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第71話 紫紺の暗殺者 21

 カフェバーのような部屋には、隅の方に二階へ続く階段が設置されていた。


 あの先も客席があるのだろうと深く考えていなかったんだが、ボーイに案内されて昇った先はたくさんの扉の並ぶ長い廊下だった。


「ゲストルームになっております。お好きな部屋をお使いください」


 SS(ダブル)の【居室】、スケールが違う。


「廊下の奥の階段を降りられますと、昼用の応接室に出ますので、朝食はそちらでお摂りください」


 応接室に昼用と夜用があるって何なんだ。

 適当に一番手前の部屋を選ぶと、すぐにメイド服の女性がパジャマと明日用の服を運び込む。


「ダグラス様が五年前からご用意されていたものです。お使いください」


 あのオネエデザイナー、靴だけと言いながら俺の服も作っていたのか。代金、いつ払えばいいんだ。

 その前にこれ、普通の服なんだろうか。実は戦闘服とかじゃないよな?


 それを尋ねると、メイド服の女性は首を振る。


「金銭的なお話は明日、主様に。今それを知ってしまうと、眠れなくなるおそれがございます」

「え、それどういう……」

「では」


 質問を受け付ける気はないらしい。隙のない動きで部屋から出て行ってしまう。

 絶対にあのメイドも、俺よりレベルが高い。


 服の代金といえば、戦国時代コスプレの衣装代もまだ支払っていない。いろいろと気になったが、久しぶりのベッドとふかふかの布団のお陰か、泥のように眠ってしまった。

 実に八時間も。


     ◇


 寝過ぎた結果、朝食は一人で摂る羽目になった。

 食事中、初めて見る顔の執事服の壮年の男性に黒太刀くろたち銀剣ぎんつるぎの所在について尋ねると。


「お二人とも、王城の方におられます」


 王城。

 意味がわからず首を傾げる俺に、執事風の男性が説明してくれたのは。


「雑賀様は、我々が城ごと迷宮内にいたことはご存知かと。その王城も、現在この【居室】に納められております」

「城ごと、って……比喩じゃなかったんですか……」


 千五百人収容可能な、馬鹿でかいお城が【居室】の中に設置されている。

 起きたばかりだが、強めのアルコールが欲しい気分になる。


 ついでにずっと気になっていたことを聞いてみるか。


「城ってことは、王様もいらっしゃったり?」


 まだ見たことはないが、多分いるんだろうな、この場合。


「いえ、王はここには。……城と民を守る結界を維持するため、結界の外へ出られましたので」


 僅かに表情が曇る。が、俺のカップにコーヒーのおかわりを注いでくれる手は止まらない。


「結界は最終的には拳ほどの大きさの球体となり、王の懐に。王の所有物扱いとなった為、王が亡くなられたと同時に我々も屍に。王は現在も、主様の本拠地の百五十階層ボスとして彷徨っておられます」

「え、眷属になってないんですか……?」


 執事風の男性は小さく頷いた。


「正確には、アレは王ではごさいませんゆえ。王の身体と魂を模した、迷宮の一部。我等は結界内にいたため、迷宮に取り込まれることなく存在しておりましたが、本物の王の器と魂は迷宮に取り込まれております」


 取り込まれる。

 聞いてはいけない話に、踏み込んでいるような気がする。

 俺の反応が無いにも関わらず、執事風の男性は先を続ける。


「階層ボスは、初討伐の際にだけ特殊なドロップ品が出るのはご存知ですね? 王の場合、我々と城を内包する球体がそれでした」


 占いでよく見る大きさの水晶玉くらいか。執事風の男性の両手がおおよその形を示す。


 しかし。

 それを全部そのまま眷属にできる黒太刀のレベルが、俺の想像を越えている。


「仮に、王の記憶を持つあのモンスターと契約を結んだとしても、主様が部屋を出た瞬間、また同じ王の写し身が作られる。我々はそれを望みません」


 だから、ここに王様はいない。結界の外で亡くなった他の人達も同様に。


「ただ、王太子は中におりましたので、城におりますよ。お会いになられますか?」


 王子様はいるらしい。


「いえ、大丈夫です……」


 謁見の作法とか知らないので。そもそもこの執事風の男性も、本来の役職は何なんだ。聞いたら後悔するような要職だったりするんだろうか。


 そんな俺の視線に気づいたのか、男性は笑顔で敬礼をする。


「これは失礼を。私、オリヴァーと申します。軍部の所属ではございますが、既に一線を退いた身。こうしてお客様のお相手をするのが好きでして、時折、執事の真似事をさせていただいております」


 退役軍人だった。

 絶対、勲章とかたくさん貰ってるタイプだ。


 俺もいつか、こういう団体と一括契約する日が来るんだろうか。

 考えると頭痛がしそうだ。俺は無言でコーヒーを啜った。


「お食事がお済みになりましたら、城の方へご案内いたします。主様がお待ちです」

「はい!」


 待たせているのなら早く言ってほしい。俺は一気にコーヒーを飲み干し立ち上がった。

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