飛び交う種と弾
シードマンが向日葵のような頭部をこちらに向けた。
ポップコーンがはぜる時のような音を立てて射出されるタネ。剛速球のストレートが同胞を増やそうとディンゴ目掛けて迫りくる。
その時には、もう撃ち終えていた。
「遅ぇよ」
重なる銃声が二つ。右手で抜き撃ち、左手でハンマーを起こして、撃つ。
シングルアクションのみに許されたファニングショット。
三発。脚、胴、頭。正中線を狙った必殺の魔弾が、シードマンの体を穿っている。
ガンマンの魔力を乗せたスペル……強壮弾は、マチェットでは表面を削る程度しかできなかったシードマンの体に大穴を空けていた。
生命活動を停止させたシードマンが潰れるように倒れる頃、やっと届いたタネが半身のディンゴを掠めていった。エングレイブにより自動発動したマギ・シールドがタネを逸らしたおかげで無傷だ。
銃口からたなびく残留魔素を吹いたディンゴがカッコつけてホルスターに収める……より先に草木をかき分ける音が周囲から聞こえてきた。
「……ま、そりゃ一体じゃないわな」
銃声を聞きつけたのか、同族の死に反応したのか。擬態していたシードマンが次々現れた。周囲に蠢く植物人間は種の繁栄という原始的な本能に従ってその大輪をディンゴに向ける。
アクティブな植物人間という矛盾に一人笑ったディンゴはリボルバーの回転弾倉をスイングアウト。
三発分の空薬莢を捨て、二発の通常弾と一発の特殊弾を装填して弾倉の位置を調整。ここまでをノールックで手早く済ませると空いた左手で“来いよ”とアピール。
「お仲間が欲しいかい? なら捕まえてみな!」
啖呵の返答はタネの発射。
連続して景気よく出来上がるポップコーンの音を合図にディンゴが動く。
前に駆け出し、スライディングしながら命中弾を回避。花の向きから胴体より上に狙いが定まっているのは確認済みだ。
奴らにフレンドリーファイアの概念はないようだ。円状に包囲していたシードマン同士のタネが着弾して体にめり込んでいる。どういう理屈かタネはすぐに発芽しその体へ根を伸ばしていた。
それを見届けることなく正面にいる個体にダブルタップ。
スライディングの勢いそのままに首と頭部を吹き飛ばされたシードマンの股? を潜り抜ける。
植物の奴らに痛覚はなく、死ぬまで攻撃を止めることはない。
フレンドリーファイアで穴の空いたシードマンたちがディンゴ目掛けて第二射を放つ。
「そらよ」
バックステップしながらの三発目、特殊弾は足元へ。
壁のスペルが籠められた特殊弾は地面に着弾すると、人ひとりが隠れられるほどの壁を作り出した。
ただの頑丈な壁を作るだけの、なんの芸もないシンプルなスペル。だが環境の変化とは恐ろしい。ただ壁を作るだけの役に立たないスペルが、銃撃戦が主となる今の戦場では欠かせない必須弾頭となっていた。
飛来するタネを頼もしい壁の相棒が受け止めてくれる。
壁に密着するようなホロ染みた真似はしない。少し離れて銃口と片目だけを覗かせる被弾面積を最小限にした射撃姿勢で迎え撃つ。
「おあつらえ向きの射的ゲームだな」
向日葵の顔を揃ってこちらに向けている様は訓練場で見た射的の的そのものだった。
引き金を引き、大口径の弾丸が花の中心をぶち抜く。
距離が取れて遮蔽物のある状況なら足の遅いシードマンは鴨撃ち同然だ。端から丁寧に処理していく。
右の三体を片づけたらリロードして左へ。まだ左手で当てるには自信も経験も足りていないので、左手を胸元に添えて半身になって撃つ。四体撃破したが、慣れない射撃姿勢で二発外した。要練習だ。
残るは正面のみ。リロードを挟んだリボルバーをあえて腰のホルスターに仕舞うと、一呼吸おいて跳びあがる。壁の上に跳び乗ったディンゴに気づいた三体のシードマンが一斉に大輪を向けた。
壁の上、着地した姿勢のままクイックドロウ。
「―――!」
雷鳴のような抜き撃ち三連。
二発の魔弾は狙い過たず大輪を撃ち抜き……最後の一発は花弁を散らして横に逸れていった。
「……あー」
気まずい沈黙。
だがシードマンに空気を読む知性などない。
「ぬおお!?」
構わず撃ってくるタネを左手でガード。
マギ・シールドが受け止めるが、衝撃までは殺せない。バランスを崩して落っこちるディンゴ。
追撃しようとシードマンが顔を向け、それより速く銃声が轟いた。
「だっせぇ……まだまだマスターのようにはいかんね」
頭から落ちたディンゴが逆さまのまま撃ったリボルバーを仕舞う。
最後のシードマンは顔に二発の穴を空けて崩れ落ちた。
「あいてて……」
ぶつけた頭を擦りながら立ち上がり、リロードしながら増援がないことを確認する。ついでに格好悪い所を誰かに見られていないかも。
発動させてしまったマギ・シールドは二回。ガンマンは頑丈、というか魔力が余りがちなのでシールドの許容量は大きい。これぐらいなら問題ない。
マギ・シールドはエングレイブが持つ基本スペルだ。
外部からの攻撃に対して自動で発動する防御術であり、見てから避けるのが難しい銃撃戦で身を守るために編み出された。
クラスによって強度が異なり、最も硬い騎士からペラペラ耐久の神官まで多種多様。
常時発動されているものであり、これに関してはスペルを唱える必要すらない非常に便利かつ必須の魔術だ。
だが便利過ぎる分、短所も当然ある。
まず術者本人しか守れず、仲間を守るといった芸当は不可能。ナイトのように肉の壁になるなら話は別だが。
また魔力配分も全てエングレイブに任せている都合上、シールドが破られたからといって撃つ分の魔力を回すこともできない。攻撃用と防御用の魔力は別に管理されているからだ。
不便に聞こえるかもしれないが、銃撃戦の最中にこの弾には魔力をどのくらい使って~だとか、この攻撃はこのくらいの魔力で防いで~だとかを悠長にやっている暇などない。
硬い相手用の貫通弾や動きが速い相手用の追尾弾など、用途に応じたスペルで調整するのが一般的だ。ウォールなどの特殊な効果はそれ専用の弾頭を使用する。
「ま、初陣だしな」
言い訳しながらシードマンを指差し確認して戦果を確認する。
倒れている数は12体。
「弾は19とウォールが1発か」
悪くない戦果ではないだろうか。最初のオーバーキルと外した三発、最後の焦りで余計な一発を撃ったのがもったいないが、事前に確認したシードマンの報酬を考慮すればそれでも中々の利益になるはず。
これがガンマンの数少ない利点、弾代の安さだ。
大口径だったり専用の弾丸だったりと一発当たりの費用は高いのだが、それらを上回る圧倒的なコストパフォーマンス。フルオートでぶちまけるARやSMG、LMGは言うに及ばず、単発費用がリボルバー以上のSGやSRと比べても安い。
とてもリーズナブルなクラスなのだ。
この利点は決して馬鹿にできるものではない。弾代が安ければ同じだけ稼いでいるハンターに比べて実入りも増えるし、サイズが小さいから銃の価格も段違いなのだ。
具体的に言うとARと同じ金額を出せばワンランク上の、LMGならツーランク上のリボルバーが買える。装備が良くなれば仕事の効率もアップし、より稼いでさらに良い装備を買える。
ガンマンで他クラスと同じだけ稼げれば、の話だが。
「流石にそれくらいは利点がないとやってられないぜ」
ロマンと言えども限度はあるのだ。
銃の種類を毎回全部書くと読みにくいので略称を使用しております。
HG ハンドガン
SMG サブマシンガン
AR アサルトライフル
LMG ライトマシンガン
SG ショットガン
SR スナイパーライフル




