第56話 紫紺の暗殺者 6
山積みのドロップの横で、俺はいつかのおっさんと同じように必死に頭を振る。
あの時はおっさんに交渉を丸投げしてしまったが、こんなに大変な思いをしていたのか。今更だが、おっさんに悪いことをしたと気づく。
俺はただ小さな水鉄砲を撃っただけ。何でも好きな物を持って行け、という仕草を見せられても困る。
俺が断ると、銀剣はすぐにドロップの山を振り返った。
掌を下に向けると、小山のように積み重なった中から、何かが飛び出した。
無機物を引き寄せるって、これは何のスキルだろう。俺のスキルリストには無さそうだが。
飛び出したのは短剣六本。
まとめて片手で受け止めた後、銀剣はその中の二本だけ選び、残りはまたドロップの山に無造作に放る。そして俺にそれを突き出した。
うわ。いちいち仕草が洗練されている。
ただ短剣を俺に差し出しているだけなのに、この人がやると厳かな式典のような空気が流れる。
これは断れない。
場の雰囲気のせいではなく、銀剣が選んだのが短剣だからだ。
最初に手元に引き寄せた時、短剣は六本。そこから銀剣が捨てたのは、赤い短剣二本と青い短剣二本。
そして、俺に差し出したのは、紫の短剣二本。
さっきまで俺が使っていたのと同じ色味を選んで、俺の主武器である短剣を渡してくれた。
そこまで気を遣って貰って、断るわけにはいかない。
「ありがとうございます、銀さん」
両手でしっかりと受け取り頭を下げた。
新米騎士の叙任式のようなやり取りになったが、幸い誰にも見られてはいない。
受け取ったところでつい癖で【鑑定】。
成長武器で現在のレベルは一。二本で一対の双剣。最大六本の分身技が使用可能。って、まんまあの巨人の腕の数。
武器自体に【剛腕】と【物理防御】、【魔法防御】のスキルが付いている。スキルが3つも付いている武器は初めて見た。
それよりも、成長武器って。
存在していることは知っている。協会主催のオークションに毎週出品されているから。
ゼロが七つもついている高額商品なので殆ど誰も手を出さない。たまにどこかの企業や大手チームが購入しているとは聞くが、個人で買うような物じゃない。
核モンスターからは成長武器が出る、と考えて良いのなら、十年前のあの時に武器の譲渡を断ったのは正解だった。俺達には分不相応過ぎる。
好奇心に負けて、紫色の鞘から引き抜いてみる。
刃まで紫。認めたくないが、これは間違いなく紫紺ってやつだ。
なんでだ。核モンスターまで俺を『紫紺の暗殺者』に仕立てようとしている。
納得いかないまま鞘に納め、【収納】に入れる。
それを確認し、銀剣は残りのドロップに掌を翳した。一瞬で全部が消える。
触らずに【収納】に入れられる機能、早く俺も欲しい。
一方で、羨ましそうに見つめる俺に構わず、銀剣は何も無い中空を眺めている。【地図】でも見ているのか。
そして徐ろに俺を振り返ると、「着いて来るように」と言いたげな仕草で促し、姿を消す。
いや待て待て。無理無理無理。
銀剣を認識できない。
気配もない、姿も見えない。目の前にいるはずなのに何も感じない。
ランクSSの使う【隠形】、凄すぎる。
「待って、銀さん! 見えません!」
はぐれたら後で怒られる気がする、なんとなくだが。
俺は必死に叫び、いるはずの銀剣に訴える。
すると。
気のせいかもしれないが、舌打ちのような音が聞こえた。あの貴公子の口から「チッ」なんて音がするはずがないから聞き間違いなんだろうが。
何かに俺の腕が掴まれ、強制的にステータスボードが表示される。
Member:銀
SSにパーティ登録して貰えた探索者って今までに何人いただろう。
ものすごく嬉しい反面、名前は想像通り【複数名称】のアレ。今まで忘れていた今日一日の疲労が一気に襲って来る。
パーティメンバーになったお陰で、銀剣の姿を認識できるようになった俺に「こちらへ」の仕草で促し、すぐさま飛び立つ。
待って。速い。【飛行】のレベルも違い過ぎる。
そんな高速で飛んだら壁にぶつかる。その前に銀剣を見失う。
レストエリアから出た銀剣は、二十三階層へ降りるつもりらしい。真っ直ぐに階段のある通路を進んでいる。
パーティメンバーの現在位置なら、俺の【地図】でも表示可能。どんどん引き離されてはいるが、辛うじて見失わずに済んでいる。
その行く手にいたモンスターを示す光点も、次々に消えて行く。蹴散らして進んでいるのか、一切減速は無し。
銀剣が【隠形】を使っているのは、まだ通路に他の探索者が残っている可能性を考えてのことだろうから、俺も自分の【隠形】を使う。
もしかしたら銀剣の【地図】にはフロア内の探索者の位置も表示されていて、確信を持って姿を隠しているのかもしれないが。
気づけば銀剣は階段に到達。そのままパーティメンバーの光点は消える。下に降りたからだ。
遅れること数十秒、二十三階層に降りた俺の【地図】には、今度は二十四階層への階段前で停止する銀剣の位置が表示される。
これやばい。待たせてる。
必死に飛ぶと、またすぐに【地図】上から銀剣が消える。俺が来たのを確認してから下に向かったらしい。
これを繰り返し、俺は肩で息をしながら二十五階層のボス部屋の前に辿り着く。今日イチ疲れた。
扉を開け、既に中で待っている銀剣の姿を探す。階層ボスはとうに倒しており、中にいたのは銀剣だけ。
倒すところ、見たかったな。いや、俺が遅いから仕方がないんだが。
非常に申し訳ないことに、ここに来るまでの間に銀剣が倒したモンスターの経験値が俺にも分配されている。
普通なら、こんな低層のモンスターを何体倒しても今更レベルが上がることはない。でも何故か俺のレベルが一つ上がっている。
前にもあった。レベルが異常に上がる現象。
もう間違いない。SSは何か、経験値に影響するスキルを持っている。
俺が追いついたので、銀剣は奥の転送装置のある扉を開く。
地上へ戻るのなら、二十階層の転送装置の方が近かったと思うんだが。
ずっと【隠形】を使ったままの銀剣に促され、俺も転送装置に乗り込んだ。
俺、どこまで同行すればいいんだ、これ。




