真向勝負
合図と同時に地を蹴り前に踊り出る。
駆け出しハンターの中では最も身軽で、身体強化に優れている。
だからディンゴは他のウォーリアたちを大きく引き離して前に出た。
突出した自分にゴーレムたちの砲が向けられるのを感じる。
だが悠長に待つつもりはない。
「ロックンロールだ!!」
挨拶代わりの魔弾を一番大きい砲のゴーレムにお見舞いする。
三点射は片腕を盾にしたゴーレムの腕を砕き、胸にある核を貫いた。
反撃の石弾を転がるように回避しながらの前方へローリングショット。
三発の特殊弾は着弾した場所に即席の壁を作り出した。
ディンゴを狙った石弾の射線が追い付く前に壁に遮られ、激しい音を立てる。
「乱暴なノックだ」
シリンダーをスイングアウトし排莢、手早く弾を装填。
いかにウォールとはいえこの勢いで撃ち込まれれば長くは持たないだろう。だがそれでいい。目立つ動きをしたディンゴに攻撃が集中すれば、その分他のハンターがフリーになる。
ゴーレムの射線がディンゴへ向いたところにウォーリアたちのARが突き刺さった。
ガンマンに比べれば劣るが、ウォーリアの魔弾は上から数えた方が早いくらいには強い。
単発火力でそうなのだから、フルオートで掃射した際の瞬間火力は推して知るべしだ。
凄まじい弾雨にゴーレムたちが倒れ、死体を盾に無事だった個体が応射する。
火力はあれどもARのノーマルマガジンは精々20~40程度。フルオートで撃てば数秒で尽きる。
応射による石弾の射線が彼らを捉えそうになった時、
「そら、家主が出て来てやったぜ!」
リロードを終えたディンゴがバリケードから飛び出した。
シールドを撃つ石弾に怯みもせず、腰だめに構えてのファニングショットが唸りを上げる。
左手がハンマーをあおり、横薙ぎの軌道でリボルバーが躍る。
全弾吐き出しての六連射が無粋な大筒目掛けて放たれる。
横並びに構えたゴーレムたちの砲を狙った射撃は狙い過たず着弾、その砲身を破壊する。
破損した砲身で発射した石弾の魔術は暴発し、仲間を巻き込んでの魔力爆発を起こす。
その間にウォーリアたちはディンゴの作ったバリケードに辿り着いた。
リロードをしながら状況を窺ったハンターの一人が悲鳴混ざりの怒声を上げる。
「クソ! 外からも来やがった!?」
出口まであと数メートルといったところで出口から現れたのは五体のゴーレム。
たかが五体、されど五体。
時間を掛ければ戦線が伸びて薄くなったこちらが挟撃を受けるが、焦って飛び出せば正面のゴーレムから集中砲火だ。
絶体絶命。
だからこそ、ディンゴは笑って見せた。
「ビビるなよ。戦士の名が泣くぜ?」
歯を剥き、追い詰められた野良犬のように虚勢を張る。
バリケードから飛び出た体はそのままに、リロードしながら出口の五体へ突っ走る。
「ッ!? おいバカ、死ぬ気か!?」
正面から射線に自ら身を晒すディンゴの正気を疑うウォーリア。
「死ぬ気でどうにかする場面、だろ?」
ディンゴは振り返らず、リロードを終えたリボルバーを額の前に掲げた。
シールドが限界を迎えて割れる音がした。
ガラスのような魔力残滓を散らしながら割れるシールドを振り切るように、ディンゴは前に出る。
出入口を塞いでいるゴーレムの一体が砲を向けてきた。
あと数歩がとんでもなく遠く感じる。
砲の先が魔力の淡い光を滲ませるのがスローモーションのように映っている。
結果を想像して、熱を持つ身体が急速に冷えていくのを感じる。
届かない、間に合わない。
避けられる距離ではない。
一か、八か―――
背筋を走る寒気が限界を迎えた時、その砲身に蜘蛛の糸が巻き付いた。
糸が引かれ、砲が横を向いて石弾を吐き出す。
眩い紫電が坑道を照らした。
ディンゴの背後に迫る石弾を電磁ブレードで斬り落とし、シールドで受け止める。
馬の尾を思わせる真白い飾り髪を揺らした鎧武者。
愛刀を手にする彼はたとえ小石一つであろうとも通さぬと、言葉ではなく行動で示す。
「―――背は任せろと、言ったはずだ」
稼いだ時は一瞬。
だがその一瞬は、千金にも値する一瞬だ。
「最高だぜ」
ディンゴが跳ぶ。
糸を引き千切ったゴーレムが再び狙おう砲を向けるが、遅い。
構えた砲身へ飛び乗り、足蹴にしたディンゴが歯を剥いて笑う。
「じゃあな木偶人形」
サヨナラの代わりにくれてやったのは魔弾の洗礼。
至近で放たれた魔弾はゴーレムの核を撃ち抜き、その動きを止める。
崩れるゴーレムを飛び越え、距離を詰めながらの残る五発でのラピッドショット。
四発の魔弾が二体のゴーレムを土塊に変えたが、一発は外れて片腕を落とすにとどまる。
残るは二体。
距離は近く、リロードをしている余裕はない。
「上等だ」
ディンゴが覚えたスペルはわずかに三つ。
詠唱が必要な古式魔術が使えず、駆け出しのエングレイブではそれしか発動できない。
強装弾、身体強化、そして―――
「真向勝負」
スペルを力ある言葉にして唱える。
血潮が滾り、体中を駆け巡る魔力が歓喜の叫びを上げている。
原理はマギ・シールドとストレングスを合わせたようなものだ。
違う所と言えば範囲を狭く、出力を絞ることで強度を大きく上げている。
他への供給を絞ることで拳脚を強化し、殴る。
ただそのためだけのスペル。
こんなスペルに枠を割くくらいならもっと有用なものはいくらでもある。
それでもこれを選んだのは、ディンゴの好みだ。
最後に信じられるのは己の体一つだと、旧時代的な考えが染みついている彼の主義。
「いっちょ殴り合いと洒落こもうぜ!!」
薄い青光を纏う両の拳を構えたディンゴが前に出る。
片腕のもげた個体が残った砲を向けようとするが、それはあまりに稚拙な手だ。
前進する体の軸がぶれぬまま上体がUの字を描く。
ウィービングで掻い潜りながら距離を詰め、腰の回転を乗せた左フックを砲へ叩き込む。
シールドに包まれた拳が燐光を散らしながら岩を砕き、肘関節をへし折られたゴーレムの腕が落ちた。折れた腕から植物の根が暴れるようにのたうつのが見える。
両腕を失ったゴーレムに止めは刺さず、踏み込んだ足を軸にターンを踏んで背後に回る。
もう一体が仲間ごと石弾を撃つのを躱し、勢いをつけた背後からのピボットブロー。
仲間からの石弾とディンゴの拳により前後から胴を撃/打たれたゴーレムの核が無惨に押し潰された。
「ヘイ! お仲間が泣いてるぜ?」
意味のない挑発を挟みながらディンゴがステップを踏む。
右、左、右。
滑るように距離を詰めるディンゴの足捌きに狙うのを諦めたのか、腕を振り回して攻撃するゴーレム。
「眠たいな!」
当たればシールドごと吹き飛ばされるであろう右砲の一撃を上体を逸らすスウェイで回避。
目の前を通り過ぎる死の暴威に笑みを深めて、さらに一歩前へ。
ディンゴを掴もうとする左腕を外側へ弾いて懐に入ると、左のストレートを叩き込む。
人体を遥かに上回る重量の体が、揺れた。
強化された身体能力とスペルで補強された拳は軋んだ音を立てて岩の体にヒビを入れる。
痛みはなくとも損傷を受けたことは分かるのだろう。
慌てたように振り回される砲は体当たりから密着することで威力の乗らない根元を防いで凌ぐ。
密着した状態から半身になり、弓を引くように引き絞った体勢から―――渾身の右ストレート。
ヒビがさらに深くなる。
これならば避けられまいと、左右から挟み込むように両腕でのベアハッグ。
ゴーレムの両腕が合わさり逃げ場のない哀れな獲物がその血肉を撒き散らす……ことはなかった。
手応えの無い両腕を開いて確認するも、そこには誰もいない。
「よう、どこ見てんだ?」
声がする。どこから?
―――上からだ。
ゴーレムの両肩に手を付き、倒立の姿勢で難を逃れたディンゴの体が半月の弧を描く。
重力と遠心力を乗せ、ブルファイトで強化をされたディンゴの膝がゴーレムの胸に叩き込まれた。
三度の打撃を受けたゴーレムの胴はついに限界を迎える。
核が圧壊しボロボロと崩れていくゴーレムを見ることなく、ディンゴは鬨の声を上げた。
「退路確保ォ!!」
時間にして十秒あるかどうかの攻防。
しかしあまりに濃密なその時間は、この戦いの趨勢を決定づけるものであった。
「よくやった野良犬! 全体、後ろに向かって前進!」
親方がどやしつけるように褒めながら撤退を指示する。
その間、出口前にウォールを敷いたウォーリアたちが残弾全てをぶちまける苛烈な射撃を仕掛ける。
敵陣からも逃すまいと石弾が雨あられと襲い掛かるが、ナイトの鉄壁とプリーストの治癒が合わさった防御を抜くのは容易ではない。彼らが支えている間に徐々に撤退を進めていく。
全体の半分ほどがバスへ乗り込んだころだろうか。
「親方ぁ! ゴーレム共が突っ込んできます!!」
殿を務めるナイトが言った方を見れば、ゴーレムたちが被弾を恐れず突進を始めていた。
このまま逃がすくらいならば捨て身ででも止める、そんな意思が垣間見える特攻。
「クソがぁ! 止まりやがれぇええ!!」
ナイトを始め残っているハンターが必死に応戦するが、撤退が進んで火力の落ちた弾幕ではゴーレムを押さえきれない。迫るゴーレムの姿に、もはやこれまでかと覚悟を決めたその時、
「―――かませやクソウィザードォオ!!」
「ぜぇんぶまとめてぶっとびやがれえええ!!」
ポン!
全力のシャウトとは対照的に気の抜けるような音。
緩い軌道を描いた一発のグレネードはゴーレムたちの前にポトリと落下し、直後目を焼くような閃光と爆風を無差別に撒き散らした。
敵も味方も一切合切無差別に巻き込む爆風が全てを吹き飛ばす。
ゴーレムたちは坑道の奥に。
そしてハンターたちは坑道の外に。
悲鳴すら飲み込む爆音が齎す被害は、しかし双方で大きな差があった。
無防備に前進していたゴーレムたちは甚大な損害を受け、盾を構えてスペルで防御していたハンターたちは打撲や擦り傷程度で済んでいる。爆音と閃光で視覚聴覚をやられたのか全員寝転がって呻き声を上げているが、死人はゼロだ。
「よっしゃザマミロ! 野郎ども! 今の内に全員バスに詰め込んで撤収だ!」
中指おっ立ててファックと叫んでいるディンゴと、真っ青な顔で自分の起こした惨状に引いているハンター。もちろん彼はハンターたちに総スカンを喰らったあのウィザードだ。
「なぁ、俺あとで皆にボコボコにされるんじゃぁ……」
「心配すんなよボマー。そんときゃ俺も一緒にタコ殴りされてやらぁ」
肩を組んでぐっとサムズアップするが、どうしたことか彼は半泣きになってしまう。
「俺は一緒に落ちて欲しいじゃなくてっ、助けて欲しいのっ!!」
「なんだ、一緒にリンゴ買いに行く話か? わりいが俺にはよく分かんねぇ!」
「俺だって分かんねぇよ!!」
砂埃を巻き上げながら走り去るバスの中、ディンゴの高笑いとウィザードの泣き声がこだましていた。




