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比翼の風  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
二、足跡
17/26

二、足跡(17)

お久しぶりです!

久々の更新になってしまい申し訳ありませんでした。


私生活が二人ともたてこんでおり、なかなか話し合いができずにいたもので更新がずるずる遅れてしまいました><。

今後とも気が向いたときに読みに来てくださったら嬉しいです。

ご迷惑をおかけいたしました。

 数刻が経過した。

 イルクは言葉通り、投石器を完成させていた。

 巨漢は適当な大きさの石を持ち出し、小さな池の方角へ向けて飛ばしてみせる。

 だぱぁん、と、王冠に似た飛沫を上げて石は池の真ん中へ吸い込まれた。

「職業を間違えたな」

 横目でその飛沫を見ながら、ファングがくつと笑う。

「この部分の木を、もう少し弾力のあるものに替えればもっと飛距離が出せるのだがな」

「弾力のあるもの……樹脂などですか?

 確かにその方が威力、耐久性ともに高そうですが……樹脂を集めて練り固めるような時間は私たちにはありませんよ。

 それに、これだけのものができれば充分、いえ、それ以上です」

 不満そうなイルクの様子に、ウェルティクスは感心しきりで何度も頷く。

 しかし男は納得していないようだ。

「大したものではない。

 俺が以前見かけた投石器は、もっと小さく飛距離も高いものであった」

「……比べるものの基準が違ぇだろ。そいつぁ軍用だろうが」

 ファングは呆れて背を向け、がたっと芝の上に腰を落とした。

「で?いい作戦は浮かんだのか」

「さぁ――、どうでしょうね」

 大分凪いできた池を眺めたままで。

 相手に視線を合わせるでもなく、ウェルティクスは首を傾けてみせた。


 試作版投石器の動作確認は問題なく終了し、ウェルティクスは村長に村の男集を集めるよう要請した。

 試作版のそれを用い、イルクが束ねた丸太を倉庫に飛ばしてみせる。

 ひと束、それが放物線を描く度、場に歓声が沸いた。

「お集まりいただいたのは、勿論、こんなデモンストレーションをご覧頂くためではありません。

 皆様に、これから同じものをいくつか造っていただきたいのです」

 声はどよめきに変わった。

「旅のかた……しかし、このようなもので村を救うことが本当にできるのですかな?

 あ、いえ、あなた方のことが信用できないと申しているわけではないのですが……」

「私にも判りません」

「そんな……!」

 みるみるうちに、村長の表情がしぼんでいく。

「しかし、このままみすみす村を枯らすわけにはいかないでしょう」

 ばさり外套がはためく。

 若者はそれだけ告げ残し、どこかへ歩いていってしまった。


 村人は訝しみながらも、イルクたちの指示の下で土木作業にかかった。

 中には不満を唱えるものもいたが、或いはファングの眼光に睨まれ、或いは村長に説き伏せられ、結局は渋々ながらも作業に戻った。

 そうして、三日という僅かな期間で五台の投石器が完成した。

 それらは村人総出で村の各所に運び込まれ、設置される。

 発射角度などの最終調整を終えた頃には、体力自慢の男衆もくたくただった。

「イルク、少し宜しいですか?」

 男が振り向くと、視界に鮮やかな金髪が映る。

 ウェルティクスは屈んで細い木の枝を拾うと、地面に何やら図のようなものを描き始めた。

「……こういったものを造ることは可能でしょうか」

 図面に何やら走り書きで説明を書き加えながら、視線をついと巨漢に合わせる。

 吸い込まれそうな碧に一瞬、イルクは呼吸さえ失った。

「イルク?」

「む?……ああ、すまぬ」

 大男は逃れるように顔を逸らし、大袈裟に腕を組んで足元の図面を凝視する。

「可能だが……このようなものを使っては、事が大きくなってしまうのではないか?」

 眉を八の字にして困惑するイルク。

 しかし碧い双眸は不敵な微笑みを湛えたまま、何も答えることはなかった。


 二つの太陽が東から昇り、西に沈んでいった。

 ウェルティクスはイルクを伴い、街道を歩き、崖の上に設置されたあばら家で足を止めた。

 古くは物見小屋として使われていたのだろう。しかし、もう長いこと使われた様子がなく、柱も屋根も相当傷んでいた。

 ウェルティクスが目配せすると、イルクはそのあばら屋に爆弾(、、)を運び込んだ。

(しかし、何故このような村の外れにこんなものを……?)

 どさり。

 乾いた音とともに、土埃が舞う。二人は些か咳き込んでしまった。

「これで準備は整いました。村長殿のところへ参りましょう」

 満足そうに周囲を見回し、歩き出すその背中を、イルクは慌てて追いかけた。


「それでは、私たちはこれで――」

 深々と頭を下げれば、金糸の巻き毛がふわりとこぼれる。

 旅支度が完了した三人は、村の入り口で村長の見送りを受けていた。

 細い細い月が、陰鬱な夜空を遠慮がちに照らしている。乾いた風はどこか寂しく、頬をなそっていった。

「もう行ってしまわれるのですか?せめて、事が落ち着くまで――」

 引き止める村長の願いを、若者はやんわりと首を振り拒んだ。

「恐らく二、三日中にはレドフリック伯の私兵がやってくるでしょう。

 高台からの見張りは欠かさないようお願いします」

「は、はぁ……しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?

 連中が本気で攻めてきたら、この村にはもう、生きる術などありません」

「兵がやってきたら、村の方々には前もってお話しした通り指示してください。

 ――この村が兵に蹂躙されることは、もう二度とないでしょう」

 予言じみた言葉を残し、三人は宵闇に紛れ、村を出立した。




 数日後。

 山間の村近付近で大規模な土砂崩れがあり、街道が閉鎖されるという事件があった。

 情報は瞬く間に周辺領主の耳に入り、程なくして王宮にも伝えられた。


 通常、土砂災害の原因といえば集中豪雨が常だ。しかし水位は正常で、大きな嵐があった形跡は見られない。

 フォーレーン王宮は原因不明の土砂崩れに疑問を持ち、調査隊の派遣を正式に発表した。

 旅人たちが村を去ってから、一週間後のことであった。

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