旧時代VS新時代
「来たぞ、ゴーレムだ!」
ツルハシが手に馴染み始めた頃、回収班から敵襲を告げる声が上がった。
暗い坑道から重い足音が近づいている。緊張するハンターたちの視線の先、大柄な影が滲み出るように姿を現した。
その体は坑道と同じ土気色をしており、人間のような四肢を岩で形成している。ただの岩を魔力で補強したそれは坑道の岩盤と同等の強度を誇り、振るわれる剛腕は人間など文字通りぺしゃんこにしてしまう。
複数のゴーレムたちは侵入者を排除するべく物言わぬ体で、しかし何よりも雄弁な殺意をこちらへ向けて走り出した。岩と地面がぶつかり合う独特の足音に坑道が揺れ、経験の浅いハンターたちの間に緊張が走る。
「てぇーー!」
だがそんなデカくて硬いだけの土人形が猛威を振るったのは遥か昔の話。
迎撃班の号令と共に放たれた魔弾が豪雨のようにゴーレムを滅多撃ちにした。流石の耐久力であれだけの弾雨に身を晒しながらも前進していたが、ナイトを始めとする高火力なクラスが狙いを足に移せばそれも止まる。
剣で戦う旧時代には猛威を振るったゴーレムも時代の変化には敵わない。
近寄らずに遠くから弾幕で仕留めるという現代の戦法の前には、大きさと硬さのみを頼みとした魔獣はただのカモにしかならなかった。
大口径の魔弾に脛を砕かれ、踏ん張りがきかずに膝をつく。動きが止まればあとはただの的だ。
「ぶっとべや!」
そしてじっくりと魔力を練ったウィザードがグレネードを―――って、
「「それはマズいだろ!」」
周囲の止める言葉はわずかに遅い。ポン、と栓の抜けるような音と共に緩い放物線を描いた弾頭はゴーレムの胴体に直撃し、爆破のスペルが込められた魔弾は轟音を撒き散らしながらその体を粉微塵にした。
面での火力が特に優れたウィザードの放つ炸薬弾。なるほど大した威力だ。
その高火力は当然、坑道内で暴れ狂うこととなる。
ここにいるのは皆ハンターだ。拡散した爆炎や衝撃くらいならシールドで何とかなる。熱や飛んでくる小さな瓦礫も同様。
「目がああああ!?」
「くそ、前が見えん! 敵はどこだ!?」
しかし砂塵だけはどうにもならない。
爆風の影響で吹きあがった砂塵が視界を塞ぎ、射線を遮る。突然の視界不良に経験不足なハンターたちは容易く恐慌状態に陥った。
「バカ野郎迂闊に撃つな、同士討ちになる! 風起こせ!」
親方が闇雲に撃ち始めたハンターを殴り倒して指示を出すも、その間に仲間の影に隠れて無事だったゴーレムが現れる。気づいたハンターが牽制射撃をするが、運が悪いことにプリーストやSMGアサシンなど火力に乏しいクラスばかりだ。
後方にいた鎧武者がARを撃っていたが、威力が足りないとみるや腰のブレードを抜く。
だが些か遅い。
ウィザードの風が砂塵を押し流した時には、ゴーレムはハンターたちの目前にまで迫っていた。
振り上げた両腕は太く、魔弾を止めるウォールすらも容易く突破する威力を秘めている。
このままでは、二秒後には蹂躙されるだろう。
つまり、十分すぎる時間だ。
「―――っ!」
視界が晴れた、その刹那にディンゴの右腕が動く。
抜いたリボルバーのハンマーを起こした時点で引き金は引かれている。
ハンマーが落ちるまでの間に狙いをつければいい。
吐き出された魔弾の結果を見る前に左手を動かしてハンマーをあおり、続けざまの三連射。
遅れて響く二発の銃声よりも早く到達したパワーバレットがゴーレムの右足に着弾。
ワンホールショットには程遠いが、特定か所に集中した三発の魔弾はゴーレムの頑丈な足を砕いてみせた。
体重を乗せていた軸足を失ったゴーレムが体勢を崩し、地面を抉りながらウォールにぶち当たった。
勢いで砕けはしたが、力の逃げたゴーレムの体はそこで止まってしまう。
まだ生きているゴーレムが立ち上がろうとついた腕が、中ほどから綺麗にズレる。
鎧武者による抜き放ちざまの一閃は頑丈なゴーレムの腕をいとも簡単に断ち斬っていた。
雷撃を放つ特殊な金属を芯金として作られた刀身が紫電を放ち、残光が鎧を照らす。
「シッ!」
鋭い呼気を発しながら続けざまに振るわれた電磁ブレードは四つん這いのゴーレムを断頭台のように落とす。だがなんと頭を落とされたというのにゴーレムは止まらず、左腕だけで藻掻いている。
「頭じゃねえ、胴体ヌけ!」
親方が殴り倒したハンターのライフルをバラ撒いて後続を牽制しながら怒鳴る。
「承知」
くぐもった声で応えた鎧武者はブレードを逆手に持ち替え、藻掻くゴーレムに足を掛けて中心を勢いよく貫いた。途端に術式が切れた魔具のように動きを止め、手足が崩れ落ちる。
人間の形をしているがゴーレムの急所は核となる胴体部分だ。
その正体は魔獣化した植物であり、崩れた手足からはそれを示すように節くれだった根が覗いている。
一度は乱れた戦線も立て直してしまえば早い。……自爆のような形で勝手に崩れただけという意見もあるが。
近づきすぎたゴーレムを鎧武者が斬り、動きの止まった所を大口径の魔弾で撃ち抜いていく。
そうして徐々に戦線を押し返していき、距離が開いたので彼もブレードを仕舞いARで射撃に加わる。
元より余裕を見て迎撃班を用意しているのだ。魔弾の掃射により全てがただの石ころに戻るまでそう時間は掛からなかった。
坑道の補強技術が高く、シールドのあるハンターだったから無事だったものの、下手をすれば生き埋めになっていた。グレぶっ放した大馬鹿野郎はタコ殴りにされ、ボコボコになった顔で迎撃班を外されてツルハシを振るっている。彼の悪名はあっという間に広がるだろうし、才能がない限りハンターを続けるのは難しいかもしれない。
「ああ、クソ! 全身砂まみれだ」
「あの野郎、一発ぶん殴ってやりてぇ」
昼休憩の時間、どこも話題はあのウィザードで持ちきりになっている。
当の本人とそのパーティーは消え入るように坑道の奥へ行った。肩身が狭い上に他のハンターは殺気立っているので無理もない。
ちなみにやらかしたウィザードをぶん殴ったのは親方だ。
凄まじい罵詈雑言と共にボコボコにしていたが、あれは演出や茶番の類だ。
私刑にさせればやり過ぎると判断した親方が、あえて公開処刑にすることで他ハンターの鬱憤を晴らしたのだろう。ディンゴの見立てでは派手にぶっ飛んでいた割には重症になっていないはず。
「お優しいことで」
「何のことだ? ……ああ、さっきの援護射撃は御苦労だった」
親方はそう言いながら、ディンゴの持っている支給された弁当の上にチョコケーキバーを置いた。
分かりやすい口止め料だ。別に言い触らすつもりはないのだが、折角なのでもらっておく。
ポケットにねじ込む間も顰め面で見ていた親方が突然口を開いた。
「貴様、なぜガンスリンガー……ガンマンを選んだ?」
「面白そうだったから」
間髪入れずに答えると親方はため息をついて眉間に手を当てた。
今の問いにどんな深い意味があったのかは知らないが、あいにくとそこまで深く考えて動いていない。話を聞いて面白そうだったから選んだ……それだけのことだ。
「なるほど……実にガンマン向きな性格をしている」
「褒め言葉として受け取っておくぜ?」




