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障碍者の恋

作者: 船五郎

1

坂上知香は大きな欠伸をした。

この春には自分も高校を卒業して社会人になる。

あとひと時の学校生活をどう送ろうか。


高校と言っても特別支援学校なのだが、自分はどういった進路を歩むべきか?というのを最近考え込むようになっていた。

知香は掃除が好きな子だった。部屋もきれいに整理整頓され、掃除がいきとどいていた。

彼女は進路相談の時、清掃業に就きたい、というのを強く押していた。

まず就職活動をする際、ハローワークで、障碍者枠で、清掃業というのを探した。

その結果、ある老人ホームで施設内の清掃作業、という求人票が見つかり、そこに面接に行くこととなった。

母親と担任の先生も付いてきてくれ、その結果、採用との連絡があった。

知香の姉もまたこの春短大を卒業し、保育士として就職する事が決まった。

母親は2人の就職祝いとして、夕食にちらし寿司を作ってくれた。

やがて知香は学校を卒業し、4月より初出勤する事となった。

当日緊張していたが、なんとか仕事はやりとおせた。

仕事仲間は、やはり障碍者と思しき人が何人かいた。

知香は全力で働き、やがて仕事にも慣れ、その成果を認められるようになった。

2

就職して2年くらいたったが、知香は仕事をしている最中に、なんだか自分の考えが漏れているんじゃないか、という感覚に襲われた。

自分が思った事を誰かが言ったり、遠くで誰かが笑っていると自分の考えが伝わって侮辱しているんじゃないか、と思えるのだ。

知香は急に怖くなった。仕事も休みがちになった。

知香の両親は心配して、彼女を精神内科の病院に連れて行った。

医師と面談し、細かい症状などを聞かれ、その結果下った診断名が統合失調症だった。

結局仕事も辞めざるをえなくなった。暫くは自宅療養をすることになった。


知香の両親は心配した。

このまま娘をどこへもやらず、引きこもりにさせるのも、あまりにも不甲斐なかった。

そこで両親は病院のソーシャルワーカーに相談した。

ソーシャルワーカーは作業所にやってはどうか、と言った。

そこで知香はある作業所に見学に行くこととなった。

そこは主にネジやナットを袋詰めするのが作業だった。

利用者は10人程。男性が7~8人、女性が50代と思しき人が2人いるだけだった。

知香は一瞬警戒したが、そこの作業所に行くことにOKしてしまった。それ以来彼女には相談支援専門員がつく事になった。

初日は緊張したが、作業に慣れるに従って、緊張がほぐれていった。

来だしてから一か月くらいたつと作業所の人間関係にも慣れ、次第に作業所が楽しくなった。知香は作業所で唯一の若い女の子として可愛がられた。


知香が作業所に行きだして半年ほどたったある日、知香は姉の結婚式に参列した。とても優雅な結婚式だった。

姉や新郎の知人や友人など、多くの人が参列し、結婚式や披露宴はとても華やかだった。姉のウエディングドレス姿は見事だった。

知香は姉の結婚式に参列し、少し歪な気持ちになった。こういう光景は自分に置き換えれば絶対に有り得ないからだ。

「あ~あ、私もあんな綺麗なウエディングドレスが着たい、私と結婚してくれる王子様って現れるのかしら?」

3

知香の作業所に本庄恭一という20代後半位の男性利用者が入って来た。

どういう障害を持っているかは分からないが、話す内容からして知的障害ではないことは確かだった。結構ハンサムだった。

知香は恭一の事が気になった。

その夜知香は夢を見た。

恭一と仲良く遊園地で遊んでいる夢だった。


知香は作業中、うっかりネジを落としてしまった。

それを拾おうとして床に手を伸ばした。その時、隣に座っていた恭一がネジを拾ってやろうと思って手を伸ばした。

一瞬手が触れ合った。知香はビビッとくるものを感じた。

ネジを恭一に拾ってもらい知香は「すみません」と会釈した。

それ以来知香は恭一の事を意識しはじめた。

恭一が近くをに来ると胸がドキドキした。

恭一と視線が合うと恥ずかしくなり、すぐにそらした。

知香は四六時中、恭一の事を考えずにいられなかった。

やがて知香は作業中に恭一に対する思いが伝わってしまうんじゃないか、という恐怖の念にかられだした。

なんだか作業所に来るのが嫌になりだした。

やがて作業所を休みがちになり、ついには作業所に来なくなってしまった。知香の両親は心配になった。娘に尋ねても無言で答えない。

作業所のスタッフも何度も電話したが、母親も原因が分からず、どうしていいか分からないという。

知香の相談支援専門員が自宅に訪ねて来て、知香と面談することになった。

「どうして作業所には行きたくないの?」

女性の相談員が優しく聞いた。

「一体なにが不満なのかな?」

知香は思わず焦った。作業所に好きな人がいるから行けないなどとは恥ずかしくて言えない。

「ねえ、何が不満なのかな?教えてくれないかな?」

知香は声を吐き出した。

「作業所に嫌な人がいるんです…」

こう答えるしかなかった。

結局作業所は辞めます、と返事をしてしまった。

知香はその夜、ベッドのなかで泣いた。


知香にしてみれば、恭一との関係がひとしきりの青春だった。本当は恭一と仲良く話したり、一緒に食事に行ったりしたかった。この切なる恋心を自分の胸に秘め、知香は淡い青春の1ページを閉じることとなった。



障碍者から見た恋愛像にについて描きました。

感想などを聞かせて頂けると幸いです。

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