表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比翼の風  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
二、足跡
9/26

二、足跡(9)

 乾いたものが割れるような音と、折れるような悲鳴。

 ウェルティクスとイルクは顔を見合わせ、ひとつ頷けば駆け出していた。

 ――、ざわり。

 厭な風が土埃を伴い、足元を流れた。

 農具を手にした村人の襟を、何かが掴んでいる。

 がちゃり、と金属音。

「……貴様、税が納められぬというのか?」

 掴んでいるのは鈍色の甲冑姿。兜から覗く顔はまだ若い。

「ぜ、税なら先月納めたばかりじゃないか!

 この村に蓄えなんてもうないんだ、帰ってく――がッ」

 どさり。

 襟を掴んでいた手は鉄拳となり、男の顔面を殴り飛ばしていた。

「余計な口答えをするな」

 冷たい声が言い放ち、兵士らしき甲冑の男は仲間へと振り返る。

 同じような装甲の数名が、なにやら相談をはじめた。


 ――『山賊なら、まだええ方じゃて』


 しわがれた声を思い起こし、ファングはふっと息を吐いた。

「成程。山賊より性質の悪ぃモンに目を付けられてる訳か」

 鋭い瞳は、どこか侮蔑をもって兵士たちを眺める。

「が、は……」

 なんとか上半身を起こす男の口や頬、顔のあちこちから血の褐色が滲んでいた。

 怒りを露に飛び出そうとしたイルクを、すっと細い手が制止する。

 ウェルティクスは静かに首を横に振り、こう言った。

「ここで騒ぎを起こすのは、得策ではありません」

「だ、だが……」

「私達のことが知られれば、この村が今以上に追い詰められることになるのですよ」

 半歩前で、こちらを振り向くこともないその表情は、イルクのいる位置からは見えない。

 彼はすまぬ――と一言だけ零すし、憤りに拳を強く握り締めた。

 あ、と。おちた声。

「どうしたのだ?」

「いえ。……鎖でも付けておけば良かったかもしれませんね」

 イルクはその言葉に首を傾げたが、直ぐにその意味を理解することとなった。

「……おい」

 いつの間にか。

 人垣を掻き分け、ファングが兵士達の前に立ちはだかっていた。


「なんだ、お前は?」

 兵士たちが、そして息をひそめている村人たちが。徐々にざわめきはじめる。

「テメェらの所為でこっちは宿に泊まれねぇんだ、責任取りやがれ」

「随分と威勢がいいな。村のヤツが雇った用心棒か何かか?」

 兵士のひとりがファングの方へ進み出て、武器を構え警戒する。

「ただの通りすがりだ。

 目の前の馬鹿どもに迷惑かけられて、ちっと頭にきてぶった斬りたいと思ってる旅人ってやつさ。

 ……何処にでもいんだろ?」

「そんな物騒な旅人がホイホイいてたまるか!!!」

 尤もである。

「ふざけたヤツだ。おい、この村への見せしめにもやっちまおうぜ!」

 兵士達は互いに頷くと、物騒な旅人へとにじり寄る。

 ファングは短く息を吐き、ちらりと金髪の若者を見遣った。

「テメェらを殺すのは簡単だが、そうすっと面倒になりそうだな」

 剣を抜く様子はない。

 彼はちいさく息をつくと、人差し指をくいと曲げ、兵士を挑発した。

 ――「遊んでやるからかかってこい」と。

 その顔には、はっきりと書いてあったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ