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第一章8話・初陣編「チーム」

*2025/03/24 第一章3話・「二人の少女と、もじゃもじゃ?」に挿絵を追加しました。良ければご確認ください。




「……じゃあまずは、こいつらをどうにかしないとな」


 巫心都(みこと)と仲直りした穂緒(ほつぎ)は、改めて災害因子(さいがいいんし)を見る。

 災害因子達はまだまだ襲ってくる気配がある。


「巫心都ちゃん、戦える?」


 永遠(とわ)は、力なく座っている巫心都に近寄って左腕を差し伸べる。

 巫心都(みこと)は手を出しかけた。

 しかし力なくぶら下がる右腕を見て、ためらってしまった。

 永遠の方が肉体的に大変なのに、手を差し伸べてくれている。

 申し訳なさと、己への不甲斐なさを巫心都は感じていた。

 しかし永遠は巫心都を安心させるように笑い、頭を軽く横に振る。


「私は大丈夫。握って」


 巫心都(みこと)は心配そうに永遠を見るが、決心すると涙を拭って手を取り、立ち上がる。


「……うん…やる…私も」


 巫心都(みこと)は幼さの残る端正な顔を、凛とした戦う決意で引き締める。

 巫心都はこれ以上、守られるだけで永遠(とわ)が傷つく状況を変えたかった。

 だから、巫心都は自分を奮い立たせ戦う決意をした。


「よし、そうと決まれば…」


 穂緒(ほつぎ)は、一歩前へ出る。

 刀の先を背後に向け右腰に構え、「脇構(わきがま)え」をとる。

 敵からは刀身が隠れて見えない構えだ。

 そして永遠(とわ)は穂緒に並ぶように一歩出ると、体の前で手を握る。

 すると一気に全身からエネルギーのような青白いオーラがほとばしる。


「私も巫心都(みこと)ちゃんを守るから安心して……じゃあ」


 永遠(とわ)穂緒(ほつぎ)と目配せする。

 そして。


 ——穂緒と永遠は勢いよく災害因子の集団に突っ込んでいく。


 月夜(つくよ)の「言殺(げんさつ)」によって災害因子たちは、いまだ阿鼻叫喚(あびきょうかん)の中にいる。

 何もかも強制的に信じられなくさせられ、精神を殺された(あわ)れな者達。

 しかしいかに(あわ)れんでも、それは災害因子である。

 穂緒(ほつぎ)達は今一度、覚悟を決めて武器を握りしめる。


 突っ込んでくる穂緒達を見た災害因子達に、動揺が波のように伝わる。

 そして穂緒達にステッキを向けて乱射してくる。


 穂緒(ほつぎ)はケンカ殺法よろしく、敵をタックルや蹴りで豪快に地に伏せる。

 そして次々と神駆火劔(かがりびのつりぎ)でトドメを刺す。

 月夜(つくよ)には神人として戦う覚悟を、強引ではあるが教えてもらった。

 もう、穂緒は狼狽(うろた)えたりしなかった。


 一方、永遠(とわ)は足にエネルギーを溜める。

 それを爆発させると一瞬で敵の射線を(かわ)し、銃弾の雨をことごとく避ける。

 そして、突然、——剣が変形、光の弦が現れて弓の形をとった。

 使えない右腕の代わりに、弓の弦を口で引き絞ると光の矢が出現。

 撃ってくる災害因子に狙いを定め、矢を放つ。

 矢は複数に分かれて災害因子達に命中した。

 敵は矢が命中したことで怯み、攻撃の手が緩む。

 右腕は使えないが、永遠は戦い方を考えていた。


 その隙に、巫心都(みこと)は光のエネルギー体を生成、光の矢が形作られる。

 巫心都はその矢を弦に(つが)えると、大きく引いて一気に放つ。

 その矢は狙いこそ甘いが、(かす)った災害因子を二、三体、一瞬で消し飛ばした。

 巫心都の攻撃を初めて見た穂緒(ほつぎ)はその威力に驚かされる。

 わがままだが、そのポテンシャルを見せつけられた。


 三人は急ごしらえのチームだったが、敵を順調に倒せていた。

 あっという間に十体ほどを黒い塵に還した。


 これが、みんなで戦うことでできる景色なんだ——。

 私、もう一人でちぢこまっているだけの子じゃないんだ——。


 永遠(とわ)はいけるという手ごたえを感じ、高揚感(こうようかん)が止まらなかった。

 永遠は必死に戦場を駆けまわる。

 

 ——自分はここで変わる。


 それを言葉だけでなく現実にするため。

 彼女は考えられる限りの全力を出した。

 永遠(とわ)は自らを奮い立たせる。

 永遠は休む暇もなく、災害因子を倒していく。

 次へ、次へ——。

 

 ……次第に疲れて、永遠のスピードは衰え、左腕も力が入らなくなってくる。

 疲弊(ひへい)して動きの鈍くなった永遠は、自分のことで精いっぱいとなる。

 そして味方への注意が緩んでしまった。


「ちょっとあんたッ、避けて——!?」


 永遠(とわ)巫心都(みこと)の叫び声で弾かれたように振り返る。


 ——穂緒(ほつぎ)が、災害因子に組み伏せられていた。


 振り上げられる片手剣。

 いかに武装をしても、武装と武装の間、例えば首や関節を狙われればひとたまりもない。

 永遠(とわ)穂緒(ほつぎ)を助けるため、トップスピードで飛び出した。

 しかし。


 ——ダメだ、間に合わない。


 片手だけでは剣を振るのもままならず、限界にきていた。


 自分の力を過信しすぎた。

 分不相応(ぶんふそうおう)にやり過ぎた。

 だから罰が当たったんだ。


 永遠(とわ)は後悔した。


 ……やっぱり、調子に乗っちゃったのが悪かったのかな。

 皆で一つになれて、一人じゃどうしようもなかった状況も、簡単に変えられて。

 自分が皆の一員になって、自分が変われた気がして。

 でも、それは一瞬だけだった。

 すぐ、自分が危険な状況を作って。

 良かった状況が壊れそうになる。

 みんな、壊れる。

 ああ……

 ああ、ああ……

 叶うなら。

 もう少しでも、

 ほんの少しでも、

 届いて。


 永遠(とわ)は手を伸ばす。

 少しでも届くように。

 

 ……しかし伸ばした手は、届かない。


 それでも永遠(とわ)は願う。

 届け、

 届け、と。








 ————空間に、電撃が走った。








 その電撃のようなエネルギーは、穂緒(ほつぎ)の周りの災害因子の胸を貫く。

 災害因子達は黒い塵へと還っていく。


 空間に残ったエネルギーは永遠(とわ)の元に移動すると——エネルギーの(ほとばし)る右腕となる。

 永遠の傷ついた右腕を覆うように。




 それは永遠が作り出した、新たな右腕だった——。




 永遠(とわ)の強い思いを受けて永遠の体中のエネルギーが(ほとばし)り、敵を貫いた。

 それが腕の形をとり、彼女の新たな力となって現れた。


「はあああ……良かった…」


 穂緒(ほつぎ)が助かり、永遠は緊張が解かれて胸をなでおろす。

 永遠(とわ)は災害因子が一瞬で消え去ったあとを見る。


「すごい……これ、私がやったんだ。すごい……」


 手を閉じたり、開いたりしてみる。

 永遠(とわ)の思う通りにそのエネルギーの腕は動いて見せた。


霧幹(むみき)、ありがとう……!おかげで助かった。それにしても本当にすごい力だな」


 穂緒(ほつぎ)は永遠の新しい片腕に感心する。

 ……しかしそうしている内にも、災害因子は手を緩めず、急襲してくる。

 永遠(とわ)はすぐに鋭い目つきに変わり、思い切り腕を災害因子に突き出す。

 すると先程のように、エネルギー体の右腕は空間を電撃のように走る。

 災害因子をまとめて三体、貫いてみせた。

 腕は(またた)く間に永遠のもとに戻り、エネルギーを(ほとばし)らせる。


「もう、やらせないよ——」


 永遠は目の前に数十と残っている災害因子をねめつける。


 ……今なら、全てやれる。


 その確信が、傷つく以前よりも心強くなった右腕から、強く感じられる。


「ああ。ここからは俺達の番だ」

「うん、いこう永遠(とわ)


 穂緒(ほつぎ)巫心都(みこと)も、永遠(とわ)に応える。

 永遠はエネルギーの腕を横に構え、歩き出す。

 一陣の風が通り、永遠の服を躍らせる。

 エネルギーの腕を握ると、周囲の空間に電撃のようなエネルギーが走る。




「全て、殲滅(せんめつ)する——!」




 永遠(とわ)はエネルギー体の右腕を弓にかける。

 腕が、巨大な矢に変形した。

 永遠はエネルギーたなびくその大矢を、放つ。

 矢は目にも止まらぬで飛んでいき、無数の矢に分かれて災害因子達を強襲した。

 数々の災害因子が、一瞬にして黒い塵へと還っていった。


「らああああッッッーーーー!!!」


 穂緒(ほつぎ)は踏み込みながら重い一太刀を災害因子に食らわせていく。

 永遠(とわ)の矢で(ひる)んだ災害因子を次々と黒塵に還していく。


 二人の足止めにより、巫心都(みこと)も確実に敵を仕留めていく。

 穂緒と永遠を襲おうとする者も、巫心都が事前に仕留められる余裕もできた。


 永遠(とわ)の矢を受けてもなお(ひる)まない敵に、永遠は再び右腕を生成。

 それを槍のように変形させ——一気に伸ばして突き刺す。

 空間を轟音(ごうおん)が切り裂く。

 数多(あまた)の敵を黒い塵に還していく。


 ——三人は、一つのチームとして災害因子を完全に圧倒していた。


 災害因子は成すすべなく次々と消えていく。

 そこで流石に(かな)わないと見たか、災害因子達は蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げる。

 しかし、その隙を逃さず永遠(とわ)巫心都(みこと)は矢を放ち、次々と災害因子を地に伏せる。

 穂緒(ほつぎ)容赦(ようしゃ)なく災害因子の背中を袈裟懸(けさが)けに斬りつける。 

 チーム全員が災害因子を討つ覚悟を持っていた。

 完璧な連携を備えた三人は、数多の災害因子を戦慄(せんりつ)させるまでに成長を遂げたのだった。

 

「これで……」


 穂緒(ほつぎ)は逃げる災害因子の腕を掴む。


「最後だッ!!!」


 その背中から心臓を狙うように神駆火劔(かがりびのつるぎ)を突き刺す。

 災害因子は手足をジタバタさせ、必死に抵抗を見せる。

 が、やがて動かなくなり、黒い塵へ還る。

 穂緒(ほつぎ)は振り返った。


 そこには仲間の顔。

 そして災害因子は一体たりともいなかった。


 ——そう、やったのだ。

 やり遂げたのだ。


 穂緒(ほつぎ)は思い切り顔を(ほころ)ばせる。






「やった……遂にやったぞ……遂に、俺たちは生き延びた……!」






 死ぬ思いで掴み取った勝利。

 心に染み入るような達成感があった。

 月夜(つくよ)の「言殺(げんさつ)」で弱体化されていたとはいえ、戦闘経験のほとんど無い穂緒(ほつぎ)達が数十体もの災害因子に勝利を収めたことは奇跡に近い。


「皆さん、お疲れさまでした……!」


 永遠(とわ)が笑顔でねぎらいの言葉をかける。


大刀流火(たちるか)さん、巫心都(みこと)ちゃん、本当によく頑張ってくれて、ありがとうございます!」

「こっちこそ、霧幹(むみき)が頑張ってくれたおかげで勝てた。ありがとう!」

「……うん」


 穂緒(ほつぎ)は心からの感謝を永遠(とわ)に贈った。

 巫心都(みこと)は照れ隠しをするように目を逸らし、髪を(いじ)る。


「それじゃあ、この辺りの敵も倒せたので、この都市の中から抜け出しましょう!」


 永遠(とわ)の言う通りだった。

 これだけ遮蔽物(しゃへいぶつ)があり、既に敵は多数展開されている。

 ここでまたひょっこり(はさ)()ちでもされたら終わりだ。

 月夜(つくよ)の「言殺(げんさつ)」が無い以上、新たな敵の弱体化の術もない。

 ここは災害因子によって意図的に形成されたフィールドのど真ん中。

 敵がどのように自分たちを追い詰めてくるか分からない。

 それならば荒野に抜け出て身を隠した方がはるかに安全と言える。


「そうだな、ここからさっさと立ち去ろう」


 三人は顔を見合わせて、お互いの了承を確認する。


「それじゃあ、みんな、行こう!」


 永遠(とわ)が先陣きって、表の通りに向かって駆け出す。

 二人も永遠について走り出す。

 穂緒(ほつぎ)はこのチームでならどこへでもいけるような、そんな感じがしていた。

 俺たちは、まだ強くなれる。

 穂緒はその確信があった。


「……うっ」


 突然穂緒(ほつぎ)は、キーン、と鋭い耳鳴りを感じた。


 そして——先を行く永遠(とわ)が、不意に立ち止まった。


 永遠(とわ)は表の大通りに出たところで不意に右上を向くと、そこで立ち尽くす。


「……霧幹(むみき)?」


 光に照らし出された永遠(とわ)は表情一つ変えず、どこかを見続けている。


「おい、どうした、()みk……」


 穂緒(ほつぎ)が心配して手を伸ばした瞬間。






 ——永遠(とわ)戦慄(せんりつ)で顔を歪ませた。






「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 永遠(とわ)は頭を抱えて急に鋭い叫び声を上げる。

 武器をとり落とす、カランカラン、という音が響く。

 顔は真っ青になり、顔中が絶望の色で染め上がられていた。


「どうしたんだ霧幹(むみき)ッ!?」


 穂緒(ほつぎ)はその尋常(じんじょう)ではない永遠(とわ)の様子を見て、急いで駆けつけようとする。


「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」


 しかし永遠(とわ)は金切り声を上げて穂緒(ほつぎ)を拒絶した。


「そ、そうだ、わた、わたしは、わたしは……このどん詰まりの人生なんて、変えられるわけが、な、無かったんだ。こんな、死んでまで、どうにかしようなんて、浅はかで、浅慮(せんりょ)で、恥さらしなだけだ。……わたしは、な、なにもできない……ひ、人に、迷惑をかけるしか、能のない迷惑者で……もう」


 空を(あお)いでボロボロと涙を流す永遠(とわ)

 先程まで勇敢(ゆうかん)に戦っていた姿はおろか、最初に出会った彼女よりも弱弱しく見える。


「もう、全てがどうでもいい……もう、何もしたくない……もう、もう、もう……ああ…あああ…ああああああああああああ!!!!!」


 永遠(とわ)慟哭(どうこく)を上げながら目を見開き、空に両手を伸ばす。

 光に向かって許しを請う姿は、神話の一節のように見える。

 やがて、右腕は槍に変形し……。






「あがぇっっっ…………!」






 ——自らの胸を貫いた。

 前に進むために手に入れた力で、永遠(とわ)は自らを()った。




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