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比翼の風  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
二、足跡
14/26

二、足跡(14)

 東の地平線すれすれに薄らと紫の色彩が混じる頃合い。

 陽が昇るまではまだ僅かに時間があり、やがて訪れる一日のはじまりを待ち望む静寂に村はまどろむ。

 そんな静寂は、

 ――刹那、音を立ててかち割られた。


 ばりんっっっ!!!

 聞こえた音に目を覚まし、咄嗟、壁に立てかけていた愛剣に手を伸ばす。

 ――敵か。

 周囲を警戒しつつ、物音の方角へ駆け出す細身の若者。

「――スペリオル?」

 後ろから聞こえたイルクの言葉。成程、確かに彼の姿がない。

 振り向かず頷く。

(ファング……?まさか、)

 何者かに襲撃を受けた、またはファングがそこへ討って出たしたとして、彼ほどの実力者ならば容易に倒されることはないだろう。

 しかし。

 ……たん、たん、たん、た、た、

 そのまま廊下を駆け抜け井戸のある裏口方面へ急ぎ――

 そこで、ウェルティクスは足を止めた。

「…………あ、」

 何が起こったのか理解できず、茫然と立ちすくむ。

 敵の姿はない。あるのは男の後ろ姿と、

 そして、

 ――床に散らばる硝子の破片。

 壁には鏡があったはずだが、金属製の枠だけがそこに佇んでいる。

 ……きらきら、きらきら、

 足元にひろがるそれは、放射線状にこちらへひろがる。

 ……きらきら、きらきら。

 雪のようだ、と。ぼんやりそんなことを考えていると、

「スペリオル……」

 その人物を呼ぶイルクの声に、ウェルティクスの思考は中断された。

 散らばる破片の中央に、ファングの姿があった。

「……、ファング、」

 長い髪で顔が隠れ、表情は伺えない。

 ただ――その佇まいは、ウェルティクスの目にひどく痛々しいものに映った。

「スペリオル……またやってしまったか」

「――、ち、」

 頭を抱えるイルクの横を、舌打ちがすり抜けていく。

 そのまま、ファングはふらりと姿を消してしまった。


「……すまぬ、ウェル殿」

 見上げていたイルクの姿が、ふいに低くなる。

 彼の指は、割れた硝子の破片をひとつひとつ拾い集めていた。

 同じようにしゃがみ、破片を集めるのを手伝うウェルティクス。

 ――暫しの沈黙。やがて、イルクはぽつりと呟いた。

「鏡を見ると……な。昔から、ああなのだ」

 どう話したものか戸惑いながら、イルクは破片を布袋へ流し込む。

「鏡……?」

「うむ。同じ理由で、湖や河川にも寄りつかぬ」

「…………そう、ですか」

 やはりこちらもどう答えたものか、短く切り返すのが精一杯で。

「村長殿には俺から謝っておこう。

 料理用の窯を借りれば、この程度なら修復できるはずだ」

「修理??この鏡を……です?」

 イルクは頷き、壁から枠を取り外すと高く掲げてみる。

「では――、

 そちらは貴方にお任せします」

 言って、ウェルティクスはすくと立ち上がる。

「スペリオルのところか?」

「ええ。……怪我を――していました」

 ――恐らく硝子を割った際に、切ったのでしょう、と。

 腰に提げた布袋に幾らかの薬草が入っているのを確かめ、細身のシルエットがひとつ、裏口をくぐっていった。

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