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第十六話   崩壊の序曲

一五六ニ年(永禄五年)五月中旬   尾張国中島郡信勝の屋敷



〜島清興〜



「御拝謁を賜りまして恐悦至極にございまする。島左近清興と申しまする。勘十郎様に忠誠を誓う所存でございまする」


「うむ!これから沢山働いて貰うからな。宜しく頼むぞ!」


「はっ!」


「……後の事は伊右衛門に聞いてくれ。下がって良いぞ」


「はっ!失礼致しまする」


一礼してから立ち上がり、部屋を出た。

少し戸惑っていると伊右衛門殿が声をかけてくださった。


「左近殿、此方へ。取り敢えず周辺の案内をしましょう」


「かたじけない」


そう言うと伊右衛門殿は微笑み、歩き出した。

主君である勘十郎様は、傑物であった。百戦錬磨の武人である事に間違い無い。そこらの剣豪よりも優れておろう。武に優れているものは文に疎い事が多いが、言葉の端々に知性が感じられた。性格も良いときた。あれは本当に人なのであろうか……。その気があれば日ノ本の王になれるであろう。

……いかんいかん。主君を品定めする癖は治さなければ……。

前の主君であった筒井家は悪くは無かったのだが……。史に名を残すには些か頼り無かった。此処ならば俺の野望も叶えられるだろう……。


暫く歩くと訓練場に着いた。其処には十……八人程中々の者が居た。しかしそれ以外は論外であった。まだまだ訓練が足りていないようだ。


「此処が訓練場になりまする。特に用事が無い限り此処で、勘十郎様が考案した訓練を行ってもらいまする」


勘十郎様が考案した訓練か……。少し……いや、かなり興味があるな。やってみたい!


「ふふふ、この後紹介致しますのでもう少しお待ち下さい」


伊右衛門殿が笑いながら仰った。少し恥ずかしかった。顔に出ていたみたいだ。



―――



「一通り案内は出来ましたね。後は訓練場にいる者に訓練の内容をお聞きになって下さい」


「はっ、有難うございまする」


そう言うと伊右衛門殿は来た道を戻って行った。

俺は早歩きで訓練場に向かった。あの傑物が生み出した訓練!!どんな訓練なのだろうか!胸が高鳴る!!



―――



一五六ニ年(永禄五年)五月中旬   尾張国中島郡信勝の屋敷



〜織田信勝〜



 名前:島左近清興

 レベル:26(9580/25400)

 年齢:19

 職業:織田家織田信勝家臣

 状態:健康

 体力:89/100

 統率:18

 筋力:41

 頑強:30

 敏捷:33

 器用:10

 知能:38

 精神:50

 技能:剣術(上級)、槍術(達人)、格闘術(中級)、騎馬(初級)、鷹の目(初級)、兵法(初級)、洞察(中級)、義人(固有)、鬼左近(未開花)

 装備:平服



まだまだ初級の技能が多いけど、中々有望だな。器用が低いのが少し気になるけどまぁ大丈夫かな。特に問題は無いだろう。にしても十九歳でこの能力値か。これからのポテンシャルを考えると計り知れないものがあるな。……ん?『洞察』に『義人』の技能?これは何だ?



      〜洞察〜


  説明:物事の本質を見通す事ができる

     相手の真意や嘘を見抜き易くなる

  練度:中級 レベル8(900/1100)



      〜義人〜


  説明:義を何よりも重んじる人

     忠誠を誓った相手を命に替えても守る

     忠誠を誓った相手の周辺にいると能力値が全て+5する



『洞察』は『鑑定』に似ている所があるな。『義人』はこの場合誰になるのだろうか。俺なのか兄なのか。忠誠を誓っているのは俺だから恐らく俺の近くにいれば良いのだろう。暫くは副将として側においておくか。


それにしても鋭い目つきだったな。俺の事を品定めしている目だったな。島左近といえば史実では石田三成の家臣だな。関ヶ原の戦いで鬼左近と呼ばれる程の活躍だったと言われている。頭に血が昇ると突っ込んで行きそうなタイプだから、俺や伊右衛門、半兵衛で手綱を握った方が良いだろう。


にしても家臣団が充実してきたな。山内一豊、竹中半兵衛、島左近。それにこれから台頭してくるであろう逸材達。そろそろ藤七郎も鍛え始めるか。……あ、波瑠との事を兄に伝えるのを忘れてた。……文でいいかな……。



―――



一五六ニ年(永禄五年)五月下旬   大和国信貴山城本丸御殿



〜松永久秀〜



「最近の公方様の行動には看過出来ぬものがある」


三好豊前守実休殿が評定の間で話した。

先日、聚光院様が息を引き取ってしまった……。日本の副王にまで……昇り詰めたお方がこうも呆気なく……。嫡男の孫次郎義興様がお亡くなりになられた事も影響しているだろう。誠に……口惜しい……。


最近の公方様、義輝様の行動は一線を越えていた。誰のお陰で京に帰れたと思っているのだろうか……。思慮が浅い者の扱いは面倒臭い、が簡単ではある。掌で転がし易い。……だが、この者たちは違う。豊前守、安宅摂津守冬康、三好三人衆……。何か裏が有る様に思える。もしや既に行動に移しておるのだろうか。


「少し話し合うべきだと思うが、皆はどう思う?」


にやりとした顔で此方を見た。嫌気がさす顔だ。やはり合わんな……。摂津守、三好三人衆の顔を見ると驚きや戸惑いの表情は見られなかった。やはり通じているか。いかんな。すぐに行動を起こさねば……。


「すぐに行うぞ。卑しい者が何もせぬうちにな」


嫌味ったらしく言い、儂の顔を見た。気色の悪い男だ。



―――



「兄上」


評定が終わり、自分の城に戻ろうとすると、弟の内藤備前守宗勝に話しかけられた。


「少し話したい事が。此方の部屋へ」


備前守に付いて行き、小部屋に入り、向かい合って座った。

少し緊張している様にも見える。


「先程の豊前守の話ですが―――」


「豊前守殿だ。まだ隙は見せるな」


「申し訳有りませぬ。……豊前守殿の話なのですが、あれは所謂御所巻の事で有りますか?」


「……うむ。しかし、ただの御所巻ではないぞ。奴等は公方様を弑する事に何の躊躇も無い筈だ」


そう言うと備前守は驚いた表情をした。有り得ないと思っている様だ。自らの手を汚すのでは無いのだから当たり前だろう。


「幾ら目障りだからといって弑する事は無いのでは……?」


備前守が周りに配慮して、小さな声で話した。


「先の評定では 取り仕切っていたのは豊前守殿だ。孫六郎様は焦っておられる。それ故に正常な判断ができん。奴等は御所巻と言っておるが、あの様な要求が通る訳も無い」


備前守が少し頷いた。側近と妾を殺せ等という要求が受け入られる筈も無い。受け入れて仕舞えばそれこそ将軍の権威は失墜する。


「孫六郎様は侮れられぬように強硬策に出るだろう。つまり、公方様を弑する事になるだろう」


備前守の頬を汗が伝った。


「であれば、孫六郎様に御所巻をおやめになるよう言うべきでは有りませんか?」


「それは難しいだろうな。今諫言すると、自分の事を舐めていると感じられるかもしれん。それに、孫六郎様の為にもならん」


「それは一体……?」


……襖の外に気配を感じた。密談と捉えられたか。これ以上は危ういな。


「それでは備前守、母上に宜しく伝えておくれ」


備前守に手で合図を送る。それを見て備前守は頷いた。


「承知した。それでは兄上もお元気で」


そう言うと備前守と別れて部屋を出た。部屋の前には誰も居なかった。豊前守、摂津守辺りだろうか。やはり目をつけられているな。目立った行動は控えよう……。



―――



一五六ニ年(永禄五年)五月下旬   美濃国岐阜城本丸御殿



〜織田信勝〜



「このっ!大うつけが!!」


出会って一言目で大罵声。鼓膜が破れそうなくらいの大声だった。この人、こんなに大声出せたんだ……。


先日、波瑠との事で文を送るとその翌日にすぐに返答があった。内容は一言、『岐阜へ来い』との事だった。祝福してくれるのかと思ったら全然違った。めちゃくちゃ怒られそうだ。


「阿呆が!少しは先を考えて行動しろ!織田信長の実弟が女百姓と祝言をあげるだと!?俺を馬鹿にしているのか!?有り得ん事を言うな!大うつけが!」


あー、やっぱり駄目か。勢いでいけるかなと思ったんだけどな。俺の身分的な問題だろう。織田家当主の弟が元百姓と結婚したら織田家のランクが落ちるという事なんだろう。一般人からするとこの考え方は有り得ないんだけどな。上流階級の人なら分かるかもだけど。でもなぁ、俺は波瑠と結婚したいんだよな。


「兄上……、なんとかなりませぬか?」


「何とかなる訳無いであろう!!俺はあの女子は側女程度の者だと思い、仕える事を許可したのだ!正妻などと……馬鹿な事を言うな!この大うつけが!」


大うつけって言い過ぎだろ。これちょっと八つ当たり入ってるだろ。キレるぞ。謀反したろか。


「まぁまぁ、落ち着きなされ。殿、少し言い過ぎでございますぞ。勘十郎様も織田家を陥れようとした訳では無いのです」


林佐渡守秀貞が兄を窘めた。これで少しは話が出来るようになったかな。


「御二方共、少し頭が堅すぎまするなぁ。もう少し柔軟に考えましょう」


秀貞が顎鬚を触りながら言った。兄は脇息にもたれながら少し不機嫌そうだ。


「佐渡、何か案が有るのか?」


俺がそう問いかけると秀貞はニヤリと笑った。


「勘十郎様、波瑠殿の御年齢はわかりまするか?」


「うむ、確か二十四であった筈だ」


「ふむ、であれば問題はありませんね。少し女房に叱られるやもしれませぬが、まぁ大した事では無いでしょう」


どう言うことだ?話が見えて来ない。


「佐渡、一体どう言うことだ?」


兄が大きな溜息を吐いた。


「……お主、養女にするつもりであるな?」


「えぇ、如何にも」


秀貞はまたニヤリと笑った。

成程、そう言うことか。形式上は秀貞の娘となるのか。それも有りなのか?この時代の常識がよく分からん……。


「某の嫡男である、長左衛門光時は二十五になるのでなんら問題は無いかと」


「本当に……良いのか?」


秀貞はにこりと微笑んだ。


「えぇ、構いませぬ。御二方の助けになるのなら、恐悦至極でございまする」


そう言い、頭を下げた。


「ですが、やはり正室は外から貰うのが良いかと、波瑠殿は側室にすべきと思いまする」


秀貞がそう言うと、兄は渋々頷いた。


「此奴に見合う女子が居らぬ。全く……、碌でもない者しか居らぬわ」


「何はともあれ、勘十郎様、御結婚おめでとうございまする」


秀貞がまた頭を下げた。


「……うむ、感謝するぞ、佐渡」


兄も頷いてくれた。ようやく納得してくれた様だ。


「波瑠殿は暫く我が家に置かせて貰いまする。少し教育せねばならぬ事があるとも思われますので」


「かたじけない……」


そう言うと秀貞はまたにこりと微笑んだ。

兄をちらっと見ると一瞬微笑んでる様に見えた。……気のせいか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 三好実休は久米田の戦いで、安宅冬康も三好長慶が死ぬ以前に、自害させられていて、どちらもこの時は生きていないと思います。なにか史実の改変があったのですか?
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