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俺達は死霊屋敷に戻った…明石と喜朗おじとはなちゃんと話し合い…ワイバーンを立て直す事にした…そして一人になると改めて泣いた。

俺ははなちゃんを抱き上げた。


「真鈴、クラ、泣いてる暇はないぞ!

 この辺りを歩いてはなちゃんにもう少し探ってもらうぞ!

 まだジンコ達は生きてるかも知れないし…せめて…せめて…。」


せめて遺体だけでもと言いそうになった俺は口をつぐんではなちゃんを抱いて周辺を歩いて回った。

加奈が全くの無表情でへたり込んでいた。

喜朗おじが心配そうに加奈の横にかがみ込んでいる。


「パパ…ママ…お姉ちゃん…。」


加奈が虚ろな視線で呟いていた。

とても心配になったが、今はそれどころじゃない。

俺はインターコムでもう一度残りのワイバーンメンバーに生存確認をした。

全員がなんとか地上にいるようだ。


「はなちゃん、地下の奴は見つからない?」


はなちゃんがじっと地面を見つめ、そして顔を横に振った。


「見つからないじゃの…もう少し探すじゃの。」


俺ははなちゃんを抱いて周辺をまたくまなく歩きまわった。

ノリッピー達が負傷者の収容などで忙しく立ち歩いていた。

はなちゃんは奴を見つけられなかった。


やがてノリッピーが警戒の為に最小限の人数を残して撤収するとの指示がインターコムから聞こえて来た。


やがて、リリーのエレファントガンを抱えた四郎と明石がやって来た。


「彩斗、いったん引き上げよう。」


明石が言った。


「景行、もう少し、もう少しだけ。」


明石が俺の前に回り込み、俺に顔を近づけて小声で言った。


「彩斗、残ったメンバーをまとめてな…何とか士気を立て直すんだ。

 お前、ワイバーンリーダーだろう?

 ワイバーンが全滅した訳じゃない…俺も…とても悔しいが…残りのメンバーの事も考えろ…それが今お前が最優先にする事だ。」


俺は立ち止った。


遠くから真鈴やクラが不安そうに俺を見つめていた。

そして放心状態の加奈が心配だった。


俺達は現場の事をノリッピーに頼むと死霊屋敷に戻る事にした。

ノリッピーが俺の肩を叩き、そして抱きしめた。


「彩斗君、辛い気持ちは判るぞ。

 だがこれは指揮官が必ず通る道なんだ。

 ここは俺達に任せてワイバーンを立て直すんだ。

 …ジンコも凛も…それを望んでいる筈だ。」


俺達は車に乗り込み死霊屋敷に戻った。

車中では加奈が虚ろなままで、時折小声で家族を呼んでいた。

幼い時に悪鬼に皆殺しにされた家族を。


何とかしないと…何とかワイバーンを立て直さないと…リーダーの責任の重さを俺は改めて感じてその重圧に押しつぶされそうになった。


ハンドルを握りつつ、ジンコや凛の顔や声が浮かんでは消えた。


死霊屋敷で圭子さんと司と忍が俺達を出迎えた。


「あら、お帰りなさい!

 …ジンコと凛は?」


俺達の表情を見て直ぐに圭子さんが察したようだった。

圭子さんが司と忍に家で宿題をやりなさいと告げ、明石が圭子さんをキッチンに連れて行き事情を説明した。


俺達は暖炉の間に行き、ソファに座り込んだ。

四郎はリリーのエレファントガンを抱えて俯いていた。

加奈は相変わらず無表情で妙に姿勢を正して座っている。

真鈴とクラは黙りこくり、時々涙を拭いている。


無理も無い、四郎や加奈、真鈴は初めて仲間を失ったのだ。

クラはヤクルスがほぼ全滅樹海地下に潜入した時の仲間を失っているが、結婚式を挙げたばかりの新妻である凛を新たに失った。

勿論俺も圭子さんもそうだ。

ワイバーンで仲間を戦いで失った経験がある者はクラを別として明石と喜朗おじだけだった。


俺ははなちゃんを抱いて、キッチンから戻って来た明石と、加奈の隣に座っている喜朗おじをプールサイドに連れて行った。

今後の事を相談できるのはこの3人だ。

勿論、俺も初めて仲間を失ったが、このまま皆と共に沈んでいる訳に行かなかった。

本当は自室に戻りベッドに倒れ込んで子供の様に大声で泣きたかった。


だが、しかし…。


「喜朗おじ、加奈の具合は…どうなってる?」


喜朗おじが難しい顔つきでタバコに火を点けた。


「うん、加奈の精神はな…まぁ、兵隊が掛かるシェルショックの様な感じだ。

 PTSDの様な物かな…。

 …幼い時に家族皆殺しにされた記憶が蘇って来ているんだと思う。

 今まで表には出した事は無かったが…あの一件は俺が思っていた以上に加奈の心に重くのしかかっていたんだと思うぞ。

 …それがジンコと凛を失った事が切っ掛けでな…表面に浮かび上がって来たと思う。」

「そうか…景行…他のメンバーはどうなんだろう?

 四郎のショックがかなり大きそうで心配なんだけど。」

「そうだな彩斗、四郎が仲間を失ったのはポールを除いて初めての事だからな。

 ましてや、失ったのがクラと同じく結婚したばかりの新妻のリリーだからな。

 戦い慣れしている悪鬼と言えどもその辺りのショックは人間と変わらんよ。」

「…はなちゃん、どうなんだろう?

 その…ジンコ達は…凛やリリーは…本当に…死んでしまったの?」

「彩斗…下手に希望を持たれて引きずられてもしょうがないとは思うのじゃが…わらわにも良く判らんじゃの…ただ…。」

「ただ?」

「あの後かなり長い間あの辺りを歩き回ったじゃの。

 しかしの、ジンコや凛やリリーの魂が抜け出た姿は見ておらぬじゃの…奴が魂ごとジンコやリリーや凛たちの事を取り込んだのかも知れぬのじゃが…。」

「そうか…いったいどうすれば良いんだろう…?」


俺達は黙りこくってしまった。

長い沈黙の後、明石が口を開いた。


「彩斗、皆にむやみに希望を持たせてもしょうがないんだが…俺達が立ち直るには何か目標が必要だ。」

「目標?」

「そうだ彩斗、まず、今回の事を起こした奴だ、あのとてつもなく強い奴を何とかして探し出して話を聞きださないとな。

 あの時奴の標的はあの5人組の悪鬼だった。

 俺達も被害を受けたがあの5人組の悪鬼を始末する邪魔者を排除しただけの事だ。

 奴は地下の…ジンコ達を飲み込んだ地下の存在のカギを握っているかも知れんしな。

 ジンコ達がどうなってしまったかも知っているかも知れん。

 俺達には何か目標が必要だ。」

「成る程その通りだね…。」

「そしてな、いささか酷な結果になるかも知れんが…ジンコ達の弔いは当分しないぞ。

 希望が無い訳じゃない。

 はっきり死んだと判るまでは俺達は仲間を見捨てない、絶対に。

 はなちゃんと共に地下の存在を探る事も続けよう。

 ジンコ達が完全に…死んだと確認できるまでは…捜索を続けるべきだな。」

「…景行…その通りだよ、俺もそう思うよ。

 俺達ワイバーンは希望がある限り絶対仲間を見捨てない。

 ジンコ達は戦死じゃない。

 まだ戦闘中行方不明なんだ。

 そうじゃなきゃいけないよ。」

「よし、その方針で行く事を彩斗から皆に話せ。

 メンバーが絶望に打ちひしがれている時ほど何か光りを、希望を指し示せ。

 それがリーダーの役目だ。

 リーダーの真価が問われる時だぞ。

 この事はお前の言葉で説明しろ。

 俺と喜朗おじとはなちゃんがお前の説明をフォローするぞ。

 ワイバーンリーダーは彩斗、誰でもない、お前なんだからな。

 お前がワイバーンの要なんだ。」


明石の言葉に喜朗おじもはなちゃんも深く頷いて俺を見つめた。

俺はトイレに行き、顔を洗った。

新たに涙が零れそうになるのを必死でこらえてから暖炉の間に戻り、メンバーに俺達ワィバーンの今後の方針を伝えた。

真鈴達は涙をこらえながら俺の言った方針に同意した。

俺はメンバーに恵まれていると思った。

俺には贅沢過ぎる素晴らしいメンバーだ。


俺は説明を終えてメンバーを解散させ、部屋に戻り、瑛人からの年賀状を入れた写真立てを見つめ、ベッドに倒れ込んで泣いた。







続く





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