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第24話 小路町通り商店街 2

「お邪魔します……」


 小声で店にお客様が入って来た。

 まずい、ランキングに夢中になって全然外見てなかった。

 とりあえず笑顔で振り返るしかない。

 それにこの声は知っている。


「いらっしゃいませ! あかくん、久しぶり!」


 ロングコートを着た長身の青年。

 長めの癖毛を後ろで一纏めにして、切れ長の瞳がクール。

 ミステリアスな雰囲気だだ漏れの彼の一番の魅力はやっぱり。


「お久しぶりっす、まどかさん」


 相変わらずの美声。

 背筋がぞわぞわする。


「エクレアとショートケーキでしょ? あとはどれにする?」


 赤くんは月に一度、うちの洋菓子店にやって来る探索者だ。

 普段は別のダンジョンに潜っているみたいだけど、毎月初めにこの商店街のダンジョンに来ているらしい。

 らしい、っていうのは、実際にダンジョンで赤くんに会ったことがないから。

 私達がダンジョンに行くのは夜の一、二時間。赤くんがどの階層にいるのか知ってでもいない限り、遭遇するのは難しい。


「あ、これ新作っすか? 可愛くて美味しそうっす」

「そ。私が作ったの。お父さんのオッケーが出るまで三ヶ月試行錯誤した自信作。ダンジョン産小麦を少し混ぜてるから、是非お一つどうぞ」


 ショーケースの前で楽しそうにしている赤くんは少年のような可愛げがある。

 クールな雰囲気は台無しなんだけど。


 こんな感じでも、職業探索者ってことは結構強いのかな。


「ね、赤くんは武器何使うの?」

「大身槍っすよ」


 そんな長い物を持っている姿は一度も見たことがない。協会に預けてから買い物に来てるのかな。


「槍かあ……ね、今度一緒にダンジョン行かない?」

「え? 俺?」


 きょとんとした顔も可愛い。


「私、先月ランクBに上がったの。六十階層までの単独潜行が開放されたから、狩り場も少し変えないとね」


 ランクが上がった、と聞くと途端に赤くんが満面の笑みを浮かべた。


「本当っすか! おめでとうっす、まどかさん!」


 こんな見た目なのに、中身は少年みたいっていうのは反則だと思う。


「赤くん、もっと深いところまで潜るんでしょ? 一度案内してもらえたらなーって」


 ダンジョン下層でデート。悪くない。


「……俺、次来るの来月になるっす。まどかさんに合わせられなくて申し訳ないっすけど」


 本当に済まなそうに顔が曇る。子犬みたい。


 うん、大丈夫。スケジュールの問題だ。

 私と二人きりが嫌だとか、そういう感じじゃない。だから大丈夫。


「無理言ってごめん。駄菓子屋の澄江すみえおばあちゃんに案内して貰えばいいから、気にしないでね?」


 澄江おばあちゃんは、若い頃に弓道の心得があったせいか、商店街の誰よりも早くランクを上げて行った、私達のエースだ。

 スキルポイントは武術に一切振らず、身体能力を強化することだけに使い、八十代後半とは思えない身のこなしでダンジョンを駆け抜ける。


 普段から店先で手の届く所に弓矢を置いていて、万引きは一切発生していないらしい。

 それを聞いた商店街の他の店も、それぞれこれ見よがしに自分の得物を店に飾るようになった。

 うちの店も、ケーキと一緒にお父さんの愛用のウォーハンマーが並んでいる。


 赤くんは私の手を両手でそっと包み、普段より更に低い声で小さく呟く。


「お詫びに、来月はお土産買って来るっす」


 普通のことしか言ってないのに、口説かれた気分になれた。


「ところでさっき、何見てたんすか?」


 すぐに手を離し、傍らに置かれたままのランキング表に目を移す。残念。


「月間ランキング。お父さん達の宿敵、西倉三番街商店街より順位が良かったの」

「良かったっすね! 三ヶ月ぶりじゃないっすか?」


 赤くんの良い所は、こんなどうでも良さそうな、三ヶ月勝ててなかった、なんてこともちゃんと覚えていてくれるところ。


「赤くんのチームは? 順位どうだった?」

「俺達もいつもと同じ順位だったっす」


 いつも一人で来る赤くんだけど、チームに所属はしているらしい。チーム名はまだ教えて貰えていない。ランキング低くて恥ずかしいのかな。


「お互い頑張ろうね」

「はい! でもまどかさんは一人で潜るんだから、無茶は駄目っすよ?」


 本当に心から心配している、といった様子で目を潤ませる。アンニュイな様子も色気があって良い。


 結局いつもと同じように、ケーキ十種を買った赤くんを見送って、月に一度の交流は終了。


 赤くんの姿が見えなくなったところで、まだ油を売ってた豆腐屋のおじさんが声を掛けて来る。


「なあ、まどかちゃん。いつも思うけど、あいつ、ケーキにしか興味ないんじゃないのかい?」


 赤くんがいる間、完全に空気のように存在感を消していたことは素晴らしい。おじさんの【隠形】のスキルレベルが前より上がっている。

 でも、その忠告は余計だ。


「だろう? 俺もそう言ってるんだがなあ。それにあいつ、年齢不詳で本名もわからないし」

「まどかちゃんと同い年くらいに見えたけど違うのかい?」


 赤くんがうちに買い物に来るようになったのは五年くらい前。

 私はまだ二十代前半で、その頃の赤くんは、少し年上の格好良いお兄さん。

 何故か見た目が全く変わらない赤くんに、私の年齢が追いついたような感じだ。

 待って、このまま行くとそのうち私の方が年上に見えるようになるんじゃ?


「探索者ランクも名前も教えない男なんて、ろくなもんじゃないよ、まどかちゃん」


 本名を知らないのは、教えて貰っていないんじゃなくて、私が尋ねたことがないから。

 ランクも、一度も聞こうとしたことがないから知らないだけ。

 大丈夫、嫌われているわけではないはず。


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