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第一章5話・初陣編「見えない弾丸」

*挿絵あり

*2025/04/22 永遠、巫心都の、戦闘服の挿絵追加

*2025/06/09 永遠と巫心都の戦闘服立ち絵を、加筆修正




 穂緒(ほつぎ)はゆっくり目を開ける。

 

 ……あれ、何してたんだったか?


 穂緒は口中の砂利を吐きながら、起き上がろうとする。

 

 そうだ……! 列車が何か事故に遭って……!


 穂緒は、はね上がるように体を起こす。


 


 ——そこには、土煙と共に、ボロボロの列車が横たわっていた。




 そしていつの間にか穂緒(ほつぎ)にかかっていた、シールドのような術が消える。

 列車とは対照的に、穂緒の身体に大したケガはない。

 どうやら、シールドのおかげで事なきを得たことが分かった。

 周りの神人たちにも同じシールドがあり、皆大きな怪我は無かったようだった。


 穂緒(ほつぎ)はなんとか体に鞭を打って立ち上がる。

 そこで穂緒は思い出す。


「……霧幹(むみき)!? 菊之地(きくのじ)!?」

 

 穂緒(ほつぎ)は周囲を確認する。

 ……二人の姿が見えない。


 状況が状況なだけに、穂緒は心配で頭がいっぱいになる。

 穂緒は近くにいた神人(じにん)に食い掛るように尋ねる。


「なあ! ここら辺で見なかったか!? グレーの短いポニーテールの女の子と、それと黒髪で髪の短い、鋭い目の女の子だ!」

「な、なんだよ……! 俺だって仲間がどこ行ったか分からないし、何が起こっているか分からないんだよ!」

「……ッ! クソッ……!」

「お、おい……!」

 

 穂緒は神人(じにん)から手を離すとすぐに歩き出し、必死に二人がいないか探し回る。


霧幹(むみき)!! 菊之地(きくのじ)!!」


 返事はない。

 焦りで早足になる。

 そして穂緒(ほつぎ)はまた別の神人(じにん)に声をかけてみる。


「なあ、ここらで」




  ————ヒュン。




 何かが(くう)を切り裂くような音が聞こえた。

 すると穂緒の目の前にいた神人が倒れる。

 頭から血を流して、微動だにしない。

 穂緒は思わず音のした方を向く。




 横転した列車の上に————ペストマスクと白い服を着た、謎の人物達がいた。


挿絵(By みてみん)




 列車にはいくつもの銃痕のようなものが見える。

 穂緒はこいつらが列車を落としたのだと悟った。

 彼らはおもむろにステッキを向ける。

 そして。

 

 ——見えない銃弾の雨を降らせてきた。

 

 神人達は阿鼻叫喚となり、散り散りに逃げだす。

 ペストマスク達は逃げる人々を容赦なく後ろから撃ち抜いていく。

 撃つ動作はあるが肝心の弾が見えない、恐ろしい攻撃。

 その感情の見えない、淡々とした所作は不気味な印象を受ける。


「何なんだよ、これッ!!!」


 穂緒(ほつぎ)は足にエネルギーをたぎらせ、スケートのごとく飛ぶように走り、全力で銃弾を避けていく。

 穂緒はわけが分からなかった。

 考える暇もなく射線を避け続ける。

 一発でも当たればその瞬間終わるか、動けなくなってハチの巣にされるか。

 その極限の緊張状態の中で全身に激しく血を巡らせながら必死で避ける。

 ……が。

 エネルギーの使い方に慣れていないせいか、穂緒は足元を狂わせて盛大に転倒する。


 この瞬間、穂緒は死を覚悟した。


 銃口を一気に向けられる予感。


 ……しかし、銃弾は降って来ない。


「なんだ……?」


 代わりに、何かが激しく叩きつけられる音がする。

 穂緒(ほつぎ)が顔を上げる。




 ——大勢の電信柱の軍隊が、ペストマスクの集団に応戦していた。




 そこにはボロボロで血を流しながらも、電信柱に支えられ歩く月夜(つくよ)の姿もあった。

 服に火がつき、燃えている様子もある。

 穂緒は自分とは対照的なその姿を見て、思わず声をかける。


「おい! 嬢ちゃんっ! 大丈夫か!」

 

 穂緒(ほつぎ)は月夜の下へ駆け寄ろうとする。

 月夜はそれを手で制止する。

 月夜は息を切らし、血の付いた手で電信柱にもたれかかる。

 うめきを上げながらも、なんとか穂緒に応えた。


「……ッはあっ、心配……不要。……お前らを守る、『代償』のための傷だ。お前らを守るためなら、私の身体は100回焼かれても構わん」

 

 穂緒は墜落直後に自分と他の神人(じにん)に展開されていたシールドを思い出す。

 あれは月夜(つくよ)によるものだったのかと理解した。


「それに、嬢ちゃんではない……! お前よりも、百は歳が違う。ここは、『後世写(ごせうつ)しの(かがみ)』で年齢と違う外見の奴が多い、見た目通りに受け取るな……! それよりも……」


 月夜は息を吸うと声を張り上げる。




「お前たち! 敵襲だ! あそこにいるペストマスク野郎が『災害因子(さいがいいんし)』だ! こいつらを、一人残らず、徹底的に討ち殺せ!」




 穂緒(ほつぎ)は耳を疑った。

 穂緒は月夜(つくよ)に向かって問いただす。


「こいつらが災害因子……?! これは人じゃないのか?! 俺達は、俺達を殺した災害と戦うんじゃなかったのか?!?!」

 

 それを聞いた月夜は穂緒に振り返る。


「ああ、そうだ! こいつらが徹底的に倒すべき災害だ! 言ってなかったな…今回の敵は、『人災(じんさい)』だ。災害は自然災害だけではない。人が災害の源となれば、災害因子も人の形をとる! 分かったらお前もとっとと戦え!」


  ……穂緒(ほつぎ)はたじろいだ。

 穂緒は列車、その上で戦うペストマスクと電信柱へ目を向ける。

 電信柱は勢いよく腕を振り下ろし、それがペストマスクの人間——「災害因子(さいがいいんし)」に叩きつけられる。

 災害因子はその質量に押し潰され、黒い液体が飛び散る。

 飛び散った黒い液体は、黒い塵となって消えていった。


 ……穂緒(ほつぎ)は、何か恐ろしい怪物じみた形の敵と戦うはずだった。

 少なくとも、人のような災害因子は想定していなかった。

 これではまるで戦争のようだと穂緒(ほつぎ)は戦慄する。

 あれは、ここに来るまで穂緒が不安と復讐心を感じていた敵の姿とはかけ離れていた。

 あれが穂緒を死に追いやった災害の権化と言われても信じられない。

 しかし、奴らが今も永遠(とわ)巫心都(みこと)を襲っているのは間違いない。

 穂緒はうろたえている場合ではなかった。


「そ、そうだ! 武器! 武器はどうやって出すんだ?!」

 

 月夜は信じられないものを見るかのように驚き呆れ、穂緒に怒鳴る。


「そんなことは試練の時に知ったはずだろ! 最初の内は断災器(だんざいき)の『(めい)』を呼べば出現する! ここでは言葉が大事だ! ……こうだ!」

 

 月夜は血だらけの手を目の前に伸ばすと。


銀宙(ぎんちゅう)想夢(そうむの)(しょ)!」


 次の瞬間、月夜の手には夜に銀河が輝いているような表紙の本が現れる。

 月夜はその本の中から黒い笛を取り出し、息を吹き込む。

 遥か地平の先まで聞こえる、澄んだ笛の音が鳴り響く。

 すると電信柱達が一斉に背筋をピンと揃え、災害因子(さいがいいんし)がより多い方へ一目散に勇ましく突っ込んでいった。

 穂緒(ほつぎ)は驚きながらも、取り敢えず見よう見まねで実行してみる。


「確か……か、かがりびの…つるぎ」


 次の瞬間、刀の輪郭線が空中に浮かび、そこから実体を伴って黒い刀身の刀——神駆火劔(かがりびのつるぎ)が出現した。

 穂緒がその刀を掴むと、体の周りに武装の輪郭線が現れる。

 次の瞬間、剣道の防具に似た白い武装が出現する。

 面の後頭部からは面紐のような、エネルギーの帯が勢いよくたなびく。

 全身になじむ武装、そして刀を握った時の心の底から湧き上がるような高揚感。

 間違いなくあの武器と武装だった。


 ……この武装なら、あの銃弾の中でも行ける……!


 穂緒(ほつぎ)は足にエネルギーを(たぎ)らせる。

 永遠(とわ)巫心都(みこと)を探すため、突撃するかのように神人達とペストマスク集団が交戦している方へ飛び出しだ。




 神人(じにん)達とそれをサポートする電信柱、そこにステッキを向けるペストマスク達が混戦状態になって戦っている。

 穂緒(ほつぎ)は二人の姿を必死に探しながら、交戦する神人の間を縫っていく。

 途中、銃弾が穂緒を(かす)めるが、衝撃だけで貫通はしなかった。

 武装は穂緒が予想する以上の性能を発揮していた。

 辺りを探したが、二人の姿は見当たらない。

 穂緒は横転する列車の向こう側を目指す。

 ペストマスクに注意しながら列車の屋根に上がり、向こう側を覗くと。


「!!!!!」


 眼下には、岩陰に永遠(とわ)巫心都(みこと)が隠れているのが見えた。

 そして彼女らにペストマスク数人がステッキを向けながらじりじりと近づいている。

 感情の見えない不気味な印象を与える集団は、次には二人をどうしているか分からない。

 一刻のゆうよもなかった。


 穂緒(ほつぎ)は刀先を背後に向け右腰に構えて——脇構(わきがま)えをとる。

 敵からは穂緒の体に刀身が隠れ、刀身の長さが測れない構えだ。

 穂緒は岩陰に向かって進む災害因子(さいがいいんし)の集団を見据える。

 腰を低く構え、足にエネルギーをたぎらせ、一気に開放する。

 飛ぶように駆けていき、前に気を取られている災害因子と肉薄する。


 穂緒は刀を振り上げ、斬りかかる。

 ……災害因子が振り返る瞬間が、スローモーションに感じた。

 ペストマスクがこちらを向く。

 その瞳が事の詳細を捉える前に、穂緒(ほつぎ)は刀を肩口から切り込む。

 ゴリッ、という音と、堅いものを斬る感触が手に伝わる。

 返り血のように黒い液体が穂緒の白い武装に跳ね返る。

 災害因子は痙攣(けいれん)したかと思うと動かなくなる。

 そして糸が切れた操り人形のようにばたんと頭から倒れ込んだ。

 災害因子は黒い塵となって消えていく。

 

 ……穂緒(ほつぎ)は戸惑った。


 肉を斬る感触と音。

 それはまるで人間の肉を切っているかのような生々しい感触。

 穂緒は想定外の手ごたえに、完全に動揺していた。


 穂緒(ほつぎ)をよそに、周りの災害因子はその奇襲を見て、穂緒に銃撃し始める。

 穂緒は銃撃の衝撃を受けて一瞬で我に返り、また高速で地面を駆ける。

 今度は怯んでいる暇もない。

 穂緒はためらわずに確実に斬れるよう大ぶりに刀を掲げ、振り下ろす。

 力んでいるせいか、余計に血肉と骨を破断する感触が返ってくる。

 しかし、一人、また一人と切り込んでいくうちに、鮮烈な感触を失っていき、作業に変わった。

 ゲームか何かだと切り替えなければ、穂緒(ほつぎ)は感触に耐えられる気がしなかった。

 

 そして……必死に戦ううちに、周りには誰もいなくなっていた。

 

 空中には消えてゆく黒い塵が(ただよ)っている。


「はあ……はあ……はあ……」

 

 しばらく放心状態になっていた穂緒は、はたと思い出す。

 

 ——二人は無事なのか?!


 穂緒(ほつぎ)は岩陰の方へ向かって急いだ。

 岩陰から覗く永遠(とわ)の顔は怯えていた。

 穂緒が向かった瞬間、永遠は顔を引っ込める。

 穂緒は岩陰に到着すると、二人は穂緒をにらんで断災器(だんざいき)を構えた。




挿絵(By みてみん)


 永遠は黒地のボディスーツに、スカートのような白の装飾がある戦闘服だった。

 背中からエネルギーの羽のようなものが噴出しているのも相まって、妖精のように見える。

 そのファンタジックな要素が優しい性格の永遠によく似合い、神秘性を感じさせる一方で、白黒を基調としたシックな印象も併せ持っていた。

 かわいらしさと、シュッとした見た目、その両方を兼ね備えた戦闘服だった。




挿絵(By みてみん)


 巫心都は和服で白を基調とし、ところどころに紫のグラデーションが入った戦闘服だった。

 袖が長く、腰から下はチャイナ服のようにスリットが入っている。前後に垂れる布は、しめ縄についている白い紙・紙垂のような、イナズマの形になっていた。

 着る者を美しく引き締め、別人の大人だとすら錯覚させるような戦闘服。

 キリッとした巫心都を引き立たせ、神聖さを感じさせた。




 永遠は剣のような断災器をふるえる手で構えていた。


 巫心都(みこと)は不安と恐怖で引きつった顔を向ける。

 自分より背の低い永遠の背後に隠れながらも、弓のような断災器を引き穂緒に向けている。


 穂緒が近づくと、永遠はより武器を穂緒に向ける。


「だ、誰なん、ですか…! わ、私たちの、味方なんですか…?!」

 

 穂緒(ほつぎ)は想定外の反応に困惑していた。

 なぜ二人に武器を向けられているか分からない。


「だ、誰って……大刀流火(たちるか)だ、ほら、同じ仲間の……! 列車にも一緒に乗っただろ?!」

 

 穂緒は身振り手振りも交え、必死に釈明する。

 すると永遠(とわ)は驚きと困惑の色を示した。

 永遠は恐怖を押し殺しながら、震える声で必死に声を張り上げる。


「た、大刀流火、さん? か、顔を……よく見せてくださいっ……!」


 そう言われて穂緒は改めて気づいた。


 自分の姿を見てみる。

 体は武装し、災害因子(さいがいいんし)の黒い返り血がついている。

 それは、はたから見れば、殺人鬼だった。


「……すまん、これじゃ分からないよな。今取るから」


 穂緒(ほつぎ)は慌てて面を取ろうとする。

 面は機械的な音を立てて後頭部が開き、スポッととれる。


 永遠(とわ)巫心都(みこと)は穂緒の顔を見た途端、ほっと安堵(あんど)する。

 二人は力んで構えていた断災器(だんざいき)を下ろした。


「ああ、良かった……本当に、大刀流火(たちるか)さんだったんですね……また違う敵が出てきたのかと思いました…」

「驚かさないでよ……はあぁ……」

「わ、悪かった。こっちも必死だったんだ」

「あんたが斬り始めた時、今度は私が殺されるかと思ったんだけど?」

 

 巫心都(みこと)が睨みつけながら不満げにぐちをこぼす。


「仕方が無かったんだ。あの小学生みたいな奴が、あれが災害因子だっていうから……」

 

 面を(かぶ)り直しながらふと見た光景で、穂緒は固まる。

 永遠と巫心都も、その様子をいぶかしがり、穂緒の視線の先を見る。

 その先には。





*2025/06/10 災害因子の全身イメージです。


挿絵(By みてみん)

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