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クリスタルアームズ─原罪武装  作者: シオン、無光、冷月雪
第ー章─オードル
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00.運命のシークエル


 親愛なる読者の皆さん、こんにちは。これは無光とシオン、冷月雪が共に創作した大型ロボットの未来幻想戦争の物語です。機械やSFが好きな読者の皆さんにご満足いただけると思います。それでは、驚くべき歴史を持つ島、オドールへと一緒に入りましょう!






挿絵(By みてみん)


 太陽系から数百万光年離れた星ーアトランティス(Atlantis)。この罪に満ちた地球型惑星は、長きにわたり罪の歴史に浸っている。

 その罪の歴史は1500年にもわたり、この星に生きる人々は、自らの時代を誇り高く「躍進の時代」と呼んでいた。

 彼らがこの時代に名付けたその言葉には、傲慢が込められている——「躍進世紀」(Leap Century, L.C.)。


 ここでは、生きること自体が罪とされ、死こそがその「罪」の真の償いとされていた。

 何世代にもわたって、人々は無知のまま生き続け、数千年の短い歴史の中で、祖先が残したわずかな資源に依存して生き延びてきた。

 進化は彼らにとって、遥かに届かない夢となっていた。自己満足に浸りながら、自らの小さな世界を支配し、知らず知らずのうちに「罪」の本質も少しずつ変わっていった。


 そして、時はL.C.1513年6月18日。この日、運命の風がこの閉ざされた世界を揺るがすことになる。

 物語は、東の島国タガニアの首都である、活気に満ちた港町オドールで始まる。

 中央の本島を中心に、諸島が取り囲み、自然の要塞を形成していた。

 本島の中心には山脈があり、その周りには島々の端にまで広がる都市が寄り添っていた。

 タガニアの人々は、祖先が残した知恵を受け継ぎ、中世と呼ばれる建物を基に、一歩ずつ自らの文明を築き上げてきた。しかし今、島に残る唯一の城は、本島の西にある首都オドールにあり、それがタガニア人の発祥地でもある。


 この原始的な城は現在、国家学院として利用されている。タガニア人は千年以上にわたり、男女を問わず尚武の精神を貫き、代々の優秀な軍人や戦士を育て上げてきた。


 国家学院はちょうど一学期の授業を終え、学生たちが長らく待ち望んでいた磁気嵐休暇(じきあらしきゅうか)がついに始まろうとしていた!


 木製の床がきしむ中、青春真っ盛りの20歳の青年、ジリクス・ビクトール(Zilix Victor)が軽やかな足取りで、休業式を終えたばかりの会場を後にした。柔らかな夕日が彼の金髪を一層輝かせていた。


 学院の最上階にある展望台からは、オドールの街並みを一望できる。煉瓦造りの平屋がオドール港の建物の少なくとも70%を占めており、十年前からコンクリートの高層ビルが増え始めたものの、法律により上町地区から海岸への眺めを妨げてはならないため、最高のビル——「港町の目」も四階建てにとどまっている。


 休暇の初日、少年がすることは、高額な費用をかけて整備した磁気浮上バイクに乗り、斜面に位置する港町の眼へ向かうことだった。そこは第二埠頭の前にあり、図書館とカフェが併設された、首都オドールで最も有名なランドマーク。ビクトールがいつも訪れる場所でもあった。


 店内の蔵書量は公立図書館に匹敵するわけではないが、沿岸の風景を一望できる和風のテラスだけでも、平日・休日問わず観光客で賑わっていた。看板メニューの「ミラグリーン」は評判が良かった。


 「はい、ビクトール、これを持っていけ。」

 「待って、もう一杯あるから、二杯持って帰りな!」と、店主は笑顔で事前に用意していたミラグリーンをビクトールに渡し、さらにもう一杯追加で渡してくれた。「良いものは友達と分けるべきだ!」さすが店主、商売上手で、親切を見せながらもちゃっかり自分を褒めていた。


 ビクトールは、表面に溶けた抹茶の緑が漂い、中の白いのは豆乳か牛乳か(自分にはいつも分からない)でベースにしたミラグリーンを両手に持ち、夕日を楽しめる席を探しながら奥へと進んだ。席に座ると、いつもリラックスができ、ミラグリーンを飲みながら午後のひとときを楽しむことができた。


 港の横では、大型磁気浮上式クレーンが「BIG DADDY」と書かれた黒い看板を茶色と緑の建物にゆっくりと設置していた。屋根はビール缶で一つ一つ丁寧に積み上げられた特製のデザインだった。


 「よぉ!ジリクス・ビクトール!休業式は終わったのか?」緑のシャツに濃紺のジーンズを履いた青年が、建物のそばにしゃがみ込んで、こちらに声をかけてきた。

 「おい!フェットマン・ミカズ!親父のバーがようやく完成したな。でも今日もまた授業をサボったんだろ。先生が怒って、お前を落第させるって言ってたぞ!」

 俺はテーブルの上に置いてあった、まだ開封されていないミラグリーンを、通りの向こうにいるミカズに向かって投げた。


 「サンキュー!ちょうど喉が渇いてたんだ。」


 瓜実顔で、肩にかかる長髪、眉を覆う前髪を持つ御和みかずは、東西両方の特徴を併せ持った顔立ちの混血で、その髪色は母親のリサ叔母と同じ淡い水色だったが、彼女よりもさらに白い肌をしていた。日差しが当たると、まるで白髪に見えることがよくあった。肌もタガニア人より白く、サントラス人に近いが、細かい違いはある。彼の淡紫色の瞳は、この世界では珍しく、リサ叔母が冗談で「外で浮気してできた子かもね」とよくからかっていた。


 御和みかずはミラグリーンを一口飲むと、のんびりとした口調で言った。「まあ、問題ないさ!学期最後の授業だし、試験も終わったんだから、学校に行く必要なんてないだろ。ところで、聞いてくれよ、昨日親父が興奮しすぎて、屋根に上ってペンキを塗るって言い出したんだ。それだけでも十分危険なのに、なんと上で『ついに完成だ!』って叫んで、落ちちゃったんだよ。今じゃ足が頭みたいに腫れ上がって、杖をついてテレビを見てるんだ。」御和みかずは肩をすくめて苦笑した。



 「ハハハ、本当に親父らしいな。年を取ってもまだまだ元気で、全然老けてないな。」


 私は目を細め、顎に手を当てて少し眺めた。さすが俺のクラスメートで親友だ。この整った顔立ちを見てみろ。女性だけでなく、男性でも彼の目に引き込まれてしまうかもしれないな。残念なのは……服のセンスがちょっと悪いところだな。


 御和の母、リサおばさんはセントラス(Sandras)出身で、とても美しい女性だ。彼女の洗練されたファッションセンスは、さらにその美しさを際立たせている。


 御和は確かに母親譲りの美しい顔立ちをしているが、ファッションセンスはまったくないのだ。


 それでも、彼は学院では人気者だ。かつて一日に108通ラブレターを受け取ったことがある。その話だけでも物語になるが、彼の忘れっぽい性格のせいで、付き合っている相手が誰なのかよく分からなくなってしまうことが多い。いや、正確には、彼は断るのが下手で、そもそも恋愛には興味がない。ただ、誘われたら適当にデートに応じているだけだ。しかもそれは、学生だけでなく、彼に声をかける「女性」全般に当てはまるんだ。


 「おい、なんでぼーっと僕のことを見つめてるんだ?」


 「ん?ちょっと待って!確かに学校には行ってないけど、先生には母さんがちゃんと休みの連絡をしてくれたはずだよな?いや……母さんに頼んだっけ?」御和は自問自答しながら、ますます混乱していった。


 「リサおばさん?まさかまた友達とショッピングに行って忘れたんじゃないか?」


 私は頭に大きな汗をかいた。御和の母親は同時にPTA会長でもあり、交友関係が広い。ただ、記憶力は……DNA検査なんて必要ない、彼らが母子であることは一目瞭然だ。


 「母さんは一度もちゃんとやったことがないんだよ。出かける前には『大丈夫、任せて!』なんて言ってたのに、はぁ……」


 「俺が代わりに先生に休みの連絡をしてあげるよ。」



 その時、御和の背後のガラス戸が開いた。「御和、まだそこにいるのか……おっと、ビクトールじゃないか!ついに完成したぞ!」


 銀色の帽子をかぶった中年の男性が、杖をついてガラス戸から出てきた。


 「おやじ、大丈夫か?」


 外見はまだまだ元気そうだったが、礼儀としてそう聞いてみた。


 「ハハハ!この小さな怪我ぐらいなんでもないさ!まだまだ元気だ!」


「親父」と呼ばれる中年の男性は、力強く自分の胸を叩いた。親父はそんな人で、目の前のことに集中して、怪我をしてもその陽気で冗談好きな性格は全く変わらない。


 「親父、二年間も計画して、ついに完成したな!」


 「そうだよ、思い出すとつい……」親父は目に涙を浮かべ、右手の袖で涙を拭った。


 彼はずっと世界中のビール缶を集めることに情熱を注いでいて、タガニアから西方大陸のセントラスまで、レア物や限定版、さらには年代物の古い缶まで、あらゆる種類のものを集めるために全力を尽くしてきた。そして、ある旅でリサ叔母さんとも出会ったのだ。


 これらのビール缶は、単に彼のビールへの愛情の象徴にとどまらず、冒険心や自由な生活への憧れも表している。

 親父はそのビール缶を使って、唯一無二の屋根を作り上げた——一つ一つの缶が丁寧に並べられ、巧みに組み合わさり、色とりどりのビール缶の屋根が完成したのだ。


 陽光が缶の表面を通して色とりどりに鮮やかな光を反射し、まるで彼の情熱的で奔放な性格のように、きらきらと輝いていた。


 その屋根の下には、ビールと熱々のグリル料理を専門に提供する店がある。そこでは、さまざまなビールを楽しめるだけでなく、チキンウィングやソーセージ、炭火焼きステーキなどのグリル料理も提供している。さらには、自家製のビールアイスクリームまで味わうことができるのだ。


 このビールとグリルの専門店は、まるで親父の人生そのものを映し出しているかのようだ。自由気ままで時にはクレイジーだが、無限の創造性と温かい帰属感に満ち溢れている。

 僕と御和がここに来るたび、親父は笑顔でこう言う:

 「さあ、これを飲んでみろ!これは俺がアドルワス(Adruvas)に行ったときに持って帰ったやつだ!」

 そして、彼は一つ一つのビール缶にまつわる物語を、延々と語り続けるのだった。



 親父が男の本音をさらけ出して涙を流す姿を見て、ヴィクトルは心の底から夢を叶えた親父を祝福した。



 空の雲が夕焼けに染まり始める。



 「明日、お客さんでいっぱいになるように祈ってるよ!親父、もう遅いから俺はそろそろ帰るよ。」ヴィクトルは微笑みながら、親父の肩を軽く叩いてそう言った。


 「夕飯を食べていかないか?今日はオドール外海で獲れた新鮮な魚があるぞ!」

 「ありがとう、親父。でも弟がティワド戦闘学院を卒業したばかりで、手紙には今日初めての任務が終わった後に寄るって書いてあったんだ。家で料理を用意して待ってるんだよ。」

 「弟さん、卒業試験に合格したのか?あの卒業率5%のティワド戦闘学院を!」と、御和は目を大きく開いて驚きながら尋ねた。


 「そうだよ、もう一年が経った……」


 ビクトールはうつむきながら、弟と最後に別れた日の情景を思い出した。その日の空も今日と同じように、焦げるような黄昏色で、不安を感じさせるものだった。



 「なぜ?」主語のない問いかけが、五分近く続いた沈黙を破った。


 ちょうどビクトールが弟の帰宅を待ちながら食卓についているとき、ジリクス・トランが合格通知書をテーブルの上に置いたことに気づいた。


 ビクトールは疑念を抱きながらトランを見つめ、その視線を「ティワド戦闘学院」と金の縁取りが施された大きな文字へと移した。


 ティワド戦闘学院は、セントラス大陸における最も権威のある軍事学校だ。わずか一年で卒業できるが、卒業とはすなわち各地で最も激しい戦場へ直行することを意味している。たとえ九年前に西方侵略戦争が終わり、不安定ながらも平和が訪れたとしても、各地では軍事衝突が絶えず、ましてセントラス内部では大小様々な戦争が絶え間なく繰り返されているのだ。


 タガニアに配属されるなら、まだ運がいい。少なくとも同じ国の中だから、会おうと思えば会える。でも、西方に配属されるとなったら……。しかし、なぜだ?なぜトランは大人しくしてタガニアに留まってくれないんだ?


 「兄さん、本当に今が平和だと思うの?」トランはビクトールに背を向けたまま言った。

 またこの話題か……。九年前、西方侵略戦争で両親が亡くなって以来、トランは変わってしまった。もともといつも笑顔を浮かべていた子だったが、この九年間、学校に通う以外の時間はほとんど筋トレに打ち込んでいた。時には時間が空いたかと思うと、部屋に閉じこもって何をしているのかも分からない。

 弟と話せる唯一の時間は、今、この瞬間だけだった。食卓は、この数年間、弟との唯一の繋がりを感じられる場所だったのだ。



 「だから、これがこの数年間で出した答えってことか?」ビクトールは苦しげに言った。


 「質問で質問に答えないでくれよ!兄さん!じゃあ、兄さんの答えはなんだよ?どうせ、またその平和主義の話だろ?」


 ビクトールはうつむいて、「武力は何も——」


 「武力は何も変えない、ただ傷つけるだけだ。」トランは、兄がいつも繰り返す答えを先に言い放った。

 トランは振り返り、両手で食卓を強く叩いた。熱々の料理がその衝撃で飛び散る。


 「兄さんは、父さんと母さんの仇を取ろうとは思わないのか!」


 「だけど、君一人で何が変わるんだよ!トラン!それよりも、俺たち二人がちゃんと生きていくことが大事なんだ!」


 「——この弱虫め。」


 「おい!その言い方はひどすぎる!」ビクトールも椅子から立ち上がった。



 トランは唯一の血縁である私を見つめた。強情な彼は涙を堪えるために天井を見上げ、歯を食いしばりながらため息をついた。結局、何も言わずに、汚れた合格通知書を手に取り、家を振り返ることなく出て行った。


 「トラン!おい、トラン!」


 俺は椅子に力なく崩れ落ちた……追いかけはしなかった。


 彼の性格はよく分かっている。決めたことは最後までやり通す。追いかけたところで、何になるだろうか?


 少なくとも、少なくとも今年は学院での訓練だけだ。命の危険はないはずだ。来年、彼が配属される前に何とか止められれば……



 「ハハハ——こりゃあ本当に楽しみだな!明日は弟さんを連れて、一杯やろうじゃないか!」

 親父の豪快な笑い声が、ビクトールを回想から現実へと引き戻した。

 「分かりました。じゃあ、俺はこれで失礼します。」


 トラン、その道を選んだなら、俺の選択は、お前を戦場から俺たち、そして父さんと母さんの家に連れ戻すことだ。

 だが、その前に、まずは一年ぶりの再会を祝おう!家に帰る前に、予約しておいたフルーツケーキを取りに行かなきゃ……



 弟との再会が近づくにつれ、ビクトールの心は次第に興奮し、アクセルを踏む足にも力が入っていた。彼はラッシュアワーの中、行き交う車をすり抜けながら、港からほど近い丘の上へと向かった。


 空の雲はすっかり黒く染まり、街灯がその役目を果たすかのように次々と光を灯していた。


 ここには「イガレイ」という名の、夜にだけ営業するスイーツ店がある。小さな木造の家屋風の可愛らしい外観は、オドールでは非常に有名だ。


 夜になると、港からでもはっきりと見える黄色とピンクのネオンが輝き、他の島からも観光客がよく訪れる。ビクトールのお気に入りは、この店の多角パンだ。いつも角を数え切る前に、つい食べてしまうほどのお気に入りなのだ。



 「カランカラン――」ドアを開けると、鈴の音が響き、中にはすでに十数人の客がパンを選んでいた。


 優しい笑顔がこちらに向けられ、「来たのね!あなたが頼んだケーキ、おばさんもう準備できてるわよ。」と言われた。


 目の前で焼き立てのパンを棚に並べているこのおばさんは、俺と御和の同級生――ヘシのお母さんだ。


 「ジャスミンおばさん、最近お店の調子はどうですか?」


 「ふふ、今日と同じよ。」


 つまり、毎日開店と同時に十数人のお客さんがやってくるのが普通ということか……すごいな、感服するよ。


 「バシッ!」突然、後頭部に強い衝撃が走った。痛っ――


 「ねえ、ビクトール、休みの予定は?」その声は、聞き慣れたもので、甘さと少し野性的な響きを持つ少女の声が背後から聞こえ、さらにジャスミンおばさんの笑い声も聞こえてきた。


 「おい、ヘシ!またかよ!」


 「この前貸した本は?」ヘシは俺の文句も、まだ熱を帯びている後頭部も無視して、さらに問い詰めてきた。


 俺はすぐに口を閉ざした。「まだ読んでる……」


 「もう2か月も経ってるよ!読むの遅すぎじゃない?」



 ヘシとはもう五、六年の付き合いだ。彼女はジャスミンおばさんの一人娘で、銀紫色の流れるようなフェザーカットをしている。見た目は確かに可愛いんだけど、ものすごく男勝りで、今でもよく、もう大人になったはずの若者を泣かせることがある。


 「あと少しで読み終わるから、明日には返すよ……」俺は今でも彼女の強気な態度に少し怖気づく。


 「いいよー、もし嘘だったらミラグリーンおごりね!」


 俺は思わず唇をきゅっと閉ざした。さっきミラグリーンを飲んだばかりだなんて、バレたらまた殴られかねないからだ。


 「うん……あ、そうだ。これ、今日の午後に借りたやつだから先に見てみなよ。」俺は腰のポーチから本屋で借りてきた雑誌を取り出した。ヘシは表紙を見るなり、まるで獲物を見つけたかのように、すぐに俺の手から奪い取った。


 「わぁ!これ、最新の航空機雑誌じゃん!ちょっと見せて……今回の特集は西方大陸――セントラスの最新型航空機か。ありがとう、ビクトール!」ヘシは本を抱きしめて、飛び跳ねるように喜んでいた。


 その後、俺はジャスミンおばさんとヘシ母娘と少し雑談を交わした。空はますます暗くなり、丘の上からでも海岸に打ち寄せる波の音が聞こえてきた。どうやら、今日の海はかなり荒れているようだ。



 「おばさん、ヘシ、じゃあ僕は先に行くね!じゃあね!」

 「気をつけて帰るんだよ!」

 「うん、バイバイ!」


 頭上の時計の長針は真下を指していた。そろそろ家に帰って料理の準備をしないと。



 磁気浮上バイクに跨り、エンジンをかける前に、バイクが突然揺れ始めた。ふと見ると、すぐ近くの斜面の上に強烈な光が現れ、黒い夜空を昼のように明るく照らしていた。これは、空気中に磁気が充満しているためにしばしば発生する小さな雷光とは違い、この磁鉱山脈でさえも異常な規模だった。


 好奇心に駆られた僕はすぐに磁気浮上バイクを発進させ、ためらうことなくさっき見えた光の方へと向かった。バイクを降り、視界を遮る草むらをかき分けると、一筋の光が僕を襲った。


 「うわっ!」光があまりにも眩しくて、目を開けられない。バイクも倒れてしまった。

 本能的に目を開けてはいけないと感じた!この恐怖に似た直感が好奇心を完全に打ち消した。


 強烈な光のほかに、耳障りな鋭い音がかすかに周囲で反響し、同じリズムで自分を襲ってくる。

 「何が起こっているんだ!」耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じても、その不快感は止まらない。吐き気に襲われるが、何も吐き出せない。ただ乾いた咳が続く、まるでひどい風邪をひいたかのような感覚だ。


 約五分ほど経つと、音と光が徐々に弱まり、その源が離れていくのが感じられた。僕は草の上に倒れ込み、めまいに苦しんだ。

 ようやく目を開けた瞬間、再び光と音が同時に襲いかかってきた。

 「うわぁっ――一体これは……うぅ……」さらに強烈なめまいが脳をかき乱し、吐き気がますます激しくなった。もう立つことさえできない。

 「御和……ヘシ……大丈夫……か……」目の焦点がぼやけ始め、意識が薄れる前に、音波が全身を貫き、体がまるで沸騰するかのように震えた。


 「トラン……」

 バイクから落ちたケーキの箱。中のカラフルなケーキは四散し、土埃にまみれていた。あの馴染みの味をもう一度楽しむことはできなくなってしまった。


 あの夜から、僕たちの歩みはもう止まることはなかった。もしあのとき、あの運命の光に向かっていかなければ、世界は違う道を歩んでいたのだろうか。

 だが……回り始めた巨大な歯車はもう止められない。


 これはすべての始まりに過ぎないのだから。




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