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え俺の性転換体質が……!?  作者: 六典縁寺院
沖縄旅行編

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12/25

とんでもない泣き虫妹ムーブ





不快な視線が全身を舐めまわす。


胸。


顔。


下腹部。


股。


脚。


そして胸から顔。


「メンソーレタムズ」を名乗るナンパ男二人組は、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。


「てかおねーちゃんもそーとーさー、綺麗だけどさー、キミもバチクソ可愛いねー!」


「え、もしかしてアイドルの卵とか? ベリショでこんな可愛いって相当やばくね?」


(え……)

(キモいキモい)

(見るな見るな、や見るなって!)


「本土の人だよね? てか本土感すごち? 当たりっしょー?」


「SNSなに使ってるー? だいたいやってるから()教えてよー? カギ垢でフォローするから絶対大丈夫さー!」


(キモいキモいキモいキモい)

(もういいから……)

(まじで……)


俺はただ困惑することしか出来なかった。


「ええと……」


これまでナンパの「ダシ」に使われたことは何度もあるが、まさか自分が「ターゲット」になるとは思いもしなかった。


見知らぬ男から声をかけられる。それがこれほど怖いとは……。


心がどうあれ、現実問題として今俺は「女」だ。


どう見ても成人には見えない水着を少女を……大人が二人がナンパ?


(ヴェ……)

(まじかよ……ヴォェ……)

(ロリコンおじキモすぎる……)


背筋がゾッとして、不安が襲ってくる。



――恐怖、緊張、不快、不審、嫌悪、困惑。



それを表に出すための言葉が見つからない。


すべてのネガティブな感情が高まり、どう反応していいのか分からない。


俺の恐怖を感じとったのか、ふいに金髪が沖のほうを指さして「てかあれ見える?」とたずねた。


「え?」思わず答えてしまう。


「あの沖のほうにある白い船、見えるかなー? あれ、俺らのクルーザーなんだけど、乗ってみない? おねーちゃんと一緒にさ?」


「大丈夫さー、ぜったい沖のほうには行かんさー? ね、ちょっと遊んでみよーよー? てか、キミ一人でもいいよー?」


(イヤだ)


(もういい)


俺は両手を胸の前でギュッと握る。


(だれか)


(なんとかして)


(助けて)


そう思った瞬間――視界がまっ白に輝く!



カッ!!!!!!!!



「ヒッ!!」


雲一つない空から突如落ちてきた雷光。


それはジグザクの軌跡を描きながら、沖にあるクルーザーへと吸い込まれていった。


3、4秒の静寂。



――ドガガガガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!



雷鳴。


「キャァァァァッ!!!!」

「うおぉぁぁぁっ!?」

「どわぁぁぁぁっ!!」


空に轟音が響き渡り、ビーチにいた全員がしゃがみこむ!


「すぐに上がって! そこ! 早く早く!」


ライフセーバーが一斉に飛び出してきて、海から出るように叫んでいる。


クルーザーを見ていると、ちいさなオレンジ色の光が揺れた。


火だ。


「え!? え、燃えよーん!? わんねーらの船や、燃えちょーるば!?」


「うそやみ!? まじか!? あれよ、機材とか、みーんな船ん中やいびーど! あいっ、あいっ、どうするばー!?」


意味はわからないものの、彼らの焦りが伝わってくる。


「とりあえず、いちゅんどー!?」


「行ち行ちすんどー!!」


二人は船着き場に向かい急いで水上バイクにまたがる。


ガボボボ!という音とともに走り去る二艘の水上バイク。


徐々に火の手が回りはじめるクルーザー。


背後からユウリの声が聞こえた。


「あらら~、めちゃ燃えてるな~~~~。こんな天気いいのに、どーゆーことよ?……」


俺の心に不思議な感情が込み上げてくる。


「……うッ……」


「えっ、なにその顔? どした? なになに!? なんかあった!? 怖かった!?」


「な゙……な゙ん゙でも゙……な゙ぃ゙……ゔっ……」


「まってまって、なになに!?」


視線をそらし、目頭に力を入れる。


唇を噛み、嗚咽を押し殺す。


「……こらこら、無理すんなタキ。なんかしらんけど、もう大丈夫。大丈夫だよ?」


優しい抱擁。


喉元で押さえつけていたものが、一気に決壊する。


「ゔっ……ッ……ゔっ……。ゔぇぇぇぇ~~~~……ゔぇぇぇぇ~~~~!!!! ユ゙ヴリ~~~~!!!! ごわ゙がっ゙だ~~~~!!!! ゔぇぇぇぇ~~~~……ゔぇぇぇぇ~~~~!!!!」


(ちょちょちょちょ、ちょっと待って!?)

(なんつー声を出しとるんじゃ!?)

(とんでもねー泣き虫妹ムーブじゃねーか!?)


だが涙は止まらない。


「ゔぇぇぇぇ~~~~……ゔぇぇぇぇ~~~~!!!!」


昨日までの威勢は――死んだ。


バカ強ェ決意で「俺は男のまま家族旅行をやり遂げる」とか言っていた男は――死んだのだ。


とはいえ――今回は最初からデバフ要因が強すぎた感もある。


初の女性用水着着用による脳汁ドクンドクン、ナンパによる恐怖と緊張、突然の落雷による心臓バクバク。


これら全部が合わさって、少々感情が不安定になった。


つまり、実質的にはノーカウント。


ダメージ相殺。


ライフポイントは変化なし。


「はいはい……よしよし……大丈夫大丈夫……」


「うっ……ッ……ううっ……ゔぇっ……ッ……」


俺は生きのびた。





◇◆◇◆◇◆◇





落雷におびえ、肩を寄せ合いながら歩く姉妹。


ヴィラに帰ってくると、俺はリビングへ顔を出さず、そのまま一直線で浴室へ向かった。


「じゃ、あたしは二階でシャワー浴びるから。あんたはちゃんと浸かんなよ?」


「……ん……ありがと……ユウリ」


たっぷりとお湯の張られたバスタブ。


その中で俺は膝を抱えながら座ってる。


耳奥に残る低い声。


全身を舐めまわすような視線。


()を連想させるような誘い文句。


あいつらが俺に向けた「すべて」


思わず口を抑える。


「ゔッ……ぎも゙ぢわ゙り……」



――ジャァァァァ……



バスルームを出ると、すでにユウリが待ち構えていた。


「これ、下着と着替えね?」


「……入ってくんなよ……まぁ、いいけど……」


やさしく叩くように身体を拭き、髪をタオルドライ。


「はいスキンケアするよー?」


プレ保湿をしながら、下着を着用。


化粧水、フェイスパック。その間に身体に美容液とボディオイル。


パックを取って美容液、乳液。


毎回、バカ面倒に感じていたこのルーティンですら、今日はすこし心地良い。


俺は正直にそれを伝える。


「なんかちょっとリセットした」


「でしょ?」


「でも面倒なのは面倒だな……」


「はぁ~~~~……」ユウリのクソデカため息。


「みなさんそう仰ってサボって。結局、後々になって後悔なさるんですよねぇ~~~~。でも、お気持ちは分かりますよ~~~~、『女』って大変ですもんねぇ~~~~!!!!」





◇◆◇◆◇◆◇





ディナーのためホテル「コンロン」本館に向かうと、マスターコンシェルジュの近栄こんえいさんが、俺たちを出迎えてくれた。


「あ……(しまった!?)」


ヴィラに案内するまで俺はたしかに「息子」だった。


しかし今はどうだ?


・胸から肩にかけて大きく開いたオフショルダーデザインのひざ下丈ワンピースドレス(さらっとした白のシアー素材に繊細な百合の花柄デザインが上品でGOOD)


・ちょっと背伸びしたスクエアトゥの低いヒール付きサンダル(ビーチのときより多少歩ける)


・メイクはポイントを押さえつつ、ラグジュアリー感を抑えた韓国アイドル系ナチュラルメイク(ヘアはくるりんぱアレンジにしました)


・主張しすぎない、こぶりなゴールドアクセ(本物じゃないよ)


もはや近栄さんの知る「神谷タキ」はどこにもいない。


(俺のこと分かります?)

(分かりませんよね……?)


(見た目はちょっと変わりましたが……「神谷タキ」です)

(なんかややこしくてすみません……)


父が()()()()を切り出そうとする。


「ああ……近栄さん……こっちは――」


「お待ちしておりました、皆さま。ではお席にご案内――」


さすが近栄こんえいさん。


彼は表情ひとつ変えることなく、俺に気づいた。


「実にお似合いでございますよ――タキ様」


(サンキューコンェ!)


案内された席は、海の見える半個室タイプのボックス席。


すでに日は落ち海は真っ暗だが、ライトアップされた浜辺にまばらな人影が見える。


席に着いたあと、なんとなく外を眺めていると、どこかから聞き覚えのある声がした。


「――でさぁ! なんか俺、腕六本ある色黒モンスターになっててさ! 肩にユウリさん乗せてるわけ! もうパワー感がパワーで、どういう状況だよってゆーwww」


「わかるwww  わいも紐バニー着て宙に浮いてて、しかもチョー豊胸ゆたかむねで、イミフすぎてうけたwww」



――「あれ……これ?……」



行儀の悪いことは承知で、身体をひねり辺りをうかがう。


「あ」


見覚えのある二人の横顔が見えた。


すぐ父に尋ねる。


「ごめん……ちょっと席外していい?」


「ん。お手洗いは出て右だ」


「いや……なんか偶然友だちが来てるみたいで……」


「ん……あぁ、原田さんと、ミーさんか?」


父は知っていたかのように、二人の名前を挙げた。


「え、なんで分かったの?」


「分かったというか……今回は『そういう場』でもあ?な……」


「えぇ、なんだよそれ……わたしなんも聞いてないんだけど!?」


ほっぺたを膨らまし、不服そうな顔をする息子。


「とりま行ってくる!」


声のした席にそっと歩み寄ると、いつも以上にメスっぽい感じの声を用意する。


さて、俺が誰だか……わかるかなぁ~????



「あの……すみません……」(恥じらいメス声)





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