第23話 小路町通り商店街 1
小路町通り商店街のど真ん中にはダンジョンがある。
閉店した居酒屋の跡地に、九年前のあの日、唐突に洞窟の入口のような物が生まれた。
商店街の皆は今までと同じように生活するつもりだった。
でも世界は一気に変わり、新しい法律が出来て、低レベルの人間はダンジョンの近くには住めないことになった。
お父さんも、商店街のおじさん達も、皆で毎晩のように話し合った。
そんな時、ビジネスマン風の男性がやって来た。
探索者協会の職員だ。
その人は商店街の全員が探索者ランクDになればいい、と言った。
あの人の目的は有事の際の戦闘要員の確保だったんだろうと思う。
でも商店街の皆にとっても、それしか方法は無かった。
ここが好きだから。
お父さんも、おじさん達も、閉店後にダンジョンに潜った。毎晩毎晩、潜った。
そして、例の法律が施行されるまでの一年で、どうにか商店街の半分くらいはランクDになった。
間に合わなかった人達は泣く泣く引っ越して、お店に毎日通いながら、夜には必死にレベルを上げた。
そうして少しずつ、商店街に皆が戻った。
私は当時まだ高校生だったから、ダンジョンに入ることができず、私達の家族も商店街から少し離れたところに部屋を借りた。
私もここが大好きだったから、十八歳の誕生日が来るのを待ってすぐに講習会に申し込んだ。一日でも早く、お父さんとお母さんと一緒に商店街に帰りたかった。
そして今は、お父さんの店を手伝いながら、時間のある時はダンジョンに潜って、万が一氾濫現象が起こっても商店街を守れるように鍛え続けている。
◇
「今月は西倉三番街商店街に勝ったぞ!」
まだ営業時間中のはずなのに、豆腐屋のおじさんがうちの店に走り込んで来た。
「やったか! ここんとこ三ヶ月連続であいつらにはやられてたからな!」
おじさんの声を聞いて、お父さんまで店先に出て来る。
おじさんが手に持っているのは、探索者協会が発行しているチームランキング表。
わざわざ発表日に協会まで貰いに行ってるけど、これ、紙を貰わなくても実はオンライン上で見られるんだよね。
私の朝は、公式サイトを見ることと、人気ブログ『たんたび』で、けんちーさんからの最新探索者情報をチェックすることから始まる。
今朝も、仕事の前に協会の公式サイトで今月の順位をこっそり確認しておいた。お父さん達には言わないけど。
いつの間にか全国にチームが出来て、協会がランキングを発表するようになると、お父さん達もチームを登録した。
その名も『小路町通り商店街』。
順位はだいたいいつも千三百番辺りを彷徨ってる。昼間は店があるから、一日中ダンジョンにいる職業探索者達には敵わない。
でもお父さん達には最高のライバルがいる。
似たような順位に、なんとか商店街、っていう名前のチームが山程いるからだ。
ダンジョンが生まれる場所は、大勢の人が行き交う所なんだそうだ。
だからダンジョンは大抵、ビジネス街やテーマパーク、観光地にある。
当然、商店街の真ん中にも。
きっと日本中に、ここと似たような経緯を辿った商店街がたくさんあるんだと思う。
じゃなかったら、なんとか商店街、とかいうチームの説明がつかない。
順位が似通っているのも、同じような生活スタイルのせいだろうし。
お父さん達にとってはライバルって言うより、同志みたいなものなんじゃないかな。
遠くのどこかの町にいる、会ったこともない人達ではあるけど。
「ところでおじさん、その西倉三番街商店街ってどこにあるの?」
「知らん! でも今月はあいつらは1318位、俺達は1317位だ!」
多分、一生行くことのない町の小さな商店街。うちと同じで。
でもどこの誰なのか知らなくても、お父さん達は楽しそうだ。
「今月も上位はいつもの顔触れだな」
「最近は十位以内が固定されちまって面白みがないよなあ」
お父さん達の話題は、細かい字でずらりと並ぶチーム名の上の方に移ったみたいだ。
「特に一位は何年もこいつらのままだからなあ」
決して揺らがない不動の一位。
売上がいくらなのかまでは公表しないから、一体一位の人達がどれくらい稼いでるのかわからないけど、ランキング制度が採用されてからずっと、この人達以外が一位になったのを見たことがない。
ランキング表の一番上。
そこに書かれている名前は『仮面集団』。
申し訳ないけど、すごくダサい。
何をどうしたらこんな名前にしようと思えるのか、全然理解できない。
仮面の探索者、っていうとまず思い浮かぶのはランクSS。
でも、都市伝説みたいな人達が、ご丁寧にチームを作って、こんな俗っぽいランキングに参加するなんて思いたくない。
絶対に一位を譲らないところはSSに似てるとは思うけど。
多分、SSに憧れて、追い付こうと頑張ってるSの人達とかなんじゃないのかな。
でもネーミングセンスは最悪だと思う。




