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第36話 見習い職員 7

 爽やかなイケメンから「カクテルでもお作りしますか?」と促され、絶句していた俺は現実に引き戻される。


「……テキーラ、ください」

「ライムはお付けしますか?」

「……お願いします」


 気付け薬というわけでもないんだが、とりあえず目の覚めそうな物を頼む。

 きっと黒太刀くろたちもそうだと思うが、既に俺は酒で酩酊状態になることはない。育ち過ぎた【状態異常耐性】が今年に入って【状態異常無効】という派生スキルを生み出したせいだ。

 

「……何人、いるんです?」


 イケメンのボーイが酒を持って来るまでの間、向かいに座る黒太刀に尋ねる。

 深く突っ込んではいけないエピソードが幾つも並べられた結果、比較的当たり障りの無い質問をするしかなかった。


「千五百六十三人だ。それと居候が二人」


 答えは、想像通り。桁が異常。

 千五百人を収容できる【居室】。

 千五百人と契約出来る【眷属】。

 スキルレベル、幾つだ。


「お待たせ致しました」


 全く待っていないが、俺の前にロックグラスが置かれる。

 いや、普通、一口で飲み干せるショットグラスに入れるんじゃないのか。


「失礼かとは存じますが、雑賀さいが様のお持ちのスキルから、この程度の量は必要かと。少なければ二杯目はもう少し大きめのグラスをご用意致します」


 ジョッキで持って来なかっただけましだったらしい。


「他にも、探せば似たような形でダンジョンに取り込まれた国がある。機会があれば契約するといい」


 俺は【眷属】をそもそも持っていないし、千人単位での契約は不可能だ。それ以前に千人収容できるほど俺の【居室】は広くない。


「国って……」

「異世界の国、なんだろうな」


 俺の探索者人生の中で、一番ファンタジックな単語が黒太刀の口から出た。


「異世界って……」


 そんな馬鹿な。

 駄目だ、ロックグラスのテキーラを煽った程度ではこの俺の混乱は収まらない。

 すぐにボーイが二杯目を持って来た。本当にジョッキで。


「突然ダンジョンなんていう理解できない物が湧き出したんだ。中のモンスターはそもそも異世界産だろう? 異世界の住人がモンスターとして取り込まれていたからと言って、今更驚くこともあるまい」


 ジョッキに口を付けたタイミングで、不意に俺の頭に違う疑問が浮かぶ。


 何故黒太刀は俺にそんな話を聞かせる?


「それ、俺ごときが知っていい話ですか、本当に」

「雑賀様は既に資格を得ていらっしゃる。【不老】が見えているのですから」


 リストに【不老】を表示させたことが、資格?

 何の資格なのか、詳しく聞いてはいけない気がする。


「……もしかして、この先は【不老】を取った人間しか教えて貰えない、とかですか?」


 黒太刀は、何が注がれているのかはわからないが、琥珀色の液体の入ったジョッキを傾け。


「いや? もう少し先まででも問題ない。核心に迫りたければ【不老】を取るしかないが」


 黒太刀は、そんなに俺に【不老】を取らせたいのか。


 ジョッキの中身が半分になった辺りで、俺は両親と妹の顔を思い浮かべる。

 孫の顔は、そのうち妹が両親に見せるだろう。俺は別に、このまま独身でも問題はないような気もする。

 

 いや、そんな言い訳はいらない。


 俺、こうやって黒太刀と話しているのが、なんとなく楽しいんだ。

 無愛想で口数が少なくて、ついでに女性的なところが一切ない話し方も。

 まさかの大喰らいで、時々こっちが恥ずかしくなるくらいストレートな物言いをするところも。


 時々こうして一緒に、酔えないのに酒を酌み交わして、取り留めのない話をして。

 そんな友人になりたいと。

 俺は思ってしまった。


     ◇


 翌日、黒太刀は予定通りに二十四時間ダンジョンに潜った。そしてこの町を去った。


 俺はと言えば、そんな黒太刀の大量のドロップ品の査定に駆り出され、早朝から地獄を見た。


 そうして。


 探索者を辞めるのを、やめた。


 約束の一週間を終えた後、須藤さんに土下座をし、現役続行を伝えた。

 一般の探索者が知ってはならないことを幾つか知ってしまったことが気掛かりだったが、須藤さんはこれを予想していたのか、わざわざ本部から特殊なスキル【誓約】を持つ職員を呼び寄せていた。

 これにより俺は、職員見習いとして得た情報の一切を口外できなくなった。

 協会職員って本当に恐いな、とつくづく感じる。


 家に帰り、夕食時。妹が意を決したように俺に話しかけて来る。


「ねぇ兄さん、それで、これからどうするの?」


 その直前、家族全員が目配せし合いながら、誰が切り出すかを押し付け合っていた事には当然気づいている。

 俺はごく自然に、母の手料理を口に運びながら答える。


「ここで探索者続けることにした」


 再び、家族全員が押し黙る。俺に気づかれないよう細心の注意を払いながら、また視線だけでの攻防。


 負けたのは義弟。


「お、お義兄さん……じゃあずっとここに住むってことで、いいんでしょうか……」

「いや。探索者協会の職員寮の部屋を借りることにした」


 味噌汁を啜る合間に答えると、間髪入れずに妹が叫ぶ。


「はあ? 職員でもないのに?」

「ランクA以上の探索者は、職員寮の部屋を借りる権利が与えられるんだよ」


 椀を置き、漬物に手を伸ばす。

 懐かしい味。たまに食べに来よう。


「……兄さんって、ランクAなの……?」


 そういえばランクの話をしそびれたままだった。


「いや、ランク(シングル)


 家族全員の箸が止まる。

 食卓には静寂。聞こえるのは俺が漬物を噛み砕く音だけ。


 三秒、四秒。五秒。


「はあああああああ?」


 妹の言葉にならない叫びが実家に響き渡る。隣をの家まで少し距離があると、こういう時に迷惑にならずに済むな。


 まあ驚くのも無理はない。ランク(シングル)は、日本国内にはまだ五十人くらいしかいない。


 再び味噌汁に手を伸ばし、啜りながらステータスを表示させる。



 NAME:雑賀さいが たつき

 Lv.1,078

 SP:202,566

 スキル:

 【短剣術】Lv.984

 【時計】Lv.1,121

 【自然治癒強化】Lv.421

 【気配察知】Lv.587

 【身体強化】Lv.525

 【跳躍】Lv.892

 【物理防御】Lv.514

 【隠形】Lv.906

 【加速】Lv.643

 【暗視】Lv.518

 【地図】Lv.1,063

 【水魔法】Lv.474

 【収納】Lv.535

 【居室】Lv.535

 【鑑定】Lv.586

 【爪牙】Lv.192

 【反響定位】Lv.398

 【索敵】Lv.377

 【魔法防御】Lv.366

 【状態異常耐性】Lv.500

 【結界】Lv.249

 【風魔法】Lv.181

 【浮遊】Lv.314

 【幻惑】Lv.115

 【分身】Lv.72

 【飛行】Lv.57

 【状態異常無効】Lv.-

 【闇魔法】Lv.14

 【回復魔法】Lv.6

 【暴食】Lv.1

 【痩身】Lv.1


 去年、レベルが千を越えた時、スキルリストに【飛行】が出た。迷わず取得し、俺は(シングル)になった。

 それからしばらくして、【不老】も表示されるようになった。【不老】はランク(シングル)から取れるものらしい。


 結局、俺は【不老】を取るかどうか保留にしたまま、今日も一日を終えてしまってはいるが。

 黒太刀も、いつか取ればいいと言っていた。

 家族と訣別する覚悟が出来るまで、もうしばらくは。いや、おっさん探索者達の仲間入りをするまで、かな。


 今夜はここに泊まって、明日引っ越そう。

 荷物は全部【収納】に入れたままだ。

 そして、引っ越しを終えたら。

 黒太刀から貰った特殊な革靴で、この町の一階層から始めよう。

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