俺達は皆で四郎が夢見た昔の様な正月を過ごし、初詣をして今年の安全を願った…そして…多摩山中で…。
その後、着替えた俺達は、明石一家や喜朗おじと加奈も、クラと凛も書斎のこたつに勢ぞろいをして新年の挨拶を改めて述べあった。
さっきから待ちきれなくてうずうずそわそわしている司と忍に俺達はお年玉をあげた。
事前に皆で打ち合わせをしてお年玉は一律5000円づつを司と忍にあげると決めていて、それぞれが司と忍に5000円入りのお年玉袋をあげた。
俺たち全員から5000円で司と忍に相当な額かも知れないが、今はこれくらいが相場だそうだ。
司と忍は大喜びで、俺達に何度もお礼を言ってすっかり気に入ったジンギスカンを歌って踊り、喜びの感情を爆発させて皆が笑顔になった。
そしてお雑煮とお餅とおせち。
やはり大食らいの悪鬼がメンバーにかなりいるのでご飯を大量に炊いておいた。
腹が空いたメンバーは勝手にお握りかお茶漬けで食べるだろう。
明石がお雑煮にご飯をぶち込み、すじこをほぐしたものを入れて、圭子さんから行儀悪いと怒られていたが、俺はそれを真似して食べたが美味しかった。
すじこを入れるか、数の子を入れた方がうまいのか様々な意見が出たが俺は両方美味しいと思った。
下品な俺の口にはキャビアの塩辛さも良いアクセントになって気に入った。
そして近所にある神社にみんなでぞろぞろと歩いて行き初詣をした。
地元の人たちが集まっていて甘酒やお汁粉や清酒が振舞われていて皆で喜んでいただいた。
四郎がリリーから神社の正式なお参りの手順を教えてもらい、そして皆で今年の平安と安全、俺たち全員が生き残れますようにと祈った。
やはりおみくじを引かねばとなって大吉を引いたジンコを小吉を引いた真鈴と末吉を引いた加奈が羨ましそうに見ていた。
そして死霊屋敷に戻り、やはり正月は羽根つきとなったが、やはり直ぐムキになり熱くなる俺達ワイバーンならでは…熱い戦いが繰り広げられ、あれほど人間離れした身体能力の加奈が案外羽根つきが苦手で顔に墨を殴り書きされて泣きそうな顔をしていた。
そうやって俺達は至極平穏な元旦と1月2日を過ごし、3日に『ひだまり』を開店。
お客の中に晴れ着姿の人もちらほらいて、華やかな感じになった。
ノリッピーから連絡が来て1月6日にあの長谷川を多摩に連れて行くと言う段取りになった。
『ひだまり』の営業を午後3時までとして俺達は留守番で死霊屋敷を守る圭子さんと司と忍を残して全力で現場に立ち会う事になった。
用心の為に行動に支障が出ない程度の重武装で、そして喜朗おじが追加で作った刺突爆雷も何本か追加して俺達は多摩に向かい、、やはり全力出撃で全員が出動したスコルピオのメンバー達と共に小屋の周囲を警戒した。
あの裁判所の事件でスコルピオに参加する事となった元警察特殊部隊の新人隊員たちがかなり混じっていて俺達は互いに紹介し合った。
そして、警戒の中、あの5人組の1人、手錠を後ろ手に掛けられた長谷川が連行されて来た。
新人隊員が両脇を固め、少し距離を置いてノリッピー、リリー、小三郎、美々、ナナツーが周囲を警戒している。
長谷川はいささかも怯えたりせず、涼しい顔で周囲を見渡している。
真鈴が背負ったリュックからはなちゃんが顔を出して周りを探っていた。
「はなちゃん、どう?
何か判る?」
近くの大木を背中にして周囲を警戒する真鈴がはなちゃんに問いかけた。
俺達ワイバーンはリリー達の更に外周を警戒していた。
「今のところ何も起きそうにないじゃの…地下の存在も今の所は…。」
俺達は緊張しながらも周囲の警戒を続けた。
時間が過ぎて行く。
長谷川はニヤニヤしながら突っ立っていた。
はなちゃんがいきなり叫んだ。
「むぅ!来たぞ!
何かが複数こちらに向かってくる!」
「はなちゃん!どっち?
どっちからくるの?」
真鈴が問いかけ、はなちゃんがリュックから身を乗り出して手を伸ばした。
「あっちからじゃの!
一塊になって…4匹じゃの!」
真鈴がインターコムで警報を出した。
「こちら真鈴!
接近警報!
何かが4匹向かってくる!
警戒して!」
真鈴がリリーを見てはなちゃんが手を伸ばした方向に手を伸ばして2回上下に動かした。
「こちらリリー!
北西の方角から何かが4匹接近しているぞ!
警戒を怠るな!
迎撃用意!」
森の中に慌ただしく緊張した空気で満ちた。
「はなちゃん!距離は!
奴らはどの位の所にいるの!」
「1キロも無いじゃの!
すぐに姿を見せるじゃの!」
「こちらリリー!奴らは近いぞ!
見つけたら始末せよ!
1匹も逃すな!」
直ぐに北西の方角から複数の銃声が聞こえて来た。
4匹の悪鬼が身を隠すでもなく長谷川に向かって一気に進んでくるようだ。
長谷川を救出するのか、口封じをするのか…。
インターコムからスコルピオ隊員の声が聞こえる。
「1匹始末した!
こちらは負傷2名!
外周を突破された!」
俺は北西に向かてオリジンショットガンを構えた。
他のワイバーンメンバーも同様に迎撃体制を整えて待ち構えている。
リリー達に囲まれた長谷川が笑い声をあげた。
「はは!ははは!取り込みを!
どうぞお取込みを!」
銃声が近づいてきた。
またインターコムから声が。
「もう1匹始末した!
うわぁ!」
「どうした!状況を知らせろ!」
リリーがインターコムに状況確認すると同時にはなちゃんが叫んだ。
「奴じゃ!奴が現れたぞ!
あの強い奴が!
むぅううう!
なんじゃ!地下からもアレが昇って来ておるぞ!
皆注意しろじゃの!」
俺の顔が強張った。
あの強い奴、明石が恐れたアイツが、そして地下からも謎の存在が昇って…。
そして、北西から騒ぎの音が近づき、とんでもない騒ぎになった。
3匹の悪鬼、恐らく長谷川の仲間であろう悪鬼がスコルピオ隊員と戦いながらも長谷川に向かって接近して来てリリー達が迎撃射撃を開始、3匹の悪鬼を追うようにあの、明石を冷や汗まみれにした強い悪鬼が飛び込んで来た。
強い悪鬼が弾丸をひょいひょい躱しながら接近して来て3匹のうちの1匹の頭を持っていた日本刀で俺の動体視力が追いつかないほどの速さで斬り飛ばした。
明石と四郎がショットガンを捨て、それぞれ江雪左文字とサーベルを抜き、強い悪鬼の方へ走って行く。
「あいつだ!
あいつを最優先だ!
あいつを始末しろ!」
インターコムから明石の悲鳴のような指示が飛ぶ。
リリーがエレファントガンを構え、喜朗おじが上衣を脱ぎ捨ててハルクに変化し、棘だらけのメイスを引き抜いた。
明石と四郎が宙を飛び、強い悪鬼と切り結んだが、あっというまに跳ね飛ばされて地面に転がった。
そして強い悪鬼は余裕の笑みを浮かべながら残った2匹の悪鬼の頭を斬り飛ばして、お取込みを!と叫ぶ続ける長谷川に突進した。
リリーがエレファントガンから放った600ニトロエクスプレス弾を強い悪鬼が紙一重で躱し、上段に振りかぶった刀で長谷川を頭の天辺から縦に2つに切り裂いた。
その時地面が揺れた。
「奴が上がって来るじゃの!
奴が来たじゃの!」
はなちゃんが叫んだ瞬間に長谷川を守っていたリリー、小三郎、美々が地面に引きずり込まれた。
あっという間に地面に引きずり込まれて行き、咄嗟にリリーの延ばされた手を掴もうとしたノリッピーが強い悪鬼の蹴りを食らって昏倒して倒れた。
強い悪鬼は余裕の笑みを浮かべて他の隊員の追撃の銃撃を余裕で避けながら、そのまま走り去った。
地面に転がった明石と四郎が跳ね起きた。
明石の胸がかなり切り裂かれて大きな傷が出来ていて塞がりつつある。
明石が怒号を上げて強い悪鬼を追い、リリーが呑み込まれたのを見た四郎がサーベルを投げ捨ててリリーが居た場所に走って行き、真鈴もリリー!と叫びながら四郎と共にリリーが吸い込まれた地面に走り、そして周囲では何人かの者が地面に吸い込まれてゆく。
そして、俺は見た。
吸い込まれてゆく凛に駆け寄りその手を両手で掴んだジンコが一緒に地面に引きずり込まれそうになっていた。
俺はオリジンショットガンを捨ててジンコに駆け寄りジンコの身体を掴んで引っ張り上げようとした。
凛の姿が地中に消え、ジンコの手も肘から先が地面に埋もれている。
物凄い力でジンコも引きずり込まれつつあり、とても引き出せない。
「彩斗!私を離して!
あなたも引きずり込まれるよ!」
髪を振り乱して血走った目のジンコが叫んだ。
「ばか!離せるか!頑張れジンコ!」
「もう駄目だよ!」
「ジンコ!腕を抜け!地面から腕を抜け!」
「何言ってんの!私の腕の先に凛が居るんだよ!
彩斗まで犠牲に出来ないわ!
あんたワイバーンリーダーでしょ!」
「くそ!あきらめるなジンコ!
お前!月に行くんだろ!
真実を解明するんだろぉ!」
その時誰かが俺の体にタックルをかまして俺はジンコから引き離された。
ジンコの顔が地中に埋もれ始めた。
ジンコは引きつった顔に無理やり笑顔を浮かべた。
「彩斗!
お別れかも!
ワイバーンに幸運を!」
ジンコが地面に飲み込まれて姿を消した。
俺にタックルをしてジンコから引き離したのはクラだった。
「クラ!バカやろう!ジンコが呑み込まれたぞ!それに凛だって!」
俺は絶叫して思い切りクラの顔を殴った。
クラも俺の顔を殴り返した!
「知ってるよそんな事!
ジンコの手の先に凛がいた事も!
でも!くそ!
彩斗はワイバーンリーダーだろ!
あんた迄飲み込まれたら!」
クラはボロボロと涙を流して叫ぶと俺を見つめた。
俺の目からも涙が溢れ、思い切りクラを抱きしめた。
クラも俺を抱きしめて二人で泣きながら絶叫した。
「クラ!二人を探すぞ!
手伝え!」
俺とクラは泣きながらジンコと凛の名前を呼びつつ手で地面を必死に掘った。
真鈴が泣きながら俺とクラの所に走って来た。
「彩斗、クラ!まだ生きてるそうよ!
はなちゃんが!はなちゃんがぁ!」
真鈴が慌ただしくリュックを降ろし、はなちゃんの身体を引き出した。
「彩斗、皆、まだ飲み込まれた者達は生きておる。
しかし…だんだん気配が…消えつつあるの…。」
「はなちゃん!どういう事だよ!」
「むぅ…消化されつつあるのか…奴が地の奥に潜っていったのか…。
まるで靄が掛かる様に…。」
俺達はじっとはなちゃんを見つめた。
永遠に思える時間。
「今…完全に気配が…ジンコや凛やリリー達の…消えたの…消えてしまった…。」
強い悪鬼の蹴りを食らい気絶していたノリッピーは意識を回復して身を起し、インターコムに怒鳴りながら損害を調べていた。
四郎がリリーが呑み込まれた地面に座り込み、放心状態でいる。
5人組の仲間の悪鬼の襲撃と強い悪鬼の襲撃で負傷者が6名…そして…リリー、小三郎、
美々、新人隊員の日下、今井が呑み込まれて姿を消した。
ナナツ―が地面に身を投げ出して泣き叫びながら身を捩っていた。
強い悪鬼を取り逃がした明石が戻って来て涙にくれる真鈴が状況を伝えると、明石は江雪左文字を取り落とし、膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。
樹海でかなりの人数を消耗してやっと元の定数に回復したスコルピオはまたも大打撃を食らい…そして…俺達ワイバーンも…ジンコと凛を…失った。
続く