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第55話 紫紺の暗殺者 5

 伸びた背筋。ゆっくりと歩を進める姿が何とも言えず優雅。

 SS(ダブル)で最も高潔な男。


「……銀剣ぎんつるぎ?」


 俺が知っているSS(ダブル)黒太刀くろたちのみ。

 残りの四人の通り名を思い出す。

 青鎚あおつち金棍きんこん、は違う。名前からして打撃武器を使う二人だ。

 赤槍せきそうも違う。多分、槍だ。

 消去法。

 剣って、大剣のことだったのか。


 俺、物語の王子様が持ってそうなレイピアみたいな細身の物を想像してた。


 思ったよりごつい物をぶら下げて登場したことで度肝を抜かれ、失礼にもついじろじろと上から下まで不躾に見つめてしまう。


 そんな俺の視線に気づいていないはずがないのだが、銀剣は気にした素振りもなく、俺の前に立ち。


 無言で空いている方の左手を差し出して来た。


「………」

「……ありがとうございます。……ぎん、さん」


 黒太刀の例にならって、多分これだろうと思われる呼び方で銀剣に声を掛けてみた。

 勿論、何の反応もない。


 手を掴み立ち上がってみれば、俺より十センチくらい背が低かった。意外と小柄。遠目にはもっと高く見えたのに。


 そのまま無言で、左のサイクロプスの方に腕だけ伸ばし、人差し指で指し示す。

 頼むから喋ってほしい。今はジェスチャーゲームに時間を取られている場合じゃない。


 想像だが。

 

「……俺にあれをやれ、と?」

「………」


 頷いてくれた。

 サイクロプスは残り四体。それと核モンスター。

 全部をまとめて相手にするより分業の方が効率が良いのか、俺に分け前を与える口実の為か。

 SS(ダブル)が割とお人好しだと、黒太刀で知っている俺としては、後者が正解なんだろうと、なんとなく思う。


 こういうところ、黒太刀と同じで嫌いじゃない。


 俺は短剣を構え直し、左のサイクロプスに向き直った。


 普通の探索者がこの場に十人残っていたとしてもぎりぎりだったろう戦闘。

 それがSS(ダブル)一人に変わった。楽勝。


 本当は噂の銀剣がどんな戦い方をするのか見学したいんだが、俺がサイクロプス一体を倒す頃には全部終わってるんだろうな、きっと。


 銀剣を見たいというとんでもない雑念が起爆剤になった。俺は迷わず跳び上がり、サイクロプスの一眼に【風魔法】を叩き込む。

 目を奪われ、叩き潰すはずの俺の位置を見失ったサイクロプスが振り回す腕を掻い潜り。

 両手の短剣二本を同時に首元へ突き立てた。


 着地し、すぐに後ろを振り返る。


 そこに三体のサイクロプスはもういなかった。

 どうやって潰したのか見たかったが、やっぱり間に合わなかったか。


 銀剣は六本の腕の射程範囲内の空中を飛んでいた。

 援護、多分いらないんだろうが。


 何もせずに見ていることしかできないようでは、いつまで経っても黒太刀には近づけない。


 せめて友達と呼べるようなレベルに、いつかなりたいと思ってこの五年鍛えて来た。


 黒太刀の仲間の前で情けない姿を見せるわけにはいかない。


 付き合っている彼女の実家に行って父親に「お嬢さんをください」と言う男の気持ちが初めて理解できた気がする。


 違うか。

 偶然道端で彼女のお兄さんに会ってしまって格好つけようとしている男、の方が近いな、これ。


 まだ残っている魔力を全部注ぎ込み、一番スキルレベルの高い【水魔法】を使う。


 右側の腕三本の付け根を目掛け、水のベールを噴射。細く。速く。


 狙った位置に着水。ただし、腕を付け根から弾き飛ばすことはできなかった。

 普段より防御力が高いのか。

 それでも腕の動きはやや鈍った。


 おそらく銀剣にはそれでも事足りた。

 いつのまにか右側に廻り込み、そのまま大剣で太い首を横薙ぎに。

 それで全てが終わった。


 ゆっくりと【浮遊】で俺の前に降りた銀剣は、でかい大剣を消した後、自らの胸に片手を当て、一礼。

 何だろう、騎士のように様になっている。こんな仕草を自然に出来る現代人が世の中にいるのか。


 気圧されそうになったが、この男は自分達のチーム名を『仮面集団』にするような絶妙にダサいセンスの持ち主だ。


 見た目のイメージほど取っつきにくい人間ではない、はず。

 とりあえず何か声を掛けるべき。

 だが何て?


 第一声に迷っていると、銀剣に向かって飛来する細々した何か。


 魔力結晶✕三。棍棒✕三。眼球ネックレス✕三。同じ眼球デザインシリーズの指輪と腕輪も三つずつ。


 SS(ダブル)のドロップ品が多い理由。今、分かった気がする。

 スキルがあるんだ。まだ俺のリストには載って来ない、出る可能性のあるドロップを全て排出させるようなスキルが。


 それらは銀剣の身体に吸い込まれるように消えて行った。


 これも、高過ぎるスキルレベルの為せるわざ。【収納】に自動でドロップを回収する機能がきっとある。

 絶対に、その機能がある。いつか俺にも開放されるだろうか、その便利機能。


 続いて飛んで来た小山のようなドロップ品の塊はおそらく核モンスターの物。

 

 同じように銀剣に吸い込まれるかと思ったそれは、銀剣の掌が向けられたことで空中でピタリと止まり、一メートル手前で一気に地面に落ちた。


 あ、これも既視感。

 次に何が起こるか、俺は知っている。

 予想に違わず、銀剣はその小山に片手を向け。


 いつか見た、黒太刀の姿と重なる。


 あの時と同じ、どうぞ、のジェスチャー。


 これ、前の時はどうやって断ったんだったか。


『核モンスター討伐を確認! 氾濫現象収束! 氾濫現象収束!』


 ダンジョンに響き渡る職員の【拡声】の中、俺は天を仰いだ。

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