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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
沖縄旅行編

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魔族サーの姫





「こんな変なデザイン……誰が思いつくの?」


「さあ? 生成AIとかじゃね?」


有機的な装飾が施された大門をくぐり、俺とユウリは「魔族の村」に入った。


角を生やした村人がさっそく声をかけてくる。


「ようこそ『魔族の村』へ! お二人だけのようですが……なにかお困りではありませんか?」


(出たな、ホスクラのキャッチめ!?)

(今回は引っかからんぞ!?)

(やったんぞ!?あ!?)


冷たい目でユウリが答える。


「結構です」


「そうですか! どうかごゆっくりご滞在ください!」


「……(無視)……」


素っ気ない態度に思わず胸の奥がちくりと痛む。


異世界「シャングリラ」の「住人キャスト」は、基本的にめちゃフレンドリーだ。


だから冷たく接してしまうと妙な罪悪感が残る。


(無視は冷たすぎだろ……)

(人間がNPCするとこういう弊害が出てくるよな……)

(こっちが自己嫌悪に陥るっていうか……)


俺はすぐに振り返り、さっきの村人に手をふった。


「あッ、あッ……わ、分からないことがあったら、また聞きにきますからー!」


「ええ、ぜひいつでも!」


彼の笑顔を見て前を向くと、いつの間にか立ち止まっていたユウリの背中にぶつかる。


「……ッ……わっぷ!」


周囲の状況をたしかめ、地面を軽く踏みつけるユウリ。


「ここでいいか……」


そしてホロスティックを掲げて大きく叫んだ!



「いでよ……すげー召喚!!!! ふんッ!!!!」



転移者ビジターが発動した「召喚魔法」をセンサーが感知し、すぐさまホロマッピングを起動。


特殊な魔法陣が地面と空中に投影され――


ない。


投影されない。


なぜならユウリのアクションは、異世界「シャングリラ」での発動手順に沿っていないから。


つまり――魔王の召喚魔法は発動しない。


だが「元・魔王」が扱う、自前の「魔法」なら話は別だ!


ホロスティックを持つ手が光を放ち、地面に複雑な模様――みたことないような複雑な魔法陣が現れる。


魔法陣から飛び出してくる「黒い鎖」


鎖は空中で複雑に絡み合いながら、何もない空間に吸い込まれて行った。


「な……なんじゃ……この召喚エフェクト?……」


近くにいた老人キャストが思わずつぶやく。


なにもない「空間」から「何か」を引きずり出すように動く鎖。


宙にふたつの「切れ目」が入る。


切れ目はやがて「裂け目」となり、どんどん広がってゆく。


「ど、どーなってんだこれ……」

「え……なんかのイベントはじまった?……」

「見たことないぞこんなの……これホロなの?……」


その場にいた訪問者ビジター住人キャストは、興奮した様子でこの「召喚魔法」を見つめている。


鎖が何かを引きずり出す。


まず現れたのは巨大な「脚」


赤黒く光る肌。


4メートルはあろうかという巨大な体躯。


所々に見える黒い装甲が薄暗い残像を残し、異界の剣闘士のような威圧感を放っている。


六本の腕。


二本の角。


四つの目。


「巨人マルケス」がズズン!と地面に降り立つ――


もうひとつの裂け目から、何かが引きずり出される。


――ぬるり


生気を感じない、陶器のような白い脚。


黒い「紐バニー」状のボディースーツに包まれた肢体。


それは豊胸ゆたかむねの女性のように見えた。


「エロ」という単語を擬人化したような身体を、揺らめく黒い羽が包み込む。


耳は尖り、犬歯は伸び、額には小さな角が二本。


「痴女ヤオ」は、音もなく宙に生み出された――


ユウリが目を開けると、ゲーミング仕様の瞳が七色に輝いた。





◇◆◇◆◇◆◇





ざわつく人々――大門前の小さな広場は不思議な空気に包まれている。


突如現れた異様な一団を見て、人々はようやく「おお……」と声を上げた。


「でかッ! なにこれ召喚獣!? こんなのあるんだ!?」

「これ……ホロモンじゃなくて……ライブメカニマル製だよね……やばリアルすぎ……」

「浮いてるお姉さんハンパね〜! どこに出現すんの!?」


混乱や困惑はない。


なぜなら、ここは異世界。


現実世界とは違う「驚くような日常」が待っている世界なのだ。


誰かがささめく声が聞こえる。


――(もしかして、これ掲示板にあったやつ?)

――(魔王となんとかってやつ……?)

――(イベントバトル始まるんじゃね!?)

――(まじかよ!?)


ステータスバンドに触れ、次の展開を楽しみに待つギャラリーたち。


住人キャストの一人が駆け寄ってきて、俺に耳打ちする。


(……あの、すみません)


(これってサプライズイベントですか? 私たち何も聞いてなくて……)


実をいうと、ここから先はノープランだ。

なにも知らないし、聞かされていない。


「ええと……これは……」


「中級者の森」を出る直前、ユウリはこう語った――


「てか『魔法』使っていいならチョー楽勝じゃん? は? チート? ……()()()()でチートとか言われたら生きづらすぎんだけど!?」


つまり秘策を持っているということだが……。


適当に言い淀んでいると、マルケスの肩でユウリが立ち上がる。


「どうか皆様、お聞きください!――」


その声は重なり合い、反響し、耳から脳へ直接染み込んでくる。


独裁者の演説のように意識を侵食する響き。


声を聞いた人々は、みるみる虚ろな表情になっていく。


それはまるで――ジャコス騒動のときに見たゾンビ作業員――杜畜とちくのようだった。


ユウリが大きく息を吸い込む。


「あたしは――『魔王』! 魔王ユウリ!」


「お、おオ……まお……ウ……ぁ」


「現在、緊急任務エクストラ・ミッションにて、封印対象として追われている、かの――魔王です!」


「エクスと……ら……みっしょ……ぉ……」


言葉を失いつつある聴衆。


「説明するまでもなく、あたしたちはパーク内で追われる身。――ですが、これは決して虚構の出来事ではないのです!」


(……え、そなの?)


ユウリの指が射抜く。


「ここにいらっしゃるお方!」


(お方……?)

(あ、俺?)

(え?)


「この少女は、くだんの『第一皇女』です!」


「くだ……ン……こうジョ……」


「しかし……実際に、リアルに、ガチで彼女は――とある国の王女殿下なのです!!」


(……は?)


ユウリは、とある国の物語を語り始める。


女性差別の残る閉鎖的な国で育った王女は、人生のほとんどを宮殿の中で過ごしてきた。


だが、近年――国際情勢の変化や政治体制の刷新により、ついに国が開かれることになった。


王女は「外」の世界を目の当たりにする。


そして長年の夢だった「お忍び」旅行を解禁。


王最初の旅行先として選んだのが、この――「シャングリラ沖縄」だ。


護衛がお目付け役が、王が望むことはただひとつ――「自分の意思で行動する」という経験を積むこと。


「どうか皆さま……せめて一時だけでも、王女殿下にご協力いただけないでしょうか……」


ユウリはそう締めくくり、聴衆を見回した。


「ぉおお……うう……おうじょ……サマ……」


(てかこれ洗脳だろ)

(もう自我がない雰囲気だもん)

(こういうのって、まじで脳とか大丈夫なの?)


しばらくすると人々に意識が戻ってくるが、その目には涙が残り、なぜか恍惚とした表情を浮かべていた。


アイテムを譲ろうとする者、護衛役を申し出る者、運営に掛け合おうと話し合う住人キャストたち。


俺たちを怪しむ空気は完全に消え去り、村は「彼らを全力で支えよう」という雰囲気に“支配”されていた。


立派な角を生やした村長らしき人物が近づいてくる。


「実は……本日は『特別な日』だと上から通達をうけておりました」


「えそなの?」


「我々にできることがあれば、何なりとお申し付けください――魔王様、第一皇女殿下」


村長の手を取り感謝を伝えるユウリ。


「ありがとうございます村長さま。いったいどう感謝を伝えればいいのか……」


(なんだこの茶番……)

(結局魔法の殴り合いでボコしたってことね……)

(まぁ……それでいいなら、もうそれでいいや……)



――ヴーン、ヴヴーン、ヴーン、ヴヴーン!



身体に振動が伝わってくる。


ローターの音ではない。

ステータスバンドに通知が来たのだ。


俺は手首に触れ、ストーリーボードを表示させる。



【シャングリラ皇国 第一皇女】

――――――――――


おめでとうございます!

クエストを【達成】しました!


クエスト:『中級者の森』の向こうにある『魔族の村』へ行く

達成度:★★★★★(100%)

報酬:プライスレスな思い出


――――――――――


画面を下にスワイプすると、更新された内容が目に入った。


――――――――――


ことわりを曲げるのもまた別のことわり

「道」は振り返ったときにしか見えません。


※冒険のヒント:

・高レベル魔物モンスターを『召喚獣』にする

・魔族領山頂にある『洞窟神殿』の最奥にたどり着く


――――――――――



相変わらず内容はイミフだ。


だが――


この世界で何をすべきか、それはなんとなく見えてきた。


「魔王一行」と「シャングリラ皇国 第一皇女」


全員の最終目的地が同じというのは、きっと何か意図があってのことだったのだろう(しらんけど)


とはいえ――時刻はもうおやつタイムを過ぎている。


「ジョブ」に割り当てられたストーリーをクリアできるほど時間的余裕はない。


今日出来ることといえば、ユウリの見たがっていたライブメカニマルを使った大型の魔物――「高レベル魔物モンスター」を探し、そいつと一線交えるくらいだろう。


「そんじゃ次は……近場にいるデカい魔物と戦って、それで終わりくらいだろ?」


そう言ってユウリのほうを向くと、村長が急に口を挟んでくる。


「あと――これはオフレコでお願いしたい話しなのですが……」


「もちろんですわ村長さま(ニッコリ)。で――そのお話とは?」


俺はむっとしつつも話に耳を傾ける。


魔族領山頂あそこにある『洞窟神殿』はご存知ですかな?」


「ええもちろん(しらんけど)……それがなにか?」


「神殿の最奥にある『魔水晶』は、ストーリー上の重要なアイテムであると同時に『クリア花火』の起動スイッチにもなっております」


「ほう?……」


「実はその花火――二種類ございます」


「ほほう?……」


「ひとつは……単純にクエストをクリアし、魔水晶を手にした者が見ることのできる()()の『ホロ花火』」


「ふむ」


「そしてもうひとつが――」


俺は村長の話が気になり、いつの間にかうんうんとうなずいていた。


「うんうん! もうひとつは? はよはよ!」


「もうひとつは……先ほどのそれに加え、山道に棲まう『三叉三属竜トライデント・スリージェネラ・ドラゴン』を倒した『真の強者』だけが見ることのできる――『リアル花火』でございます」


「え!? それって……“本物の火薬”を使った花火ってこと!?」


「そうでございます」


「まじ!? うわぁ……え……すげ……」


「ただし――いかんせん『本物』ですので、ただの一発限りです」


「本物の火薬」が使われなくなり、もうずいぶん時間が経った。


俺はもちろん、ユウリも、両親も、祖父母ですら「本物の花火」を見たことがないはずだ。


・夜空を彩る一瞬の輝き

・身体を震わせる空気の振動

・煙とともに漂ってくる「焼けた火薬」の匂い

・闇が語る――物悲しさ


そんなものを、もし今の時代に体験できるとしたら――


村長が俺の手をとって告げる。


「……その栄誉をぜひ王女殿下に体験していただきたいのです」


「おおおおぉぉぉぉん!!!!」


俺はホロスティックを握りしめ、自分の決意を告げた。


「やります」


もう一度。


「完クリします」





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