プロポーズ――思考回路はショート寸前
「崔利・ク・ウォンヒ、年齢は17歳。よろしくお願いしまス」
――キャァァァァーーーー!!
女子生徒たちの黄色い声援が飛び交う。
俺は後ろに向き直り、マルケスに転校生の感想を伝えた。
「すげーな?」
「すげーな?」
金髪、長身、神ビジュ中性。
天王星を思わせる、青い瞳。
転校生はリアルな制服戦士だった。
「みなさん、ありがとうございまス」
ぬるテカ唇の喉奥から発射され、子宮の壁まで響くような甘とろボイス。
男同士、教室、転校初日。何も起きないはずがなく……。
◇◆◇◆◇◆◇
担任が自分の研究室に戻っていくと、ギャル委員長司会による「ベタな質問タイム」がはじまった。
「名前はどー呼べばいいですかー? “さん”と“くん”と、“様”。どれがいですかーwww」
「敬称はいらなくて、そのまま『ウォンヒ』と呼んでほしいでス」
委員長が「はい次ー」と別の生徒をさす。
「事務所とかには所属してるんですかー? する予定ありますかー? 私ぜっっったい推すんで!!!!!」
ドッと盛り上がる教室。
ウォンヒは、はにかみながら答える。
「ええと、芸能活動はしてないし、する予定もないです。でも……『推しは推せるときに推せ!』――で、合ってル?」
再び沸く教室。
“イケメンなら何を言ってもウケる”――この事実を目の当たりにし、黒豆は呆然とした顔をしていた。
質疑応答が一段落したところで質問タイムは終了。
委員長が叫ぶ。
「さぁ! 恒例の席替えだ!」
――うぉぉぉぉ!!!!
「転校生もいることだし、今回はキビしい戦いになっぞ! お前ら、覚悟きめな!」
――うぉぉぉぉ!!!!
通常、席替えは学校指定の「席替えアプリ」を使って行われるが、俺たちのクラスはあえて「箱からくじを引く」という伝統手法を使っている。
ヤオは身長の関係で前のほうを希望。
結果――くじを引くことなく最前管理へ。
巨人マルケスは、いつもどおり強制的に一番後ろの席へ。
俺はどこでもいい派なので、普通にくじを引いた。
結果――俺とマルケスは、一番後ろで二人並ぶことになった。
マルケスが背もたれに身体をあずけ、小さく伸びをする。
「隣――誰が来ると思う?」
「まあ……にぎやかなヤツがいいかな」
俺の隣――窓側の席が一つ空いている。
個人的には「黒豆」に来てほしかったが、彼はすでに扉前の席に決まってしまった。
ギャル委員長が次にくじを引く人を指名する。
「次はいよいよ本日の主役……崔利・ク・ウォンヒの登場だぁぁぁぁ!!!!」
――うぉぉぉぉ!!!!
「だからなんの盛り上がりだよ」
クラスメートたちが固唾をのんで見守るなか、ウォンヒは箱に手を入れる。
カサカサ……
パッ!
取り出した紙が委員長に渡される。
紙を広げられると、なぜか大ブーイングが起こった。
――「おおおおいいいい! 神谷ぁ!?」
――「神谷アホこらァ! なにやってんだお前ェ!?」
――「神谷くん酷い! なんでそんなことするの!?」
――「あんたみたいなのがいるから少子化が加速すんのよ!?」
「いや、俺のせいじゃなくね」
◇◆◇◆◇◆◇
「よろしくお願いしまス」
転校生が手を伸ばし握手を求めてくる。
「俺、神谷――神谷タキ、よろしく」
「ウォンヒです」
彼の手をギュッと握ると、それと同じくらいの力が返ってきた。
切り揃えられた爪先から伸びる美しい細指。
凹凸を感じさせないつるりとした手の甲。
同性とは思えない整った顔立ち。
世が世なら、視線だけで思考回路をショート寸前にしていたことだろう。
長い握手がようやく終わると、教室のあちこちから舌打ちが聞こえた。
(だからなんもしてねーだろ……)
首をかしげながら俺を見つめるウォンヒ。
「あの……神谷くん?……」
「ああ、タキでいいよ」
「タキは……お付き合いされてる相手はいますカ?」
「え? いや、別にいないけど……」
(え?)
(え何?)
(何それ?)
(嫌な予感するんだけど?)
「もし今、誰も相手がいないなラ……」
(まってまって)
(まってまってまってまって)
「僕と……付き合ってほしいでス」
「ンンンンッ!?」
(ちょちょちょちょ、ちょっとまってまって!?)
(なんつー事言うのキミ!?)
(おおおお、落ちつけ、神谷タキ)
(ままままだあわてるようなななな時間じゃじゃじゃじゃない。
冷静に冷静にににに対処しよよよよう)
さて。
俺はいま告白されている――クラス全員の目の前で。
そんな動揺をよそに、ウォンヒは続ける。
「そして――高校を卒業したら結婚しましょウ」
俺はプロポーズされた。




