1 採用
頑張っていきましょー。
「いいねえ、君。採用しよう。」
「え、ほん、本当にっ」
思わず机に手を付き、身を乗り出す女性。
不思議な薄紫色の髪の毛が、動きに合わせて大きく揺れた。
「嘘を吐く理由が私には無いね」
「ありがとうございます!」
その瞳には涙が滲んでいるようにも見える。
無理もない。これまですべての企業で「その髪、ちょっとなんとかならない? 染めてるんでしょう?」などといわれ、内定を逃し続けてきたのだから。その感動はひとしおだろう。そもそも、髪色ごときを気にする企業を選ぶほうが悪い、という意見は置いておくとして。
「じゃあ、明日から。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
お疲れ様でした、という声を背中に受けて、彼女はうきうきと面接室を後にした。
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「あの子、なかなか常識がありそうだ」
社長が座るような椅子に身を埋めた女性。先程の女性とは違い、その髪色はありふれた栗色である。
「髪の毛はちょっと、普通の人とは違うかもしれないが…… まあ大事なのは中身だからな。あの成績をとっているなら、顔を考慮しても十分常識人だろう」
自身の座る椅子をくるくると回す彼女は、もう採用したし、雇うしか無いがなあっはっはと続けて片眼鏡に手をかけた。
助手ちゃんにはぜひ頑張ってもらいたいですね。このお話が終わらないように。