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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
運命の転校生編

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19/24

価値観アップデート!





俺は神谷タキ。

女性用衣類を着用(女装)すると「男→女」に性転換してしまう16歳の男子高校生だ。


ネットで注文した女装コスプレ一式が届いたその日に姉バレ・家族カムアウト。翌日には初外出と友人へのカムアウト、ショッピング、全裸露出を経験。


沖縄では一週間の女装旅行を楽しみ人生初の「女の子の日(レディース・デー)」でメンタル崩壊。


猫も飼いはじめた。


とまぁ……いろいろなことが起こった夏休みだったが


期限リミット」が近づいている。


そう。終わるのだ――夏休みが。


「休み明けに女になってたヤツ」という選択肢オプションを残しつつ、男に戻ることを決めた俺は「女装絶ち」を決意。


買っただけで着ていない水着やワンピ、SNSで流行しつつある新作ダンスなど、いくつもの誘惑に何度も負けそうになること約三週間。


そして迎えた、始業式の朝――









――(ビキッ!? ビキビキッ!? ビキビキビキィィィィ!)


ボクサーパンツに感じる()()()()()


「……うん!?」


無意識にズボンの中に手を入れる。


――(ビキッ!? ビキキッ!?)


懐かしい感触。


いつもは柔らかいのに、興奮すると硬くなるもの。

いつもは鈍感なのに、興奮すると敏感になるもの。


なあんだ?


勢いよく身体を起こしパンツの中を見る。


「ある……」


(おちんちゃんが……ある!?!?)

(まってまってウソだろ!?)

(間に合った?)


(やぇぇぇぇたぁぁぁぁ、やったぜぇぇぇぇ!!!!

えああああああああ!!!! )


ガチ歓喜。


――俺の身体は元に戻っていた。


ベッドから飛び出し、顔を洗うより、歯を磨くより早く、制服のジャケットに腕を通す。


(服が固ェ!)

(ジャケットが重ェ!)

(ボタン逆ゥ!)


「“”ってたぜェ!! この“瞬間とき”をよぉ!! (ギャギャギャリギャリ)」


未来から来た予言(にゃ)「エラクル」の力を借り、長かった髪は先日ばっさりカットした。


すべての歯車が、噛みあった。


今日から「俺の」二学期がはじまる――



クローゼットの扉にかけてあった、女子用の制服ジャケットが虚しくゆれた。





◇◆◇◆◇◆◇





始業式典が終わり、一斉に教室に戻る生徒たち。


休日のジャコスモールほどではないが、廊下は人であふれかえっている。


高校一年生にとって、夏休みはただの「長い休日」ではない。新たな扉を開くための「移行期間トランジション・タイム」なのだ。


軽く息を吸い込むと、俺は教室の扉に手をかけた。



――カラララッ



ズン!と目の前に立ちふさがる友人。


「おっす、オラ黒豆。いっちょ食ってみっか?」


芸人志望のそいつは、元の肌色をさらに濃くタンニングさせ、イタリアンローストのコーヒー豆のような色になっていた。


「お、おう……」


真面目にツッコミを考えていると、彼はもう一度同じことをくり返す。


「オラ、コーヒー豆」


(いや、ハードルを下げんなよ)

(自身持って黒豆でいけよ)

(肉体芸なんだからさぁ)


そう思うと最初のセリフが可笑しく感じる。


俺は思わず「ンブッ」と吹きだす。


「よし、通れ――」


黒豆は満足そうな顔をして道を開け、再び扉の前に立ちふさがった。


「タキっちおはよー!」


妙に高いテンション。


「てか始業式の日と、まったく変わってなくてヤバwww」


高学年男子から妙に人気のあったメガネの学級委員長は、イメチェンして甘辛ミックス系になっていた。


「変わりすぎだろw」と答えると、横から誰かが顔を見せた。


小柄な清純派ガーリー少女。


(えー……誰だっけ?)


「てか……おれこんな感じ、わたしたちそんな感じ……よ、よろー……イェア」


(え、すまん、誰?)


彼女が本当に誰か思い出せず困惑していると、ギャル委員長が先に口を開いた。


「あ、うち、『ショート・ボス』と付き合ったんだ」と紹介されたのは、ずっとラップ一筋だった小柄なヤンキー男。


妖精たちが、夏を、胸を、刺激する。


魅惑のマーメイド。


夏は人を変える。

人は夏に変わる。


だが――変わらないものもある。


俺はこの日のために、めちゃめちゃ忠実に「終業式当日」を再現していた。





「おー、ヤオ、マルケス! 昨日ぶりー」


目を丸くして固まる二人。


「え……」

「誰……」


硬直がとけ、すぐ気がつくヤオ。


「――あ、あぁー! タキくんかぁ!? やば! お、おはよー!」


少し遅れてマルケス。


「……お、ああ! そっか……タキか! タキだよな!? そっか、タキだよ! おはー!」


(えちょっと待って?)

(なんでそんな変な“間”?)

(俺、なんも変わってなくね?)


たしかにその気持ちはわかる。


夏休み()()で、メガネ少女がギャルになってたらビビるし。ヤンキーラッパーがガーリー少女になってたらバグる。


今年の夏はいつも以上に“いつメン”で過ごす時間が多かったが、俺はその時間のほとんどを女装して過ごした。


しかし、メインはあくまで()()()


嘘ではない――


かといって100パー本心だとも言い切れない感覚。


緊張を感じた自律神経が汗腺を刺激する。


「てか教室暑くね?」


ジャケットを脱ぎTシャツ姿になると、久しぶりに「開放感」を感じた。


「ノーブラ」の感覚。


ブラを着けることによって得た「舞い上がるような拘束感」と引き換えに得た「物足りない開放感」


人生の「潤い」とは、なんなのだろう?


Tシャツ姿の俺を見て、ヤオが残念そうに言った。


「わいは『逆の』タキくん()大好きなのに……」


「お、お……そっか……あんがとな」


複雑な感情。


それより、「も」とはどういうことなのか?


(それって――普段の俺「も」ってことで捉えていいの!?)


(おいおいヤオ)

(ドキドキさせんなよ……)


(この夏言えなかったことを……近々言っちゃうぞ!?)

(いいんだな!? お!?)


ヤオはスカートをパタパタさせながら上目遣いをする。


「え、てか明日は女子制服で来ようよぉ~!」


「はいはい……来ない来ない。あれは夏限定……」


「いいじゃんいいじゃん~!」


「ダメでーす」


心がゆらぐ。


実際のところ――ダメではない。


制服など好きにすればいい。

校則では、ぜんぜんOK。


俺たちが通う学校は、かなり自由なのだ。


幼少中高大のエスカレータ方式でありながら、編入転入出戻りはいつでもウェルカム。


高等部に通う生徒の年齢は十五歳から八十歳までと幅広く、性別や人種も多種多様。


制服は、ジャケット・スラックス・スカート・ベスト、キュロットが男女別で用意されており、どれを組み合わせても自由。


シャツ、髪型、アクセサリー……タトゥーさえも自由だ。


ただし、校則にはこう記載されている。




第一条――「自由には責任が伴う」





この学校で普通を定義するのは難しい。その中で俺は、限りなく「フツー」の生徒だった。


ビジュは中の下(個人評価)


幼稚園からずっと内部進学なので、中高校“デビュー”はなし。


学力は中の上。外部の超難関大学を受験できるほどではない。


友人・知人は多いが、ガチの親友マヴと呼べるのはマルケスとヤオの二人くらい。


告白は2回ほどされたが、誰とも付き合ったことはない――もち童貞。


(な、フツーだろ?)

(人生なんてフツーでいいんだよ)


――という想いを359度変えたのが「性転換体質」だ。


「フツー」という価値観がゆらいでいる。


鏡に映った自分を「カワイイ」と思う感覚。

メイクやファッションを「楽しい・嬉しい」と思う感覚。


「女同士」、「姉妹」という関係。


ナンパの「恐怖」、女性の「偉大さ」


普通とはなにか? 妙な感情が頭をよぎる。


(――価値観アップデート! フツーに女装続けていいんじゃね?)


(そうなんだよ)


(――女装しても身体は元に戻るんだろ? ゼロリスクじゃん? ゆーて「ファッション」として楽しめばいいんじゃね?)


(そうなんだよ)


(そうなんだけど……俺って別に性別違和とかで悩んでないじゃん? なんか申し訳ないじゃん、ガチの人に?)


(――なんで?)


(そうなんだよ)


俺にとっての「フツー」は自由に生きることなのか。


わたしにとっての自由は「フツー」なのか。


自由に生きる選択をするのであれば、その生き方に責任を持たなければならない。


(ヴェ……なんかワケわかんなくなってきた。)


なんかおうち帰りたくなってきた……(女子メンタル)





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