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第95話 栄光の十六人 3

 九十四階層の開けた場所でパパさんが休憩にしてくれた。


 ここまで一気に来たから、さすがに疲れたわ。頑張ってくれた息子達をママさんが褒めてくれてる。


 だらしない旦那も、さすがにダンジョンに入ると顔付きが変わる。先頭に立ってモンスターを蹴散らした。


 それに引き換え。


『ちょっと! マル! あなた今日何もしてないじゃないの!』


 座り込んで欠伸をする、ボンベイのマル。この子は子猫だった頃から、気が乗らないと動かないんだから。


 ダンジョンに通うようになってから尻尾の数が増えたり体が大きくなったりしたけど、性格は何も変わってない。


『今日はそういう気分じゃないの』

『気分じゃなくてもパパさんが決めたんだから働きなさい』

『え、やだ』


 これだから猫は嫌なのよ、パパさんとママさんの言うことは絶対なのに。


 ちらりと反対側を見ると、同じようにだらしない格好で寝そべるメインクーンのマロンがいる。


 この子もすっかりライオンみたいに大きくなったけど、我が家に来た時からルールをちっとも守らない。

 いつでも自由気ままに家の中を走り回る。


 体が一メートルしかなかった時も大変だったのに、二メートルを超えた今でも同じように家中をうろうろ歩き回る。


 この子はマルよりは働いていたけど、うちの子達と比べると殆ど動いていないようなもの。


 これだから猫は。


「みんな、今日のおやつはムサシが送ってくれたお肉で作ったローストビーフだよ」


 パパさんが【収納】からお皿を取り出すと、マルが真っ先に駆け寄った。

 本当に。だから猫は。


     ◇


 世界にダンジョンが出来た時、私達はまだそのことをよく理解していなかった。

 いつもの散歩コースの要所要所で何とも言えない嫌な違和感はあったけれど、何が起こっているのか全くわかっていなかった。


 そんなある日、隣の家に貰われて行った息子のムサシが、隣の坊っちゃんと訪ねて来た。


『父上、母上、兄上達。お別れにございます』


 人間の言葉を喋ったことも驚いたけれど、一番衝撃だったのは外見がまるで狼のようになっていたこと。

 狼を見たことはないから、その時は別人のようになったと思っただけだったけれど。


 パパさんとママさんはムサシの変わり様に、隣の坊っちゃんに根掘り葉掘り事情を尋ねて、そして何かを決意したようだった。


 そこからは地獄のトレーニングの日々。

 パパさんとママさんは、旦那と私を連れて毎日ダンジョンに潜った。


 すると不思議なことに、レベルが上がるにつれ、体が少しずつ変化した。

 一年もすると、あの時挨拶に来たムサシと似たような外見に近づき、二年が過ぎる頃にはほぼ紀州犬には見えなくなった。


「無理させてごめんな。お前達、もう若くないのにな」


 パパさんは毎日、旦那と私を撫でながら謝った。

 この時、旦那は十二歳、私も十三歳になっていた。


 何かがおかしいと気づいたのはママさん。それから五年経っても、旦那と私は変わらずダンジョンに通っていたから。

 この時点で、紀州犬の平均寿命はとっくに越えていたらしい。


 長生きしてくれて悪いことはない、ってパパさんは呑気に笑い飛ばした。

 更に五年が過ぎて、さすがにもう無視できなくなったママさんは、隣の坊っちゃんに連絡を取った。


 そこから世界中の探索者協会が研究を開始した。何年も調査を続け、今年、やっと結論が出た。


 ダンジョン産の食材を摂取し続けると老化が緩やかになり、寿命が最大三倍になる。


 遠くに引っ越したムサシだったけれど、毎月欠かさず、ダンジョン産の食材を家に送ってくれた。

 パパさんもママさんも食べた。旦那も私も、子供達も。


 旦那と私に続いて、子供達もダンジョンに通うようになり、皆の外見が変わった。

 私は今年で二十九歳。去年、ランクがSになり、スキル【不老】を取った。

 パパさんとママさんも、同じスキルを取って若返った。


 それと、この六年の間に、我が家には新たに猫が二匹やって来ていた。

 細くて黒い猫、マル。茶色で毛が多めの猫、マロン。


 私達と同じようにダンジョンに通い、ボンベイは黒豹のような姿に、メインクーンはライオンのようになった。


 倍以上の大きさになった皆を見て、パパさんは感慨深そうに呟いた。


「みんな立派になったなあ。ムサシが見たら驚くよ」


 涙ぐんでいたパパさんだったけど、ムサシの名前を口にした途端、急に顔色を変えた。


「あれ……ムサシに、ジョンとミルクがまだ生きてるって知らせたっけ?」


 ムサシは、もしかしたら私達がとっくに天に召されたと思っているのかもしれない。

 でも私達がいてもいなくても、出来の良すぎるうちの息子は、坊っちゃんのそばで坊っちゃんの為に働くだろうから、わざわざ教える必要はないんじゃないかしら。


     ◇


『ちょっと、マル! それマロンの分よ!』


 ちょっと目を離して昔を思い出していたら、マルがふたり分のおやつを平らげるところだった。


『いらないんじゃない? 寝てるわよ、あいつ』

『マロン! ダンジョンで居眠りしないの!』


 ライオンみたいになったからって、動物園のライオンと似たような行動を取っちゃだめよ。

 

 慌てて大きな体を前足で揺らす。だめだわ、全然起きない。


『もったいないから私が貰ったの。あー美味しい』


 猫が猫のエサを盗むだなんて。これだから猫は。


『働きもしないでおやつだけ食べるんじゃないわよ! だいたいパパさんの前でだけ語尾にニャってつけるのもいい加減やめなさい!』

『人間はそういう話し方すると喜ぶのよ、あんたもワンってつけて話してみたら?』


 喋りながらずっとマロンのおやつを食べ続けている。猫はこれだから。


「おまえたち、そろそろ行くよ」

『はーい、パパさん。おやつ美味しかったニャー』


 本当に、腹が立つ。だから猫は嫌なのよ。


『マロン、行くわよ!』


 マロンをどうにか叩き起して、出発しようとした時。

 一瞬だけ視界に入った人影。

 すぐに消えたから、見えたのはコンマ何秒か。


 舐められちゃ困るわ、こっちは犬と猫よ。一瞬でも、ちゃんと何がいたのかわかってる。


『パパさん! スケルトンよ!』

「え!? この階層に!?」


 このダンジョンには週に一度は通っているから、どの階層に何が出るかは皆が把握してる。

 ここにはスケルトンなんて出ないはずなのに。


『おばあちゃん! こっちよ!』


 姿が見えなくなったと同時に気配が完全に消えた。スケルトンが【隠形】使うなんて。

 もっと信じられないのは、私達の五感はおろか、【気配察知】にも何の反応も無いこと。

 スキルレベルが私達の想像を越えている。


 それでも勘で動いた孫の一匹が何かに噛みついた。

 手応えありね。さすがはムサシの姪っ子。


 噛まれたことで観念したのか、突然姿を見せるスケルトン。

 作業服にヘルメット、ピッケルを持っている。

 そして手首に探索者証。


「……キナコ、離してあげなさい。誰かの眷属だ。モンスターじゃないよ」


 眷属に変な格好させてる探索者が近くにいると思うんだけれど。人間の匂いはしない。


「君のご主人はどこかな?」


 パパさんも困った様子で話しかける。迷子かしら。


『………』


 スケルトンは無言で、下を指差した。


「……え、下の階層? 君、置いて行かれたの?」

『………』


 無言のまま首を横に振る。そして背後を振り返り、何かのハンドサイン。

 同時に、フロア内に次々と姿を見せるスケルトン。その数十五体。

 こんなにいたの? まったく気配を感じなかったわ。


 全員、ヘルメットに作業服。ツルハシを持ってる個体もいる。


「……えーと、何か掘り出すために残ってる、のかな?」


 パパさんの問いかけに、全員が大きく頷いた。

 そしてマロンの背後の壁を指差す。

 つられて目を向けた先は、少しだけ岩肌の質感が違う。

 

「……何が採れるんだい、ここ」


 長い間通ってるけど、私達も知らないわ。

 スケルトン達は顔を見合わせた後、【収納】からこぶし大の岩の塊を取り出した。


「これ……?」


 何だかわからないから【鑑定】で見ると。


 名称:オリハルコン

 分類:稀少迷宮鉱石

 用途:鍛冶素材 錬金術素材 建築素材

 取扱可能レベル:

 【採掘】Lv.500

 【鍛冶】Lv.500

 【錬金術】Lv.500

 【建築】Lv.500


 掘り出すだけでスキルレベルが500も必要な物。

 このスケルトン達、何なのかしら。パパさんは全く動揺していないみたいだけれど。


 パパさんはスケルトンの手に乗せられた鉱石をしばらく見つめた後、顔を上げ、笑いかけた。


「そうかそうか……作業の邪魔しちゃ悪いから、もう行くよ。頑張って」


 私達を促し、通路の奥へ進み始める。


『パパさん、あいつら放っておくの?』


 駆け寄った孫のキナコが不思議そうにパパさんに尋ねた。


「何十体ものスケルトンを従える探索者なんて、そう何人もいないんだよ」


 通路を進みながら、パパさんはキナコの背中を撫でる。

 そうして口元に人差し指を当て、片目を閉じて微笑んだ。


「あのスケルトン達のご主人は、隣の圭悟けいごくんのお友達だ」

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