? 一学期みたいに後で“すり合わせ”すんのバカ面倒じゃん?」


「たしかにそーだな。タキは?」


マルケスがこちらを見る。


「それな? じゃ、どこですっかな……」


いくつか候補を出し合い、結局いつものカフェチェーンに決定。ヤオはスマホを片手に予約画面を開く。


「とりま席だけおさえて、ドリンクは着いてからでいいよね?」


「さんきゅーヤオー」


ヤオに礼を言い、ふと横を見ると、あれだけいた女子生徒たちが全員いなくなっていた。だが、教室の外には他の女子たちが列をなして待機している。


「接触イベ」が完全入れ替え制だったことを知らなかったウォンヒ。その美しい顔に疲労の色が滲む。


(大変そうだな……)

(てかこいつ……なんで俺に告白したワケ?)

(いや告白どころか、プロポーズまでしてんじゃん?)


そもそも――俺たちの国は同性婚「系姻けいいん」を認めていない。


それどころが……この世界で同性婚を認めている国なんて、数えるほどしかない。


(小学校で習ったよね?)


法律にはこう書かれている。


『婚姻は“自然生殖可能な”両性の合意のみに基づいて成立し……(云々)』


自然生殖可能な、両性。

つまり、生物学的な男と女だ。


昔々の大昔――同性婚が可能だった時期もあったらしいが、結局それは廃止され今の原始的プリミティブな形に戻った。


そんな()()()()()()()を、国際感覚に優れたウォンヒが知らないとは思えないが――


(イミフすぎる……)

(もしかして……単語間違えて覚えちゃったとか?)


彼は「系姻けいいん」と「婚姻こんいん」を間違えて覚えているのかも?

そう考えると多少つじつまが合ってくる。


(なら、早いうちに教えてやったほうがいいかもな……)

(みんなの前だと恥かくだろうし、どっか誘って二人きりのときに……)


(それってデートみたいだな……)


(いっそ俺の女装姿を見せてやるか?)

(まじびっくりするぞwww)


俺は自分の異常さに気づく。


(まって)

(まってまって、やばいやばい)


(なんでデートが女装前提になってんの!?)

(フツーに男のままでいいじゃん!?)

(発想やばい! 俺おかしい!)


体温が上昇し、心臓がトゥンクトゥンク――


なぜか恥ずかしくなり思わずウォンヒから顔を背ける。するとそれが逆に気を引いてしまったようで、彼は一気に身体を近づけてくる。


すぐ目の前まで寄ってくるウォンヒの青い瞳。


「タキ、いいかナ?」


「エ……ア、ぁ、なに?」


ミョーに上ずった声で答える俺。


「よければ僕も……一緒に行っていい、みんなと?」


「えっ、あー……ど、どうだろ?」


「履修でよくわからない部分があっテ……」


マルケスに「助けて」という視線を送ると、彼はそれをそのままヤオに転送した。


「……だってさ?」


ほんの少しだけ間を空けて、ヤオが答える。


「……じゃ一人増やしとく」


にこやかな表情。


再びスマホを取り出したヤオ。さっきと変化はない。


しかし、俺もマルケスもすぐに気がついた。


なんせ俺たち三人は幼稚園からの付き合いだ。


わからないはずがない。


ヤオさん。


バチクソに不機嫌です。





◇◆◇◆◇◆◇





最後にウォンヒが送信ボタンをタップして履修登録が終わった。


緊張感雰囲気が漂うなか当たり障りのない雑談をいくつかまわし、ドリンクが無くなったタイミングでヤオが話を切り出した。



「――てかさ、ウォンヒくん? ウォンヒさん?」



「ウォンヒでいいですヨ?」


まったく表情を変えず続けるヤオ。


(怖ェ……)


「ちょっとお聞きしたいんですが? さっきの『アレ』……どゆこと?」


「アレ?」


「タキくんに言ってたでしょ?」


「?」


「つ……つ、つー、付き合っ……て~とか……(ニョゴニョゴ)」


「ええ、言いましタ。僕はタキと付き合いたい。そして卒業したら結婚したいでス」


「ッッッッ!?!?!?!?」


顔を真っ赤にして言葉を失うヤオ。


「でも、振られましタ」


ただ時が過ぎ去るのを待つだけの俺。


マルケスはまったく興味のない芸能ニュースをスマホで見はじめた。


ヤオが口をとがらせる。


「ッ……かかかか、勝手に言うのはいいけどぉ~、そそそそ、そういうのはタキくんの気持ちがあるんだからららら……////」


「ではもう一度確認しまス」


ウォンヒはこちらに向き直り、俺とまっすぐ視線を合わせた。


「え、ちょ……」


見つめ合う二人。


「タキ、僕と結婚を前提に付き合いましょウ」


「ぎぃ゙゙ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー、、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァー!!!!」


というヤオの心の声が聞こえてくるようだ。


わかってる――


(わかってるんだよ)


ヤオが俺に好意を寄せていること。

俺もヤオに好意を持っていること。


(わかってるんだよ、そんなこと)


気づかないわけがない。

マルケスも、ユウリすらも。


(もうみんなわかってんだよ!!??)


じゃ、なぜお互い言いだせない?


(うーん……)

(なんで?)

(なんでだろ?)


(タイミング?)


チキンな俺。


思考がループしはじめる。


その前に――さっさとウォンヒに返事をしなければ。


せめてヤオに変な疑念を抱かせないように……。



「とりあえず。返事はノー……です」


ゆっくりとまばたきをするウォンヒ。


「……また振られましタ」



ヤオさん。


ちょっと機嫌なおったみたい。





◇◆◇◆◇◆◇





――「お手洗い」


ヤオが立ち上がりすぐ歩いていった。


ウォンヒが続く。


「お、帰んの?」


「ううん、僕もお手洗い」


「そっか」


一緒に連れション――ができる雰囲気ではない。


いくら二度振ったとはいえ、今の今でそれはよくない。


(いや、行けるわけねーよな!?)

(逆にこれで一緒に行くヤツいる!?)


「俺も行っとくわ」


マルケスは何も気にせず立ち上がった。


二人はトイレに向かい、別々の場所に入っていった。


()()()()()()()()()()()()


(え?)

(まってまって?)

(別々の場所?)


俺は脳をブーストし最大クロックで思考をまとめる。


ヤオは女子トイレ←わかる

マルケスは男子トイレ←わかる


(うんうん)

(そうだよね)


ウォンヒは女子トイレ←わからん


(えっ?)

(えっえっ?)

(ちょちょちょちょ、なんかおかしくね?)


入れ違いで帰ってきたヤオが、目を丸くして固まっている俺に気づいた。


「なに?」


「いや……あの……」


「はーうらやましいことで……モテキ到来ですなぁ(怒)」


「そうじゃなくて……」


「じゃ、な、に(怒)」


「え、その……ウォンヒが……女子トイレに……入ってったから……」


ヤオは今日イチむすっとした表情で隣に座った。


「なんかのギャグ?」


「え、えー、ェ……それってどーゆー? え?」


(まじ分からん)

(まじで何?)


「……うん? ガチで?」


天井を見上げるヤオ。

クソデカため息を付き、俺とまっすぐ視線を合わせる。


「ウォンヒ、女じゃん」


「えっ」


(女?)

(え?)

(えっ?)

(えっえっ?)

(まってまって、なんでなんで?)


(いやたしかに中性的だけど……)


(いやいやいやいや)


“女子トイレ”からウォンヒが戻ってくる。


「え……あれ? え……なんで?」


歩き方は女性そのもの。


中性的ではあるが、ぜったい男には見えないお顔。


よく見ずとも確認できる、しっかりとした「お胸」


オーバーサイズぎみの制服ジャケットから見える、短いサイドプリーツスカート。


脳が今朝からの記憶を呼び起こす。


――朝からずっとウォンヒはスカートを履いていた

――普通に考えれば「ウォンヒ」は女性名

――そもそも声も見た目も女性より

――同性婚ができないなんて、知らないわけがない


俺には、彼女がずっと「男」に見えていた。


どうなってる?


脳がバグった?





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