第八話 桶狭間の戦い(ニ)
感想いつもありがとうございます!
『桶狭間の戦い』は出来る限り詳しく書こうと思っていたら、随分と長くなってしまいました...。
ですが、この『桶狭間の戦い』も次でクライマックスです。
面白いと感じましたら、いいね、感想、宜しくお願いします。
一五六〇年(永禄三年)六月中旬 尾張国知多郡丸根砦
〜織田信勝〜
明朝、丸根砦への攻撃が始まる前に俺は清洲城を発ち、兵四百を率いて、丸根砦に向かった。そして、俺が着いてから半刻程で丸根砦への攻撃が始まった。
最初、佐久間大学助盛重に援軍に来た事を伝えると、泣いて喜ばれたが、兵四百を率いている事を知った途端、明らかに落胆した。いくら何でも失礼だろ。もう少し表情を隠せよ。一応、前の主だぞ。
「勘十郎様、兵三百が鷲津砦へ辿り着いたとの報告がありました」
伝令からの報告だ。
「うむ、承知した」
取り敢えずこれで暫くは持つであろう。ちなみに兵を三百送った理由は、俺一人で二百人分の働きをするからだ。これを大学助に言うと、大学助は一度溜息を吐いて、承諾した。……二百人分の働きをする、は要らなかったかもな。鷲津の織田七郎秀敏は俺の大叔父だ。なかなかなお爺ちゃんだった。経験は有るだろうけど、やはり大学助に比べるとな……。大学助も同じ事を考えているのだと思う。だから渋々だが承諾したのだろう。
「大学助、どうやって戦うのだ?」
「そうですね……。やはり兵数で劣っていますね……。勘十郎様、その場合はどうすれば良いか分かりますか?」
「総大将を討つ事か?」
「それも間違いでは有りませぬ。ですがこの松平勢、三河兵は常に前線で使われてきた為、精強な事で有名です。その三河兵の間を抜けて、本陣まで辿り着くのは難しいでしょう」
「ふむ……。ならば、前線で兵を指揮している武将を討つか?彼らの所は松平本陣よりも三河兵は少ないであろう」
俺がそう言うと、盛重は満足そうに頷いた。
「ご明察、某なら奴らの先駆けを狙います。なので全軍で打って出ます。先駆けを破壊したらすぐに戻って来ます。勘十郎様、ご準備をなさって下さい」
「うむ」
流石は勇将佐久間大学だな。自分に自信があるからの発言なのだろう。……あ、そう言えば鑑定するの忘れてたな。
名前:佐久間大学助盛重
レベル:33(32200/43600)
年齢:41
職業:織田家家老
状態:健康(高揚)
体力:100/100
統率:42
筋力:34
頑強:36
敏捷:29
器用:22
知能:30
精神:51
技能:剣術(中級)、槍術(中級)、弓術(中級)、鉄砲術(初級)、騎馬(上級)、兵法(中級)、攻城(中級)、守城(中級)、鼓舞(中級)
装備:十文字槍、当世具足
うん、普通に良い能力値だ。統率も高いし、『攻城』、『守城』の技能も有る。ある程度の時間は稼げそうだな。思っていたよりも良い状況なのかもしれない。
大学助の元を離れて、自分の兵の元に向かう。ちなみに、戦の前に兄から俺の補佐を付けられた。名前は、山内伊右衛門一豊。史実では土佐一国の大名になった男だ。一豊よりも、嫁の見性院の内助の功の方が有名だ。一豊は岩倉織田家家老の山内盛豊の次男で、兄が死んだ事で家督を継いだ。その後、主家が織田弾正忠家に降伏すると、織田弾正忠家の家臣となった。
元は兄の小姓だったが、去年元服し、先月に俺の家臣となった。
この一ヶ月間、一豊と兵の扱い方について一緒に学んでいた。一豊は元々学んでいたらしい。俺は無かった……。まぁ見れる程度にはなったと思う。
一豊は温厚で優しくて真面目で良い奴だ。普段は口数が少ないが戦場に出ると急に饒舌になる。いつもの一豊を忘れるぐらい衝撃的だった。
自分の兵の元に着くと一豊が居た。俺を見つけると走って近づいて来た。背はそこまで高く無い。だが、これからまだまだ伸びそうな感じではある。
名前:山内伊右衛門一豊
レベル:11(825/2900)
年齢:14
職業:織田家織田信勝家臣
状態:健康(高揚、不安)
体力:100/100
筋力:15
頑強:13
敏捷:13
器用:18
知能:25
精神:18
技能:剣術(初級)、槍術(初級)、弓術(初級)、鉄砲術(中級)、兵法(初級)、算術(中級)、治水(初級)、弁術・説得(初級)
装備:素槍、当世具足
一豊の能力値だ。まぁ、うん。まだ十四歳だからな……。まだまだこれからだな。
名前:織田勘十郎信勝(東郷泰人)
レベル:23(13650/19100)
年齢:23
職業:織田家近侍
状態:健康
体力:100/100
統率:24
筋力:39
頑強:33
敏捷:42
器用:37
知能:52
精神:45
技能:剣術(上級)、弓術(上級)、鉄砲術(初級)、格闘術(中級)、百舌鳥使い(中級)、兵法(初級)、算術(中級)、書法(初級)、鑑定(上級)、弁術・説得(中級)、弁術・論破(初級)、町割(初級)、治水(初級)、超集中(上級)、人たらし(固有)、急成長(固有)
スキルポイント:0
装備:鬼切丸、当世具足
スキルポイントは全部『統率』に割り当てた。一応兵百を率いる事になっているからな。まぁ五ヶ月では大して変わらないか。強いて言うならば『兵法』の習得が間に合った事かな。流石は『急成長』様だ。
「勘十郎様、お帰りなさいませ。して、如何なさるのですか?」
「うむ、伊右衛門、皆を集めてくれ。出陣致す」
「はっ」
伊右衛門は返事をすると、兵百人……、信勝隊で良いか。信勝隊を集めに行った。俺はその間に自分の馬を取りに行った。馬に乗って戻って来ると、信勝隊が揃っていた。
「これより我らは打って出る」
俺がそう言うと、兵たちが騒つきだした。まさか打って出るとは思ってもみなかったのだろう。一豊も声には出していないが、表情で語っていた。
「案ずるな。何も死にに行けと申しているのでは無い。役目を終えたらすぐに戻ってくるつもりだ」
騒めきが止んだ。俺は一度頷いてもう一度話し始めた。
「我らの狙いは敵将を討つ事だ。敵総大将では無いぞ。敵の足や手となる武将を討つのだ。敵軍の先鋒の将を討つ事で、敵兵は動揺し、守り易くなるだろう。」
まだ納得していないような顔だな。もう一押し……。
「敵軍は松平勢だ。この松平勢、此度の戦で三河へ帰り咲く事を望んでいる。つまり、この戦で功を立てて御家再興を企てているのだ。それ故に奴らは少し焦っているところがある。隙を突く事は容易い筈だ」
何人かの目に希望が見える。良し……、良いぞ……。
「生中生無し!死中生有り!ただ、勝利の為に戦え!下を向くな!前を見ろ!この俺の背を見て進め!」
震えている者がいる。怯えているのか?……いや違う。武者震いだ。手を見ると震えているのが分かった。
「行くぞ皆の者!歴史に名を刻むのだ!俺に付いて来い!全軍出陣!!」
『おぉー!!』
松平勢の先鋒隊の突撃に合わせて我らも出陣した。大学助も同じタイミングだ。俺たちは雑兵の首に拘らず、敵将を狙う。それに加え、兵の損失を出来るだけ最小限に抑える事が肝要だ。この最初の戦いでは何よりも速さを重視する。
……まだ温存しておきたかったが、出し惜しみしてる場合じゃないな。『超集中』を使う!!
周りがスローに見えるようになった。これは前と同じだ。しかし、前回よりも周辺の音が良く聞き取れる。この状態なら兵の指揮も可能だな。……だが、兵の指揮をしてる場合じゃない。敵の後続が追いついて来る前に敵将を討ち取らなければならない。兵の指揮は伊右衛門に任し、俺はさらに速度を上げ、敵先鋒隊に突撃する。
「一番太刀は織田勘十郎信勝!!いざ参る!」
馬に乗りながら敵軍とぶつかる。敵が俺に槍を刺すよりも速く周辺を薙ぎ払い、スペースを確保する。うん、鬼切丸の斬れ味も良い。今日は絶好調だ。暫くの間、周りの敵兵を斬り付けている間に伊右衛門と、大学助がやって来た。
それを見て俺はさらに敵陣地に入り込む。敵将は何処だ?……良し『鑑定』!
『鑑定』を使い、周辺に敵将がいるからを探す。ちなみに練度が(中級)に上がった時に効果範囲が広くなったみたいだ。
……何処だ?足軽ばかりだ。……!いた!見つけた!松平家家老、松平善四郎正親!!馬を左前に方向転換させる。遠心力で吹っ飛ばされそうになるが耐え、そのまま突き進む。俺の狙いに気付いたのか、松平正親は自分の周辺を兵で固めた。まずい!このままでは逃げられてしまう。何人斬っても蟻の様に湧いて出てくる。どうする……。空を見上げる。空が赤みがかっていた間も無く陽が出る。つまり兄上……。そうか空か!
俺は手綱を離して脚だけでバランスを取る。……今だ!!
松平正親の姿が見えた!その瞬間俺は馬を足場にして、高く、遠く、飛んだ。松平正親の真上だ。
「うぉおお!!」
俺はそのまま松平正親の頭を叩き斬った。何とか受け身を取って着地し、急いでその元を離れた。自分の馬を探し、乗馬して、伊右衛門と合流しに行った。良い馬だな。……帰ったら名前でも付けようかな。『鑑定』で伊右衛門を探し、見つけた。
「勘十郎様!危険すぎます!一人で突っ込むのは無茶です!」
伊右衛門の心配を無視して顔に付いた血を拭った。
「松平正親を討ち取った。敵先鋒隊の将だ。これで奴らは動揺し、暫くは動けないだろう。だが、後の事を考えるともう一人討たねばならん」
俺はそう言うと、伊右衛門は口を開けて驚いている様だった。
そんな伊右衛門を無視して敵将を探す。あと一人、あと一人……。焦って周りを探していると、一人の伝令が近付いて来た。
「佐久間大学助様からの伝令!大学助様自ら松平源七郎政忠を討ち取りました!一度切り上げて砦に戻るようにとの事です!」
ほっ、盛重がやってくれたか。……一安心だ。
「承知した。直ぐに戻らせて貰う。伊右衛門!撤退だ!誰も死なせるなよ!」
一瞬伊右衛門が嫌そうな顔をしたが気のせいだろう。俺の見間違いだな。
「……はっ」
松平勢も一度下がるみたいだな。家康……まだ元康か。盛重も元康も大局が見れているのだな。史実では盛重はこのまま突っ込む事で討死する。……もっと俺も頑張らなければならないな。
一応予定通りに進んでいる様だな。兵の損失も少なく済んだ。油断せず、このままいこう。
―――
一度砦に戻る。松平勢はこの砦を包囲している。さっき痛い目を見たからな。警戒しているのだろう。力攻めして大きな損害を被ったら割に合わないからな。
大学助の元に行くと、大学助は伝令と話している様だった。
俺が来た事に気付くと伝令は立ち去り、大学助と二人になった。
「聞きましたぞ勘十郎様。松平家先々代の頃からの忠臣、松平正親を討ち取ったのですな。流石は鬼勘十郎と言ったところですかな?」
大学助が茶化す様にして言ってきた。最初は誉めていたのだろうけど最後は要らないだろう。なんだよ鬼勘十郎って。俺は人だぞ。……多分。
「それを言うなら大学助、お主も松平政忠を討ったようではないか。流石は佐久間大学だな」
俺がそう言うと大学助は嬉しそうに笑った。
「はっはっは!まさにその通りですなぁ」
「認めるな、謙遜しろ」
俺がそう言うとまた更に笑った。なんだか楽しそうだな。一応ここは大分危ういんだが……。
いくら敵将二人を討ったとはいえ、兵数では奴らの方が上なのだ。まだまだ油断は出来ない。
松平がこのまま包囲を続けるなら時間を稼げる。強攻してくるなら誘い込んで逆襲だな。それで頃合いを見てあの策を実行する。兄が到着したら役者は揃う。後は舞台だけだな……。面白くなってきたな。ふふっ、と笑うと大学助が俺の背中を叩きながらまた大笑いした。楽しそうだなコイツ。……痛い痛い。……ちょ、強いって。