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第一章4話・初陣編「イーハトーブからの軍人」

*挿絵あり




 説明ののち、穂緒(ほつぎ)はアイリスライツ本部前の大きな広場にいた。

 道場に転移する前に通ってきた、大きな鳥居が目の前にある。

 指示によって、先程の一室に集められていた人々が数人一組で分隊を組まされた。

 その指示のもと、穂緒の目の前に居たのは。


「……うざ」

「よ、よろしくね…! さっきぶり、だね…!」

 

 先程隣にいた、黒髪ショートカット女子と、グレーのポニーテール女子だった。


「私、霧幹(むみき)永遠(とわ)っていいます…!」

「俺は大刀流火(たちるか)穂緒(ほつぎ)だ。苗字でも名前でも好きに呼んでくれ」

「う、うん…! 分かったよ…! よろしくね、大刀流火、くん…!」

 

 ポニーテールの子——永遠は控えめな笑顔を見せながらあいさつする。


「ねえ、大刀流火くんって、何年生…?」

「中二だ。もうすぐ中三になるはずだったんだけどな」

「え、ほんと…?!私達、同級生だね…!」

 

 永遠(とわ)はふんふんと少し興奮しながら手を体の前で握っている。

 控えめそうな見た目ながらも、積極的に誰とでも分け隔てなく接することが出来るのは彼女の才なのだろう。

 人間関係でトラブルが多い自身と照らし合わせて穂緒(ほつぎ)はしみじみと感じた。


「……」

 

 一方で、黒髪の子は機嫌が悪そうにそっぽを向いて髪をいじっている。


巫心都(みこと)ちゃん?」


 その様子を見かねた永遠は、黒髪の子の顔を心配そうにのぞき込む。


「巫心都ちゃんが、自己紹介しないなら、私が、勝手に紹介、しちゃうよ?」

「そんなことしないで」


 黒髪の子はピシャリと言い放つ。


「で、でも……! そうしないと話、進まないよ……!」


 永遠(とわ)は少し頬を膨らまして、んー…!、と怒っている。


「……」


しかし黒髪の子はそっぽを向いて頑なに態度を崩さない。

その態度に耐えかねた永遠は、少しぷんぷんしながら穂緒に話しかける。


「た、大刀流火(たちるか)くんに、しょーかい、します……!」

「……ちょっと!」

「この子は、菊之地(きくのじ)巫心都(みこと)ちゃん、です……! 同級生、です…!」

「ちょっと永遠!勝手な事しないで!」


 黒髪の子——巫心都(みこと)は永遠に猛然と抗議した。

 しかし永遠(とわ)はそれに屈することなく、巫心都に反論する。


「ダメだよ……! これから、協力して、戦うんだから……! 普通と違うのは、試練の時に、分かったでしょ……!」


 永遠の説得する言葉や姿勢には、妙な迫力があった。


「…………」


 それを見た巫心都は折れ、バツが悪そうな顔で目を逸らして口をつぐんだ。

 そうして永遠が巫心都を諭した所で、目の前にある巨大な鳥居に変化があった。

 鳥居の真ん中にある転移の空間がグルグル動き出している。

 それを見た永遠は、はあ、と言って巫心都に向き直る。


「……もう。じゃあ、仲直りは、またあとで」

「……あとでもするつもりもないから」

 

 巫心都(みこと)は不満げに抗議して鳥居の方を見る。

 ……その場にいる神人(じにん)全員が固唾(かたず)をのんで鳥居を見守る。

 すると——鳥居の転移空間の中から、なにやらこちらに向かって来る影があった。

 そこからは歌のようなものが聞こえてきた。

  

  ドッテテドッテテ、ドッテテド……

  ドッテテドッテテ、ドッテテド……

 

 その低く響く歌を歌っている者の、正体が現れる。


 ——それは軍隊のごとく整然と行進してくる、巨大な木製の電信柱であった。

 

 穂緒(ほつぎ)は電信柱が精悍(せいかん)な顔つきをして行進するさまに、自分の目が信じられなかった。

 しかし、その行進で地面が揺れる恐怖が、現実のものであることを実感させる。

 電信柱はいっそう胸を張り、より勇ましく行進する。

  

  ドッテテドッテテ、ドッテテド、

  でんしんばしらのぐんたいは

  はやさせかいにたぐいなし

  ドッテテドッテテ、ドッテテド、

  でんしんばしらのぐんたいは

  きりつせかいにならびなし


 電信柱が一糸乱れず行進しながら勇ましく歌を歌う。

 その異様な光景に、呆気(あっけ)にとられたその場の人々は声を発することも出来ない。

 そしてその電信柱の先頭に——白い軍服のような服を着た、小学生程の背丈の人がいる。

 背筋をピンと張り、後ろ手に組みながら堂々と歩いて来る様は、その体躯(たいく)に似合わず老成(ろうせい)している。

 白髪で、まぶかに帽子を被り、その表情は見えない。

 すると突然、その白服の子が手を挙げる。


「……全軍、止まれ」

 

 号令に従い、後ろで行進していた電信柱の軍隊がその場でぴたりと動きを止めた。

 近くに来た姿をよく見ると、号令をかけたのはどうやら女の子のようだった。

 しかしその目は、数々の修羅場を乗り越えた末に辿り着くような、希望など欠片もない、すさみ切った鋭い瞳をしていた。

 ゴオオォォ……と一瞬、風が通り過ぎる。

 幼女のぼろぼろのマントがたなびく。

 静寂ののち、幼女はゆっくりと話し始める。


「……諸君、お集まりいただきご苦労。私は序鐘(じょしょう)月夜(つくよ)。まあ覚えなくていい」

 

 幼い見た目のわりに低く、感情の一切籠っていないその突き放すような話し方は、体躯(たいく)に似合わない威厳を感じさせる。


「諸君らには早速、災害因子(さいがいいんし)と戦ってもらう。戦場で力尽きれば転生することになるが、それは今の諸君らの人格が終わることを意味する。後悔の無いように徹底的に準備しろ。以上だ」

 

 すると幼女——月夜(つくよ)はおもむろに駅員の持つようなライトを呼び出し、空に向ける。

 それはたちまち強く青白い光を放ち始めた。

 すると————。

 遠くの方から機械の響くような音が聞こえてくる。

 それはだんだんと近づいてはっきりと見えてくる。

 

 ——空中を走る汽車が、汽笛と、ガタンゴトン、ガタンゴトン、という轟音と共にこちらへ向かってきていた。

 

 列車は月夜(つくよ)の背後に、蒸気を巻き上げながら停車する。

 その車体は月夜と同様、白い。

 ただ、車体前方は、何かをはね飛ばしたかのような黒い飛沫(ひまつ)がべっとりと張り付いている。月夜の白い服にも同様の飛沫があった。

 列車の光に照らされて影のように浮かびあがる月夜。


挿絵(By みてみん)


そして突然、目が開けられなないほどのまばゆい光が辺り一帯を包み込んだ。






 穂緒(ほつぎ)は気がつくと、列車の席に座っていた。


「!!?!?!??!?」


 穂緒は混乱のさなか、まわりを見回す。

 隣には永遠(とわ)巫心都(みこと)が並んで座っていた。

 二人も穂緒同様、突然の出来事に困惑している。

 窓側の席から見える外の景色は、荒涼とした大地だった。

 寂莫(せきばく)とした冷たい印象を与える景色が、どこまでも広がる。

 するとどこからか声が響いてきた。


「……諸君、ようこそ銀河鉄道へ。諸君らにはこれから戦場で災害因子(さいがいいんし)という名のバケモノと戦ってもらう」


 車内放送で月夜(つくよ)の声が流れてきたようだった。


「……まず、諸君らがいるここは『影世界(かげせかい)』、その『影日本(かげにほん)』だ。日本と影日本は結びつきが強く、災害因子の主たる『本災(ほんさい)』が、災害の発生する場所に影日本側で到達すれば、それが現世の日本で実際に発生する。それを止めるのが諸君ら神人(じにん)の役割だ」


 穂緒(ほつぎ)は初めてこの世界の概要を聞き、ようやく詳細を理解する。


「諸君らには本災(ほんさい)の取り巻きをこれから倒してもらう。取り巻きといっても(あなど)るな。侵攻を許した分、余震や二次災害など、関連災害の規模が大きくなるからだ」

 

 そして月夜(つくよ)は緊張感を与える真剣なトーンを滲ませる。


「……諸君らには生者のために魂をかけて、徹底的に戦ってもらう。諸君らの一挙手一投足、すべてが生者の生命に関わる。諸君らの手で、人の生死が決まるのだ、時に数万、数十万人のな。…心して戦え。以上だ」


 ……月夜の音声はそこで終わった。

 あの広場で見た、月夜のすさんだ鋭い目つきを思い出させる緊張感があった。

 穂緒(ほつぎ)は息をついて隣の二人の様子を見る。

 永遠(とわ)も緊張した様子だった。

 巫心都(みこと)は興味なしといった様子で、しかし不安なのか、暗い様子で足元を見ている。

 永遠は穂緒に「び、びっくりしたねー…」と話しかけるが、「ああ、そうだな」と穂緒が返すと、再び沈黙が訪れる。

 列車内全体の空気も先程の放送で緊張を煽られ、これから向かう戦場への漠然とした不安が広がり、誰もが無言だった。

 誰も声を発してはいけないような、沈黙を破ってはいけないような、そんな空気感。

 ガタンゴトンという列車の音。

 誰かかが鼻をすする音。

 足を動かす音。

 物音が際立って聞こえる。

 沈黙の中に不安と緊張がない交ぜになっていた。

 穂緒は窓の外を見る。

 眼前にはその空虚な大地が広がり、空には灰色の雲が厚く垂れこめている。

 

 ……穂緒(ほつぎ)は人生を奪われたというその怒りの激情をようやく災害にぶつけられると、はやる気持ちがあった。

 と同時に、一体どういう相手なのかよく分かっていなかった。

 月夜の言葉によって、災害因子(さいがいいんし)との戦いをより輪郭をもって実感し、また自分の使命だという心づもりも湧いた。

 しかし、災害因子(さいがいいんし)とは試練の際のような、黒光りし、うねうねと動き、底知れない恐ろしさを覚える異形なのか。はたまた違うのか。

 それは本当に災害を引き起こしている者たちなのか。

 自分を殺した、自分の仇と思えるのか。

 敵としてあやふやな部分があり、まだ不安を感じていた。

 

 穂緒(ほつぎ)があれこれ考えている内に、永遠(とわ)がふと、あれっ……、とつぶやく。


「あ、あそこに見えるの、な、なん、でしょう……?」


 永遠が指をさして示した所をよく見てみる。

 不毛な大地の一点に、何か白い鳥のようなものが、集団でうごめいたり羽ばたいたりしている。


「なんだあれは……さっきまで全然気づかなかったぞ」

「…わ、わたし、報告してきます…!何かあってからじゃ、お、遅いので…!」


 そう言うと永遠は前方の車両に向かって急ぎ、駆けだしていった。


「ちょ、ちょっと永遠!私をこんなやつと二人にしないで!」

「こんなやつ……?」


 巫心都(みこと)永遠(とわ)の後を追うように走って行ってしまった。


「……まあいいか。座って待ってよう」


 穂緒(ほつぎ)は呆れながら座り直し、再び外を見る。


「ん……?」


 ……先程のうじゃうじゃが見当たらない。


「……うっ」


 キーン、と耳鳴りが聞こえる。






  ガゴォォォォォォォン!!!!






「!!!!????」


 穂緒(ほつぎ)は激しく揺さぶられる。

 唐突に突き破るような破砕音。

 列車自体が激しく揺れ続ける。

 悲鳴が車内を響き渡り、混乱で誰もが取り乱していた。

 穂緒は前の座席に掴まり、体が飛ばされないようにするのがやっとだった。

 とにかく踏ん張る事しかできず、何が起こっているのか、一切把握できない。

 そして突然体が浮き、耳をつんざくような破壊の音が響く。

 次の瞬間、穂緒は全身に衝撃を受け————意識は途切れた。




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