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比翼の風  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
二、足跡
12/26

二、足跡(12)

※誤って、下書きが投稿されたままになっておりました。

 大変申し訳ありませんでした!

 差し替えました。ご迷惑をおかけいたしました。

 村長の話が終わると、三人は来客用らしき部屋へと通された。

 何もない部屋ではありますが、朝まで風雨を凌ぐくらいはできるはずです――そう言って、村長は自室へ戻っていった。

 厚い雲に阻まれ、月は見えない。

 雨風の音が壁や窓を叩くほかは、客人もない静かな夜だった。

「……、ウェル殿」

「はい?」

 部屋へ通されてからというもの、ずっと黙って考え込んだまま。時折金糸の髪をくしゃりと折っては、はふ、とちいさな溜息をおとすのみ。

 そんな主の姿を見ているに耐えかねて、イルクは声をかける。

「何か気にかかる事でもあるのか?」

 心配そうな視線にぶつかり、一瞬、碧い視線が彷徨う。

「……ああ、いえ。なにも、」

「レドフリックとここの領主ウルトルのことだろ?」

 ファングの鋭い声音に、ウェルティクスのそれは遮られる。

「どういう事だ?スペリオル」

 首を傾げ、ファングに問いかけるイルク。

「さっき、村長が言ってたじゃねぇか。今は『大事な時期』だ、ってよ。

 ――つまりそういう話だろ?」

「う、うむ……む??」

 頭を抱え目を回す彼に業を煮やし、ファングは舌打ち交じえながらもこう添えた。

「金が必要な『大事な時期』っつたら、ひとつしかねえだろ。

 もっと上の貴族に取り入るのさ」

「な――ッ、」

 イルクは大きく目を見開き、立ち上がって抗議の声をあげようとしたが――隣で表情を曇らせるウェルティクスを視界に留めれば、続く言葉を呑み込んだ。

「レドフリック伯爵は、たしかポルゴ侯爵とツルんでイーダ家に。

 そして、ウルトルは……イーダ家と対立するアステル家へ接触。

 ――そんくらい、アンタは知ってたんじゃねえのか?」

 真っ直ぐに、ウェルティクスへ注がれる視線。

 さながら刃物といったそれは、目を背けることさえ赦さない。

「……流石はパニッシャーの情報網ですね」

 淡と答える。突き付けられた切っ先に怯む様子はない。

 細身の体躯も、その眼差しも、携えたレイピア同様に凛と研ぎ澄まされた印象を与えさせる。


 イーダ家の公女イザベラはテセウス王との間に王子ジークをもうけ、

 アステル家の公女レイチェルはテセウス王との間に王子ウェルティクスをもうけた。

 彼女たちはテセウス王と我が子を心から愛していたけれど、一族にとっては単なる政争の具に過ぎない。

 そんな家同士のパワーゲームを肌で感じながら、ウェルティクスは育った。


 王位継承争いの当事者となってしまった身として、その心境は複雑だったろう。

 しかし表情ひとつ変えてみせない王子の姿に、ファングは内心、苛立ちを覚えていた。

「……ふん、」

 静かな鍔迫り合い。先に視線を外したのはファングの方だった。

「まあいい。そんなコトよりお――……お、お?」

「???」

 何やら言いかけて、そのまま口をぱくぱくさせる。

 ファングが何を言わんとするか察することができず、ウェルティクスとイルクはきょとんと顔を見合わせた。

「いや、アンタのことをいつもの通り呼ぶわけにいかねぇだろ?」

 ――『王子さん』。

 鼻の頭を掻き、ファングは極まり悪そうに顔を背けた。

 顔を合わせようとしない相手に、くす、と笑みが零れる。

「ウェルで結構ですよ。――私は、どうお呼びしましょうか?」

「はっ、ファングでいいさ」

 やはり視線を合わせようとはしないものの、苦笑交じりの返事が戻ってきた。

「……判りました、ファング様」

「……………………ッ」

 がたん。

 思わず振り向くファングを迎えたのは、いたく愉しそうな若者の姿だった。

「そんな顔をすると思っていました。ファング」

「~~~~な――、ッ」

 噛みつこうとして。

 反論を諦めたのか――彼は、そのまま再び背を向ける。

「……おや。」

 拍子抜けした顔のウェルティクス。その態度は、少し残念そうですらある。

 やはりからかわれていた――そう確信したファングは、無言のまま拳を壁に叩きつけた。

 そして、不思議そうに二人を眺めているイルクに向き直る。

「おい、イルク。お前も、いつまでも上官スペリオル呼ばわりははやめるんだな。

 俺はもう、お前の上官じゃねぇだろ」

「う、うむ。確かにそれはそうなのだが……

 既に習慣になっておる故、やめよと言われても難しいと、」

 戸惑い、困ったように下を向いてしまうイルク。

「ふん、手先は器用な割にそういうところは不器用な奴だ」

「……ふふ、確かに」

 談笑がおちて。和やかな空気が部屋に満ちる。

 そうして、夜は更けていった。

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