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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
沖縄旅行編

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17/25

猫と花火





俺は直感的に理解した。



うちに来るぞ――この猫。



なぜそんな考えが浮かんだのか、自分ではまったく説明できない。


ただ……間違いなくこの猫は、家に来る。


絶対ニャ。


祭壇から下に垂らしたふわふわの尻尾。それをゆらしながら、猫がペコリと頭を下げる。


わたしは『エラクル』。未来から遣わされた預言者――『エラクル』よ」


「あ、ども……神谷タキです……」


警戒しているのかユウリは返事をしない。


「あら?」


なにかに気づき、鼻をヒクヒクさせるエラクル。あたりに漂う空気を吸い込む。


「ふうん……(スンスン)……『因果律ワクチン』の副作用ね?」


「わっ、ニオイで分かんの!?」


そういえ最近、自分がミョーに「女臭い」と思っていた。


(そんなに臭ってる?)

(あれってワクチンの副作用だったのかよ……)

(てか今日めちゃ汗かいてるし最悪じゃん……)


それとなくニオイを確認しようと身体をひねると、エラクルが告げた。


「ああ、魔水晶のことは気にしなくていいわ」


「え? どの魔水晶――」



――ガチャン!!!!



手が当たり、俺は魔水晶を落としてしまう。


「ふふ。()()、魔水晶よ」


「あ、えっと……す、すみません」


「気にしないでって言ったでしょ。誰かが元に戻すわ」


「……」


夢に出てくるほど見返した名作SF映画のようなやり取り。


こいつは、“分かってる”側の人間だ(猫)


俺は直感的に理解した。



うちに来るぞ――この猫。





◇◆◇◆◇◆◇





「えっと……ところでエラクル――預言者さまは、ここで何を?」


彼女(?)は少し黙り込み、ゆっくりとまばたきをする。


「――伝えにきたのよ。あなたに」


「伝えに……って何を?」


「神谷タキ……あなたは、この世界の救世――」


「あ、知ってます」


「にゃっ!?」


「母から聞きました。救世主なんですよね、わたし?」


かぶせ気味に答える俺。


狐につままれた顔をする猫。


お腹の毛を整え始めるエラクル。


「へ、へぇ~~~~!? そ、そうなの~~~~……(ペロペロ)……」


猫は大きなストレスを感じた際、心を落ち着かせようと毛づくろいことがある。


眼の前の光景がそれだ。


「いちおう言っておくと~~~~? 本来の歴史では~~~~? 今日この場で~~~~? 私がそれを伝えるはずだったんだどぉ~~~~?」


「す……すみません」


別に自分のせいではないが、とりあえず謝罪して様子をみる。


「親には俺から言っておきますんで……」


「まあ……私からも注意しておくわ。ところで『その先』は聞いたの?」


「その先?」


「ああ、よかった!」


エラクルは尻尾を立てブルブルッと震わせると、喉をクルクルと鳴らす。


喜びの感情だ。


前脚をそろえ直すと目つきが変わった。。


「単刀直入に言うわよ」


「はぁ……」


「あなたは世界を救うの――主に少子化問題において」


「は?」


「あなたは世界を救うの――主に少子化問題において(二回目)」


「はぁ?」


(少子化問題?)

(俺が? 少子化問題を?)


(いやいやいやいや)


(わりとガチでそれは政治の問題であって、個人がどうこうではなくね?)


(てか政治家になるってこと? いやそれはさすがに無理筋か……)


すぐに付け加えるエラクル。


「“政治家になって国を変える!”――などという浅はかな考えではないわ」


「めっちゃ言うやん……」


「もっと直接的」


「ええ……」


(俺が……孕ませまくるか)

(逆に……孕まされるか)


(てこと!?!?!?!?)


(いやいやいやいや)

(いやいやいやいやいやいやいやいや)

(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや)


下腹部のあたりがキュッと締まると、脳汁がトロリと出るのを感じた。



――「ちょっと猫さん?」



先ほどから黙っていたユウリが割って入ってくる。


「もういい? 急いでんだけど? あたしら」


「あら? ごめんなさいね」


エラクルは微動だにせずユウリを見つめる。


「ええと……ところであなた、どなたかしら?」


片側の眉を上げるユウリ。


「……なんで『預言者さま』がそんなこと知らないの!?」


「知ってるわけじゃないわ。私は『道』を示すだけ」


「……あたしはユウリ。タキの『姉』……」


「姉?」


首を傾げ、宙を見つめる猫。


視線の先には何もない。


少し黙り込んだ後、静かに口を開く。


「私の知る歴史では――神谷タキに兄弟姉妹きょうだいしまいはいない」


――カチン!


「なに言ってだこのゲボ猫ぉ!?!? あたしはタキの姉だよアホがぁ!?!?」


ユウリが叫ぶ。


そして二人は口論を始めた。


冷静に、交互に、お互いの主張を崩そうとするユウリとエラクル。


逆転できそうで出来ない論戦。


決着は付きそうにない。


(ところで割れた「魔水晶」ってどーなんだろ……)

(そもそもこういう場に割れやすい素材使うのってどうなの?)

(閉園時間迫ってるけど、大丈夫かな……)


(あ、そだそだ)

(猫飼っていいか確認取んないとな)


口論は続いているが、事実として俺とユウリは姉弟だ。


それをわざわざ否定する必要はない。


ならとりあえずこの場をスマートに収める方法はひとつ。



「お……『お姉ちゃん』!?……」



俺がユウリを「姉」と呼べば、エラクルはもう納得するしかない。


こちらを見つめる一人と一匹。


ダメ押しでもう一度。



「帰ってからにしない? 『お姉ちゃん』?」



ゆっくりと目を閉じるクーさん。


「ふむ……ユウリユウリ……『神谷ユウリ』っと……」


思い出したかのように答える。


「――ああ、確認できたわ。あなた、神谷タキの姉ね」


「そう言ったよなぁ!?」


「はじめまして、神谷ユウリ。わたしは『エラクル』。未来から遣わされた預言者――『エラクル』よ」


「知ってるしなぁ!?」


どこからともなく現れた黒子が割れた魔水晶を取り替えると、俺は軽く会釈して「すみません」と言った。


「よっと……」


水晶を手に取るとファンファーレが鳴り、自動的にステータスが展開される。



【シャングリラ皇国 第一皇女】

――――――――――


おめでとうございます!

クエストを【完了】しました!


クエスト:魔族領山頂にある『洞窟神殿』の最奥にたどり着く

達成度:★★★★★(100%)

報酬:花火


――――――――――


未来は決まっている。

だが、選ぶのはあなた。


――――――――――





◇◆◇◆◇◆◇





日が沈む。


オレンジとピンクのグラデーションが空を染め、星々が競うように輝いている。


爽やかな山風が通り抜け、前髪を優しく揺らした。


エラクルを肩に抱きながら、ぼんやりとマジックアワーを見続ける俺。


「すげー……めちゃきれいじゃん……」


いつの間にか元に戻っていたヤオとマルケスは、俺以上にぼんやりと空を見つめている。


夜のとばりが訪れた――


手に持っていた魔水晶がうっすらと輝き出し、目の前に小さな「星」が飛び出してくる。


星に触れると……周囲の街灯が切れた。


「え、あれっ!?」


山から望む「シャングリラ」


すべての照明が落ちていた。




ヒュルルルル~~~~~~~~……




ドォォォォン!!!!




バチバチバチバチッ!!!!





一輪の「火の華」が闇に咲いた。


全身の毛が逆立つような本物の「爆発音」


その感動を言葉にする間もなく、華は消えた。


風に乗って漂ってくる甘く乾いた煙の香り。紙や木片が焦げたような温度のある匂い。


「おぉぉぉ……これが“花火”の匂いか……」


徐々に流されていく白い煙。


だが俺には見えている、咲き誇る火の大輪が。


「これが……ガチの『火薬』?……」


「たしかに感動的ね」


「いや、感動的ってレベルじゃねー……」


感動をぶち壊すように鳴り響くファンファーレ。


空には巨大な「STAGE CLEAR」の文字。


俺たちだけに見えるよう流れたエンディングロールが終わると、「FIN」の文字が空中に現れる。


「おおぉぉ……終わりか……」


「意外にシンプルな最期なんだね?」


「いやこのレトロっぽいのがいいんじゃん……」


冒険の余韻に浸っていると、後ろから手をたたく音。


ふり返るとコンシェルジュの近栄こんえいさんがそこに立っていた。


「おめでとうございます、皆様」


「え! 近栄さん!? どうしたんですか?」


足音ひとつ立てず、彼は近づいてくる。


「暗くなってまいりましたので、お迎えにあがりました」


「あー、そうなんだー! なんかすみません……」


「とんでもございません」


「早めに切り上げるつもりが……つい盛り上がっちゃって……」


「ははは。お気持ちはお察しいたします――わたくしも『少し』やり込んでいた時期がございましたので……」


彼は手首に触れ、自らステータスを明かす。


シャングリラにおいて「自らステータスを明かす」という振る舞いは――他者を圧倒する「絶対的強者」を意味する。



――【コンウェイ】――

陣営:中立

ジョブ:勇者(初代)

レベル:9999

HP:不明

MP:不明

――――――――――



「現時点でのレベル上限です」


「うへぇ……」


「レベル上限が解放され次第、また再開したいとは思っているのですが……」


「まだ先になりそうですね……」


勇者コンウェイはステータスを閉じる。


「では、『はじ村』に戻りましょう。裏手に“皇族専用馬車”をまわしております」


「馬車!? やったぁ!」


声を上げるユウリ。


「ずっと乗りたかったんだよなぁ~!」


「よかったじゃん!」と俺。


「よーし、あんたら行くよー!」


マルケスとヤオは、ぼんやりとしたままユウリの後を追う。


その姿は、ジャコスモールを徘徊していた「杜畜とちく」のようだった。


「姫様は私めが――」


勇者コンウェイがすっと手を差し出すと、俺は思わずその手を取ってしまった。


「あ……お、おなしゃす……」


パチン!と指を鳴らす勇者。


各所に設置されたセンサーが魔法発動のジェスチャーを読み込み、ホロマッピングが起動する。


浮かび上がる赤い光の粒。


光はゆっくりと地面に集まり「赤い絨毯」を形作った。


「ふおおおぉ……こんなのあるんだ……」


「レベル9000で『魔法創造』が獲得できますよ?」


「ふぁ……」


「――ではこちらへ」


猫を抱えた少女が、壮年の勇者にエスコートされ、光の道を進んでいく。


それはまるで、公式サイトにあった「創造神話」の冒頭シーンのようだった。


「またお越しください、姫様」


「あ……はい……」


(なんかちょっと気持ちいいな……これ)


ちな後で自分のステータスを見返すと「お姫様扱い」のバッヂが付いていた。





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