第一話「女装コスプレフルセット(下着、ウィッグ込)が宅配ロッカーではなく自宅に届き、それを姉が開封した」
「じゃ、また明日なー! 新金剛ジャコスモールに10時だぞー!」
「おー!遅れんなよー!」
「り~」
高校生活が始まって数ヶ月。
終業式があっけなく終わると、俺はいつもの友人たちと昼飯を食い、少し街をぶらついたあとみんなと別れた。
――俺は今日、ものすごく気分が良い。
理由は「やっふー!夏休みが始まる!」なんてガキじみた話じゃないい。
今日は男子高校生必須の”アレ”が届く日なのだ。
健康で健全な男子なら、一度は必ず興味を持つアレ。
実際にポチるやつがどれくらいいるかは知らないが、ともかく俺は「ポチった側」になった。
決行するなら昼だ。
「一旦帰って着替えてから、宅配ロッカー行くか……」
胸の奥がふわふわと浮つき落ち着かない。
むずむずとした興奮が高揚感を誘う。
抑えきれない“青春おちんちゃん”を落ち着かせながら、俺は浮かれ顔で帰路についた。
――(シュル……ファサッ……)
やわらかな布の擦れる音。
チャイナロリータブラウスがめくれ、フリル付きの甘めブラがあらわになると、思わず俺は声が漏をもらした。
「ちょ……ッ……やめッ……////」
とんでもないメス声。
なんつー声を出しとるんじゃ。
落ち着け、神谷タキ。
この程度でまだあわてるような時間じゃない。むしろ今こそ冷静であるべきだ。
そう、俺はいま女装している。
姉の目の前で。
社会的には完全に瀕死状態。
あ゙ぁ〜……ダメそう。
死んでるわ。
それはとさておき(思考停止)
女装ってここまで一瞬で「メス化」するもんなの? これが初めて《ファースト・テイク》の力?
十六歳の男子高校生には刺激が強烈すぎる。
さっきから心臓はドクドク唸り、脳汁ドピュドピュ吐出し続けている。
マジで女装怖ぇ〜……そりゃみんな沼るわ。
ホント気をつけないとな……。
思考は冷静さを取り戻しつつあるものの、身体は相変わらず火照ったまま。
ただ、唯一心配なのは――俺の青春おちんちゃんだ。
あいつ今どうなってる?
視線を落とすと、ブラ越しにチャイナ風プリーツスカートが見える。あぁ、このプリーツがいいんだよなぁ。
おちんちゃんはプリーツに隠されており見えない。
観測するまでは状態が重ね合わさっているのでセーフか?
さっきまでキツキツでピチピチだったリボン付きフレアショーツの締め付けも、今はだいぶマシになっている。
過去の経験からすれば、ノーハンドで噴き出していてもおかしくないはずなだが……なぜ?
あぁ、きっと空気読んでるんだろうな。
えらいえらい!
――スッ。
不意に首筋をなぞられる感覚。
「ァ……」思わずふわとろ声が漏れる。
細い指がブラのカップをなぞり、胸元に迫る。これが“触られる側”の感覚か。
俺はブラウスを弱々しく引っ張って抵抗した。
「も……もういいって、おまえ……。まじで……やめ……ッ……////」
肩越しに顔をのぞかせる実姉・ユウリ。
家族じゃなきゃ即死してるレベルの、ねっとりとした目つきで息を吹きかけてくる。
「ねぇ? ほんと……これだけヤらせて? サッといれて……ピュッと済ませるから?」
返事を待たずユウリの手がブラの中へ滑り込む。
「……や……ッ////」
ビキビキに血管の浮いた腕が視界に入り、ふと違和感を覚える。
てかこいつ、腕ゴツくね? 大学二、三年だったよな?
うわー、ハタチで女の劣化って始まるんだなぁ。
俺の心の声が伝わったのか、ユウリは俺の突起をわざと乱暴に擦りあげた。
「ッ……」吐息が漏れる。
「はいはーい、動かない動かない。すぐ終わらせるから」
脇肉をぐっと掴まれ、斜め上に持ち上げられる。
ただのお肉が「お胸」に変身。
ユウリはめくったブラウスを元に戻し、耳元でささやいた。
「ふ~ん……鏡、見てみよっか? まじ、びっくりするくらい可愛いかもよ?」
――(シッキュン)
低く甘いイケボに思わず子宮がキュンとする。まあ子宮とかないけど。ネットでよく聞く「耳が妊娠する」ってこういうことか。
ところで……俺は十六歳の男子だ。
正直言って、ちょっとメイクして、ちょっとウィッグかぶって、ちょっとコスプレ衣装着ただけで「可愛すぎる男の娘」になれるわけがない。そういう称号は、膨大なコストとたゆまぬ努力を積み上げた「ガチですげー人」たちのトロフィーだろ。
……でも、とりま確認はしとかないとな。
せっかくだしな。
「お……おぅ……」
ユウリに背を押され俺は姿見の前に立った。
――「!!!!???? !?!?!?!? ……ッ!!!!」
衝撃。
例えようのない衝撃。
いつもの性的絶頂なんて比じゃない。
全身がこう……アレだ……。
全身がしびれるような、“女装すごい”って感覚。
「え……これ……俺?……」
鏡に映っているのはチャイナロリータを着た小柄な少女。
神ビジュ。
俺、エッッッッ!?
男の理性がドロッと溶け出し、一線を越えたことを直感で理解する。
思わず下半身に意識を向けるが「なんか出た感覚」はない。
そんなことより――
俺、めっちゃ可愛いくね?
俺、チャイナロリータ少女?
めっちゃ似合ってね?
衣装サイズはブカブカだが、「魔力切れで幼女退行バージョン(第一話)」って設定にすれば全然いける。
てかレビューにあった「173cm標準体型の男性ですが、女性用Lでピッタリでした」って何? アンチのネガキャンか? おお?
てか女装って普通こんなに可愛くなるもんなの!? 俺だけ?
ちょっとメイクしてもらったとはいえ、完全に女にしか見えんのだが!?
脳内でセルフ加工してる? それとも俺って選ばれし者?
もしかして――性別の壁、越えちゃった!?
戸惑いながらも俺は自分の姿から目を離せない。
「いやいや……」
おかしい。
「いやいやいやいや……いやいやいやいや……」
やっぱりおかしいよな?
「誰だよこの女!!!!」
鏡、どーなってんだ!?
俺、どこいった!?
鏡の中の少女(誰だよ)の肩に手を置く青年と目が合うと、彼は呆れ顔で言った。
「まさか弟くんが妹ちゃんになっちゃうとはねぇ……前世で積みまくった『業』がここで返ってきたかぁ……」
――(再びシッキュン)
「いやいや、お前は誰なの!? あいつ、どこいった!?」
青年は目を細め、つぶやく。
「タキくん……女の子になっちゃったねぇ」
「は?」
「だからユウリお姉ちゃんも――男になってみたよ?」
「いや、ふつーに意味わからん!!!!」
「だから、こういうことだって……」
青年はいたずらっぽく笑い、俺のスカートをつまみ上げようとした。
反射的に押さえ込む。だがすぐに気づいた。
「え、まってまって?…… ない? おちんがない? え、なんで?」
「ねー? ないねぇ? 」
「ど、どういうことだよ……」
「どういうことだろうねー? タキちゃん?」
鏡越しに見つめ合う二人。つまり、どういうことだってばよ。
凍りついた時間の中で、俺は数時間前の出来事を思い返すことにした。
◇◆◇◆◇◆◇
俺はウッキウキで帰宅した。
「ただいまー」
玄関を開けると、まず目に飛び込んできたのはリビングまで点々と続く宅配便のゴミ。
玄関を開けるとまず目に飛び込んできたのは、リビングまで点々と続く宅配便のゴミ。
――犯人は姉のユウリ。前科百億犯。
「チッ……だからここに捨てんなっつーの、アホが」
今週の掃除当番は俺。
だが、だからといって家中を好き勝手に散らかしていい理由にはならん。常識だろ。
ゴミを拾い上げようと腰をかがめると、怒りが込み上げてきた。
「おいユウリ! 自分で捨てろよ、ゴミ! てかこれワザとだろ!」
返事はない。
無視すんなよアホ。
もう一度。
「おいゴミ! 聞こえてんだろ、アホ!」
返事はない。
「クソ……」
冷静に考えて、ゴミはゴミ箱に。
……いや、部屋にばら撒いてやる。
そう決めた俺は段ボールを拾い集め、階段を駆け上がる。
そして自室の隣のドアを乱暴にノックした。
ゴンゴンゴン!
「ユウリ! はいるぞ!」
手に持った段ボールを細かくちぎりながら、ニチャリと悪役顔で返事を待つ。
「ちょまー……」脳天気な声。ゴソゴソと物音。
「おい! はいるぞ!」
「へーい、いいよー」
勢いよくドアを開き、俺はゴミをばら撒いた。
「ほらよ! プレゼントだ」
――その瞬間。
パンッ!!
入室とほぼ同時に、頭上で破裂音。キラキラのメタルテープが舞い降りる。
固まった俺の視線の先。
壁には見知らぬポスター。
「Happy Re:Birthday」
「タキちゃん!再誕おめでとう!」
……即興にしては完成度が高い切り文字。
いつも廊下に置かれているはずのトルソーには、なぜか見覚えのあるチャイナロリータ衣装。
ローテーブルには、タグ付きのブラとショーツが綺麗に並べられている。
――どこかで見たような、見覚えしかない品々。
「え、なに………?」
ダークピンクのウィッグを頭にのせたユウリが、宅配便の宛名シールを差し出す。
「これ、これね」ユウリはと宛名を指差す。
近づいてみると――
『お届け先:神谷タキ様 品名:コスプレ衣装』
俺の瞳孔が開き、心拍数が跳ね上がる。
全身の毛穴が開き、額から汗が噴き出した。
呼吸が止まる。
「ン゙ン゙ッ……ン゙ッッッッ……!!!!」
ユウリは慈悲深い女神のように微笑み、俺を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見て言った。
「あんたも男の子だもんね?」
いあ゙ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァー!!!!
――死んだ。
はい、俺死んだ。
終わった。完全に死んだわ。
お父さん、お母さん、今までありがとうございました。
今日から俺は、一生姉の奴隷です。
理由は「女装コスプレフルセット(下着、ウィッグ込)が宅配ロッカーではなく自宅に届き、それを姉が開封した」からです。
死の呼吸・壱の型――「女装コス家族バレ」
ユウリが声をかける。
「じゃ、着よっか?」
お読みいただきありがとうございました! 一話と二話は。ゆるく前編・後編となっています。
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