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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
沖縄旅行編

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13/26

シャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリア





――転移の間を抜ければ、そこは異世界「シャングリラ」


女神から授かったジョブを手に、あなたは「転移者ビジター」として冒険の一歩を踏み出します。


魔物討伐や護衛依頼、遺跡探索に素材収集など――ひとりでもご家族でも挑戦ができる冒険や試練の数々。


遊ぶたびに新しいジョブを選択することで、訪れるたびに違った冒険を体験できます。


リアルとファンタジーが融合した異世界で、あなただけの物語ストーリーを紡いでください。


シャングリラ沖縄――「オルタナティブパーク」エリア


(※パンフレットより引用)









エントランスゲートの上で丸まっていた「ドラゴン」が首を起こす。


開園の時間だ。


ドラゴンは口を開け、勢いよく炎を吐いた



「おぉぉぉぉ!!!!」



歓声と拍手がおさまると、止まっていた行列が少しずつ動き出す。


それを見届け、飛び去っていくドラゴン。


「ほぁ~! やば~! ティザー動画のまんまじゃん!? すごくね!?」


口を開きっぱなしにする俺をみて、ユウリも驚きを浮かべた。


「やば……思ってたよりめちゃめちゃ『本物』ぽい……」


「てか本物ってあんな感じなんだ?」


「もちろん細部はちがうけど……最新技術まじやば……」


最新のホログラム技術“ホロマッピング”によって生み出されたホログラムの魔物モンスターは、()()を知る「元・魔王」から見ても出来の良いものだったようだ。


後ろにいたマルケスが呼びかけてくる。


「ユウリさん、魔物は『ホロモン』だけじゃないっすよ!?」


「へぇ!」


「大型の魔物には『ライブメカニマル』ってゆー可変鉄筋技術が使われてて、もっとデカくてスゴくて……しかもホロじゃな“実物”があるんすよ!」


「ほぅ……そっちのがすごそうね……」


テクニカルな話題で盛り上がるふたり。


退屈になったヤオが指をくるくる回しながら聞いてくる。


「てかタキちゃんは『ジョブ』どーすんの? わいは前衛を選ぶと思うけど?、」


「えー……わたしもフツーに『剣士』とか?」


「えぇ〜、後衛にしようよぉ~! わいが守ったげるからぁ~!」


「いや別に守られなくてもいいよ……むしろ逆にしたいくらいだし……」


「……ふぁ////」


みんなここへ来るのを楽しみにしていたようで、しっかり予習を行っていた(ユウリ以外)


俺はスマホを開き、復習もかねてもう一度公式サイトを見返す。


「パークコンセプトは『沖縄に異世界を!』だってさ。マルケスは知ってたか?」


「もちろんだろ? てか『ライブメカニマル』ってうちのダッドの会社が作ってんだからな?」


「え、そなの? てかお前んちの会社、ホントどこにでもいるな……」


負けじと続けるヤオ。


「それでゆーと、ストーリー生成AIとホロマッピングはパパの会社の技術だよ?」


「まじか……。つまりココ()お前らの親がいっちょ噛みしてるテーマパークだったのかよ……」


「今さらすぎるでしょそれぇ~」


「もしかして……『シャングリラ沖縄』自体も……」


その言葉を聞き、ふたりは大きなため息をつく。


「タキちゃん……自分の親の仕事知らない?……」


「は? うちの親? 投資会社勤めのフツーのリーマンだが?」


「……(呆れ顔)」


ヤオとマルケスは「超ボンボン」の家の()だが、うちはわりとフツーの一般家庭だ。


平均よりはやや裕福なのかもしれないが、それでもフツー。


(そのうちタイムパトロールに捕まりそうだけど……)


いつの間にかエントランスゲートをくぐり抜けていた俺たちは、「転移の間」へと誘導されていった。





◇◆◇◆◇◆◇





羽を広げた「女神」がファー!と降臨し「転移者ビジター」たちに告げる。


――「ようこそ、異世界シャングリラへ……」


彼女はテンポよく世界観を説明したあと、杖を掲げた。


「それでは、『信託の儀』執り行ないます…」



(シャラララ~ン♪)



光の粒が舞う。


やがてそれは集まりはじめ、10枚の「ジョブカード」となってビジターの前に並んだ。


よくある「ガチャ方式」により、ジョブは10種ほど現れる。


はずなのだが――


ユウリの前に現れたカードは、たった一枚。


「う……んんんん……これは?……」


「なに? ハズレ?」


俺は横からカードをのぞき込む。



――【ユウリ】――

陣営:魔族

ジョブ:魔王

レベル:1784

HP:47600

MP:51000

――――――――――



見たことのないジョブ――「魔王」


パークのシステム上、新たなジョブやスキルが生まれることもあるらしいが「魔王」というジョブは、攻略サイトやSNSでも見たことがない。


「ロールプレイになんないなw」


そう茶化す俺をにらみつけながら、ユウリはカードをタップする。


「ちょっとテンション下がった……」


ジョブは光の粒となって「ステータスバンド」に吸い込まれていった。


「あんたは?」


そして、俺の前にも――


カードは一枚しか現れなかった。



――【タキ】――

陣営:人族

ジョブ:シャングリラ皇国 第一皇女

レベル:1

HP:2

MP:1

――――――――――


カードをのぞき見たユウリが茶化す。


「いいね、ぴったりじゃん? タキ姫さま?」


「ぐぬ……」


(てかザコすぎる……)

(村娘にすらボコられるだろこれ……)

(もしおっさんが引いてたらどうすんだよ……)


(てかさっきからなんだこれ?)

(システムがバグってのんか?……)


「姫さま? 今日のお出かけコーデの仕上がりはいかがですか?」



突然ですがここで――わたくしのコーデを紹介しますわよ?


・シンプルなカップ付きキャミソールに、シアー素材のバルーン袖の長袖シャツをさらっとオン。


・野外で遊ぶなら生足はNG! でもダサいのはもっとNG! ですからワイドデニムにミニプリーツをレイヤードして、機能性とかわいさを両立しますわよ!


・アクセはハデすぎないワンポイントでOK! アウトドアメイクでも目元と唇だけは気を抜かないで〜!


愛されお団子ヘアでまとめたら完成~~~~!


カジュアルすぎ?


だって今日は皇宮の外に出かける日。


わたくしが第一皇女だと知られたら、大混乱必至ですもの~!


では行ってきます!!!!


つまり――めっちゃカジュアル。


(ミスったなぁ……)

(もっと姫っぽい格好でもよかったかも)

(でもロリータっぽい服とか持ってないもんなぁ……)


(今度買いに……)

(ってちがうちがう!)

(そういうのは不可抗力でしか買わないって決めただろ、俺ッ!?)


ちょっとした差で女の気分はアガったりサガったり。だが今日のコーデはもう変えようがない。


気分を切り替え、ヤオとマルケスに目をむける。


俺は再びシステムの「バグ」を目にする。



――【ヤオ】――

陣営:魔族

ジョブ::魔将四柱(氷爆)

レベル:435

(以下省略)

――【マルケス】――

陣営:魔族

ジョブ::魔将四柱(豪炎)

レベル:460

(以下省略)

――――――――――



本来なら一人10枚ほど現れるカードが、俺たち四人には1枚ずつしか現れなかった。


職業選択の不自由。


異常を感じたマルケスが口早に話す。


「……どーなってんだこれ? バグか? 女神に聞く? それともリセマラしてみる?」


だがユウリはすでにジョブをインストールしてしまっていた。


その場合「異世界」内で死亡しなければジョブを選択し直せない。


「――てことだから、一回死ななきゃいけないんじゃなかったっけ?」


俺がそう付け加えると露骨に面倒そうな顔をしたユウリ。


気を使ったのか、ヤオはさっさと自分のジョブをバンドに取り込んだ。


「――ほい、登録っと」


「え、いいのか!?」と俺。


「面倒だし、とりま一回これでやっちゃおうよ?」


「まぁそれなら……」


マルケスが「よし!」と言い、カードをタップした。


「“リスポ近くで全滅作戦”でいくぞ?」


つまり――「転移の間」近くで全滅して再転移しよう、ということだ。


俺は自分のジョブをインストールして顔を上げた。


「はじめての異世界が姫プとは……」


その場にいた全ビジターがジョブを登録し終えたのを見計らい、女神は「自動レベルアップ特典(チート)」や、「連動型ゲームアプリ」の説明を行った。


そして「最後に――」と深刻そうな顔をする。


転移の間が暗くなり沈黙が漂ってくる。


女神がうつむきがちにつぶやく。


「……皆様に残念なお知らせがございます……」


――ざわ……ざわ……


動揺が広がる。


「天界側のリアルな手違いで、魔王とその腹心二人が復活してしまったようです………」


一瞬の困惑のあと、転移の間が爆ぜる。


――「おぉぉぉぉ!!!!」


公式サイトや攻略まとめ、SNSインフルエンサーですら遭遇しなかったような未知の「敵」の登場。


ビジターたちは沸き立つ。


女神はさらに告げる。


「さいわいなことに魔王はまだ全盛期の力を取り戻しておらず、かろうじて封印可能と思われます……」


大げさに腕と翼を広げ、目をとじる女神。


「彼らは善良な人間や魔族に化け、身近な場所に潜んでいるかもしれません。どうか……油断せず……お気をつけて……無事に……」


そして――光の粒となって消えた。


奥にそびえる石造りの大門がゆっくりと開いていく。



コ、ゴ、ゴ、コ゚……コ゚コ゚コ゚コ゚……



冒険心をくすぐるBGMが鳴りはじめる。



――タッタータッタータタタター♪ タッタタッタタタタター♪



まず立ち上がったのは重・転移者(ヘビーユーザー)らしき猛者たち。おそらくオープン直後の混沌カオスを経験してきた連中だ。面構えが違う。


鎧やローブをまとった猛者たちが、ぞろぞろと門を抜けていく。


後に続くのは、ひと目でそれを分かる初心者たち。


「じゃ、行くか……」


俺たちは転移の間をそそくさと後にした。





◇◆◇◆◇◆◇





「転移門」を抜けると、すぐに村人が声をかけてくる。



――「ようこそ『はじまりの村』へ! なにかお困りですか?」



「あ、いや、すぐリセマラするんで……」


「リセマラ?」


「あ、えーっと、ジョブがバグったみたい……」


「リセマラもいいですが、人生において運命もまた貴重なもの。まずはこの世界のことを少しだけ知ってみせんか?」


「え、その……」


ホスクラのキャッチのような村人の口車にのせられ、俺たちはまんまと“チュートリアル”を受けさせられた。


それが終わり掲示板の前を通りかかると、ちょうど表示が書き換わるタイミングに遭遇する。


「うわっ! 緊急依頼だって!?」


セリフっぽく声を張り上げる旅人風の男性。

あきらかに「キャスト」と分かる棒読み。


しかし、それが逆に人々の興味をひいたようで、道行く人々は足を止めた。


「魔王が復活して、姫様が逃げ出したらしいぞ! こりゃ、いち大事だぁ!」


彼はわざとらしく掲示板を指さす。



/*――――――――*/

緊急任務エクストラ・ミッション

(※パーティー/クラン限定)


・「復活した魔王と魔将を封印せよ!」

・任務報酬:~5000万

/*――――――――*/

緊急依頼エクストラ・リクエスト

(※ソロ限定)


・「逃げ出した第一皇女を探せ!」

・発見報酬:~1000万

/*――――――――*/



白い全身鎧をまとった集団が「団長を呼べ! すぐに討伐隊レイドパーティを組織せねば!」と声をあげ、漆黒のマントをまとった両手剣使いの少年は「第一皇女か……裏がありそうだな……」とつぶやいた。


徐々に人が集まってくる。


「なんかやばくね?」


転移と同時に「お尋ね者」となった俺たちはすぐにその場から立ち去り、村はずれにあるベンチに腰をおろした。


魔王ユウリが不満を口にする。


「てかさぁ。魔王封印して5000万円で、お姫様見つけて1000万円って……バランス悪くね?」


“氷爆のヤオ”はうんうんと首を縦にふる。


「ですよねぇ~! ……でも、世界平和のために戦うより、ワケアリ少女探すほうがコスパいいって……なんかやたら現実的で草」


自分の「ストーリーボード」をずっと読み込んでいた“豪炎のマルケス”が口を開いた。


「とりあえず……『俺ら』は『すぐ死ぬ』ってのがちょっと難しい感じになっちゃってんな……」


「そうですの?」俺の姫ムーブ。


マルケスはその理由を世間知らずのお姫さまにもわかるように、噛みくだいて教えてくれた。



――――――――――


・絶対強者の魔王、魔将四柱“氷爆”、魔将四柱“豪炎”の三人は、スライム程度では1ダメージも通らず、「はじまりの村」付近で自死するのは不可能。


・現在パーク内にいる住人・転移者ビジターの中で三人を倒せる可能性があるのは、“白盟十字騎士団”などが組織した“討伐隊レイドパーティ”のみ。


・「魔王一行」の最終目的地は、魔族領山頂にある『洞窟神殿』


――――――――――



そしてこう締めくくる。


「つまり――“リスポ近くで全滅作戦”ができないってことだよ?」


「んんー……ほなら騎士団様に首差し出せす?」


「それが簡単にできたら苦労しないって……」


「なんでだよ?」


ユウリが手を挙げて場を制する。


「――わかったわかった、もういいよ」


「えなにがわかったんだよ!?」


「つまり……あたしたちを倒すために組まれた“討伐隊レイドパーティ”や、細々したPVPが一生続いて、それやってるだけで一日終わる――てことでしょ、マルケス?」


「さすがユウリさん! そのとおりっす!」マルケスが大きくうなずく。


つまり、三人の取れる道はふたつ――


一度パークから退園してしまうか、今のジョブで「戦い続ける」か。


ガチめにぼやくユウリ。


「なんかダルくなってきた……ゆーてここに来た理由って『魔物』がどんな感じが見たかっただけだしなぁ……」


「ユウリさんが退園するなら、俺もそうしようかな――」


マルケスが言い終える前に、俺はわきから口を挟んだ。





「じゃあ――“わたくし”を逃がしてくださらない?」





完璧な姫ムーブに、目を見開いて固まる魔族三人。


「「「え?」」」


「はは……いや、その……説明するより、ちょっとこれ見てよ?」


俺は手首に触れ、その場に自分のストーリーボードを空中に表示させる。



【シャングリラ皇国 第一皇女】

――――――――――


あなたは様々な人と知り合います。

やがて彼らは生涯の友となり、世界を救う仲間となるでしょう。


※冒険のヒント:

・『中級者の森』の向こうにある『魔族の村』へ行く

・高レベル魔物モンスターを『召喚獣』にする

・魔族領山頂にある『洞窟神殿』の最奥にたどり着く


――――――――――



物語ストーリーを進めるためのクエストや、次の行動を促す内容は一切記載されていない。


だが――魔族の三人にとっては、これ以上申し分ない冒険の理由が書かれてある。





「どうかしら?――わたくしを『洞窟神殿』まで連れていってくださらない?」





再びそう言って、俺はプリーツの端を指でつまみ、脚を曲げて頭をさげた。


(ああ~!ほんと服装ミスった!)

(せめてもうちょっと広がるスカートだったら最高だったのに……)


(でもまさにオープンワールド!)

(俺は――俺はロールプレイしているぞッッッッ!!!!)


よく分からないが、おそらくこれが「シャングリラを体験する」ってことだろう。


俺は誰よりも早く、ここの楽しみ方を理解した。


――「どうします? 『魔王様』?」


マルケスがユウリに尋ねる。


――「わいはいいアイデアだと思いますよ、『魔王さま』」


ヤオが付け加える。


ユウリはすぅっと息を吸い込み、手をパンと叩いて言った。


「人族の姫にしちゃ――悪くない案ね」


「契約成立ですわね?」


差し出した俺の手を、ユウリが取る。


この異世界「シャングリラ」では、人族・魔族間の相互理解が進んでおり、一緒に行動すること自体に違和感はない。


人族と魔族が冗談を言い合い、笑い合う、優しい世界。


だが、完全に分かり合っているかといえば、そうでもない。多様性ダイバーシティ単一性ユニバーシティがせめぎ合い、薄氷の上に平和が築かれている世界なのだ。


「じゃあ……」


マルケスは立ち上がり、手首に触れながら唱えた。


――「鑑定無効化」


それを感知したセンサーが、すぐさまホロマッピングを起動する。


「ヴヴン」


周囲に一瞬だけ半円状のバリアのようなものが投影され、すぐに消えた。


「とりま装備受け取って、飲み物買って、さっさと行きましょう――魔王様」


そうだよマルケス!


それが異世界「シャングリラ」の楽しみ方なんだよ!!!!


「逃避行」がはじまる――





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