第十七話 永禄の変
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一五六三年(永禄五年)八月下旬 尾張国中島郡信勝の屋敷
〜織田信勝〜
まだ蝉が鳴いている様な、夏の暑さがまだ残っていた日だった。事件が、変事が起きた。
「勘十郎様!京にて変事が!殿が直ちに清洲に参れと!」
縁側で波瑠が淹れてくれた焙じ茶を飲んでいると、伝令兵が現れた。その伝令兵は尋常じゃない程に焦っている様子で、只事ではない事がわかった。……遂に起こったか。
「承知した。直ぐに参ろう」
焙じ茶を飲み干して、自室に戻り、服を着替えた。異変に気付いた波瑠や藤十郎、伊右衛門、半兵衛らが現れた。
「如何なされましたか?」
伊右衛門が恐る恐る聞いてきた。
「京で変事が起こったようだ。恐らく三好が公方様を弑したのだろう。俺は今から清州へと向かう。半兵衛、お主は俺に付いて来い。伊右衛門、暫くの間、留守を頼む」
そう言うと半兵衛と伊右衛門が畏まった。
「はっ」
そのまま2人は部屋を出て行った。
この世界では誰が実行犯なのか分かりにくいな。首謀者は恐らく三好三人衆及び、三好豊前守、安宅摂津守らであろう……。そうくるとやはり実行犯は三好重存だろうか。
うーん、まぁ取り敢えず今は清州に向かってこれからどうするのかを聞かないとな。史実なら足利義昭を擁立して上洛の大義名分を得て、畿内から三好を追い出すのだが……。浅井と同盟していないことがどのような影響を与えるのかがわからないな。そして義昭が織田に来ると言うことはあの男がとうとう現れるな……。うーん、悩ましいなぁ。
―――
一五六三年(永禄五年)八月下旬 山城国二条御所書院
〜足利義輝〜
彼方此方で啜り泣く声が聞こえる。皆、悔しいのだろう。
「申し訳ありません、公方様……。某の、某の所為で……」
進士美作守晴舎が頭を畳に埋めるかの様に下げて、謝っている。恐らく、三好の侵入を許した事であろうな。奴等汚い手を使うものよ。……ふっ、今となっては些事であるか……。こうなる事は分かっていたではないか。……美作守はこのままでは切腹するだろうな。ははは……、切腹するくらいなら一人でも多く三好勢を道連れにすべきであろうに……。
「ふっ、美作守、仕方のない事よ。最早、どうにもならぬ……」
……そろそろ猶予も無くなってきたようだな。
「最期に皆で一杯やろうか」
そう言うと数十名の近臣達が涙を拭い、頭を上げた。皆、覚悟を決めた顔をしていた。
儂自ら一人ずつ清酒を注いでいった。そして最後に自分に注いだ。
「……短い夢であったが、其方らと最期を共に出来る事を嬉しく思うぞ。皆、大儀であった」
『はっ!』
一気に飲み干す。涙を流しながら呑んでいる者もいた。飲み干した盃は皆、懐に入れた。
「さぁ、もう行け。一人でも多く三好勢を討ち取るのだ。派手に参ろうではないか。冥土でまた会おうぞ」
『はっ!!』
一人、一人、そうして書院から出て行った。部屋には儂と一人の小姓が残った。
「太刀を、ありったけの太刀を用意してくれ」
「はっ」
―――
段々と喊声が近づいて来た。全員……逝ったか。
「足利義輝公であられますな?」
そう言って三、四人の武士が書院に入って来た。
「如何にも。我こそが幕府第十三代将軍足利義輝である。……遅かったではないか。くたびれたぞ」
入って来た武士達の顔には功を挙げれるといった期待が表れていた。得物は太刀。身に鎧を纏っている。
儂の言葉に苛ついたのだろうか。表情が変わり、悪態をついた。
「御命頂戴致す!」
相手が斬り込んでくるのを躱して、太刀を振り下ろす。首筋から血が勢いよく噴き出した。そのまま相手は起き上がる事も無く倒れた。
「ふ、ふはははは!」
斬れる、斬れるぞ!太刀のによるところもあるだろうが、儂にも人を斬るだけの武はあったのだ!
刃はまだ刃毀れしていない。よし、まだいけるな。
そのまま一人、二人、三人斬り伏せた。……む、鎧の上からではさすがに難しかったか。立ちあがろうとしていた相手の首筋を狙って斬った。うむ、これで良い。
「……なんだ、簡単ではないか」
太刀を見ると刃毀れがあった。鎧の上から斬りつけた時であろう。部屋の入り口の方に向かって太刀を投げつけ代わりの太刀を取る。
……おっと、血で滑りかけたか。袴の一部を切り取って足に巻き付ける。これでなんとかなるだろう。……そろそろ来るか。
「居たぞ!義輝公、覚悟!」
敵が走って向かって来た。今度の相手は槍だな。
槍が突いて来た!けら首を掴んで太刀を突き出し、相手の喉元を貫いた!よし、槍相手でも勝てるぞ。
太刀を突き刺した相手の頭を掴んで太刀を引き抜く。……なんだその眼は……。気色悪い……。その眼はまるで昔の儂のようであった。
「……そうか、そういうことだったのか」
なんとなくだが、分かった気がする。儂が真の武家の棟梁と成れなかった訳が。誰も儂の命に従わなかった訳が。この"将軍"という地位を得れた事に、儂の力は一つも関わっていなかった。勝手に絶望し、勝手に安堵し、勝手に優越感に浸っていた。……いや違う。儂はその事を理解していたのだ。だからこそ、結果で示そうとあらゆる手を尽くしたつもりだった。それでも儂には力も運無かった……。
……いや待てよ、そもそもこれは一体誰の人生なのだ?
「……義輝公であられるな」
……また来たか。もう考えるのはよそう。どうせ死ねば永遠に考えれるのだから……。
―――
一五六三年(永禄五年)八月下旬 尾張国清洲城評定の間
〜織田信勝〜
「義輝公が殺されたそうだ」
兄の一言に周囲がざわついた。将軍殺しなんて嘉吉の変以来だからな。兄がかなり大きめの舌打ちをした。……静かになったな。
「白昼堂々と御所を取り巻いたらしいな」
「公方様を弑するなんて有り得ませぬ!三好の畜生共を蹴散らしてやりましょう!」
柴田権六だ。そう言えば上洛の時に権六と丹羽五郎左は義輝とあったらしいな。権六は意外と情に厚いタイプらしい。五郎左は……眉一つすら動いていないな。もう既に知っていたのか、それとも本当に感情が無いのか……。……恐らく前者だろう。そうだと信じたい。
「落ち着けうつけが。我等には三好を攻める名分が無いではないか。将軍が殺されたからといって浅井・六角と共同して三好討伐など起こる筈もなかろう」
「で、では如何するのですか!?このままでは畿内では三好の専横が横行しますぞ!」
あ、権六言い過ぎだ。兄の顔を見ろ。キレてるぞ。
「そのような事わかっておるわ!!この、ど阿呆!お主には武しかないのだから無駄な知恵を絞るな!黙って俺の話を聞け!」
権六が肩を窄めて縮こまった。あーあ。あの感じ、当分機嫌悪いぞ。やってくれたな権六。
兄が怒鳴った所為で皆、怯えていた。イライラが収まらないのだろうか、膝を立てて貧乏ゆすりまでしだした。
「先日、我等が美濃を獲った時、武田が同盟の打診を申し込んできよったわ。あの欲深坊主め。五郎左、読め」
そういって兄は五郎左に文を渡した。五郎左は文を受け取って、丁寧に開いて読み始めた。
「此度の戦勝真嬉しく思い申し上ぐ。隣国に縁になる人おはするとは思い申し上げざりけり。さて、我等にとりて良き話有り」
だいぶ前置きが長いな……。要は『美濃取れて良かったね、私も嬉しいよ!隣国にこんなに頼りになる人が居るとは思いもしなかった!そこで私達にとって良い話があるよ!』って事だな。
「我等とばかりの間、盟を結ばばやと思ふ。近々詳しく話さむ」
成る程ね。『暫くの間同盟したい。近々詳しく話そう!』って事か。という事は一択だな。今川との盟を破棄して攻め込むのであろう。東海道の情勢は概ね史実通りになりそうだな。
「勘十郎、この盟、どうなると思う?」
兄が俺の事を名指しで読んだ。その所為で皆の視線が俺に刺さった。そんなに見られると緊張するって……。
「はっ、恐らく文を交わしただけでは終わらないでしょう。織田一門と武田一門の婚姻を結び、関係を密にする必要があるでしょう」
「ふむ、ではやはりお市を嫁に出すしかないか……」
周囲の者達から落胆の声が聞こえた。お市は俺や兄の妹である。史実でも絶世の美女と言われていたが、まさにその通りであった。非常に可愛い。可愛さの奥に神秘さもあって見事な調和を生み出していた。……正直にいうと俺も嫁には出したく無い。それも武田勝頼なんかにはもっと嫌だ……。後々滅ぶと分かっている武田。俺が滅ぼすであろう家に嫁がせるなんて……。俺は最悪の兄だな。
「某も殿と同意見であります。ですが、一度お市に確認を取ってはみませんか?」
「……何の確認だ?」
兄の鋭い視線で俺の心を見透かしている様に感じた。
「お市に好いた男がいるかどうかです」
一瞬、兄がきょとんとした顔になって、直ぐに大笑いした。
「はっはっはっ!武家の娘に好いた男がいるか聞けと申すか!面白いのぅ、勘十郎。あいわかった。それで進めよう」……
脇息を叩きながら笑っていた。やっぱり俺の考えはこの戦国ではおかしいんだな。
「それと幕府の事は一旦考えるな。今は領内の発展に努めよ。まだ美濃は戦の影響で荒廃している村が幾つかある。来たる時までに万全の状態にするのだ。よいな!」
『はっ!』
竜胆に一乗院の覚慶がどうなったのか調べさせないとな。義輝の弟で恐らく細川藤孝辺りが脱出させていると思うのだが、何処に向かっているかが分からない。一度松永久秀らに興福寺に幽閉されるのだが、久秀の動きが読めん……。覚慶に協力するなら大和で匿うだろう。それともそのまま越前の朝倉の元に向かうのだろうか。
まぁどちらにしても近いうちに俺たちの元に助けを求めるのは間違いない。それまで訓練を続けよう。せっかくの逸材達が手に入ったのに、簡単に死なせるのは有り得ないからな。楽しくなりそうだな。




