トライアルクエスト
まだ仮だが、二人と一匹のパーティーが結成された。
組むタイミングを逃して一人でいたディンゴにはありがたい話だ。
即席とはいえ一度組んで実力が確かなのは分かっているのもツいている。
もちろん相手のことが全て分かったなどと寝言を抜かすつもりはないが、少なくとも窮地で仲間を置き去りにして逃げるような人間じゃないことが分かっただけでも十分過ぎる。
そして何より……
「どうかしたか?」
定期便バスに揺られながら窓際で佇む彼女を見やる。
運よく空いていたバスでは座れこそしないものの、パーソナルスペースを確保するくらいはできた。
空気がよくないため兜を外しているサイカは白髪を風に靡かせながら、ディンゴの視線に気づいてアメジストの眼を向けた。
「……つくづく俺は運がいいって思ってな」
「?」
不思議そうに小首を傾げたサイカ。
そうしていると坑道での戦いぶりが嘘のようだった。
―――やはり美人はいい。
彼女が仮とはいえ仲間であることの幸福を噛みしめ、ディンゴはお試しで受けた今回の仕事へ思いを馳せた。
一人より二人、二人より三人。
当たり前の話だが、頭数が増えるというのは戦力的な面でも人手的な面でもやれることが増える。
一人は蜘蛛なので射線の増加は期待できないが、人間離れした立体機動力と天性の隠密性は決して劣るものではない。
「バレットビーが六匹にゴーレムが四体か……少し多いが、どうする?」
斥候から戻ったモミジの報告を受け、兜越しのくぐもった声でサイカがARのスリングを背負いなおした。緊張からか、ブレードの鞘に手を当てている。
何とも言えない敵戦力にディンゴは顎を上げて少しだけ唸る。
いけなくはない。いけなくはないが……少し不安が残る。
ディンゴもサイカもゴーレム四体を単騎で仕留められるくらいには火力も接近戦能力もあるし、モミジの糸を上手く使って絡めとればバレットビーも倒せるだろう。
だが二つ同時となると話は違う。
ご丁寧に等分別れてくれるとは限らないし、片方にだけ集中してしまえば最悪一人は死ぬかもしれない。しかもこっちはパーティー初陣だ、無茶するには色々足りていない。初心者御用達のシードマンとは訳が違うのだ。
「あ、バレた」
退こう……そう口にするより先にサイカがポロリと呟いた。
慌ててそちらを見れば、カチカチと顎を鳴らして威嚇しながらこちらに飛ぶバレットビー。ゴーレムの方は気づいていないようだが、バレットビーについて行く形でこちらに向かってきている。
「おいニンジャ蜘蛛、何でバレてんだよ」
モミジに当たるも、‟私じゃないよー”と否定のジェスチャー。
「多分、私たちだな……ジョンストン器官で気流の流れを読んでいるんだ」
「じょん……?」
風上にいるのが災いしてか、相手に察知されてしまったらしい。
臭い消しに草の汁は塗ったのだが、まさか気流でバレてしまうとは。
「クッソ、ツイて……」
ツイていないのではなく経験が足りない……そう自覚したので口を噤んだ。
泣き言を言っても相手は待ってくれない。文句を言う前に動かなければ。
「バレットビーとゴーレムじゃ速度に差がある。引き撃ちしながら数減らすぞ」
「承知した」
”私はー?”と手を挙げるモミジには待ての指示を出す。
「相手の戦力分断が目的だからまだ何もしなくていい。俺たちが足を止めたら手を出してくれや」
言い終える前に走り出す。
ディンゴは持ち前の運動能力で木の根などが露出した悪路を跳ねるように走る。体の動きをほとんど阻害しないのはリボルバーの数少ない長所だ、積極的に活かしていかねば。
ちらりと横を見れば、並走するサイカは独特の足捌きで滑るような動きをしていた。甲冑姿なので動きについてこれるか心配だったが、これなら問題ない。
妙な走り方は少し気になったが、今は敵が優先だ。
先の路面状況を確認し、勢いをつけて大きく跳躍。宙で横に回転しながら腰のリボルバーを抜き放った。
「仮パーティー結成の記念弾を喰らいな!」
回る視界で敵影へ向かって三点射。
これがマスターなら六発しっかり狙って当てられるのだが、まだまだひよっこ&未熟者のディンゴではそうもいかない。おおよその場所へ撃ち込むのが精々といったところだ。
それでも記念の弾にはそれなりにご利益があったらしい。一匹を撃ち落として、運の良いことに二匹目の翅を破壊することができた。単発の威力に優れたガンマンの強壮弾は余波で虫の薄い羽根を粉砕し、その飛行能力を奪った。
落ちたところをサイカのARが狙い撃ち、フルオートの連射が止まることなく線を引くように三匹目を蜂の巣にする。
だがやはり足を止めずに後方を撃つ射撃では命中精度はダダ下がりだ。
撃ち切った弾倉のリロードをしながら、あまりの弾効率の悪さにサイカが兜の中で顔を顰める。
着地したディンゴが体勢を整え、速度を稼いでからもう一度の反転撃ち。
しかしご利益は先の三射でお終いだとばかりに掠りもしなかった。
「カーー当たんねぇ!」
「弾代が嵩むな」
空になったシリンダーに一発ずつ弾を食わせながら愚痴る。サイカが同意しながら合間を埋めるように指切り撃ちをするが、仲間をやられて警戒したバレットビーは余裕をもって回避している。
そんなことをしている内に相手の射程圏内に入ってしまったようだ。
バシュバシュという圧縮した空気を撃ち出すような音と共に太めの針が飛来してきた。
「やっべ!」
「避けろ!」
二人は慌ててジグザグに走って木を盾に射線から逃れながら応射するが、いかんせん相手の方が命中精度がいい。飛んでいるので地形の影響も少なく、前を狙うのと背後を狙うのでは難易度が違う……そう思わないと虫以下の命中精度なのを認めることになってしまう。
そして回避しながらでは速度も落ちるため、距離が詰まっていく。
避けきれなかった針がシールドと神経を削った。燐光を散らして逸れる針には目もくれず、ただただ訓練で培った経験を糧に撃ち返す。
「っしゃあ!」
四回目の弾倉が空になった頃、ようやっとディンゴの弾が四匹目のバレットビーを撃墜した。
思っていたよりもゴーレムとの距離は稼げなかったが、こうなれば残りのバレットビー二匹をサイカと即殺してゴーレムだけと当たれる。
「一人一殺!」
サイカへ声を掛けると返事を待たずに行動へ移す。
地面を削りながら急ブレーキを掛けて反転。今度はそのまますぐに撃たず、リボルバーをホルダーに収めたまま相手を待つ。
バレットビーの尾が風の魔術によって圧縮した空気で膨らみ、針を放つ体勢に入る。
攻撃のために動きが止まったその瞬間を狙い、抜き放ったリボルバーの引き金を絞った。
抜き撃つという魔術的動作……旧時代で言うところの印を組むに等しい意味を持つそれは、弾に込める威力と精度を大きく高めるガンマンの基本技能。
放たれた魔弾は吸い込まれるように尾の中心部を穿ち、溜められていた空気はその体を爆散させる。
「……一丁上がりってな」
冷汗の混じったそれを拭いながら脇を見れば、サイカが電磁ブレードで針を斬り払いながら肉薄してバレットビーを両断していた。銃弾よりは遅いとはいえ、とんでもない真似をしている彼女に呆れてしまう。
「これカメラ回ってるか?」
「え? あー、えっと……」
突然話を振られたサイカが挙動不審になる。まだ互いのノリが掴み切れておらず、なんと返していいのか困っているコミュ力弱者を手で宥める。
「いい腕してるぜ? サムライ」
言いながら拳を突き出されてやっと意味を理解したようだ。
「あっ……ああ。そっちも見事な早撃ちだったよ、ガンマン」
ぎこちなく笑いながら遠慮がちに手甲を合わせてきた丁度その時、遅れてきた土人形共が姿を現した。
もうひと仕事を前にした二人は何も言わずに二歩離れ、己の得物を手に動き出した。




