シャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリア
家族で沖縄旅行!
――初日まとめ
性転換体質が判明して以降、やたら女装(身体は女だけど、気持ち的には”女装”)してばかりだった俺は、バカ強ェ決意でメンズ服縛りの荷造りした。
この一週間の家族旅行は「男」として過ごす!
やたらラグジュアリーな車で送迎され「シャングリラ沖縄」に到着。宿泊先はホテル本館ではなく、プライベートビーチが併設されたヴィラだった。
まるで無人島に来たような解放感と非現実感。だが、何かが足りない――そんなもどかしい気持ちを抱えたままスーツケースを開けると、そこにあったのは着回し感抜群のレディース服だった。
荷物に隠されていたユウリからのプレゼント(白いクロシェレースのモノキ二)を見て俺は気づく。
この海に足りなかったのは……「水着を着た俺」だ。
ビーチを散歩する俺とユウリ。
たまたま一人になったところで、俺は人生で初めて「女」としてナンパされる。
突然の落雷により、リアルで炎上するナンパ男たちのクルーザー。
恐怖から開放され、俺はユウリの腕の中でとんでもない泣き虫妹ムーブをキめる。
気分を切り替え、綺麗めドレスでホテルのレストランに行くと、いつもの友人たちと再開。
ということで明日は――"いつメン”でシャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリアへ行くぜ!
あ? もちろん女のままだけど、なんか問題ある?
――シャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリア
朝からパークは賑わっていた。
シャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリアは、現実世界で「リアル版・オープンワールド・ロールプレイングゲーム」を楽しむような施設だ。
客は「転移者」として「異世界シャングリラ」を訪れ、そこで様々な冒険やアトラクションを楽しむことになる。
ビジターは陣営やジョブ、レベルに関係なく、どこへでも自由に行くことができ、様々な楽しみ方ができる仕組みとなっているのだ。
「ようこそ、異世界シャングリラへ!――」
エントランスホールと繋がる「転移の間」に降臨した「女神」が、まるで本物のように俺たちビジターを迎えた。
ビジターはまずこの場所で「信託の儀」を受ける。
これは女神からパーク内で有効となる自分の「ジョブ」を授かる儀式で、ランダムに現れる10種ほどの職業から1つを選ぶ方式になっている。
たとえば「剣士」を選んだ場合――魔物討伐、護衛依頼、遺跡探索、素材収集……。上位ジョブも複数存在し、ソロでもパーティでも楽しめる一番人気のジョブだ。
ジョブは固定ではなく、次回来園時や「リスポーン」後に別変更可能(サブ垢システム)
ここまではOK?
女神が杖を掲げ、静かに語りかける。
「それでは、ジョブ『信託の儀』をはじめます……そ~れ~!(シャラララ~ン♪)」
杖を振ると光の粒が舞った。
それはやがて形を変え、10種類ほどの「ジョブカード」となってビジターの前にずらりと並んだ。
……だが、ユウリの前に現れたカードは、一枚だけ。
首をかしげならカードに触れると、それはゆっくりと裏返った。
――【ユウリ】――
ジョブ:魔王
レベル:1784
HP:47600
MP:51000
――――――――――
「魔王……レベル1784?」
選択の余地もなくカードをタップすると、ジョブは承認され、光の粒となって「ステータスバンド」に吸い込まれていった。
ユウリがこちらを振り返る。
「あんたは?」
俺の前にもカードは一枚しか現れなかった。
「……なんだこれ????」
――【タキ】――
ジョブ:シャングリラ皇国 第一皇女
レベル:1
HP:2
MP:1
――――――――――
「いいね、ぴったりじゃんタキ姫さま!」
ちょっとちょっとお姉様?
本日のわたくしは、まったくもってお姫様じゃありませんわよ。
シンプルなカップ付きキャミソールに、シアー素材のバルーン袖の長袖シャツをさらっとオン。
野外で遊ぶなら生足はNG! でもダサいのはもっとNG! ですからワイドデニムにミニプリーツをレイヤードして、機能性とかわいさを両立しますわ!
アクセはハデすぎないワンポイントでOK! アウトドアメイクでも目元と唇だけは気を抜かないで〜!
愛されお団子ヘアでまとめたら完成~~~~!
カジュアルすぎ?
だって今日は皇宮の外に出かける日ですし~。
それに、わたくしが第一皇女だと知られたら、大混乱必至ですもの~。
では行ってきます!!!!
つまり、めっちゃカジュアル。
しまったぁ~……もっとお姫様っぽい、フリフリの格好してきたらよかったかぁ~。
そしてさらに、ヤオとマルケスにもカードは一枚しか現れなかった。
――【ヤオ】――
ジョブ::魔将四柱(氷爆)
レベル:435
(以下省略)
――【マルケス】――
ジョブ::魔将四柱(豪炎)
レベル:460
(以下省略)
――――――――――
ジョブを登録しながらマルケスがぼやく。
「初回参加って十種類くらいジョブ選べるんじゃなかったっけ!? 俺、黄金騎士ルート狙ってたのに……」
一方、ヤオはあっさりと運命を受け入れている。
「まぁいいじゃん? てか魔王と黄金騎士ってあんま絡みないんじゃない? みんなで遊ぶなら、わいはこれでよかったと思うけど……」
「そっか……たしかに。ま、これはこれでアリか!」
切り替えの早いマルケスを横目に、俺はリストバンドをもう一度タップする。
レベルは1、HPは2、MPは1。
ステータスはさっきと変わっていない。
「……これってみんなと遊べるのか?」
「ま、まあ、いけるよ! 大丈夫大丈夫! み、みんなで遊ぼ~……」
ヤオのフォローが虚しく感じる……いやいや、これでどうしろっていうんだ。
運営アホなの?
ビジターがジョブをインストールし終えたのを見計らって、女神が大事なことを言い始めた。
「それでは、自動レベルアップ特典を授けます! どうぞ~(シャラララ~ン♪)」
あ、「レベル」の説明はいらないよね?
ビジターは全員、滞在しているだけで自動的にレベルが上がっていく仕組みだ。
何もせずとも、1時間すれば1~10くらいレベルアップしていくらしい、
そして、このパークでは「廃人」と「エンジョイ勢」の格差を解消するため、しっかりと救済措置を用意している。
連動型ゲームアプリや課金アイテムを使えば、現地に来ずともお家でレベルアップやアイテム収集ができるのだ。ありがてぇ。
パーク内のキャスト(NPC)は異世界に溶け込み、酒場で寝ているだけの人物から、高レベル転移者を演じるメタ的キャストまで多彩だ。
もちろん魔物はすべて最新テクノロジー(*1)によって再現されており、あまりのリアルさに野生動物が仲間と間違えるほどだという。
(*1 パンフレット引用:人工筋肉と無接点マグネットアクチュエータで作られた「ライブメカニマル」に、最新のホログラム技術「ホロマッピング」を融合。「7Gラグレス通信」による人間とAIの半遠隔操作で、空想生物をリアルに再現しています)
昨日読んだパンフレットの記述を思い出していると――転移の間に沈黙が広がっていた。
「え、なに? セリフ飛んだ?」
女神がうつむきがちにつぶやく。
――「実は……皆様に残念なお知らせがございます……」
転移の間がざわめき立つ。
「本日、魔王とその腹心二人が復活したようです………」
一瞬の困惑のあと、驚愕とともに歓声が爆発する。
おおおおぉぉぉぉ!!!!
俺はユウリを見て、口の形だけで「お前?」と伝える。
ユウリは「え、あたし?」とばかりに目を丸くした。
女神はさらに告げる。
「幸いなことに、魔王はまだ全盛期の力を取り戻しておりません。レベルは1800に届かず、いまなら人の力だけで封印可能です……」
大げさに腕と翼を広げ、目を閉じる女神。
「彼らは人間に化け、身近な場所に潜んでいるかもしれません。どうか……油断せず……お気をつけて……無事に……」
そのまま女神は光の粒となって消え、奥にそびえる石造りの大門がゆっくりと開いていく。
――コ、ゴ、ゴ、コ゚……コ゚コ゚コ゚コ゚……
まず立ち上がったのは重・転移者らしき猛者たち。おそらくオープン直後の混沌を経験してきた連中だ。面構えが違う。
鎧やローブをまとった猛者たちが、ぞろぞろと門を抜けていく。
後に続くのは、さっきジョブを授かったばかりの初心者たち。
「じゃ、わたしたちも行こっか……」
気まずさを隠しながら、俺たちはそそくさと転移の間を後にした。
お読みいただきありがとうございます!
ところで今年の夏はどこに行きましたか? 野外で露出する場合は、いつでも安全装備をお持ちくださいね!