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第59話 紫紺の暗殺者 9

 緊張しながら、食堂の入口をちらりと見れば。

 本当にいた。

 五年前と何も変わらない。あの人だ。


 肩までの黒髪。長いヒラヒラしたスカート。そして、相変わらずバッグを持たずに手ぶら。


 自分の心臓の音が耳の奥に響く。自分の鼓動がどんどん早まるのを感じ、深く、でも小さく深呼吸。


「よう、くろ。正月ぶり」


 軽く片手を挙げ、黒太刀くろたちを迎える銀剣ぎんつるぎ


 俺今、SS(ダブル)が二人もいる場面に遭遇してる。

 その前に、SS(ダブル)に二度も命を救われた探索者なんて俺くらいかもしれない。


「なぜぎんが仮面を外して雑賀さいがの前にいるのかをまず聞きたい」


 俺の隣に座るなり、銀剣に詰め寄る。

 なぜ自然にこっち側に。普通、銀剣の横じゃないのか。

 更に動悸が激しくなる。


「こいつ【誓約】で何もできねぇだろ。問題あるか?」

「世の中の探索者の大半は銀を騎士だと信じている。夢を壊すな」


 さすが自分の仲間。いきなり辛辣だ。


「遅かれ早かれわかることだろ。それまでまともに話も出来ねぇのかよ」


 まあ夢の半分は、レイピアではなく大剣携えて登場した時に覚めたようなもんなんだが。


「過ぎたことは仕方がない。それで、何をしようとしている? 無茶なレベル上げは楠木くすのきに禁止されているだろう?」


 楠木くすのき圭悟けいご

 職員の研修で知った協会本部長の名だ。もちろんこれも【誓約】の対象になっている。


 本部長を呼び捨てにしていることも気になるが、本部長から直々に禁止令が出されるってよほどのことだと思う。


「やらねぇよ。楠木がマジ切れするだろ。俺が頼みてぇのは、こいつの服だ、服!」


 俺に指を突き付ける。

 服?


「こいつまだ『往日の試練』受けてねぇんだよ。行き先がやばそうだから、せめて溶け込めそうな服用意してやりてぇ。それくらいならいいだろ?」


 確かに現代の洋装では、珍妙な装いの怪しい男、になる可能性はある。


「どこに行くのかもわからないのにか?」

「逆におまえ、こいつだったらどこに飛ばされると思う?」


 質問に質問で返されたが、黒太刀は迷わず即答。


「忍びの隠れ里」


 貴女もですか。

 なんだかもう、俺の行き先は決定しているような気がしてきた。


「だろ?」


 意見が一致したからか、銀剣は機嫌良さげに微笑む。


「ダグラスに確認する」


 確か、黒太刀の【居室】に住むオネエ言葉のデザイナーだったか。


「その前に雑賀、まだ【不老】を取っていなかったのか」


 唐突にこちらを向き直る、でかいキラキラの瞳。

 心臓に悪い。


「……はい」


 言い訳がまったく思い浮かばない。五年もあったのにまだ踏ん切りがつかない、優柔不断男だと認識されたんじゃなかろうか。


「雑賀、そんなに結婚がしたいのか」


 いえ、そういうことではなくて。


 確かに俺は、あの時結婚できなくなるとか言ったが。会話の内容を覚えていてくれたことが嬉しいような、そこじゃないと反論したいような。


 言葉に詰まる俺をどう思ったのか、銀剣が溜息混じりに助け舟を。


「おい、黒。この齢まで独身なんだぜ? 察してやれよ」

「何をだ?」


 俺も聞きたい。何をだろう。


「だから、こいつが狙ってんのは、おま……」

「違いますよ!」


 銀剣が何かとんでもない勘違いしていることがはっきりした。

 俺にとって黒太刀は目標だ。可能ならば友人になりたいと烏滸おこがましいことを考えてはいるが、断じて男女のそういう仲になりたいというのとは違う。


「おい、紫紺の暗殺者。だったら、ぐだぐだ言ってねぇでさっさと若返れ。修行の旅をしてそうな見た目じゃねぇと、怪しまれて一発退場だぜ?」


 俺にも言い分はある。

 突然俺が若返ったら、この付近のダンジョンで顔を合わせる探索者達に、俺のランクが実は(シングル)だということが知られてしまう。

 そこから芋づる式に、俺の二つ名まで知られたら。

 この恥ずかしすぎる二つ名を呼びながら挨拶なんぞされた日には、俺のメンタルが保たない。

 今も、銀剣から紫紺の暗殺者と呼ばれるたびに、俺の中の何かがどんどん削られているというのに。

 いったい誰なんだ、俺にこんな二つ名をつけたのは。


 俺がつらつらとそれを説明すると、何故か二人が顔を見合わせる。


「あー……そっか。取ってねぇから知らねぇのか」

「楠木が情報を出し惜しみするせいだろう」

「教えちまっていいのか、これ。あ、【誓約】があっから問題ねぇか」


 何か二人で神妙な面持ちで相談した後。


「あのな、紫紺の暗殺者。見た目を偽装するスキル、あるぜ?」

「は?」


 偽装?


「派生スキルが付いてくんだよ、【不老】には。【幻影魔法】っつって、魔力をやたらと使うから燃費悪ぃんだけどな」


 は?


 絶句する俺に、黒太刀も畳み掛ける。


「私達の眷属は殆どがスケルトンだが、外に買い出しに行く時には人間に見えるよう、幻影魔法を使っているぞ」


 スケルトンに買い出しに行かせてることの方が気になる。が、今聞かなければならないのはそこじゃない。


きんは幻影魔法使って眷属と飯食いに行ってんな」

あかから聞いた話では、千手アルテミスは幻影魔法を使って、以前の老婆の姿で店に立っているらしい」


 つまり。


「俺らには実年齢に偽装して行くような場所がねぇから使ってねぇだけだ。魔力の無駄遣いもしたくねぇし」


 協会で顔を見せる時だけ、偽装すれば良い?


「……もっと早く教えてくださいよ、そういう大事なこと」


 なんだろう、ここ数年の悩みの幾つかが全部どこかに吹っ飛んで行った。

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