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21.ミシェルがアマリアを輪の中心に呼び寄せる

(だめ……やっぱり)


 アマリアは自制できない己を軽く呪った。


 ()()()()()以来、彼女はもうルミナスに心酔していないはずだった。なのに、どうしてもルミナスを追ってしまう。そのひと声に耳をそば立て、一挙手一投足に目が吸い寄せられる。彼女の微笑みに心を蕩かされてしまう。


(だって美しすぎるんですものおおお!!)


 ルミナス・グリーンウォールは4年の時を経ても変わらず光の女神のように輝いていた。サミュエルのそばに並び立つと眩しさが倍増されて、もうギラギラのコンビである。申し訳ないが見た目だけならミシェルの存在は完全にかすんでいた。


「ああ……閣下とルミナス様のお二人の図……目が焼けてしまいそう……」


 アマリアはギョッとする。自分の心の中が思わず言葉になって出た!? と思ったが、それは近くにいた一人の女性がため息と共にこぼしたものだった。他に目をやるとルミナスかサミュエルに、あるいはその両方に見惚れる人が続出している。


 そのサミュエルが口を開く。


「……これは珍しい。ルミナス様は普段はこういった場に出てこないものと思っていましたが」

「あら、サムったら随分と冷たいのね。久しぶりに会った従姉にそんな態度だなんて。まださっきの怒りが抜けていないのかしら?」

「ルミナス様。確かに私達は従兄弟ですが、今は私は一国の宰相として貴女様に接しております。昔のような呼び方もお止めいただきたい」


 ルミナスは微笑みを崩さず言った。


「……そうね。貴方がそう言うのなら。失礼したわ、ドーム公爵閣下」


 その様子にヒソヒソ声がまた上がる。


「ああ、閣下がお独りなのはルミナス様をお慕いしてるからって一時期噂になったけれど」

「やっぱり本当じゃない? サミュエル様、とてもお辛そうだもの……」

(えっ!?)


 以前はルミナスに夢中でサミュエルの事など興味がなかったアマリアは、その噂を初めて聞いた。


(でも、でも、閣下のお好みは大地の女神ラーヴァのような女性じゃなかったの?)


 同じ女神でもルミナスとは何もかもが正反対に思える。見た目も、()()()。だがサミュエルが「どっせい!」というかけ声に恋をした事はアマリアとキューテックしか知らない。噂をする女性達はすっかり妄想に浸っているようだ。


「……美しいお二人の禁断の恋……素敵。物語のようだわ」

「悔しいけれどルミナス様がお相手では敵わないわね……」

(あっ……! それが目的?)


 アマリアは思った。サミュエルはルミナスとの噂があれば、群がるご令嬢たちを少しでも減らせると思い利用していたのではないか、と。勿論本当に彼がルミナスを好きだったという可能性もあるけれど、二人は従兄弟同士だ。サミュエルは彼女の中身を知っている可能性が高い。


 今の冷めた態度も「彼女は手を出せない存在なのだから、想いを断ち切るためにワザと冷たくしている」というよりも、ストレートに「嫌々対応している」と受け止めた方が自然な気がする。そう思えるのはアマリアが彼の近くに一年ほど居て、彼を見ているからという自惚れかもしれないが。


「……で、今日は何故ここに?」

「ミシェル妃殿下にお声をかけていただきましたので。たまには陽射しを浴びなければ体に悪いと思ったものですから」


 サミュエルはミシェルの方を見る。顔には出さないが多分怒っている。だが夕陽色の髪を持つ王子妃に彼の冷たい視線は効かない。


「だって面白いもの(断罪の場面)は、より多くの人が見た方が良いでしょう? それに『堕落と浄化』はルミナス様の提案で始まったという噂ですもの」

「あら、その噂は違うわ。『浄化』はあくまでも陛下と前のドーム公爵のお考えでしてよ」

「ふふ、ルミナス様はいつでも()()()()のね……」


 わかっていたがミシェルはちょっぴり意地が悪い。断罪の場面を面白がっているようだし、慎ましいという言葉にも多分含みを持たせている。勿論周りには気づかれていないけれど。


「あ、そうそう。わたくしのお友達を改めてご紹介するわ。アマリア、リデル、こちらに来て」


 突然ミシェルに名指しで呼ばれたアマリアはビクリと後退りしかけたが、これは逃げられない。仕方なくリデルと共に輪の中心へ向かう。今まで遠くから見ていたから耐えられたが、あのビカビカのギラギラを間近で直視して目が耐えられるだろうか。


「ルミナス様は二人ともご存じでしょう? アマリアは宰相の第二秘書を勤めているの」


 ミシェルの言葉にまたも周りがざわつく。


「妃殿下のご友人が閣下の秘書に……?」

「ミシェル妃殿下とドーム公爵は不仲という話は嘘だったのか!?」

「い、いやまて。第二秘書は随分と地味な女性ではなかったか?」


 ギラギラからそらす為に伏せていたアマリアの目が益々伏せられる。国でNo.1とNo.2の美形で国王陛下の愛妾に宰相閣下、更には一筋縄でいかない美しき第三王子妃もいる場で周りの噂になるなんて。


(リデルは社交界でのファッションリーダーとして注目されているからまだいいけれど……)


 平凡かつ嫁き遅れの自分がここに混ざるのは明らかに違う、とアマリアは消えたくなった。


「あら、可愛いスミレさん。まさか宰相閣下の秘書になっていたなんて。大変身ね?」

「彼女は男性顔負けに優秀です。普段の業務は彼女がいなければ滞りますよ」


 サミュエルの言葉で、ルミナスはアマリアににっこりと微笑みかけた。


「まあそれは素敵ね。女性でも能力があるのなら活躍すべきだと思うわ」

(ひええっ! やっぱりお顔が良い!)


 アマリアは緊張と混乱と美しいものを見た興奮とで心臓がバクバクし、冷や汗をかく。できるだけギラギラを見ないようにしながら、ひたすら紹介が終わるのを待ち望んでいた。

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